JARO(公益社団法人 日本広告審査機構)が公表している、広告に対する消費者から受け付けた苦情や問い合わせに基づく審査概況から、消費者の印象や広告・表示関係法令に抵触する恐れのある広告の傾向についてキャッチします。
2020年度の相談の総受付件数は15,100件(前年度比120.9%)で5年連続最多件数を更新し、ネット関連の広告・表示に関する苦情がさらに増加しています。
内容を確認してみましょう。
●2020年度の「苦情」件数は24%増。「デジタルコンテンツ等」「美容・健康関連」「通信サービス」増加目立つ
総受付件数は15,100 件(前年度12,489件)で、前年同期比 120.9%となった。
相談のうち「苦情」は11,560件(前年同期9,324件)で、前年度比124.0%となった。
「苦情」を業種別にみてみると、上位は以下の通り。
1位「デジタルコンテンツ等」1,270件(前年度855件)で、前年度比148.5%。
2位「健康食品」987件(前年度770件)で、前年度比128.2%。
3位「化粧品」805件(前年度324件)で、前年度比248.5%。
4位「携帯電話サービス」620件(前年度299件)で、前年度比207.4%。
5位「医薬部外品」456件(前年度153件)で、前年度比298.0%。
1位から5位までのいずれもが大きく増加。
1位の「デジタルコンテンツ等」のゲーム関連では、「広告と実際のゲーム内容が異なる」「ゲーム内容と関係ない性的表現が不快である」などの意見、動画配信サービスではホラーや死の表現に対して「時間帯を配慮してほしい」「コロナで不安なときにやめてほしい」などの意見。
「健康食品」「化粧品」「医薬部外品」などの美容・健康関連は、医薬品的な効能効果をうたうネット上の不適切な表示が多数。「健康食品」では誤認させる定期購入契約の表示に対する苦情。「化粧品」については、主にバナー広告で画像処理をした鼻の角栓の広告を出していた複数の企業に対し、生理的不快感を訴える意見が多数。
●「インターネット」の「苦情」が36.6%増で、「テレビ」を大きく上回る
「苦情」を媒体別にみてみると、上位は以下の通り。
1位「インターネット」5,531件(前年度4,048件)で、前年度比136.6%。
2位「テレビ」4,683件(前年度3,961件)で、前年度比118.2%。
3位「ラジオ」334件(前年度305件)で、前年度比109.5%。
2019年度に「インターネット」が僅差で「テレビ」を上回り、初の1位となったが、20年度はさらに「インターネット」が大きく上回り、大幅増加となった。(前年度比2019年度:142.2%、2020年度:136.6%)
「インターネット」は、医薬品的な効果や誤認をまねく定期購入契約など不適切な広告・表示への苦情、不快感を訴える広告表現に関するものが増加。
件数が多かった表示(※)は「バナー」1,427件、「企業サイト」1,388件、「販売サイト」1,351件、SNS等の「インフィード」1,072件、「動画」1,069件、「アフィリエイト」378件(認知できたもの)などであった。
動画広告は2020年3月ごろから急増し、上半期に容姿のコンプレックスに訴える美容・健康商材に苦情が多数寄せられた。また、広告の遷移構造として「インフィード広告」→「アフィリエイトサイト」→「販売サイト」と遷移するパターンへの苦情も多数存在した。
※「インターネット」には純広告だけでなくウェブサイトの表示なども含まれる
「テレビ」では「携帯電話サービス」440件(前年度157件)、「デジタルコンテンツ等」415件(同198件)などが特に増加しており、怒鳴るような声がうるさい、ホラー表現が怖いなど。
その他、増加が目立った媒体は、「チラシ」(前年度比138.0%)や「ラベル・パッケージ等」(同153.5%)がある。
「チラシ」は323件のうち約半数の161件が価格や取引条件に関するものであり、小売業37件、通信18件、飲食業12件などが多かった。
「ラベル・パッケージ等」については、155件のうち品質や規格に関するものが115 件を占め、食品や化粧品・石けん・洗剤、マスクなどが目立った。
●誤認表示に対する苦情件数が33.6%増。特に「品質・規格等」は倍増
「苦情」を内容別にみてみると、構成比は以下の通り。
「表示」6,632件(構成比57.4% 前年度比133.6%)。
内訳:
「価格・取引条件等」2,764件(構成比23.9% 前年度比122.0%)
