減少傾向の特商法処分件数。都道府県の執行力強化に向けて(消費者委員会 平成29年8月)

今回の気になるトピックは、「都道府県の特商法執行力強化」について。

今年12月に平成28年改正特商法の施行が予定さていますが、直近10年間で平成20年、同24年と3度の法改正が行われています。
その都度、悪質事業者への対応措置が様々な形で盛り込まれてきましたが、現状では、消費生活相談件数が大きく減少するような成果は出ていない模様です。
※20年改正では指定商品・指定役務制の廃止等、24年改正では対象とする取引類型に訪問購入を追加、28年改正では次々と法人を立ち上げて違反行為を行う事業者への対処等が盛り込まれた。

特商法の執行業務については、国だけでなく都道府県にもその権限が付与されていますが、ここ数年、特に都道府県による処分件数の減少が目立っています。
このような現状に対して、消費者委員会では8月、地方消費者行政における特商法の執行力を高めるための方策について調査し、課題の解決に向けた提言を行いました。

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消費者行政における執行力の充実に関する提言
 ~地方における特商法の執行力の充実に向けて~
(消費者委員会 2017年8月29日)
http://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2017/index.html#lst8
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《特商法執行の現状》
●横ばいが続く消費生活相談件数

全国の消費生活センター等に寄せられる、特商法の規制対象となる取引類型に関する消費生活相談件数は、ほぼ横ばいとなっており、中でも通販に関するものが最も多い状況が続いている。
(ただし、「アダルト情報サイト」や「オンラインゲーム」などのデジタルコンテンツ等、一般的な「通信販売」のイメージと乖離のあるものに関する相談を含む)
PIO-NET取引類型別相談件数(H28年度)

●減少する特商法執行件数。都道府県の減少顕著
特商法における国及び都道府県による行政処分の合計件数は、平成22年度をピークに減少を続けています。(平成22年度188件、平成28年度62件)
特に都道府県による処分件数が減少しており(平成22年度135件、平成28年度34件)
また、都道府県により執行件数にバラつきが見られる。
平成8年度~平成28年度処分件数累計、最多は東京都267件、次いで埼玉県139件、静岡県74件。
特商法執行件数(H28年度)

●執行業務の流れ

特商法における行政執行は、一般に、PIO-NET に蓄積されている消費生活相談情報や消費者等からの申出等を端緒として調査を開始。
消費者からの被害聴取、事業者に対する報告徴収・立入検査等の行政調査の結果、特商法に違反する行為があると認められる場合に、行政処分(業務改善の指示や業務停止命令)と事業者名の公表を行うという手順で実施される。


《特商法執行の課題》
・多くの都道府県において、消費者行政担当職員は複数の業務を兼務し、執行ノウハウの蓄積に苦慮している。
・悪質業者の手口が複雑化・巧妙化していること、違反認定のための証拠確保が困難、行政処分に対する訴訟リスクの高まりを視野に入れた対応等から、執行業務の困難さが増している。
・被害が複数の都道府県の区域にわたる事案について、都道府県と国のいずれが対処すべきかが必ずしも明確ではない。
(国による処分の効果は全国に及ぶのに対し、都道府県による処分の効果は当該都道府県の区域内に限られる)

消費者委員会が行った、有識者、関係行政機関及び都道府県からのヒアリングを含む調査審議の結果に基づく、課題の解決に向けた提言のポイントは以下のようなものです。

《執行体制についての課題への対応》
1)執行ノウハウの整備・共有

国の執行ノウハウ(法令解釈・調査手続・訴訟リスクへの対応)についてマニュアル又はデータベース化して整備し、国と都道府県で共有。また、こうした情報を含む実践的な研修を拡充する。

2)執行業務の特殊性・専門性を踏まえ、執行業務に携わる職員の地位の明確化
対外的にもその職権を明示する等の工夫を。

3)警察関係者等の専門性を有する非常勤職員の関与の拡大
執行業務について消費者聴取、立入検査等を効果的に実施する上で、犯罪捜査における被害者取調べ、被疑者取調べ、捜索差押えのノウハウを有する警察関係者との連携は極めて有益である。

4)官民連携による執行体制の充実、専門人材との連携
・消費者問題、特商法の専門的知見を有する弁護士を助言者として依頼し、調査から処分に至る各段階で必要に応じ助言を求める。
・事案に応じて、公認会計士、建築士等、専門人材との連携。
・適格消費者団体等との連携。不当な事業者情報・消費者被害情報の提供等。

《悪質事業者への対応》
1)消費生活センターの役割

・消費生活相談の現場において、法執行を念頭においた相談対応を行う。
・特商法の法律用語をPIO-NETの入力キーワードに取り込み、検索の利便性を向上。
・消費生活センターと執行部局との情報連携の仕組みの構築。

2)特商法執行ネットの充実
消費者庁、経済産業省、都道府県において迅速かつ効果的に共有を図る観点から、特商法違反の疑いのある事業者についての基礎情報や各機関の調査、執行状況の情報共有のためのネットワーク。

3) 関連先への資料提供要求権の活用
関連先(銀行口座を付与する金融機関、オフィス賃貸事業者、クレジット会社等)への資料提供要求権の具体的な活用方法等を都道府県に示す。

4)消費者からの情報収集
・行政機関は、消費者に対し、法令違反に当たる事例について具体的な情報提供を行い、消費生活相談窓口の積極的な利用を呼び掛ける。 悪質事業者に関連する情報の早期探知の観点から、SNS等インターネット上に存在する情報についても、幅広く収集し活用していく。

《国と都道府県の連携及び役割分担》
1)近隣都道府県及び国との連携

国や警察が参加する、連絡会議の開催頻度を増やし、緊密な情報交換、複数都道府県による同時処分、処分の効果が全国に及ぶ国との共同処分を検討する。

2)被害が広域に及ぶ事案における役割分担
消費者庁による国と都道府県の役割分担についての基本的な考え方の明示。

3)都道府県の立入検査等への支援
国が立入検査を行う際に、対象事業所の存する都道府県に協力を要請し、ノウハウの提供・経験の蓄積を図る。

4)国と地方の処分権限の考え方の周知
国と都道府県の両方が特商法に基づく処分権限を持つことの考え方の周知。
(事業者から、二重行政ではないかとの指摘あり)

本提言においては、直ちに対応を求めるものではないが、今後、重要な論点になり得る点についても触れられています。
消費者被害を防止し、健全な事業活動を促進するために、法制度の整備と併せて適切な法執行に向けた取り組みが求められています。

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。