2020年の新型コロナウイルス感染症による、新しい生活様式に伴う消費者の購買行動の変化は、インターネット取引をはじめとするデジタル化をより深め、消費者行政においてもデジタル化への対応を大きく進めていく方針を打ち出しています。
9月に公表された令和3年度の消費者庁の予算概算要求では、AI・IT 技術を活用した法執行として、AI によるインターネット上の不当表示監視や事業者のデジタルフォレンジック調査、ターゲティング広告の手法を活用した消費者への注意喚起に取り組むとしています。
また、新型コロナウイルス感染症の影響により消費者の購買行動が変化している中、食品のECサイト上での購入が増加していることから、インターネット販売における食品表示のあり方の検討も盛り込まれています。
今回、概算要求基準が前年度と異なり、前年度額×100%+新型コロナ対応など緊要な経費という形になっており、令和2年度予算120億円からは約4割増、消費者庁としては過去最高額となる約166億円となっています。
今回は、重点取り組み事項の中から、特に事業活動に関連する政策とその予算額をピックアップして紹介します。
注:( )内は令和2年度予算額
●AI・IT 技術を活用した法執行【9千万円(新規)】
消費者取引のデジタル化や、AI・IT 技術の進展を踏まえ、インターネット広告の監視の効率化・迅速化、ターゲティング広告の手法を活用した消費者への注意喚起、調査対象事業者の電磁的記録データの解析・復元・取得等の取組。
《内訳》
・AI によるインターネット上の不当表示監視事業 1千万円
・ターゲティング注意喚起事業4千万円
・デジタルフォレンジック調査事業 4千万円
●消費者取引対策・表示対策等に係る経費[一部再掲]【5億円(4.1億円)】
特定商取引法や景品表示法等の法執行に必要な違反事例の調査・分析や、消費者保護、消費者被害の拡大防止及び消費者利益の確保に必要な規制等の在り方を検討のため、現在の商取引等に関する実態調査などを実施する。
●食品表示のデジタルツールの活用・インターネット販売への対応事業【1.2億円(新規)】
新しい生活様式に伴う消費者の購買行動の変化に対応するため、容器包装に限らない表示の検討に必要な実証・調査を行うとともに、インターネット販売における食品表示のあり方を検討。
●デジタル・プラットフォームに関する調査研究【1千万円(新規)】
デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する中長期的な課題に関する調査。
デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/about_us/about/plans_and_status/digital_platform/
●食物アレルギー表示制度の検証推進事業【5千万円(新規)】
食物アレルギーに対する消費者の意識の高まりなどに対応するため、食物アレルギーの表示対象品目について、交差反応性等に関する調査等、科学的検証に必要な事業を推進。
●消費者と特定適格消費者団体との間の手続のIT化事業【6千万円(新規)】
消費者裁判手続特例法における簡易確定手続及び対象消費者が特定適格消費者団体に授権する手続の IT 化の整備に向けた検討、並びにシステムの構築・運用を行うことによって、消費者の利便性の向上及び特定適格消費者団体に対する監督の実効性の向上を図る。
●消費者志向の事業者活動の推進【3千万円(1千万円)】
令和2年度に試行的に作成する消費者志向経営優良事例表彰の評価指標を踏まえ、消費者志向経営の取組が円滑な資金調達や企業価値の向上につながるよう具体策を検討し、取組の更なる普及に向けた推進活動の見直しを実施する。
上記活動については、「消費者志向経営の推進に関する有識者検討会」に関する記事もご参考ください。
・「消費者志向経営」が社会の基本認識に。SDGs、ESG投資との関係をより明確化
(消費者庁 2020年9月)
●公益通報者保護の推進に必要な経費【8千万円(6千万円)】
公益通報者保護法改正法の施行に向け、事業者向け研修会等の周知広報活動を行う。
内部通報制度の認証制度の発展に向けた検討、既存の通報先・相談先行政機関検索システムの利便性を向上させる方策の検討を行う。
●人員面では29名を求める
内訳はデジタルフォレンジック調査の実施担当、インターネット広告規制担当、緊急時における物資買占め等への対応担当、公益通報者保護法の施行準備担当に各4名など。
インターネット上の不当表示監視について、消費者庁では、健康食品に関して2009年度より継続して行ってきました。ネット監視の方法は、ロボット型全文検索システムを用いて、キーワードによる無作為検索の上、検索されたサイトを目視により確認するというものです。今後、AIの活用によって更に効率化・迅速化が図られ、監視が強まることは必至です。
また、調査対象事業者に対するアプローチも、法的証拠となりえる情報を入手、復元、解析する技術としてデジタルフォレンジックを活用されることは、事業者にとって脅威となることでしょう。
他方、インターネット販売における食品表示のあり方については、これまでに消費者庁において「食品のインターネット販売における情報提供の在り方懇談会」が開かれ、平成28年12月に報告書が公表されています。食品のインターネット販売における消費者に必要な情報及びその提供方法、事業者にとって実行可能性のある情報提供の方策について検討がなされました。
また、令和元年8月には、消費者委員会において、今後のより良い食品表示のあり方が検討され、「食品表示の全体像に関する報告書」が公表されています。
食品表示法に基づく食品表示基準は、原則は食品の容器包装への表示を対象としており、ECサイトにおける表示については規定がない状況ですが、今後、何らかのルール作りがなされることが予測されます。
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◆消費者庁 令和3年度予算・機構定員要求について
(消費者庁:令和2年9月)
https://www.caa.go.jp/policies/budget/assets/policies_budget_200930_0001.pdf
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≪関連記事≫
・これからの食品表示におけるWeb活用の可能性
(「食品表示の全体像に関する報告書」消費者委員会 2019年8月9日)
・食品のネット購入時に義務表示事項確認する人は9割!情報を探して確認できなかった場合、76%がそのサイトで購⼊せず
(消費者庁 平成28年8月)
・困難な食品ネット販売における義務表⽰情報掲載の環境整備
(消費者庁 平成28年9月)
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