9月9日、消費者庁は、(株)山田養蜂場(岡山県 養蜂業、蜜蜂製品の通信販売業等)に対し、ビタミンDと亜鉛が含まれるサプリメントの新型コロナウイルスの感染予防及び重症化予防に関する表示について、景品表示法違反(優良誤認)の措置命令を行いました。
対象商品は「いわゆる健康食品」であり、優良誤認は不実証広告規制(※1)を用いた処分で、効果表示の裏付けとなる「合理的な根拠」は認められませんでした。
今回、違反認定された表示媒体が、自社サイトとPR Timesのウェブサイトに掲載されたプレスリリースを対象としているところに注目が集まっています。
———-
株式会社山田養蜂場に対する景品表示法に基づく措置命令について
(消費者庁 2022年9月9日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/029930/
———
(※1)
不実証広告規制(7条2項)
消費者庁長官は、商品・サービスの内容(効果、性能)に関する表示についての優良誤認表示に該当するか否かを判断する必要がある場合に、期間を定めて、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。
⇒ 事業者が資料を提出しない場合又は提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合は、当該表示は不当表示とみなされる。
違反概要
【対象商品】
商品(1)「ビタミンD+亜鉛」と称する食品
商品(2)「1stプロテクト」と称する食品
商品(3)「2ndプロテクト」と称する食品
【表示媒体・表示期間】
商品(1)「ビタミンD+亜鉛」
自社ウェブサイト(プレスリリース) 2021年11月1日
(株)PR Timesのウェブサイト(プレスリリース) 2021年11月9日
同商品(販売期間:2021年11月1日~)の新発売を告知するため、同社が報道関係者向けに発信したプレスリリース。同社のホームページと、ニュースリリース配信サービスを手がける(株)PR Timesのウェブサイトに同内容のプレスリリースを掲出した。
商品(2)「1stプロテクト」/商品(3)「2ndプロテクト」
「アピセラピーを追究する。 山田養蜂場 YAMADA BEE FARM Ⓐ」と記載のダイレクトメール 2021年12月20日
「アピセラピーを追究する。 山田養蜂場 YAMADA BEE FARM Ⓑ」」と記載のダイレクトメール 2022年2月3日
同商品(販売期間:2021年12月22日~)の顧客向けダイレクトメール。
【違反内容】
表示内容:商品(1)「ビタミンD+亜鉛」(プレスリリース)
商品の容器包装の画像と共に、「新型コロナウイルス“第6波”に警戒を <感染>と<重症化>どちらも予防したい…お客さまの声に応えて 『ビタミンD+亜鉛』 2021年11月1日(月)新発売」、「■感染と重症化に備える『ビタミンD+亜鉛』 山田養蜂場にも、多くのお客さまから『予防だけでなく、もし感染しても重症化しないよう、今すぐできる対策をしたい』との声が寄せられております。そのようなご要望にお応えするため、このたび抗菌ペプチドの産生をサポートする『ビタミン D』に、身体の免疫力をサポートする必須ミネラル『亜鉛』『ビタミン A』『ビタミン B6』『ビタミン C』を配合し、一粒に凝縮した製品を開発いたしました。『ビタミン D』と『亜鉛』は、ともに新型コロナウイルス感染時の重症化を防ぐ可能性が研究報告されており※2※3、いま注目されている栄養素です。」等と表示。
あたかも、本件商品を摂取することにより、新型コロナウイルスの感染予防及び重症化予防の効果を得られるかのように示す表示をしていた。
表示例:
表示内容:商品(2)「1stプロテクト」/商品(3)「2ndプロテクト」(ダイレクトメール)
「機能性研究をもとに厳選した4つの素材」
「素材1 プロポリスエキス 新型コロナウイルス感染症からの回復を早める可能性がある 入院日数が約3日減少!」との記載と共に、「■プロポリスの飲用による新型コロナウイルス感染症患者の入院日数の減少」と題する棒グラフ。
「素材2 ビタミンD 素材3 亜鉛 新型コロナウイルスの感染・重症化に関わる可能性がある 血中のビタミンD濃度が低いと感染しやすい可能性がある」との記載と共に、「PCR検査陰性者」及び「PCR検査陽性者」と題するイラスト並びに「血中の亜鉛濃度が低いと重症化しやすい可能性がある」との記載と共に、「血中亜鉛濃度が低いグループ」及び「血中亜鉛濃度が高いグループ」と題する円グラフ。
「素材4 ローヤルゼリーデカン酸※ 免疫機能の要『M細胞』を増加させ、腸管免疫を活性化する可能性がある ウイルスと戦うIgA抗体が2倍に」との記載と共に、「■デカン酸高含有ローヤルゼリーのIgA抗体分泌速度に関する研究」と題する棒グラフ。
あたかも、本件商品を摂取することにより、新型コロナウイルスの感染予防及び重症化予防の効果を得られるかのように示す表示をしていた。
表示例:
実際:
当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、同社から資料が提出された。しかし、当該資料は当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められなかった。
国はコロナウィルス予防効果を認めない方針
山田養蜂場は、海外の研究論文を紹介、欄外に出典を示しており、表示の裏付けとなる根拠を示す資料を提出しましたが、合理的な根拠とは認められませんでした。
これまで、新型コロナウイルスに対する予防効果をうたったネット広告について、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の観点から緊急監視が6回にわたって実施されています。
直近の第6回(2022年2月18日公表)では、いわゆる健康食品については28 事業者 28 商品に対して、改善要請が出されています。対象となった表示成分には、今回問題となったビタミン(D)と亜鉛も含まれていました。
改善要請を受けた主な健康食品の表示成分・食品:
5-ALA(5-アミノレブリン酸)、味噌汁(メラノイジン)、フコイダン、スイカズラ、ビタミン(D)、亜鉛、はちみつ、ビフィズス菌、キノコ(チャーガ)、柿渋
