クレベリン「置き型」にも景表法措置命令。空間除菌効果表示の合理的根拠、消費者庁に軍配(消費者庁 2022年4月15日)

4月15日、大幸薬品(株)(大阪府吹田市)の空間除菌関連商品「クレベリン」置き型タイプ2商品に対して、追加の景品表示法措置命令が出されました。

クレベリンをめぐっては、今年1月20日に同シリーズ4商品(スティックタイプ2商品、スプレータイプ2商品)の菌・ウイルス除去効果表示に、「合理的な根拠」が認められないとして、不実証広告規制による優良誤認の措置命令が出されていました。

当初、「置き型」タイプ2商品を含む6商品が命令の対象となっていましたが、消費者庁の命令を不服として大幸製薬は差し止め訴訟を行い、「置き型」に対しては東京地裁では合理的根拠が認められ、執行が見送られていました。

消費者庁は1月20日に即時抗告していたところ、東京高裁が4月13日に地裁の決定を破棄し、仮差止めは認めないと決定したことを受けて、15日、「置き型」タイプ2商品についても合理的な根拠が認められないとして措置命令を行いました。
同社のいずれの商品表示も、措置命令の発出された時点において、誤認表示を継続していることから、不当表示の中止も命じています。

処分の概要と、物議をかもした空間除菌関連商品の菌・ウイルス除去効果の合理的根拠について考察します。

———-
大幸薬品株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について
(消費者庁 2022年4月15日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/028385/
———

(※)
不実証広告規制(7条2項)
消費者庁長官は、商品・サービスの内容(効果、性能)に関する表示についての優良誤認表示に該当するか否かを判断する必要がある場合に、期間を定めて、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。
⇒ 事業者が資料を提出しない場合又は提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合は、当該表示は不当表示とみなされる。


【対象商品】
「クレベリン 置き型 60g」
「クレベリン 置き型 150g」

【表示媒体・表示期間】
商品パッケージ 2018年9月13日~現在
「TAIKO」と称する自社ウェブサイト 2019年9月2日~2022年1月20日
テレビコマーシャル(地上波放送) 2018年12月17日~2021年2月26日
「YouTube」における動画広告 2018年10月17日~現在

【違反内容】
表示内容(商品パッケージ):
例えば、「空間に浮遊するウイルス・菌・ニオイを除去 ※」、「用途 空間のウイルス除去・除菌・消臭にご使用いただけます。」等と表示。

《打消し表示》
「◎ご利用環境により成分の広がりは異なります。」
「◎ウイルス・菌・カビ・ニオイのすべてを除去できるものではありません。
「※当社試験 閉鎖空間で二酸化塩素により特定の『浮遊ウイルス・浮遊菌』の除去を確認。」

あたかも、対象2商品をリビング等の室内に設置すれば、商品から発生する二酸化塩素の作用により、リビング等において、室内空間に浮遊するウイルスや菌が除去又は除菌される効果が得られるかのように示す表示をしている又は表示をしていた。

表示例: パッケージ(赤枠部分、打消し表示)

(消費者庁発表資料より抜粋)

表示内容(自社ウェブサイト):
例えば、「クレベリン置き型は空間だけではなく、物に付着したウイルスや菌も99.9%除去してくれる製品。※ 色々な人が出入りする玄関や家族が集まるリビング、寝室などお家の中の様々な所で使える衛生対策のベースとなる製品です。」等と表示。

《打消し表示》
「※大幸薬品調べ 閉鎖空間で二酸化塩素又はクレベリン置き型により特定の『浮遊ウイルス・浮遊菌』の除去を確認。」
「※大幸薬品調べ 6畳相当(25㎥)の閉鎖空間でクレベリン置き型製品により、浮遊・付着ウイルスの一種、浮遊・付着菌の一種を180分間で99.9%除去できる事を確認。
「※全てのウイルス・菌を除去できるものではありません。」
「※ご利用環境により、成分の広がりは異なります。」

あたかも、対象2商品をリビング等の室内に設置すれば、商品から発生する二酸化塩素の作用により、リビング等において、室内空間に浮遊するウイルスや菌が99.9%除去又は除菌される効果が得られるかのように示す表示をしている又は表示をしていた。

表示例: 自社ウェブサイト(赤枠部分、打消し表示)

(消費者庁発表資料より抜粋)

