「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」改訂。お試し価格を設定して定期購入契約を行う際の注意ポイント(経済産業省 平成29年6月)

経済産業省で、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(※)」の14回目の改訂が実施され、6月5日に公表されました。
——————
「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」を改訂しました
(経済産業省 平成29年6月5日)
http://www.meti.go.jp/press/2017/06/20170605001/20170605001.html
—————–

今回の主な改定内容は、以下の項目です。
———————-
1.取引環境の変化に応じた改訂
I-2-4自動継続条項と消費者契約法10条(新規)
I-7-7アプリマーケット事業者の法的責任(新規)
I-7-8シェアリングエコノミーと兼業・副業に関する就業規則(新規)
I-8オンライン懸賞企画の取扱い

2.法改正等に伴う改訂

消費者契約法の改正に伴う改訂
I-5インターネット通販における返品
I-7-4「ノークレーム・ノーリターン」特約の効力
III-3ライセンス契約中の不当条項
個人情報保護法の改正に伴う改訂
II-9-4eラーニングにおける他人の著作物の利用
III-11データ集合の利用行為に関する法的取扱い

3.その他(論点の分割、用語の統一、新規判例に伴う改訂等)
I-2-1ウェブサイトの利用規約の契約への組み入れと有効性(論点分割)
I-7-1ユーザー間取引に関するサービス運営事業者の責任(用語の統一)
I-7-6ユーザー間取引に関するサービス運営事業者に対する業規制(再掲載)
III-10使用機能、使用期間等が制限されたソフトウェア(体験版ソフトウェア、期間制限ソフトウェア等)の制限の解除方法を提供した場合の責任(新規判例に伴う改訂)
———————-

上記改訂の中で、特に健康食品や化粧品などでお試し価格を設定して定期購入契約を行う際に関連する、「自動継続条項と消費者契約法10条」のポイントと具体的な注意ポイントについて紹介します。

本件は、前回改訂時に実施したパブリックコメント手続きにおいて、定期購入契約に関するトラブルが増加しているとの意見が多数あり、検討が必要とされていました。
他方、平成28年消費者契約法改正により、無効となる消費者の利益を一方的に害する契約条項の例示として、「消費者の不作為をもって、当該消費者が新たな消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をしたものとみなす条項」が追加されました。
そのような背景を踏まえ、今回の準則改定では自動継続条項を含む具体的なモデル事例を題材とし、主として消費者契約法第10条の適用の可否について検討しています。

《参考記事》
消費者保護の更なる強化。特商法・消契法の改正案閣議決定

Ⅰ-2-4 自動継続条項と消費者契約法第10条等(新規項目)
消費者契約の条項が無効となる要件
第1要件と第2要件の両方の要件に該当する必要あり。
第1要件:
契約が成立するためには当事者双方の意思表示がなければならないという一般的な法理等と比べて、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する条項
(平成28年改正により、要件の例示として、「消費者の不作為をもって、当該消費者が新たな消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をしたものとみなす条項」が追加された)

第2要件:
信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの
(当該条項によって消費者が受ける不利益がどの程度のものか、契約締結時に当該条項の内容を十分に説明していたか等の事情も考慮し、消費者契約法の趣旨、目的に照らして判断される)

事例解説
例1)
サプリメントAのオンライン販売において、毎月指定した個数のサプリメントが1年間届けられる契約になっている。
このサイトに掲載されている利用規約の中には当初の契約期間1年を経過した後も、新たに連絡がない限り、引き続き1年間契約が更新されるとみなされるという条項がある。
この条項については、当初の申込みの画面において必ず表示され、これらの事項について同意する旨のチェックを入れると申込みが完了する仕組みとなっていた。

第1要件該当性:
例1の契約における自動継続条項は、消費者契約法第10条の第1要件に該当。
サプリメントAの継続的売買契約の契約期間が定められていることから、契約期間満了時に、購入者からの連絡がないという「消費者の不作為」をもって、購入者が新たな継続的売買契約の申込み又は承諾をしたものとみなしている。

