通販広告実態調査、不適正広告事例解説(JADMA「2021年度 通販広告実態調査」)

前回の記事では(公社)日本通信販売協会(JADMA)が2021年度に実施した通信販売広告実態調査結果(※)より、通販広告の広告表現の適正性について全体傾向についてご紹介しました。
・通販広告実態調査 「解約」に関する記載なし、が問題広告の50%(JADMA「2021年度 通販広告実態調査」)

今回は表示に問題のあった通販広告の個別事例を解説します。
調査報告書では、「一部不適正な表示が見られ、改善が必要な広告」、「関連法令に抵触するおそれの高い広告」について紹介されています。
ここでは特に気になる事例について紹介します。

≪問題広告事例≫
事例1:届け出表示内容から逸脱した痩身効果(機能性表示食品)
事例2:不適切な販売実績の根拠・栄養成分機能表示の逸脱(栄養機能食品)
事例3:化粧品(医薬部外品)での医療行為に類する効果表示(SNS広告、記事風広告、販売サイトと順にリンク)(シミ解消薬用美容ジェル)
事例4:見せかけの期間限定キャンペーン・総額不記載の分割払い金額表示(家庭用美容器具(雑貨))
事例5:「返金保証」の適用条件の不明瞭な記載(学習サービス)
事例6:「無料体験キャンペーン」の適用条件の不明瞭な記載(学習サービス)


《関連法令に抵触するおそれの高い広告》
・景品表示法や薬機法などの関連法令に抵触するおそれの高い表示が散見される広告
・特定商取引法の記載事項や返品特約が不記載であり、消費者トラブルを招きかねない広告
・消費者の誤認を誘発する可能性が高い表示が散見される広告

事例1:届け出表示内容から逸脱した痩身効果(機能性表示食品)

JADMAコメント:
・本商品を摂取することで、食事制限することなしに痩身効果が得られるとしているが、根拠が疑わしい。機能性表示食品としての届け出表示の内容から逸脱のおそれ。(景表法・健康増進法違反のおそれ)
・機能性表示食品であることを強調し、あたかも広告内容通りの効果が実証されているかのような誇大表示。(景表法・健康増進法違反のおそれ)

フィデスのコメント:
消費者庁は、認知機能領域の機能性表示食品に対するネット広告表示の一斉監視を行い、115社の131商品のインターネット広告について、2022年3月31日に表示の改善指導が出されています。
・認知機能の機能性表示食品に対するネット広告監視。約6割の商品のネット広告が改善指導の対象に(消費者庁  2022年3月31日)

事例2:不適切な販売実績の根拠・栄養成分機能表示の逸脱(栄養機能食品)

JADMAコメント:
・本商品の過去の販売実績について、計算方法が不明であり、誇大な表現である。(景表法違反のおそれ)
・本商品を摂取することで、接種した子供の背が伸びる効果が得られるとしているが、根拠が疑わしい。栄養機能食品として許容される栄養成分の機能表示の逸脱のおそれ。(景表法・健康増進法違反のおそれ)

フィデスのコメント:
「小学生5人に1人が愛用」の説明として、「2021年2月時点累計発送個数、総務省統計局 年齢3歳階級別こどもの数(平成30年4月1日現在)小学生(6~11歳)参照」と表記されていますが、表示の根拠として合理的な計算方法とはみなされないおそれがあります。
栄養機能食品では、栄養成分ごとに定められた機能の表示(定型文)を記載します。
表示内容の主旨が同じものであっても、定められた栄養成分の機能に変化を加えたり、省略したりすることは認められません。
(表示例)
『ビタミンDは、腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける栄養素です。』

事例3:化粧品(医薬部外品)での医療行為に類する効果表示(SNS広告、記事風広告、販売サイトと順にリンク)(シミ解消薬用美容ジェル)

JADMAコメント:
・SNS広告、記事風広告において、医療行為に類する効果表現や、シミがすぐさま消えるかのような表現が見られるが効果が疑わしい。(景表法・薬機法違反のおそれ)

フィデスのコメント:
消費者庁は、2021年の3月1日に、「シミが消える」とうたう化粧品・医薬部外品の虚偽・誇大なアフィリエイト広告に対して、消費者安全法(38条第1項)に基づく初の注意喚起を行っています。
・シミ消し化粧品のアフィリエイト広告に、初の消費者安全法による注意喚起(消費者庁 2021年3月1日)

また、インフィード広告からリンクされた美容記事風アフィリエイト広告における不適切な表示例について、JAROが指摘しています。
・アフィリエイトサイトの不適切な表示の法的責任主体は?(日本広告審査機構 平成28年度)

