通販広告実態調査、不適正広告事例解説(JADMA「2020年度 通販広告実態調査」)

前回の記事では(公社)日本通信販売協会(JADMA)が2020年度に実施した通信販売広告実態調査結果(※)より、通販広告の広告表現の適正性について全対傾向についてご紹介しました。

・通販広告実態調査 調査方法が大きく変更。一般消費者の目線重視(JADMA「2020年度 通販広告実態調査」)

今回は表示に問題のあった通販広告の個別事例を解説します。
調査報告書では、「一部不適正な表示が見られ、改善が必要な広告」、「関連法令に抵触するおそれの高い広告」について紹介されています。
ここでは特に気になる事例について紹介します。

問題広告事例
事例1:根拠のない運動効果と二重価格表示(健康運動器具)
事例2:根拠のない痩身効果と医師監修(サプリメント)
事例3:使用前後写真(アフィリエイト広告)と医師推奨(自社販売サイト)(シミ解消薬用美容ジェル)
事例4:置き換えダイエット実験と成分による効果訴求(ダイエット飲料)
事例5:CBDを含む製品の安全性訴求と定期購入(電子タバコ)

《関連法令に抵触するおそれの高い広告》
・景品表示法や薬機法などの関連法令に抵触するおそれの高い表示が散見される広告
・特定商取引法の記載事項や返品特約が不記載であり、消費者トラブルを招きかねない広告
・消費者の誤認を誘発する可能性が高い表示が散見される広告

事例1:根拠のない運動効果と二重価格表示(健康運動器具)

JADMAコメント:
・本商品の上に乗ることにより筋力を増強できるかのような訴求を行っており、本商品の上で10分間直立するだけでジョギング60分相当等の効果が得られるとしているが、その具体的な根拠が明らかでない。

・二重価格表記を行っており、通常価格69,800円を6万円引きの9,800円(税抜)と表記しているが、通常価格と割引価格の差があまりに過大であり、通常価格での販売実績が疑わしく、根拠のない二重価格表示に該当するおそれがある。(景表法違反のおそれ)

フィデスのコメント:
効能効果訴求を可能にするためには、表示の裏付けとなる客観的根拠データが不可欠です。根拠データの試験デザインについてアドバイスを行っています。

フィデス広告法務 コンサルティング
https://compliance-ad.jp/consulting/
二重価格表示を行う際の注意点を以下の記事でまとめています。
【景表法】二重価格表示の注意点~セール時の価格表示~

事例2:根拠のない痩身効果と医師監修(サプリメント)

JADMAコメント:
・健康食品であるが、本商品を摂取することにより腸にたまっている脂肪が短鎖脂肪酸や善玉菌の効果で便として排出され痩身効果が得られるなどと訴求しており、根拠が不明で誇大な広告である。(景表法・薬機法違反のおそれ)

・医師を起用して、製品の医薬品的効果や安全性を過度に強調しており、消費者の誤認を招きかねない。(薬機法違反のおそれ)

フィデスのコメント:
健康食品の広告においては「医師監修」といった訴求が即座に、薬機法に抵触するものではありませんが、製品の医薬品的効果や安全性を過度に強調する場合は問題となります。

事例3:使用前後写真(アフィリエイト広告)と医師推奨(自社販売サイト)(シミ解消薬用美容ジェル)

JADMAコメント:
・本商品は基礎化粧品であるが、主にアフィリエイト広告において、キャッチコピーや使用前後と思われる画像を通じて本商品を使うことでシミが消えることを訴求する表現が誇大な表現である。(景表法・薬機法違反のおそれ)

・医師が本商品を推奨しているかのような表現が本商品の安全性や効能を誇大に訴求しており、消費者の誤認を招きかねない。(薬機法違反のおそれ)

フィデスのコメント:
消費者庁は、今年の3月1日に、「シミが消える」とうたう化粧品・医薬部外品の虚偽・誇大なアフィリエイト広告に対して、消費者安全法(38条第1項)に基づく初の注意喚起を行っています。

・シミ消し化粧品のアフィリエイト広告に、初の消費者安全法による注意喚起(消費者庁 2021年3月1日)
・アフィリエイトサイトの不適切な表示の法的責任主体は?(日本広告審査機構 平成28年度)

事例4:置き換えダイエット実験と成分による効果訴求(ダイエット飲料)

JADMAコメント:
・アフィリエイト広告において、朝食を本商品に置き換えるだけのダイエット方法を紹介している。自社販売サイトでは、食事管理と適度な運動を行ったうえでの置き換えダイエットを実験方法としたグラフが掲載されているが、食事管理と運動を取り入れていることについての注記が分かりにくい。本商品の効果について消費者の誤認を招きかねない。

・本商品に含まれる特定の成分が油分を吸着するため有効性があるとうたっているが、実際に本商品を飲用した場合にも油分が体に吸収されなくなるかは不明であり、根拠のあいまいな表現である。身体の効果を保証しない旨の注記もわかりにくく、効果につき消費者の誤認を招きかねない。

