「お試し」のつもりが定期購入になっていた、という健康食品や化粧品のネット通販の定期購入契約に対する法規制強化について、議論が進んでいます。
ネット通販の定期購入トラブルについては、PIO-NETに寄せられた苦情相談件数が2015年度から急増し始め、国民生活センターによる注意喚起が、2016 年6月に1回目、2017年11 月に2回目が行われました。
更に、2017年12月には、契約時の販売条件の明記を義務付けた特商法の施行規則一部改正が施行されました。
残念ながら、施行規則改正後もトラブル増加は続き、2019年度にPIO-NETに寄せられた相談は50,365件と、2018年度の23,022件から前年度比約220%と激増。2019年12月19日に、国民生活センターによる3度目の注意喚起が公表され、ようやく、消費者庁から特商法による処分が12月26日に2事案(化粧品、健康食品通販(株)TOLUTO:業務停止命令(3か月)、健康食品通販(株)アクア:指示)、2020年1月22日に1事案(健康食品通販(株)GRACE)が、立て続けに出されましたが、いまだ毎月数千件単位で推移しているところです。
・ネット通販定期購入の表示に特商法での処分 (株)TOLUTOと前代表取締役等に業務停止命令(2019年12月26日)
・(株)アクア ネット通販定期購入の最終申込ボタン表示に特商法で指示処分(2019年12月26日)
・続く特商法処分。ネット通販定期購入の最終申込ボタン表示で(株)GRACEに指示 (2020年1月22日)
このような深刻な被害状況を受けて、消費者委員会が2020年6月26日に「悪質なお試し商法」に関する意見として、消費者庁に対し、特定商取引法のガイドラインの見直しを求めました。
消費者委員会のまとめた「悪質なお試し商法」の類型と問題点、「悪質なお試し商法」に関する必要な措置について確認します。
●「悪質なお試し商法」の類型と問題点
(1)回数縛り型
例えば、お試し価格を誇張して一回限りのお試し販売と見せかけ、実際は、最低●回の購入等を条件とした定期購入契約、2回目に数箇月分の商品を一括して購入することを条件とし、総額数万円を請求するケース等。
問題の所在:
お試し価格や解約自由の表示を他の契約条件の表示よりも誇張し、かつ、契約条件の全体が理解困難な表示手法がとられている。
例えば、お試し価格等の表示が、他の契約条件と比して著しく大きなフォントサイズ、目立つフォント、文字色、背景色等を使用するほか、お試し価格等の表示から何度もスクロールしなければ認識できないような離れた位置に他の契約条件を表示すること等。
(2)違約金型
例えば、定期購入契約ではあるが回数縛り等の条件はなく、解約がいつでも可能であったとしても、初回購入後、中途解約した場合には初回がお試し価格ではなく通常価格に戻り、解約料又は違約金のようなものが請求されるケース。
問題の所在:
契約内容として、中途解約した場合にはお試し価格が通常価格に戻ること、2回目は数箇月分の一括購入とすること等。
(3)解約困難型
例えば、解約手続が電話に限定されているため販売業者に電話をかけても、一向につながらず、その間に販売業者側が定めた解約期限が過ぎてしまい、次回分商品の受領及び支払をせざるを得なくなるケース。
問題の所在:
解約自由を強調しておきながら、実際には、解約手続の方法を電話のみに限定し、かつ、解約期限を比較的短い期間に設定することにより、解約期限が過ぎるまで電話受付を事実上拒否して解約できないようにすること等。
解約期限を他の契約条件と関連させて複雑にした上で、契約条件を表示しない又は分かりづらく表示すること等。
例えば、「解約期限は次回商品発送日の●日前とする。」旨表示しておきながら、次回商品発送日を表示しない又は分かりづらく表示するケース等。
●早急に講ずべき事項
(1)ガイドライン(※)の見直し
・初回をお試し価格とする定期購入契約の申込みを受ける場合には、申し込み最終確認画面に定期購入に関する全ての条件を明記する。
例)
定期購入に関するお試し価格以外のその他の契約条件の表示について、
1) お試し価格等の表示と同等以上の目立つ色、フォント及びフォントサイズで行うこと
2) お試し価格等の表示からスクロールや切替えをせずに済む同一画面内で表示すること
3) お試し価格等の表示との距離を開けずに近接して表示すること
→現行のガイドラインでは、どの程度離れた場所に表示されていれば容易に認識できないのかが不明瞭であるため、距離を開けずに近接して表示する必要がある旨定めるべきである。