事例4:見せかけの期間限定キャンペーン・総額不記載の分割払い金額表示(家庭用美容器具(雑貨))

JADMAコメント:
・本商品を使用することで、脂肪細胞を破壊するなどして痩身効果が得られるとしているが、根拠が疑わしい。(景表法・薬機法違反のおそれ)
・価格について分割払いの場合の月額のみが強調表示され、総額が表示されておらず、代金総額が不明瞭。(特商法違反のおそれ)
・1時間でキャンペーン終了する旨の表示がなされているが、ページが更新されるたびに残り時間が元に戻る。(景表法違反のおそれ)

フィデスのコメント:
消費者庁は、2022年の3月に、美容脱毛サービスの分割払い金額表示や、脱毛器の期間限定キャンペーンの繰り返しに有利誤認の措置命令を行っています。
・美容脱毛サービスの金額表示に有利誤認。セブンエー美容、ダイシン、エイチフォーに景表法措置命令(消費者庁 2022年3月3日)

・セドナエンタープライズ脱毛器、期間限定キャンペーンの繰り返しに有利誤認。同一とみなされたキャンペーン内容は?(消費者庁:2022年3月15日)

事例5:「返金保証」の適用条件の不明瞭な記載(学習サービス)

JADMAコメント:
・受講料の返金保証を強調表示しているが、返金保証が適用されるコースや返金対象が受講料のみに限定されていることは小さくされており、返金保証の条件について消費者に誤認を与えかねない。(景表法違反のおそれ)
・本サービスの解約には教室に赴いての手続きが必要で、インターネット等を利用できる申込手段と比較して手間と時間がかかる方法に限定されている。解約方法に制限がある旨、分かりやすく表記するべきである。

事例6:「無料体験キャンペーン」の適用条件の不明瞭な記載(学習サービス)

JADMAコメント:
・30日間無料体験キャンペーンを強調表示しているが、キャンペーンが適用されるのは特定のプランのみで他のプランはキャンペーン条件が異なることが、強調表示から相当離れた位置に小さく表示されている。全てのプランで同条件の無料体験キャンペーンを受けられると消費者に誤認を与えかねない。(景表法違反のおそれ)
・30日間無料と強調する部分に近接して対象プランの注釈を分かりやすく表示すべきである。

フィデスのコメント:
事例5、事例6の「返金保証」や「無料体験キャンペーン」は誘引力のある施策ですので、適用に例外や別条件などの制約条件がある場合、消費者にその内容が正しく理解できるように表示する必要があります。
施策を強調表示し制約条件を打消し表示として表示する場合の、景品表示法上の考え方と適正表示の留意点が示されています。

打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)
(消費者庁 2018年6月7日)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_180607_0004.pdf


本通販広告実態調査では、「関連法令に抵触するおそれのある広告」の通販会社に対して、以下の対応を行うとしています。
• 調査結果及び改善要請書を通知し、広告表現の改善を要望。
• 併せてJADMA主催の広告講習会等への参加を要望。
• 上記要請に対する協力対応がなく、違法性や悪意性があり、消費者にとって多大な不利益やトラブルの発生が予測できる広告表示を再度行っている場合には、JADMAから関係省庁などへ通報していく。

本調査結果については、消費者庁をはじめとした行政機関や関連団体、広告関連事業者に対しても情報共有され、業界の自主的な取り組みによる健全化を図っています。
行政処分のリスクを回避するうえでも、指摘事項を真摯な態度で受け止め、改善を図ることが賢明です。
正しい法律理解と消費者にわかりやすく信頼される広告制作を心がけましょう。


通信販売取引改善のための通販広告実態調査 (2021年度調査)
(公社)日本通信販売協会 広告適正化委員会 2022年6月https://www.jadma.or.jp/pdf/2022/jadma_koukokujittai2021.pdf

<調査概要>
調査エリア:
近畿2府4県(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)及び四国4県(愛媛県、香川県、徳島県、高知県)とし、各県の人口構成に応じて調査員を選定。

調査期間:
2022年2月7日(月)~20日(日)までの2週間

対象広告:
調査員が接触したすべての通信販売に関する広告とした。
消費生活アドバイザー等の資格を有する一般消費者の中から調査員を選定し、本調査に関するガイダンスを行ったうえで調査活動を開始した。

《関連記事》
・通販広告折込チラシ、不適正広告事例解説(JADMA「通販広告実態調査(新聞折込チラシ編)」)
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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。