フィデスのコメント:
商品のダイエット効果の表示の裏付けとなる客観的根拠として、置き換えダイエットの実験においては、食事管理と運動による効果と商品による効果とを区別して示す必要があります。

広告全体の印象から、成分が油分を吸着する表示についての身体の効果を保証しない旨の打消し表示は認められないおそれがあります。

事例5:CBDを含む製品の安全性訴求と定期購入(電子タバコ)

JADMAコメント:
・本商品は麻由来の成分であるCBDを含む製品であり、国際機関など公的機関の名称を使用して製品や成分の安全性や適法性を強調しているが、本商品に関する説明が不足し安全性が疑わしい。製品自体に関する事実をより具体的に記載し、安全性や適法性を丁寧に説明すべきである。

・500円での販売を強調しているが、実際は3回総額20,306円(税込)の購入が必要となる定期購入商品である。初回分価格の強調に比較して、定期購入であることの説明が非常に小さく表記されており、定期購入であることや諸条件の説明が不足している。(特商法違反のおそれ)

フィデスのコメント:
「定期購入」規制については、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」が2021年6月16日に公布され、通信販売の「詐欺的な定期購入商法」への対策として、 消費者利益の擁護増進のための規定が強化されました。

具体的には、定期購入を含めた通信販売で消費者を誤認させる表示などをした場合の厳罰化(12条6)、消費者が誤認して申し込みをした場合に取り消しを認める制度の創設(15条4)、通信販売の契約解除の妨害に当たる行為に対する罰則付きの禁止(13条2)などを盛り込んでいます。

広告コンプライアンスガイド>法規制と罰則
特定商取引法とは

今年に入ってからの通販定期購入に関する特商法での処分事案について、以下の記事でまとめています。
・詐欺的通販定期購入の事業者3社を統括 (株)LIBELLAに業務停止命令(9カ月)(消費者庁 2021年7月16日)
・東京都がLibeiroに業務停止命令(3カ月)。化粧品のネット通販定期購入に特商法での処分(消費者庁 2021年7月8日)
・ネット通販定期購入に立て続けの特商法での処分 (株)Super Beauty Laboに業務停止命令(3カ月)(消費者庁 2021年1月14日)

今回の通販広告実態調査では、「関連法令に抵触するおそれのある広告」の通販会社に対して、以下の対応を行うとしています。
• 調査結果及び改善要請書を通知し、広告表現の改善を依頼。 
• 併せてJADMA主催の広告講習会等への参加を依頼。
• 上記要請に対する協力対応がなく、違法性や悪意性があり、消費者にとって多大な不利益やトラブルの発生が予測できる広告表示を再度行っている場合には、JADMAから関係省庁などへ通報していく。

本調査結果については、消費者庁をはじめとした行政機関や関連団体、広告関連事業者に対しても情報共有され、業界の自主的な取り組みによる健全化を図っています。
行政処分のリスクを回避するうえでも、指摘事項を真摯な態度で受け止め、改善を図ることが賢明です。
正しい法律理解と消費者にわかりやすく信頼される広告制作を心がけましょう。


通信販売取引改善のための通販広告実態調査 (2020年度調査)
(公社)日本通信販売協会 広告適正化委員会 2021年7月
https://www.jadma.or.jp/pdf/2021/koukokujittai2020.pdf

<調査概要>
調査エリア:
九州地方(福岡県 · 佐賀県 · 長崎県 · 熊本県 · 大分県 · 宮崎県 · 鹿児島県 · 沖縄県)とし、各県の人口構成に応じて調査員を選定。
調査期間:
2021年2月8日(月)~14日(日)までの1週間
対象広告:
調査員が接触したすべての通信販売に関する広告とした。
消費生活アドバイザー等の資格を有する一般消費者の中から調査員を選定し、本調査に関するガイダンスを行ったうえで調査活動を開始した。

《関連記事》
・通販広告折込チラシ、不適正広告事例解説(JADMA「通販広告実態調査(新聞折込チラシ編)」)
2019年度:
2017年度:
2015年度:
2014年度:

======================================
◆広告法務コンサルティング・社員教育◆
販促・広報戦略、商品表示・広告チェック社内体制構築等、
社外専門家としてのノウハウとサポート
詳細はこちら
======================================

————————————————————-
◆本ブログをメルマガでまとめ読み!
本ブログの1週間分の情報を、ダイジェストでお届けしています。

登録はこちら

————————————————————-

関連記事

  1. 健康食品の品質管理と健食ビジネス戦略 (消費者庁 平成27年度:機能性…

  2. 求められる折込チラシの通信販売広告改善、商品不適切表示は約3割(JAD…

  3. 令和3年度、アフィリエイト広告の適正化に向けた本格的な法執行へ

  4. 令和3年度食品表示法違反「指導件数」は156件 加工食品では「原材料名…

  5. 増加する不公正な「No.1調査」を請け負う事業者に注意。「No.1表示…

  6. 平成27年の食品表示法指示件数、国は5件、都道府県は23件(食品表示法…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

最近の記事

2024年5月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。