「品質・規格等」3,331件(構成比28.8% 前年度比196.4%)
「その他」537件(構成比4.6% 前年度比53.6%)
「広告表現」4,073件(構成比35.2% 前年度比112.4%)。
「広告の手法」855件(構成比7.4% 前年度比116.0%)。
〔表示〕
広告・表示が事実と異なる、誤認を招くといった表示に問題があると訴えるもの。広告規制に違反するものが多い。
「品質・規格等」は倍増し、内訳は「デジタルコンテンツ等」225.2%、「健康食品」165.8%、「化粧品」272.6%、「医薬部外品」510.4%などの増加が目立った。
「価格・取引条件等」については、誤認をまねく定期購入契約の健康食品等、携帯電話サービスの割引等の適用条件、高額買い取りをうたう買取業、またコロナ下の序盤ではマスクや除菌剤の価格やおとりを疑う苦情もあった。
〔広告表現〕
広告での描写に関するもの。
生理的不快感をおぼえる映像・画像への苦情が目立った。「不快」は前年度比131.9%、「気持ち悪い」は172.9%に上り、「イライラする」「うんざりする」と言った声も増加。
〔広告の手法〕
CMの音量や頻度、広告であることが不明瞭、迷惑な露出方法などに関するもの。
CMの音量に関する苦情が目立った。
●「見解」27件を発信、内、アフィリエイトサイト関連が14件
業務委員会で審議し「見解」を発信したのは27件。(前年度34件)
内訳は「厳重警告」15件(2020年4月新設)、「警告」9件(同31件)、「要望」1件(同2件)、「助言」2件(同1件、「提言」から名称を変更)。
「厳重警告」15件のうち、14件が「インターネット」であり、そのすべてにアフィリエイトプログラムが関わっていた(うち4件はアフィリエイターに対して発信した)。
対象業種は「健康食品」10件、「化粧品」8件、「医薬部外品」3件、「雑貨品」2件、「CtoC取引プラットフォーム」「除菌スプレー」「教員募集」「エステサロン」各1件。
対象媒体は「インターネット」が見解27件中24件、「テレビ」2件、「チラシ」1件。
具体的な警告内容は以下の通り。
2020年度の厳重警告・警告一覧 ( )内は商品・サービス/媒体
≪厳重警告≫
(1) 「飲むだけでみるみる痩せる」とうたっているが、アフィリエイトサイトで痩身の根拠として掲載されたのは人工肛門の論文を加工したと思われるものであり、「初回限定価格500円」は5回購入が条件であり、表示が分かりにくいものだった。(健康食品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(2) ポータルサイトのインフィード広告からリンクした口コミサイトに「特許成分の○○なら10分で体の中から消臭」「今だけ500円」などとうたっていた。(健康食品/インターネット〔ポータルサイトインフィード、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(3) 広告やアフィリエイトサイトなどで、「ステロイド頼りだったアトピーがせっけんを変えただけで?」などとアトピーに効くような内容をうたっていた。(せっけん〔化粧品〕/インターネット〔ニュースサイトインフィード、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(4) 「飲むだけなのにマッサージの9倍もの脚痩せ効果!」「初回10円」と動画広告で言っていたが、同梱の請求明細書に16100円と書かれていた。(健康商品/インターネット〔動画共有サイトのアフィリエイト広告、自社通販サイト〕)
(5) 上記(4)と同じ事例で、動画広告制作・運営事業者宛のもの。
(6) 飲むだけで痩せる、返金保証、6日分500円とあったが定期購入契約になっており、解約を申し出ても1年間継続購入しないと解約できないという健康食品(インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(7) 上記(6)と同じ事例で、アフィリエイトサイトを制作した広告会社宛のもの。
