口コミサイト情報削除、他人のサイトにリンクを張る行為の判例追加。「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」改訂。(経済産業省 平成27年4月)

経済産業省で、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(※)」の12回目の改訂が実施され、4月27日に公表されました。

今回、初めて正式に策定された「編集方針」では、「想定する読者」として、主として以下を対象と明記しています。
・事業者の法務部門・事業部門
・消費者相談窓口部門

今回の主な改定内容は、以下の4項目です。
———————-
【1】著作権法の改正に伴う修正
・電子出版物の再配信を行う義務

【2】新たな裁判例に伴う修正
・CGM (Consumer Generated Media) サービス提供事業者の違法情報媒介責任
・他人のホームページにリンクを張る場合の法律上の問題点

【3】論点の削除
・管轄合意条項の有効性
・仲裁合意条項の有効性
・薬事法・健康増進法による規制
・貸金業法等による規制
・インターネットを通じた個人情報の取得

【4】「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」に関する編集方針の策定
———————-

上記改訂の中で、特に物販ネット通販で気になる【2】の項目を中心に、【3】のポイントについて紹介します。

●他人のホームページにリンクを張る場合の法律上の問題点
考え方:
インターネット上において、会員等に限定することなく、無償で公開した情報を第三者が利用することは、著作権等の権利の侵害にならない限り、原則、自由である。
しかし、リンク先の情報を以下のように利用した場合、不法行為責任が問われる可能性がある。
ⅰ)不正に自らの利益を図る目的により利用した場合
ⅱ)リンク先に損害を加える目的により利用した場合

著作権侵害が行われているウェブサイトにリンクを張る行為が、著作権侵害を助長した場合に関連する裁判例について追記。(準則 ii.13 ページ脚注7)
追記内容:
著作権侵害が行われているウェブサイトにリンクを張る行為について、リンクを張る行為は公衆送信権侵害に当たらないと判示している。
損害賠償等請求事件(大阪地裁平成25年6月20日判決(判事2218号112頁))

公衆送信権侵害の幇助行為としての不法行為の成否が問題とされており、関連して、違法にアップロードされた漫画にリンクを張った者のブログでの発言を踏まえて、リンクを張った者が「ダウンロードサーバに本件漫画の電子ファイルをアップロードした者と同一人であると認めるのが相当であり、仮にそうでないとしても、少なくともアップロード者と共同して主体的に原告の公衆送信権を侵害したものである」と認定して、プロバイダ責任制限法上の発信者情報の開示を認めている。
発信者情報開示請求事件(東京地裁平成26年1月17日判決)

●CGM (Consumer Generated Media) サービス提供事業者の違法情報媒介責任
考え方:
ブログや口コミサイト、動画共有サイトなどのCGMサービスにおいて、名誉毀損や著作
権侵害など、他人の権利を侵害する疑いがある情報がアップロードされた場合、当該情報の流通による権利侵害が明白であり、かつ当該情報の削除が容易であるような場合には、情報を放置したことにより、権利侵害情報によって権利を侵害された者に対して不法行為責任(民法第709条、第719条)を負う可能性がある。

(損害賠償責任を負う可能性がある場合)
1)掲示板に明らかに他人の著作物のデッドコピーと分かるものが大量に書き込まれ、自身が著作権者であることを証明する者から適正な削除要請があったにもかかわらず、掲示板管理者である事業者が、これを合理的期間を超えて放置した場合
2)オークションサイトの評価欄に出品者の名誉を毀損する情報が書き込まれ、出品者からオークションサイトを運営する事業者に対して適正な削除要請があった結果、名誉毀損が明らかになったにもかかわらず、事業者がこれを放置した場合
3)口コミサイトで第三者から見ても明らかに虚偽であることが分かる誹謗中傷を書き込まれた飲食店から、削除要請があったにもかかわらず、サイト運営者がこれを長期間放置した場合
4)動画共有サイトにテレビ番組がアップロードされ、著作権者から削除要請があったにもかかわらず、サイト運営者がこれを長期間放置した場合
5)事業者自身が違法情報の発信者である場合

3)の口コミサイトに関する裁判例について追記。(準則 ii.2 ページ脚注3)
追記内容:
なお、飲食店等の口コミ情報を掲載するためのサイトを開設すること自体につき、掲載される飲食店等が掲載に反対していたとしても、当該飲食店等の名称についての人格的利益の侵害等に該当せず適法と解釈した裁判例がある。
ホームページ情報削除等請求事件(平成26年9月4日札幌地方裁判所)

●論点の削除
時間の経過や状況の変化等により、問題が不存在となった又は相対的な重要度が低下したと判断された以下の旧論点について、削除。

「薬事法・健康増進法による規制」
他に詳細なガイドラインが存在する。業法による広告規制のうち、これらだけを取り上げる合理的な理由がない。

「インターネットを通じた個人情報の取得」
内容が古くなっている。

経産省では、準則について、電子商取引、情報財取引等をめぐる取引の実務、それに関する技術の動向、国際的なルール整備の状況に応じて、今後も柔軟に改訂していく予定。
経済産業省では改訂に向けた事業者からの意見を随時受け付けています。

【意見送付先】
住所:〒100-8901
東京都千代田区霞が関 1-3-1
経済産業省商務情報政策局情報経済課
FAX 番号:03-3501-6639
電子メールアドレス:ecip-rule@meti.go.jp
※件名は「電子商取引及び情報財取引等に関する準則についての意見」としてお送りください。

(※)
「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」とは
電子商取引、情報財取引等をめぐる現行法の解釈の指針となるもの。
電子商取引、情報財取引等に関する様々な法的問題点について、民法をはじめとする関係する法律がどのように適用されるのかを明らかにすることで、取引当事者の予見可能性を高め、取引の円滑化に資することを目的として、学識経験者、関係省庁、消費者、経済界などの協力を得て、経済産業省により平成14年3月に策定された。

≪参考資料≫
電子商取引及び情報財取引等に関する準則
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ec/

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。