日健栄協 機能性表示食品広告審査会、約2割の商品に違反のおそれ。届出表示の切り出し表現、エビデンスの妥当性、審査されず(日健栄協 第6回機能性表示食品広告審査会)

2015 年の制度施行以来、届出件数が8000件を超えるまでに拡大を続ける機能性表示食品市場ですが、製品性能および効果に関わる表示の適正管理が問われています。

3月1日に公表された、消費者庁による令和4年度の保健機能食品(特別用途食品、特定保健用食品、機能性表示食品)の栄養成分、関与成分、機能性関与成分に関する買上調査では、機能性表示食品2品について、分析方法や品質管理上の問題が判明し、食品表示法違反の疑いが報告されています。

・令和4年度保健機能食品の買上調査、機能性表示食品2品に食品表示法違反の疑い。今後の規制動向は?

一方、機能性表示食品の広告表現に関しては、(公財) 日本健康・栄養食品協会(日健栄協)が3月12日に、2023年に実施した第6回広告審査会の結果を公表しました。
本審査会は、2018年度より機能性表示食品の広告の適正化と向上を図ることを目的として「機能性表示食品広告審査会」(※1)を年1回開催しています。
第6回審査会の審査では、審査対象となった41商品中8商品に違反のおそれが指摘されています。
審査対象広告は企業に素材提供を依頼し、以下の審査指針に基づき、当該機能性表示食品の「届出表示」及び審査指針との適合性の観点から審査しています。

(※1)
————————————–
機能性表示食品広告審査会の設置について
http://www.jhnfa.org/k11-1.pdf
機能性表示食品広告審査会 審査結果
(公益財団法人 日本健康・栄養食品協会)
https://www.jhnfa.org/kinou11.html
————————————–

【審査指針】
・健康増進法等の関連法規
・「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(健食留意事項)(※2)
・「機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保等
関する指針」(事後チェック指針)(※3)
・「『機能性表示食品』適正広告自主基準」(適正広告自主基準)(※4)

(※2)
健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について
(令和4年12月5日一部改定 消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/assets/representation_cms214_221205_01.pdf
(※3)
「機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保等に関する指針」(事後チェック指針)の策定について
(2020年3月24日 消費者庁)https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/about_foods_with_function_claims/pdf/about_foods_with_function_claims_200324_0001.pdf
(※4)
「『機能性表示食品』適正広告自主基準」
第1版:平成28年(2016年)4月25日 第2版:令和5年(2023年) 6月 5日
((一社)健康食品産業協議会 (公財)日本通信販売協会)
https://jaohfa.com/wp/wp-content/uploads/news/%E3%80%8C%E6%A9%9F%E8%83%BD%E6%80%A7%E8%A1%A8%E7%A4%BA%E9%A3%9F%E5%93%81%E3%80%8D%E9%81%A9%E6%AD%A3%E5%BA%83%E5%91%8A%E8%87%AA%E4%B8%BB%E5%9F%BA%E6%BA%96%E7%AC%AC2%E7%89%88%E6%96%B0%E6%97%A7%E6%AF%94%E8%BC%83%E8%A1%A8230605.pdf

審査委員会は、外部専門家(第三者委員)4名と協会会員企業のメンバーで構成された広告部会の代表(企業委員)3 名で構成されています。
第6回広告審査会の審査内容と機能性表示食品をめぐる業界自主規制、法規制動向について考察します。