実際:
消費者庁は、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、同社から資料が提出された。しかし、当該資料は当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められなかった。
なお、「ご利用環境により成分の広がりは異なります。」、「ウイルス・菌・カビ・ニオイのすべてを除去できるものではありません。」、「※当社試験 閉鎖空間で二酸化塩素により特定の『浮遊ウイルス・浮遊菌』の除去を確認。」等の打消し表示は、一般消費者が表示から受ける当該商品の効果に関する認識を打ち消すものではない。

消費者庁は、「今般の社会情勢を鑑みて、消費者の空気中のウィルスに対して関心が高い状況にある中、パッケージにおいては99.9%除去」といった数値が示されていなくても、多くの消費者がウィルス除去効果を期待すると考えられる。」とコメント。

空間除菌製品の菌・ウイルス除去効果の合理的根拠に対する消費者庁の見解を高裁が認めた

消費者庁記者会見報道によると、提出された根拠資料の内容は、自社実験による以下のものでした。

(1)6畳相当(25㎥)の密閉された無人の試験室空間で、クレベリン置き型製品により、数時間かけてウイルスや菌が除去・除菌されたという試験
(2)居室空間でのクレベリンを使った場合の二酸化塩素濃度を測定したもの

表示の裏付けとなる合理的な根拠として認められない理由を以下のように説明しています。

(1)については、密閉の空間では効果が認められるかもしれないが、商品が使用される実生活空間とは異なり、リビング、寝室などで使用するとした表示とは対応していない。
(実生活における空間は人が動くことで埃も立つし、換気や湿度・温度、気候条件などがあり、密閉空間とは異なる)

(2)については、居室空間でクレベリンを使用し、一定の濃度が空気中に保たれていれば、二酸化塩素によって浮遊する菌やウィルスが除去されるという発想だと思われるが、自社実験であり、実験方法において条件など再現性を示す要件があいまいであった。
二酸化塩素のような薬剤を空間に噴霧してウイルスや菌を消毒、ないし除菌するという評価方法は日本でも海外でも、基本的に確立されていない。専門家に認められた試験方法、社会通念上妥当だと言われるような方法で行われたものではない。

これらの考え方が、高裁でも認められたということになります。
大幸薬品側は、差し止め訴訟を行っていた6商品すべてにおいて、主張が認められなかったこととなります。
今回の措置命令については「内容を精査した上で適切な対応を検討する」としています。

———————
「本日の景品表示法に基づく措置命令について」
(大幸薬品(株)2022年4月15日)
https://www.seirogan.co.jp/internal/uploads/arrival/pdf_663.pdf
———————

過去には、空間除菌用品の効果について「表示の裏付けとなる合理的な根拠」として認めない消費者庁の判断に対して、異を唱えつつも取消訴訟の事業判断を行わなかった企業と、 執行停止の申立てを行った企業の事例があります。
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また、新型コロナウイルスに対する予防効果を謳った「空間除菌剤」に関しては、首下げ型の製品や室内用のマイナスイオン発生器等の製品に対して複数の措置命令が出されています。

《参考記事》
・コロナ予防効果広告、GSDのマイナスイオン発生器に景表法措置命令(消費者庁 2021年3月31日)

・「滝風イオンメディック」のアップドラフトに景表法措置命令。ウイルス除去、空間除菌、疾病予防効果に優良誤認(消費者庁:2021年6月17日)

・「消費者庁公認」を謳った首下げ型の空間除菌製品。ドラッグストアチェーンのププレひまわりの店頭POP広告に景表法措置命令(消費者庁 2021年6月11日)

・今年度5社目。レッドスパイスの首下げ空間除菌製品に景表法措置命令。除菌効果への打消し表示認められず(消費者庁 2021年3月18日)

・Nature Link、萬祥、首下げ空間除菌製品2社の表示に景表法措置命令。分かれる両社の対応(消費者庁 2021年1月15日)

・Salute.Lab、首下げ空間除菌剤の表示に景表法措置命令。実証データは、訴求内容に適切に対応を(消費者庁 2020年12月22日)

通販事業者 東亜産業、首下げ空間除菌剤の表示に景表法措置命令。新型コロナウイルス関連商品に注意(消費者庁 2020年8月28日)

大幸製薬は、2014年3月の空間除菌製品17社に対しする一斉処分において、クレベリンシリーズの「携帯型」「据え置き型」商品の表示に対する措置命令を受けています。

・「空間除菌剤」17社、景表法措置命令。大幸薬品の新たな広告も問題視(消費者庁 平成26年 3月27日)

コロナ禍が続く中、たとえ「99.9%除去」といった数値が示されていなくても、違反認定されています。
除菌製品に対する景品表示法による厳しい取り締まりは今後も継続することが予想されます。

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。