(8) シミをペロッとはがし取る画像などシミが短期間で消失するかのように表示した医薬部外品の美白クリーム(インターネット〔ブログ内広告、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(9) 通販サイトにはシミがはがれるような記載がないのに、そこへリンクしたバナー広告にはシミがかさぶたのようにはがれる画像を掲載していた医薬部外品の美白クリーム(インターネット〔ブログ内広告、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(10) 濃いシミもぽろっと排出などとシミがはがれてなくなるかのような広告をしていた卵隔膜を使った美容液(インターネット〔ブログ内広告、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(11) 上記(10)と同じ事例で、アフィリエイター(個人事業主)宛のもの。
(12) 家族で吸えばコロナにならないとうたった水素酸素吸入器(ポスティングチラシ)
(13) 毛穴の汚れがごっそり取れる、ノーベル賞受賞成分のコスメなどとうたい、鼻の角栓の合成写真を広告に使っていた化粧品のジェル(インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(14) 白髪が消えるかのような表示をしていたシャンプー(インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(15) 上記(14)と同じ事例で、アフィリエイトサイトを作成していた広告会社宛のもの。
≪警告≫
(1)「悩みのポツポツが面白いほどポロッと」と販売サイトに表示し、記事風のアフィリエイトサイトに皮膚科医のコメントとして首イボが2週間で取れるかのように表示していた。(ジェル〔化粧品〕/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(2) 販売サイトに「国産HMBが筋力アップを強力サポート」と表示し、アフィリエイトサイトには事実と異なり500円で試せるかのように表示していた。(健康食品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(3) 健康食品の販売サイトに「体内フローラの善玉菌を増や」、アフィリエイトサイトに「短鎖脂肪酸が宿便に吸着して、便と一緒に流しちゃうんです!」などと表示していた。(健康食品/インターネット〔ニュースアプリインフィードバナー、スポーツ新聞サイトインフィードバナー、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(4) ジェル(化粧品)の広告に、「塗った場所だけの脂肪を増やすジェルを塗っただけ」「通常7,000 円が今だけ0円」などと表示していた。(化粧品/インターネット〔新聞社サイトインフィード広告、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(5) サプリメントの広告に、誤って飲んだ父親が巨乳になるというマンガや「これを一粒飲むだけで女性ホルモンがドバババババ!と全身に行き渡るんです」などと表示していた。(健康食品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(6) CBD(麻からの抽出成分)が「ネット限定ワンコインコース500円(税抜)、300名様限定」とあるが、申し込みボタンを押すと、定期購入で総額29,420円になる旨の表示箇所を越えて申し込みウェブフォームに飛ぶ設定になっていた。(雑貨品/インターネット〔自社通販サイト〕)
(7) ジェル(医薬部外品)の販売サイトに「目元・口元などのあきらめていたシミに!」、アフィリエイトサイトに「シミがペリッとはがれた!?」などと表示していた。(医薬部外品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(8) 分割払いの金額であるのに月額1980円と大きく表示して総額や金利が不明瞭だったひげ脱毛のエステサロン(インターネット〔SNS内バナー広告、アフィリエイトサイト、企業サイト〕)
(9) 冷え性専門漢方サプリ、女性のための漢方薬房などと漢方薬であるかのように表示した健康食品(インターネット〔バナー、自社通販サイト〕)
審査基準:
【厳重警告】
警告相当の広告または表示であって、問題箇所の数、消費者に誤認を与える程度等により、その不当性が特に高いと認められることから、当該広告または表示を直ちに削除または修正することが必要と認められるもの。
【警告】
広告または表示が、実際のものより著しく優良・有利に表現され、消費者に誤認を与えるもの、または広告・表示関係法令に抵触することが明らかであることから、当該広告または表示の速やかな削除または修正を求めることが必要と認められるもの。