「機能性表示食品広告審査会」 結果報告

【日時】
2023年12月25日(月) 13時00分~16時30分
【審査対象広告】
審査件数:39 件(内訳)動画 19 件、新聞等8件、Web (LP) 12 件
対象期間:2023 年3月1日~6月 30 日(4ヶ月間)
収集方法:企業に素材提供を依頼
【審査基準】
A 判定
・ 健康増進法等に抵触するもの、もしくは抵触するおそれのあるもの
・ 「事後チェック指針」に著しく抵触(*)するもの
・ 「健食留意事項」に著しく抵触(*)するもの
・ 虚偽、機能性表示食品の届出範囲を超える表現など「適正広告自主基準」に著しく抵触(*)するもの
(*)著しく抵触:
・ 1つの広告の中に抵触する箇所が複数ある。
・ “疾病の治療に適している”、”病者に適している”など。
B 判定
・ 「事後チェック指針」に抵触するもの
・ 「健食留意事項」に抵触するもの
・ 「適正広告自主基準」に抵触するもの
C 判定
・ 「事後チェック指針」に抵触するおそれのあるもの
・ 「健食留意事項」に抵触するおそれのあるもの
・ 「適正広告自主基準」に抵触するおそれのあるもの
・ 消費者に誤認を与えるおそれのあるもの
【審査結果】
動画(VD):19件中「B」判定(1件)、「C」判定(2件)
新聞等(NP):8件中すべて問題なし
Web(LP):12件中「B」判定(1件)「C」判定(5件)
会社数と商品数:「A」判定(0社0商品)「B」判定(2社2商品)「C」判定(5社8商品)

「B」判定:2件
届出表示の範囲を超えた機能を誤認させる表現
製品自体に機能があると誤認させる表現
「C」判定:7件
成分ではなく製品自体の機能と誤認させるおそれのある表現
届出表示の範囲を逸脱した機能を暗示させるおそれのある表現
公的な統計データの意味を誤認させるおそれのある表現
機能性関与成分以外の成分に効果効能があると誤認させるおそれのある表現
将来の疾病を予防できると誤認させるおそれのある表現
事実とは異なる印象を与えるおそれのある「日本初」や「〇〇部門1位」の表現
対象者の範囲を誤認させるおそれのある表現

届出表示の切り出し表現、エビデンスの妥当性、審査されず

本審査会の審査指針は、2021年実施の第4回の審査から、2020年4月1日より運用開始された事後チェック指針が加わりました。
業界自主ルールである「適正広告自主基準」については、2016年4月の公表から7年ぶりとなる2023年6月5日に、(第2版)を公表。届出表示を切り出して(一部省略・簡略化等)強調する表現や、研究レビューを根拠としていることの明示等に関する留意事項を追加し、会員に周知しました。
ただし、2023年12月実施の第6回の審査会では、基準改訂前に放映・出稿された広告が審査の対象に含まれていたため、届出表示の切り出し表現については判定を付けずに参考意見に留め、第7回審査会からは判定の対象とするとしています。

(以下、追記事項抜粋。)
〇届出表示の一部を切り出して強調することで、医薬品的な効果効能表現になる場合(認知機能、生活習慣病関連の領域等)
 例)届出表示の内容が「血圧が高めの方の血圧を下げる機能」に対し、「高めの方の血圧を下げる」と切り出して強調する場合など。
例えば、補完用語(サポート、助ける、役立つ等)を付記するなどで医薬品的な効果効能表現を回避することが出来る。

〇届出表示に対象者や機能性を得られる条件が限定されるにも関わらず、過大な切り出し表現を行う場合
 例)届出表示における対象者のBMIが高めである、もしくは機能性が運動とともになど限定的な条件下で発揮されるにも関わらず、当該条件に言及せず切り出して強調する場合など。

〇届出表示の一部を切り出して強調することで、届出された機能性の範囲を逸脱する場合
例)
 ①届出表示の内容が「認知機能の一部である記憶力(日常生活で見聞きした言葉を覚え、思い出す力)を維持する機能」と限定されているにもかかわらず、「認知機能維持!」と表示する場合など。
 ②届出表示の内容のうち作用機序にあたる表示のみを切り出して、あたかも科学的根拠に基づく機能性であるかのように表示する場合など。

ⅱ)届出表示の科学的根拠が機能性関与成分に関する研究レビューの場合、以下の点が広告上視認性を持って表示されるよう留意する必要がある。
○訴求する機能性が機能性関与成分の機能であることを明示する。
○届出表示の「報告されています」を省略して表示する場合は、研究レビューを根拠としていることを明示する。

「機能性表示食品」適正広告自主基準(第2版)

しかし、2023年6月30日のさくらフォレストの措置命令事案では、届出表示の一部省略による届出内容を超える表示が違反認定されています。違反認定された表示の表示期間は2022年4月~11月にかけてであり、自主基準の改定は間に合わなかったと考えられます。
業界自主ルールは、処分に先んじて事業者への注意を促すべきでしょう。

