前回ご紹介した(公社)日本通信販売協会(JADMA)が2019年に実施した通信販売広告実態調査結果(※)より、今回は表示に問題のあった新聞折込チラシの個別広告事例を解説します。
調査報告書では、「取引条件、商品説明ともに適正に表示されている広告」、「一部不適正な表示が見られ、改善が必要な広告」「通販の関連法令に抵触する怖れのある広告」について紹介されています。
ここでは特に「通販の関連法令に抵触する怖れのある広告」について紹介します。
《通販に関連する法令に抵触する怖れのある広告》
・特商法の記載事項や返品特約が不記載であり、意図的とも取れる広告。
・商品の説明について、景品表示法や医薬品医療機器等法などの関連法令に抵触するおそれのある表示が散見する広告。
・意図的に消費者の誤認を誘発しようとするような表示が散見する広告。
≪問題広告事例≫
事例1:機器の低価格を強調するが、交換用カートリッジの価格は不明(浄水器)
事例2:医師推薦ランキング(乳酸菌サプリメント)
事例3:いきすぎた効能・効果訴求(消臭効果サプリメント)
事例4:いきすぎた効能・効果訴求(シミ解消薬用美容パック)
事例5:いきすぎた効能・効果訴求(シミ解消石けん)
事例1:機器の低価格を強調するが、交換用カートリッジの価格は不明(浄水器)
JADMAコメント:
・浄水器本体と初回分のカートリッジのセットの価格のみ表記されている。交換用のカートリッジの価格が高ければ消費者にとってはコストが大きくなるから、交換用カートリッジの価格も明記すべき。仮に、本商品注文後に交換用カートリッジの高額な費用が初めて分かる場合には、消費者に不意打ちを与えることになりかねない。
先着100名や本日より1週間の記載があるが、同様のキャンペーンをWEBでも展開しており、有利誤認表示に該当する恐れあり。
フィデスのコメント:
2012年9月に東京都を含む五都県合同で美容関連の通信販売事業者に表示の改善指示が出ています。
有利誤認:
•痩身や美肌の効果をうたう商品について、「980円」と機器を非常に安い価格で購入できることを強調していたが、実は一本数千円のジェルとセット販売なので、消費者の支払う総額は高額となる。
•常時設定の割引価格を「今なら」「今だけ」と強調。
・美容関連大手通販事業者の景品表示法違反続く! 五都県で合同実施(2012年9月4日)
また、最近の処分では埼玉県が、衛生マスクの通販広告の期間限定販売表示に対して、有利誤認違反による措置命令が出されています。
・埼玉県、コロナ禍のマスク通販(株)夢グループに景表法措置命令。販売価格や期間限定表示に有利誤認
事例2:医師推薦ランキング(乳酸菌サプリメント)
JADMAコメント:
・ダイエットサプリメントなのか、便秘解消商品なのか、訴求する商品の効果が分かりにくく、消費者に誤解を与えかねない。
・お試し価格500円をうたいながら3回目まで解約ができないため、実際はお試しとはいえない。複数回の購入が条件である旨の表記は、その文字が小さすぎ、また500円の価格表記から離れているため、500円のみで試せると誤認を誘発させる。
・「医師が支持する腸内フローラダイエットサプリ」というランキングが実在するか疑問。実在するとしてその内容や調査方法がどのようなものであるか説明が必要。
フィデスのコメント:
「定期購入」規制については、現在、消費者庁の「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」において規制に向けた検討が進んでいます。
第4回 特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会(2020年6月29日)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/meeting_materials/review_meeting_001/020414.html
今年に入ってからの処分動向について、以下の記事でまとめています。
・一歩先ゆく埼玉県の通販「定期購入」契約トラブルに対する法執行
・強まる「定期購入」契約に関する監視の目。適格消費者団体、行政の動向