【要望】
広告または表示が、実際のものより著しく優良・有利に表現され広告・表示関係法令に抵触する疑いがあるもの、または消費者の誤認を招くおそれがあることから、当該広告または表示の削除または修正を求めることが必要と認められるもの。
【助言】
広告または表示が、消費者の誤解を招く、または社会的・道義的問題等を有する可能性があるため、修正等の検討を求めることが必要と認められるもの。(従来の「提言」から名称変更)
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JARO審査基準改定について
(公益社団法人 日本広告審査機構 2020年6月18日)
https://www.jaro.or.jp/news/20200618c.html
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●定期購入契約の苦情増加は続く
2020年度の定期購入に関する苦情は297件(前年度234件、前年度比126.9%)で、増加が続いているものの、2019年度の前年度比238.8%から増加率は鈍化している。
対象商品別でみると、これまで同様、美容・健康系の商材が多い。1位の「健康食品」は135件(前年度143件、前年度比94.4%)で減少した。「化粧品」は63件(前年度54件、前年度比116.7%)、「医薬部外品」は53件(前年度20件、前年度比265%)で医薬部外品の増加が目立つ。CBD関連製品も多く寄せられた。
見解発信事例27件中15 件が定期購入契約で、厳重警告の(1)〜(11)と(13)、警告の(2)(4)(6)。
国民生活センターのPIO-NETに登録された定期購入に関する2020年の相談件数においても、同様の傾向となっていますが、商品別では変わらず「健康食品」の増加が続いています。
《参考記事》
・「定期購入販売」関連相談2020年も132.2%増。待たれる改正特商法施行と法執行(令和3年版 消費者白書)
●新型コロナウイルス関連の苦情は7.3%を占めた
コロナに関連した苦情は、2020年4 月の223件(苦情全体に占める割合21.6%)が最多で、20年度全体で888件(同7.3%)となっている。
見解発信事例「厳重警告」(12) (4)(5)。
苦情内容の傾向について、JAROでは2020年4月~2021年3月の期間で「新型コロナウイルス関連の広告・表示へのご意見」について取りまとめています。
取りまとめた内容を、以下の記事でご紹介しています。
・JAROへの新型コロナウイルス関連広告への苦情、2020年度の年間を通じて多かった「不当な表示・効果をうたう」表示(日本広告審査機構 [2020/04~2021/03] 年度総括版)
2020年度における景品表示法の措置命令では、33 件のうち 21 件が消毒、除菌等の効果等についてのものとなっており、新型コロナウイルスへの予防効果等を標ぼうする不当表示に対する緊急監視や行政指導が行われました。
・令和2年度景表法違反、国及び都道府県の措置命令件数は41件。「保健衛生品」が半数以上(消費者庁 2021年7月)
・コロナ予防効果の不当表示対応に注力 令和2年度の消費者庁の広告表示適正化への取組 (消費者庁 2021年7月)
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2020年度の審査概況
(公益社団法人 日本広告審査機構 2020年6月18日)
https://www.jaro.or.jp/news/ghuq7e00000033mc-att/ghuq7e00000033q8.pdf
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《関連記事》
・JAROへの苦情媒体、ネット広告がトップに。アフィリエイト関連は「警告」31件中18件
(日本広告審査機構 2019年度の審査概況)
・JAROへの苦情、通販定期購入契約の苦情は減少せず。ネット広告への苦情二桁増続く
(日本広告審査機構 2018年度の審査概況)
・ネット上の健康食品の成分に関する記事体広告、薬機法に抵触する境目は?
・メール広告からしかたどり着けない中間ランディングページ、不適切表示隠しの巧妙な手法
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