SB C&S、スマホコーティング剤に景表法措置命令!ISO規格準拠でも根拠認められず。不実証広告規制最前線(消費者庁 2025年12月18日)

2025年8月1日、消費者庁は、携帯電話端末、タブレット端末等に関連する用品等の開発、設計、製造販売等の事業者であるSB C&S株式会社(東京都港区)が提供するスマートフォン・タブレット用ガラスコーティング剤「ULTRA コーティング」の表示に対して、不実証広告規制(※)による優良誤認の措置命令を公表しました。
SB C&Sは商品パッケージや自社ウェブサイト、YouTube動画広告などで、「強固なガラス被膜でキズから対象製品を保護」、「防キズ」、「抗ウイルス・抗菌」といった表示をしていましたが、「表示の裏付けとなる合理的な根拠」が認められませんでした。

これは、過去に度々、不実証広告規制を用いた処分を受けている「空間除菌製品」と同様に、「表示された実際の使用環境とは異なる条件の試験環境で行われた商品の効能効果の試験結果」が表示の裏付けとなる合理的根拠として認められなかったケースにあたります。

しかし、注目すべき点は、本件は事業者に国際規格(ISO等)に準拠した実証データがあり、空間除菌商品のような具体的な使用条件等の表示は含まれておらず、実使用環境での効果を強調していないにもかかわらず、商品の実使用環境での効果のエビデンスが求められたことです。
これは、「表示から受ける印象」を極めて広く捉え、「具体的シーンを謳わなくても、消費者が手元で使う以上、『日常使用での効果』であると認識される」という、極めて厳しい解釈がなされたことを意味します。
今後も、効果表示を行う際は、効果の合理的な根拠として、実際の使用環境における実証が不可欠であると言えるでしょう。

本記事では処分の概要と、「合理的根拠」と認められなかった抗キズ、抗菌・ウイルス効果試験を分析し、続く会員限定記事では、不実証広告規制の最新の解釈と実使用環境実証の回避策を探ります。

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SB C&S株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について
(消費者庁 2025年12月18日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/044528
———

(※)
不実証広告規制(7条2項)
消費者庁長官は、商品・サービスの内容(効果、性能)に関する表示についての優良誤認表示に該当するか否かを判断する必要がある場合に、期間を定めて、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。
⇒ 事業者が資料を提出しない場合又は提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合は、当該表示は不当表示とみなされる。


【対象商品】

1)「INVOL ULTRA(インヴォル ウルトラ)コーティング for スマートフォン」
2)「INVOL ULTRA コーティング for タブレット」
3)「INVOL Extra Fine(インヴォル エクストラ ファイン)コーティング for スマートフォン」
4)「INVOL Extra Fine コーティング for タブレット」
※既に上記4商品の販売は終了しています。

【表示媒体・表示期間】
商品パッケージ
対象商品1)及び2):2024年9月20日から同年10月23日までの間
対象商品3)及び4): 2024年10月25日から2025年8月21日までの間
自社ウェブサイト
対象商品1)及び2):2024年8月13日から同年10月23日までの間
対象商品3)及び4): 2024年10月28日から2025年8月21日までの間
YouTube動画広告
対象商品1)及び2):2023年7月21日~2024年10月23日までの間

【違反内容】
表示内容:
例えば、商品パッケージにおいて、「強固なガラス被膜でキズから対象製品を保護」、「防キズ」、「抗ウイルス・抗菌」(商品1、2のみ)等と表示。
あたかも、対象商品をスマートフォン又はタブレット端末の画面等に塗布することで、傷の発生を防止する効果、細菌の増殖を抑制する効果及び特定のウイルスの数を減少させる効果(商品1、2のみ)が得られるかのように示す表示をしていた。

表示例:商品パッケージ「INVOL ULTRA コーティング for スマートフォン」

(消費者庁発表資料より抜粋)

表示例:商品パッケージ「INVOL Extra Fine コーティング for スマートフォン」

(消費者庁発表資料より抜粋)

実際:
消費者庁は、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、同社から資料が提出された。しかし、当該資料は当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められなかった。

なぜSB C&Sの試験は「合理的根拠」と認められなかったのか

公表文に記載された内容から、根拠データが表示の裏付けとなる合理的な根拠として認められなかった理由を確認しました。

■抗キズ(防キズ)性能について
●違反認定表示例
・「強固なガラス被膜でキズから対象製品を保護」
・「ULTRA コーティングは化学結合で強固に密着するガラス被膜を形成し、毎日使用するスマートフォンやケース・フィルム※1などのアクセサリをキズや擦れからしっかり保護します。」
・「擦ったり、引っ掻いたりなどのキズからスマートフォンの表面をしっかり守ります。」
・「ULTRA コーティングを施すことで、コーティング対象(端末ガラスなど)を上回る表面硬度の被膜を形成し、対象製品の表面をキズや擦れからしっかり保護します。

●表示されていた抗キズ効果の実証方法(公表文より抜粋・編集)
ナノインデンテーション試験による硬度測定および摩擦試験を実施。
硬度測定:
ナノインデンテーション試験の試験方法
ナノインデンテーション試験(ISO 14577に準拠)は、材料の表面にナノスケールの圧子を垂直に押し込み、荷重と押し込み深さから硬さを算出する国際規格。
参考: ISO 14577に基づいたナノインデンテーション試験(DNP)
https://www.dnp-sci-analysis-ctr.co.jp/documents/p311_900.htm