《参考》違反表示例(さくらフォレスト措置命令事案)
届出表示:
「本品には DHA・EPA、モノグルコシルヘスペリジン、オリーブ由来ヒドロキシチロソールが含まれます。DHA・EPAには中性脂肪を低下させる機能があることが、モノグルコシルヘスペリジンは血圧が高めの方の血圧を下げる機能があることが、オリーブ由来ヒドロキシチロソールは抗酸化作用を持ち、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の酸化を抑制させることが報告されています」

違反表示内容:
「高めの血圧を下げる機能性サプリ」、「血圧と中性脂肪を下げる LDLコレステロールを抑える」等と表示。

商品自体に機能があるとの根拠を有していないにもかかわらず、届出表示の一部を省略することにより、商品自体に機能性があるかのように表示。

また、今後の課題とされてきた届出表示のエビデンスの妥当性の確認については、本審査会でも未だ審査内容に盛り込まれていません。
しかし、さくらフォレスト事案では、届出表示の逸脱表示に加えて、届出表示そのものの裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いているとして不当表示認定されました。
本来であれば、事業者を違反リスクから守るという観点から、業界団体の自主規制は法規制より厳しいものであるべきで、緩いものであっては機能しません。機能性表示食品制度は、事業者の責任において機能性訴求を可能とするものである以上、業界としてしっかりとした対応が求められます。

機能性表示の科学的根拠にまで踏み込んだ行政処分が進む予想

消費者庁は、2023年9月29日に機能性表示食品の届出ガイドラインの一部改正を公表しています(※5)
ガイドライン改正では、機能性の主たる科学的根拠となっているシステマティックレビューの記載にあたって、国際的な指針である「PRISMA(プリズマ)声明2009」から「PRISMA声明(2020年)への準拠を求めています。
「PRISMA声明」は、SRを適切に実施するための指針で、検索式やバイアスリスク、研究の選択など、SRの質の向上に必要な27項目の報告を求めています。

主な改正内容
(1)システマティックレビューの「PRISMA声明(2020年)」への準拠
PRISMA 声明チェックリスト(2020年)の改正(各チェックリスト項目の変更)
PRISMA 声明抄録チェックリスト(2020年)の追加
(2)届出内容の責任の所在の明確化
「機能性表示食品の届出資料作成に当たってのチェックリスト」に、“届出内容について、届出者(法人にあってはその代表者)による確認を行っている。”の追加。
(3)その他の技術的事項
研究計画の事前登録については、「特定保健用食品の表示許可等について」の別添2「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」第2の3(2)イ(ア)a に準拠することとする。
最終製品を用いた臨床試験(ヒト試験)の結果を機能性表示食品の機能性に係る科学的根拠とする場合、登録した公開データベースの登録コードを記載すること。
「totality of evidence」の観点から確実性(又は信頼性)の評価も踏まえて表示しようとする機能性について総合的に肯定されるとの判断をするに至った合理的な理由を届出資料に具体的に記載すること。

施行期日、経過措置について
(1)システマティックレビューの「PRISMA声明(2020年)」への準拠については、①新規届出は令和7年4月1日以降、②既存の届出は「随時」とされています。
(2)届出内容の責任の所在の明確化と(3)その他の技術的事項についての経過期間は設けられていません。

(※5)
「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」及び「機能性表示食品に関する質疑応答集」を一部改正しました。(令和5年9月29日一部改正)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/notice

消費者庁は、今回の機能性表示食品の届出ガイドライン改正によりPRISMA2020年に準拠させ、事業者に研究レビューの更新の促進を図ろうとしています。今後、機能性表示の科学的根拠にまで踏み込んだ行政処分が進むことが予想されます。

≪関連記事≫

・日健栄協 機能性表示食品広告審査会、約15%の商品に違反のおそれ。届出ガイドライン改正で研究レビューの質向上へ (日健栄協 第4回・第5回機能性表示食品広告審査会)

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・機能性表示食品 届出表示のエビデンスの妥当性 「客観的評価機関」としての公正競争規約に期待

・機能性表示食品の事後チェック指針案のパブコメ開始! 指針に対する消費者庁の思惑は?(消費者庁 2020年1月16日:公表)

・機能性表示食品の広告規制の透明化。消費者庁「事後チェック指針」公表へ

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。