また、ランキングサイトを使った広告手法については、処分や法規制に関する考え方について取り上げています。
・「妊活」サプリ、ゼネラルリンクに景表法措置命令 ステマランキングサイトによる広告手法に注意
事例3:いきすぎた効能・効果訴求(消臭効果サプリメント)
JADMAコメント:
・商品自体に訴求通りの消臭効果の合理的根拠となる製品のデータを保有しているか疑問がある。
・薬機法上もこうした消臭効果をうたう表示は問題がある
事例4:いきすぎた効能・効果訴求(シミ解消薬用美容パック)
JADMAコメント:
・使用前・使用後の写真等を用いて、パックを落とすとシミが消えるかのような訴求をしているが、パックのみでシミが消える効果があるか疑わしい。
・メーキャップ効果によるとの但し書きがあるが、本商品はメーキャップ商品ではないので、意味のない但し書きである。
・医薬部外品であってもシミ発生の防止や緩和の表記が限度であるから、薬機法上も問題がある。
・特別価格として二重価格表示を行っているが、通常価格が存在するか疑わしい。
フィデスのコメント:
2019年3月に、化粧品のシミ消し及び美白効果、食品の痩身効果、シャツの痩身と筋肉増強効果に関する表示について、不実証広告規制を用いた処分が出されています。
・シミ消し、痩身効果、二重価格、Growasの健食、化粧品、下着5商品に景表法措置命令
二重価格表示を行う際の注意点を以下の記事でまとめています。
二重価格表示の注意点~セール時の価格表示~
事例5:いきすぎた効能・効果訴求(シミ解消石けん)
JADMAコメント:
・石鹸による洗顔でシミを取る効果があることは疑わしい。現状、医薬部外品の化粧品であっても、シミが取れる効能を持った商品はない。
・過去、本委員会による調査においても同様の広告内容に対し同様の指摘を行ったが、改善が見られない。
フィデスのコメント:
2020年6月26日に、本事例と酷似したシミ消し効果を謳った石けんの広告に、景品表示法違反(優良誤認) の措置命令が出されています。
・ファミリア薬品「芦屋美蓉館」に景表法措置命令 石けんのシミ消し効果に不実証広告規制 (消費者庁 2020年6月26日)
今回の通販広告実態調査が実施された期間は2019年9月から12月にかけてですが、「通販の関連法令に抵触する怖れのある広告」の通販会社に対して、以下の対応を行うとしています。
• 調査結果を書面で通知。
• 併せて「改善の具体策」の書面による回答を依頼。
• 上記対応に対する協力対応がなく、違法性や悪意性があり、消費者にとって多大な不利益やトラブルの発生が予測できる広告表示を再度行う場合には、JADMAから関係省庁などへ通報していく。
ファミリア薬品に対する措置命令がJADMAからの通報によるものか否かはわかりませんが、業界の自主規制による指摘には真摯な態度で受け止め、改善を図ることが賢明です。
正しい法律理解と消費者にわかりやすく信頼される広告制作を心がけましょう。
※
通信販売取引改善のための通販広告実態調査 (2019年度調査)
(公社)日本通信販売協会 広告適正化委員会 2020年6月
https://www.jadma.or.jp/pdf/2020/koukokujittai2019.pdf
<調査概要>
第1回調査:2019年9月1日から10月29日に折り込まれたチラシ(300件)
第2回調査:2019年10月30日から12月14日に折り込まれたチラシ(300件)
※同一表現チラシは1件とし、広告表現が異なる個別折込チラシが各300件となるまで収集。
実施エリア:主要都市である札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡の6都市を選択
対象チラシ:各都市の発行部数トップ紙の朝刊に月曜日から日曜日まで折り込まれたものを収集。新聞に折り込まれる地域タブロイド紙の通販広告も対象。
《関連記事》
・通販広告折込チラシ、不適正広告事例解説(JADMA「通販広告実態調査(新聞折込チラシ編)」)
2017年度:
2015年度:
2014年度:
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