第2要件該当性:
第2要件には該当せず、無効とはならない可能性が高い。(購入者は条項通りの義務を負う)
当初の申込み時点(契約締結時点)において、購入する契約が自動継続することが購入者にとって見やすい位置に必ず表示され(例えば、購入ボタンの直近に大きな文字で表示されている場合などは見やすい位置に表示されているといえよう。)、これに同意する旨のチェックを入れると申込みが完了する仕組みとなっている。

継続購入に対する消費者の予測可能性が担保されており、実質的に契約を更新しないという意思表示をする機会が与えられた内容と考えられる。
※自動継続を停止する連絡手段や期間が不合理に限定されている場合など、当該条項によって消費者が受ける不利益の程度が大きくならないように注意する。

《より適切な対応》
例えば、契約期間満了の1か月前に、ユーザーにメールが送信され、契約満了が近づいていること、連絡がない限り契約がさらに1年更新されることが記載され、更新しない場合の契約終了の手続きについて説明するウェブサイトへのリンクが記載されている。
(購入者が契約を更新しないという意思表示をする機会をさらに十分に保障している)

例2)
サプリメントBのオンライン販売サイトの申込み画面において、「今なら、お試し価格1ヶ月分(30個)100円でサプリメントBをご提供します。」との記載があり、消費者が購入を申し込んだ。
ところが、1 ヶ月後もサプリメントBが送付され、正規料金として 1 か月分 1 万円が請求された。購入者からの連絡がない限り、1 か月後に、正規料金である 1 万円でサプリメントBを継続的に購入する契約が新たに自動的に成立することになっていることは、申込み画面には記載がなく、サイト内に掲載された利用規約にのみ記載があった。
利用規約は、申込み手続きにおいては表示されず、申込み画面からもリンクされていないページに掲載されていた。ただし、申込み画面においては「詳細は当社の利用規約によるものとします」旨の記載があった。

第1要件該当性:
例2の契約における自動継続条項は、消費者契約法第10条の第1要件に該当。
サプリメントBの2回目以降の分について、購入者からの連絡がないという「消費者の不作為」をもって、購入者が新たな継続的売買契約の申込み又は承諾をしたものとみなしている。

第2要件該当性:
第2要件に該当するものとして無効となる可能性が高い。(購入者は条項通りの義務を負わない)
・当初の申込画面に、購入者からの連絡がない限り、1 か月後に正規料金である 1 万円でサプリメントBを継続的に購入する契約が自動的に成立することになっていることの説明がない。
・それらの事項を記載した利用規約はウェブサイト上には存在するものの、申込み画面からリンクされていないなど、購入者が利用規約の内容を容易に確認できる状態ではない。

サプリメントBを100円で購入した者が同じサプリメントを1万円で購入したとみなされることは購入者の通常の意思に沿うものとは考えられず、不要な物の購入を強いられる購入者が受ける不利益は大きいと考えられる。
実質的に契約を更新しないという意思表示をする機会が与えられないまま更新されてしまう内容となっていると考えられるため、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する可能性が高く、第2要件に該当し、当該条項は無効と判断されることが十分に考えられる。

その他の法的構成の可能性:
●契約が成立しているか
例えば、オンライン販売契約において、購入者が実際に購入を申し込んだ商品Xとは別の商品Yを同梱し、商品Yを継続的に購入することとみなす旨の書面を契約成立後に購入者に送付。購入者が商品Yを購入する意思がなかった場合。

商品Yについて販売する契約が成立していない。

●規約が有効に組入れられているか
例えば、ウェブサイト上に掲載された利用契約の中に自動継続条項を含ませる場合、以下の要件が必要。
① 購入者が利用規約の内容を事前に容易に確認できるように、利用規約がウェブサイトに掲載して適切に開示されていること
② 購入者が開示されている利用規約に従い契約を締結することに同意していること

上記事実がない場合、当該商品の売買に関しては合意があっても、自動継続条項を含む利用規約は契約の内容になっていない、というケースもあり得る。

●景品表示法5条2号(有利誤認)に該当する可能性
契約の拘束力に直接影響するものではないが、商品の単価について、お試し期間終了後の自動継続取引についても、無料又は著しく低額であるかのように表示されているような場合。