新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、民間施設での試験などの実施も不可能な現状で、消費者庁は、「ウイルス予防商品」のウイルスに対する予防効果を裏付ける根拠は認められていないとしています。
そのため、このような表示は一般消費者に誤認を与えるおそれがあり、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大 表示)に違反するおそれが高いとしています。
・消費者庁の新型コロナウイルス予防商品緊急監視(第6弾)。健食の「ウイルス予防効果」を認めない根拠は? (消費者庁 2021年12月~2022年2月)
このように6回にわたる広告監視が行われる中、国がコロナウィルス予防効果を認めない方針であることを山田養蜂場が認識せずに、本件のような広告を行ったとは考えにくいところです。
プレスリリース、ダイレクトメールの「表示」該当性
報道関係者向けのプレスリリースや会員向けのクローズドなダイレクトメールであれば、「広告」とはみなされず、法規制対象とはならないという認識があったかもしれません。
確かに、健食広告留意事項(現在、一部改訂に向けたパブコメが終了し、検討中)において、両法で対象とする「表示」については、「顧客を誘引するための手段として行う広告その他の表示」とされており、具体例として「プレスリリース」の例示は含まれていません。
しかし、本事案によって、報道関係者向けのプレスリリースであっても顧客誘引性が認められれば、「表示」とみなされることが示されたと言えます。
他方、ダイレクトメールについては健食広告留意事項に例示されており、過去に会員向け会報誌に対する措置命令の事案もあります。
———-
株式会社ドクターシーラボに対する景品表示法に基づく措置命令について
(消費者庁 2012年8月31日)
http://www.koutori-kyokai.or.jp/caapaper/2012/20120831.pdf
———-
景品表示法及び健康増進法上の「表示」
健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について
景品表示法及び健康増進法上の表示は、景品表示法第2条第4項に定める「表示」又は健康増進法第 65 条第1項に定める「広告その他の表示」である。具体的には、顧客を誘引するための手段として行う広告その他の表示であって、次に掲げるものをいう。
・ 商品、容器又は包装による広告その他の表示及びこれらに添付した物による広告その他の表示
・ 見本、チラシ、パンフレット、説明書面その他これらに類似する物による広告その他の表示(ダイレクトメール、ファクシミリ等によるものを含む。)及び口頭による広告その他の表 示(電話によるものを含む。)
・ ポスター、看板(プラカード及び建物又は電車、自動車等に記載されたものを含む。)、ネオン・サイン、アドバルーン、その他これらに類似する物による広告及び陳列物又は実演による広告
・ 新聞紙、雑誌その他の出版物、放送(有線電気通信設備又は拡声機による放送を含む。)、映写、演劇又は電光による広告
・ 情報処理の用に供する機器による広告その他の表示(インターネット、パソコン通信等によるものを含む。)
なお、広告その他の表示において、具体的な商品名が明示されていない場合であっても、そのことをもって直ちに景品表示法及び健康増進法上の「表示」に該当しないと判断されるものではない。
商品名を広告等において表示しない場合であっても、広告等における説明などによって特定の商品に誘引するような事情が認められるときは、景品表示法及び健康増進法上の「表示」に該当する。
例えば、特定の食品や成分の健康保持増進効果等に関する書籍や冊子、ウェブサイト等の形態をとっている場合であっても、その説明の付近にその食品の販売業者の連絡先やウェブサイトへのリンクを一般消費者が容易に認知できる形で記載しているようなときは、景品表示法及び健康増進法上の「表示」に当たる。
制定 平成25年1月24日
一部改定 平成27年1月13日
全部改定 平成28年6月30日
一部改定 令和2年4月1日
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000239520
また、本件は薬機法の広告三要件(「誘引性」「特定性」「認知性」)も満たしていると言えますので、薬機法にも抵触する可能性が高いと言えるでしょう。
規制対象とならない媒体があるのではなく、法規制の目的を鑑みて、どのような情報発信が適切であるかをきちんと理解したうえでの広報・宣伝活動計画が求められます。
なお、同社は、措置命令の公表日9月9日と同日付で自社HPに謝罪文を掲載していますが、社告掲載などの「誤認解消措置」(※2)は、まだなされていません。(2022年9月15日時点)
また、謝罪文を見る限り、返金対応は行わない模様です。
(※2)一般消費者の誤認のおそれの解消措置(誤認解消措置)とは
事業者が、課徴金対象行為に関する表示が優良・有利誤認に該当する表示であることを、日刊新聞紙に掲載する方法等により、誤認解消するために一般消費者に周知する措置のこと。
フィデスでは、販促・広報戦略、表示の根拠試験デザイン、コンプライアンス研修など社内外の広告適正管理体制構築をサポートいたします。
お気軽にご相談ください。
===================================
◆フィデスの広告法務コンサルティング◆
消費生活アドバイザーが、貴社の広告コンプライアンス
体制構築をサポートします。
詳細はこちら
===================================
《参考記事》
・健食広告留意事項の一部改訂案公表、景表法・健増法の法執行方針をチェック(消費者庁 2022年8月9日)
・イマジン・グローバル・ケア、「ブロリコ」成分の研究コンテンツによる広告手法に景表法措置命令(消費者庁:2019年11月1日)
・景品表示法(優良誤認)の不実証広告規制。表示の裏付けとなる「合理的な根拠」の判断基準とは
————————————————————-
◆本ブログをメルマガでまとめ読み!
本ブログの1週間分の情報を、ダイジェストでお届けしています。
登録はこちら
——————————————————-
この記事へのコメントはありません。