TOLUTO、アクア、GRACE wonderにみるネット通販定期購入の特商法違反処分分析

健康食品や化粧品のネット通販「定期購入」契約に関する処分が続いています。

前回の記事では、2020年8月7日に特定商取引法による業務停止処分となった、健康食品(ダイエットサプリメント)等を販売する通販事業者の(株)wonderの事案を取り上げました。

2019年12月26日の(株)TOLUTO、(株)アクア、2020年1月22日の(株)GRACE(グレース)に続いて、4件目の特定商取引法違反処分です。

今回は、本件を含め過去4件のネット通販「定期購入」契約に関する処分内容を整理しながら、法規制動向を確認します。

特定商取引法違反(指示)
(株)アクア
処分公表日:2019年12月26日
違反内容:
定期購入契約申し込みの最終確認画面の、申込み完了ボタンの表示が「ご注文完了ページへ」となっていた。

申込み完了ボタン押下が定期購入契約の申し込みとなることを、容易に認識できるように表示していなかった。
(特定商取引法第14条第1項第2号の規定に基づく施行規則第16条第1項第1号)

・(株)アクア ネット通販定期購入の最終申込ボタン表示に特商法で指示処分(消費者庁 2019年12月26日)

特定商取引法違反(指示)
(株)GRACE
処分公表日:2020年1月22日
違反内容:
定期購入契約申し込みの最終確認画面の、申込み完了ボタンの表示が「初回完全無料の贅沢コースに参加する」「購入完了ページへ」となっていた。

申込み完了ボタン押下が定期購入契約の申し込みとなることを、容易に認識できるように表示していなかった。
(特定商取引法第14条第1項第2号の規定に基づく施行規則第16条第1項第1号)

・続く特商法処分。ネット通販定期購入の最終申込ボタン表示で(株)GRACEに指示(消費者庁 2020年1月22日)

定期購入の内容は表示されているが、申込み完了ボタンの表示が誤認を招くものであったケースについては指示処分に留まっています。
上記2つの指示処分においては、違反表示の是正と再発防止策の構築を指示するもので、「業務の遂行に主導的な役割を果たしている者」に対する業務禁止命令は含んでいません。

特定商取引法違反
(業務停止命令(3カ月)と、同社の前代表取締役に対し業務禁止命令(3カ月)
(株)TOLUTO
処分公表日:2019年12月26日
違反内容:
申し込みの最終確認画面上において、
(1)定期購入契約の主な内容である、2回目以降に引き渡される商品の代金支払い時期を表示していなかった。

定期購入契約の申し込みとなることを容易に認識できるように表示していなかった。また、申し込みの内容を容易に確認し、訂正できるようにしていなかった。
(特定商取引法第14条第1項第2号の規定に基づく施行規則第16条第1項第1号及び第2号)

(2)申し込み内容について、申し込みを完了させるボタンよりも下に、そのボタンの文字の大きさに比べて著しく小さい文字で表示していた。
また、当該表示部分を多数回スクロールしなければその内容を最後まで確認することができないように表示しておきながら、その表示部分にスクロールバーを表示していなかった。

顧客が申し込み内容を容易に確認・訂正できるようにしていなかった。
(特定商取引法第14条第1項第2号の規定に基づく施行規則第16条第1項第2号)

・ネット通販定期購入の表示に特商法での処分 (株)TOLUTOと前代表取締役等に業務停止命令(消費者庁 2019年12月26日)

特定商取引法違反
(業務停止命令(6カ月)と、同社の前代表取締役に対し業務禁止命令(6カ月)
(株)wonder
処分公表日:2020年8月7日
違反内容:
申し込みの最終確認画面上において、定期購入契約の主な内容である、
(1)契約期間について、購入者から解約通知がない限り契約が継続する無期限の契約である旨を明記せず、
(2)解約条件について、最終確認画面の「特定商取引に関する法律」というリンク表示先ページにのみ記載し、最終確認画面に解約条件を表示していない上に、
(3)リンク表示を、定期購入契約の申し込みを完了させるボタンよりも下に、そのボタンの文字及び初回の合計金額が表示された部分等と比して小さくかつ目立たない色調で表示することにより、当該ページに解約条件が記載されていることが容易に認識できないようにしていた。

顧客が申し込み内容を容易に確認・訂正できるようにしていなかった。
(特定商取引法第14条第1項第2号の規定に基づく施行規則第16条第1項第2号)

申し込む定期購入の内容が適切に記載されていなかったり、表示の仕方が認識しづらいケースについては業務停止命令となっています。
上記2つの命令処分においては、いずれも業務停止命令を受けた業務の遂行に主導的な役割を果たしている者に、同様の業務禁止命令が出されています。

TOLUTOの事案では、前代表取締役(2019年10月16日付で退任)が、同社に対し取締役と同等以上の支配力を有するものと認められる者であり、かつ、同社が停止を命ぜられた業務の遂行に主導的な役割を果たしている者に該当するとして、3か月間、同社が命ぜられた業務停止の範囲内の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)を禁じる処分が下っています。

TOLUTOは2019年9月6日、旧社名(株)e.Cycle時に、ダイエットサプリの「ケトジェンヌ」に対して消費者庁から社名公表を伴う消費者安全法に基づく身体被害の公表がなされ、同月30日に商号変更(e.CycleからTOLUTO)及び代表取締役の変更を行っていました。

脱法目的で商号や代表取締役の変更を行っても、同様の悪質な違反行為を行わせないよう平成29年12月の特商法改正において、規制強化を行ったわけです。

そして、wonderの事案では、約半年前に特商法の指示処分を受けた事業者((株)GRACE)の代表取締役である者が、別の法人((株)wonder)において、悪質な特商法違反行為の主導的な役割を果たしている者として、TOLUTOよりさらに重い6カ月間の業務禁止処分を受けました。
消費者庁によると、今年2~7月にかけて、全国の消費生活センターに合計3,991件の同社に関する消費者相談が寄せられていたとしています。

消費者庁では、本2事案の処分公表と同時に、消費者向けに注意喚起チラシ「これって1回限りじゃないの?」も公表して、注意を呼び掛けています。

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注意喚起チラシ「これって1回限りじゃないの!?」の公表について
(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_transaction_cms203_191226_03.pdf
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通販の定期購入契約トラブルが増加する中、特商法改正の議論も進み、取り締まりは今後、一層強化される見込みです。
7月28日に行われた第5回「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」で示された法改正の骨子案のポイントは、以下の通りです。

・「詐欺的な定期購入商法」に該当する定期購入契約を念頭に、「顧客の意に反して通信販売に係る契約の申込みをさせようとする行為」を、特商法における独立した禁止行為とし、規制の実効性を向上させる。

・「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に
係るガイドライン」の見直しを行い、法執行を強化。

・違反のおそれのあるサイトへのモニタリング等を、外部の専門的リソースを活用して法執行を強化する。

・解約・解除を不当に妨害するような行為を禁止する。

・解約権等の民事ルールの創設等も検討。

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第5回「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」(2020年7月28日)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/meeting_materials/review_meeting_001/020677.html
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購入手続き画面表示のOK、NG具体例など、以下の記事も併せてご確認ください。

≪参考記事≫

・通販の定期購入契約、購入手続き画面表示の具体例を解説(特定商取引に関する法律施行規則改正(平成29年12月1日施行))

・2019年度の通販「定期購入」契約相談が5万件超に。規制強化の議論が進む

・悪質業者に対する徹底した法執行。景表法と特商法のダブル適用を行った行政の意図とは

・消費者保護の更なる強化。特商法・消契法の改正案閣議決定(平成28年3月4日)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。