一般的なスマートフォンに本件コーティングを施工前後(①~③)の表面硬度の測定を、ナノインデンテーション試験で実施。
①表面コート(防指紋コート)を施した端末ガラス ②表面コートの上に本剤を塗布した端末ガラス ③表面コートなしの端末ガラス(一般的な画面ガラス素材)
実験結果:
①と②の比較で硬度が約9倍上昇し、さらに②と③の比較で一般的なスマートフォンに採用されている画面ガラス素材の表面硬度より硬い数値が出たことから、耐傷性に優れていると結論付けた。

【フィデス分析】
・垂直硬度(ISO 14577)と日常のキズの非対応
ナノインデンテーション試験でナノレベルの「押し込み硬さ」でガラスを上回る数値が出たとしても、それは水平方向の「擦過(ひっかき)」に対する保護性能の直接的な証明にはなりません。垂直方向の硬度データのみをもって、「スマホの日常使用シーン」での抗キズ効果の実証とは認められません。
・対照実験としての不備
「表面コートあり+本剤」と「表面コートなし(素材そのまま)」を比較しても、数値の向上が「層の重なり」によるものか「本剤の性能」によるものかが科学的に不透明です。本来は「表面コートなし+本剤」と「表面コートなし」を比較し、条件を揃えた比較を行うべきです。

摩擦検証:
アクリル板を母材とし、メラミン樹脂製スポンジを用いて、荷重200gfで1,000往復の摩擦を加える試験を実施。摩擦後の本剤を塗布したアクリル板及び塗布していないアクリル板の耐傷性の効果を検証。
実験結果:
摩擦試験後の比較画像により、塗布したアクリル板の方が傷つきにくいことが確認されたため、耐傷性に優れていると結論付けた。

【フィデス分析】
・摩擦試験における「負荷の不足」と「母材」の不適切さ
荷重200gfのメラミンスポンジ摩擦は、カギや砂粒との接触といった日常使用のストレスに比べれば著しく軽微な負荷です。
さらに、アクリル(樹脂)はガラスに比べて非常に柔らかく、キズがつきやすいため、「コーティングの効果が顕著に出やすい(キズの差が目立ちやすい)」という特性があります。実際の端末ガラスでの有効性の証明とは認められません。

■抗菌・抗ウイルス性能について
●違反認定表示例
・SIAAマークを示す画像
・「■抗ウイルス・抗菌 抗ウイルス加工:製品上の特定のウイルスの数を減少(抗ウイルス活性値2以上) 抗菌加工:加工されていない製品の表面と比較し、細菌の増殖割合が100分の1以下(抗菌活性値2以上)」

●SIAA認証の試験方法
SIAA(抗菌製品技術協議会)の認証試験(ISO22196に準拠)は、抗菌加工を施した非繊維製品(プラスチック、金属など)の表面における抗菌効果を評価する試験。
一般的に「特定のプラスチック板やフィルム」などの平滑な表面に菌液を滴下し、密着させた状態で35±1℃、相対湿度90%以上で24時間後の生菌数を測定するもの。
参考:
JIS Z 2801・ISO 22196 試験方法
(一般財団法人カケンテストセンター)
https://www.kaken.or.jp/test/search/detail/22#ID1

【フィデス分析】
本試験は、あくまで特定の制御された環境下での「加工された素材そのもの(本件ではコーティング剤が塗布されたスマートフォンのガラス面)」の抗菌能力を評価するスペック試験であり、皮脂の付着や繰り返される摩擦がある「複雑な実使用環境」での商品性能を保証するものではありません。

●表示されていた抗菌効果の実証方法(公表文より抜粋・編集)
フードスタンプ(寒天培地)を用いた菌の増殖割合比較実験
実験方法:
一般的なスマートフォンの画面ガラス表面に2つのフードスタンプを押し付け、未処理のサンプルと本件コーティング剤のトップコートを滴下したサンプルの菌の培養状況を比較。
温度設定約25℃の室内環境下にて13日間実施。
実験結果:
13日後、未処理のサンプルに大量の菌が繁殖していたが、コーティング剤のトップコートを滴下したサンプルには菌の繁殖は未処理のサンプルに比べ菌の増殖割合が低かった。
以上の結果から、本件コーティング剤のトップコートには菌の増殖を抑える効果(抗菌)があることがわかった。

【フィデス分析】
本試験は、液剤そのものの抗菌力を示しているに過ぎず、スマートフォンのガラス面に塗布され被膜となった状態での効果を証明していません。また、25℃での静置条件も、指で触れ、皮脂が付き、常に摩擦が起きるスマホの利用実態から乖離していると判断されたと考えられます。

効果表示の「実使用環境実証」の壁、その打開策は?

以上の点から、試験データ自体が国際規格(ISO等)に準拠した客観的なものであったとしても、「一般消費者が表示から受ける印象(商品の実使用環境での効果)」と、実証が行われた環境・条件が適切に対応していないとみなされ、表示の裏付けとなる合理的な根拠とは認められなかったと考えられます。

行政が、「一般消費者が表示から受ける印象」を極めて広く捉え、表示の根拠として「実使用環境での表示根拠」を求める以上、「ラボデータ」のみでは限界があります。
会員限定記事では、不実証広告規制の最新の解釈を深堀りし、効果表示の壁となる実使用環境実証の回避策を探ります。
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以下の記事では、「空間除菌」系商品以外の花粉やダニ対策グッズに対する措置命令事例を解説しています。
ぜひ、ご参考ください。

《参考記事》
・浮遊する花粉をブロック、根拠認められず。エステーに景表法措置命令(消費者庁 2024年4月26日)
・ダニの捕獲効果、根拠認められず。イースマイルとスマイルコミュニケーションズに景表法措置命令(消費者庁 2025年3月14日)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。