・ガイドライン(※)において、具体的な表示の例示に当たっては、一般化又は抽象化した体裁だけではなく、「悪質なお試し商法」を行う事業者の販売サイトの実際の画面例を参考にしながら、具体的な画面例を追加すること。
(※)
「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」(特商法第14条第1項第2号、特定商取引に関する法律施行規則(昭和51年通商産業省令第89号。)第16条第1項第1号及び第2号参照)
(2)執行の強化及び高度化
・ガイドラインの整備
悪質事業者を市場から淘汰するとともに、健全な事業者が適正な事業を行えるよう、特商法で規定する「広告表示」や「誇大広告等の禁止」について、その具体的な表示の内容や方法をガイドライン等で定めること。
・監視を高度化する体制を整備
ICTやAIの積極的な活用、健全な事業者団体等との連携の強化等。
例えば、インターネット上の監視体制を強化するため、AIを活用して法令違反のおそれのある表示を検索、抽出し、当該表示を目視により確認する方法等が考えられる。
(3)消費者に対する情報提供及び注意喚起
・注意喚起を行う場合、抽象的な情報ではなく、実際の悪質事業者が使用している広告画面を再現して示す等、消費者が実際の状況を体感し、自分事として受け止めることができるような形式及び体裁で示すこと。
・SNS上の広告やアフィリエイト広告を介して悪質事業者の販売サイトに遷移したという相談事例も示すこと。
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「悪質なお試し商法」に関する意見
(消費者委員会 2020年6月26日)
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2020/index.html#lst6
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また、消費者庁による「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」においても、定期購入トラブルの防止策について制度的な措置を講じるべきとして、議論がなされています。
6月29日に行われた第4回検討会では、各委員から以下のような意見が出されています。
・消費者にとって、定期購入であることや解約条件がより分かりやすい表示
・解約を認める場合の適正な申出方法の確保
・誤認による契約締結に至った場合の契約の取消権の導入、刑事罰の検討
・アフィリエイト広告に関する責任の所在の明確化
・業界団体等による望ましい表示モデルの提示や、表示において優良な事業者の表彰
・悪質業者排除のための官民一体となった「悪質業者早期警戒システム」の構築
・ネット通販関連事業者に対する法令順守の啓蒙及び消費者の啓発活動
法規制の強化によって、一般の通販事業者に対して新たな義務や責任を課すことにつながるのではないかという懸念の声もありますが、これまでの悪質商法対策の課題を踏まえつつ、多角的な政策と、悪質な事業者を取り締まるための法執行が徹底して行われる必要があると考えます。
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第4回 特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会
(消費者庁 2020年6月29日)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/meeting_materials/review_meeting_001/020414.html
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≪参考記事≫
・一歩先ゆく埼玉県の通販「定期購入」契約トラブルに対する法執行
・「ネット通販の定期購入トラブル」と行政の動き(岡村消費者庁長官記者会見 2017年2月22日)
・健康食品や化粧品等、通販で定期購入契約を行う際の広告に、販売条件の明記が義務付けに(特定商取引に関する法律施行規則の一部を改正する命令(平成29年6月30日公布))
・通販の定期購入契約、購入手続き画面表示の具体例を解説(特定商取引に関する法律施行規則改正(平成29年12月1日施行))
・国セン3度目の注意喚起。監視強化必至の通販定期購入の注意点とは
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