●錯誤・詐欺
一見契約が成立したかに見えるやり取りがなされたとしても、購入者が当該商品を購入するという意思を有しない場合:
・契約が不成立であるとの主張が可能
・錯誤(民法第95条本文)により契約が無効であるとの主張も可能
購入者が事業者の欺罔により商品購入の申込みを行ってしまったような場合(※):
購入者は、詐欺として民法第96条第1項の適用により、当該契約を取り消すことが可能
(※)
例えば、例2において、事業者が、サプリメントBについて、「体重があっという間に減る」といった実際には全く根拠のない効能を故意に記載し、購入者がこれを信じて購入したようなケースが想定される。

●民法第90条
例えば、事業者間取引である場合など、消費者契約法第10条の適用がないとされる場合であっても、自動継続条項により著しく高額な代金の支払義務を定めるなど契約条項の内容が公序良俗に反する場合には、民法第90条の適用により当該条項が無効となる。

【お試し価格を設定して定期購入契約を行う際の注意点】
・消費者が定期購入契約であることが予め分かるようにする。
・実質的に契約を更新しないという意思表示をする機会を与える。
・自動継続を停止する連絡手段や期間等を不合理に限定しない。
《対応例》
・当初の申込みの画面において、購入する契約が自動継続することを購入者にとって見やすい位置に必ず表示し(例えば、購入ボタンの直近に大きな文字で表示)、これに同意する旨のチェックを入れると申込み完了する仕組み。
・契約期間満了の1か月前に、ユーザーに更新確認メールを送信する。メールには、契約満了が近づいていること、連絡がない限り契約更新されること、更新しない場合の契約終了の手続きについて説明するウェブサイトへのリンクを記載する。

準則には以下の但し書きが記載されています。
「事例2のお試し価格での販売等については、例2の他にも様々なケースがあり得、個々のケースにおける契約の成否や有効性の判断のためには、各ケースの事実関係を詳細に検討する必要がある。」

消費者契約法の基本概念を理解して、消費者トラブルとならないよう対応を見直しましょう。

経産省では、準則について、電子商取引、情報財取引等をめぐる取引の実務、それに関する技術の動向、国際的なルール整備の状況に応じて、今後も柔軟に改訂していく予定。
改訂に向けた事業者からの意見を随時受け付けています。

【意見送付先】
住所:〒100-8901
東京都千代田区霞が関 1-3-1
経済産業省商務情報政策局情報経済課
FAX 番号:03-3501-6639
電子メールアドレス:ecip-rule@meti.go.jp
※件名は「電子商取引及び情報財取引等に関する準則についての意見」としてお送りください。

(※)
「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」とは
電子商取引、情報財取引等をめぐる現行法の解釈の指針となるもの。
電子商取引、情報財取引等に関する様々な法的問題点について、民法をはじめとする関係する法律がどのように適用されるのかを明らかにすることで、取引当事者の予見可能性を高め、取引の円滑化に資することを目的として、学識経験者、関係省庁、消費者、経済界などの協力を得て、経済産業省により平成14年3月に策定された。

≪関連記事≫
・「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」改訂。未成年者の「詐術」の判断基準具体化へ(経済産業省 平成28年6月)

======================================
◆広告法務コンサルティング・社員教育◆
販促・広報戦略、商品表示・広告チェック社内体制構築等、
社外専門家としてのノウハウとサポート
詳細はこちら
======================================

————————————————————-
◆本ブログをメルマガでまとめ読み!
本ブログの1週間分の情報を、ダイジェストでお届けしています。

登録はこちら

————————————————————-

関連記事

  1. 通販の定期購入契約で気を付けたい特商法の留意事項とは。購入手続き画面表…

  2. 待たれるガイドライン。「機能性表示食品制度」勉強会情報(日本通信販売協…

  3. 加工食品の新たな原料原産地表示 食品製造業者の約5割が営業・販売戦略に…

  4. 若者に多い、お試しのつもりが「定期購入」トラブル。適正表示方法をチェッ…

  5. クレジットカード悪質加盟店排除に向け国民生活センターと連携、加盟店管理…

  6. 景表法改正、広告表示の適正管理のための7つのポイン+1

コメント

最近の記事

2024年11月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。