広告表示について、常に消費者目線を意識することが、表示違反のリスクマネジメントや顧客対応品質向上のためには極めて重要です。
国民生活センター「消費者トラブルメール箱」2020年度の報告書より、「追跡調査を実施した主な事案」を取り上げ、解説する3回シリーズの第3回目は、以下の3つのケースです。
《有利誤認の可能性のある表示》
(5)返金保証を受ける条件が分かりにくい広告サイト
《利用ルール・退会手続きがわかりにくい表示》
(6)会員退会手続き方法が分かりづらい携帯電話用壁紙サイト
(7)受取期間を過ぎた商品を廃棄処分する食材配送サービス業者
第1回目、第2回目のケースについては、以下の記事をご覧ください。
・法令違反を消費者目線でチェック(1)「食品広告の原産国表示」「赤外線温度計測器」(国民生活センター「消費者トラブルメール箱」2020年度報告書)
・法令違反を消費者目線でチェック(2)「ペットフード原料表示」「LEDクリップライト電池容量」(国民生活センター「消費者トラブルメール箱」2020年度報告書)
(5)返金保証を受ける条件が分かりにくい広告サイト
●寄せられた情報
「歯を白くする、効果を期待するには3カ月間継続する必要があるなどとうたう全額返金保証付きの歯磨き粉3本の定期購入を申し込んだ。その後、1カ月使っても効果がなかったため返金を申し出たところ、使用済みの空容器がなければ返金不可と回答された。普通は使用済みの空容器は捨ててしまうし、それがなければ残りの分も返金しないという対応は問題ではないか。」
●調査結果
当該サイトは何度もページをスクロールしないと最下部までたどりつけない構成で、その上部と中央部の2カ所に全額返金保証の記載があるが、その付近には返金保証の条件の記載はない。
最下部に「全額返金保証制度について」というリンクが小さな文字で設けられ、そのリンク先にのみ、返金保証の条件として「①保証書、②返金保証対象の商品全て(開封済み可)、③返金保証対象商品のお買い上げ明細書全て」が必要である旨が記載されていた。
大きく強調して表示している「全額返金保証」に条件がある場合は、その条件について「返金保証」という強調表示の近くに、消費者が認識し得るように表示する必要があり、景品表示法上の有利誤認にあたる可能性がある。
国センからの依頼:
表示の改善を依頼した結果、後日、当該サイトの上部と中央部にある全額返金保証制度の広告箇所に、返金時の必要事項が追記されたことを確認。
●フィデスの視点
景品表示法の執行においては、「打消し表示」に関する報告書で明らかにした考え方に基づく事実認定を行っています。
「打消し表示に関する実態調査報告書」(平成29年7月公表)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_180921_0001.pdf
【打ち消し表示の注意点】
●打ち消し表示は強調表示の近くに配置する
その強調表示に関連する表示内容であることを消費者に認識してもらうため、打ち消し表示は、強調表示に近接した位置に併記します。
●強調表示と比べて文字の大きさが小さすぎないように
打消し表示と強調表示は「対」となりますので、打ち消し表示の文字の大きさが強調表示と比べて著しく小さく、消費者が見落とす可能性が高まると不当表示とみなされる可能性があります。
●文字と背景色のコントラストに注意する
背景色と打消し表示の文字色とが対照的でない配色(例:明るい水色・オレンジ色・黄色の背景に、白文字で打消し表示)は避けましょう。
また、表示全体の中で打消し表示が埋没しないよう、打消し表示以外の部分と、打消し表示の部分とで文字の色を変える、下線を引くなどの工夫も有効です。
●文字間隔、行間余白、一行当たりの文字数にも配慮
例え、文字の大きさに配慮したとしても、一行中に多くの文字が羅列していたり、行間が狭かったりすると、読みにくいものです。消費者に読みやすい余白や一行当たりの文字数などにも配慮しましょう。
●打ち消し表示内容をリンク先ページに表示する場合は、リンクの文字や画像にも配慮を
リンク文字は「追加情報」といった抽象的な文言ではなく、リンク先に強調表示の例外条件や制約条件が表示されていることが、消費者が直感的に分るような文言にします。
また、消費者がリンクを示す表示を見落とさないよう、文字の大きさに配慮すると共に、関連情報の近くに配置するようにしましょう。
(6)会員退会手続き方法が分かりづらい携帯電話用壁紙サイト
●寄せられた情報
「携帯電話用の壁紙サイトに登録をした後、退会手続きをしたが、退会できておらず、毎月の課金が生じている。内容証明付きの信書で退会を申し出ようとしたが『特定商取引法に基づく表示』ページには運営会社名のみ表示があり、住所の記載がなく、退会できない。」
●調査結果
①特定商取引法に違反のおそれ
「特定商取引法に基づく表示」ページに会社名および連絡先電話番号の表示はあるものの、住所や代表者(責任者)名の記載は確認できず。
②退会手続き方法について分かりづらい表示
FAQ より退会方法を確認。「ログイン後に『会員登録解除』から手続きを行う」旨の記載あり。しかし、トップ画面には「退会」と表記されたボタンはあるものの「会員登録解除」とは記載されておらず、分かりづらい。
③退会手続きを進める過程で消費者に退会ができたものと誤解させるおそれがある作り
退会手続きについて利用規約の同意欄に気づかずチェックをしなかった場合、「解約処理」には進むことはできない一方で、アンケート画面に遷移し、これに回答すると、受領完了および退会によりポイントが失効する旨のメッセージが表示される。このメッセージは、退会手続きが完了したと誤解する原因のひとつ。
国センからの依頼:
・特定商取引法に定める事項である住所、代表者名の記載を行うこと
・退会手続き方法についてサイト内での表記を統一すること
・アンケートに回答しただけでは退会完了していないことが分かるように明記すること、全体的に退会完了までの手続きを分かりやすく進められるよう、サイトのページ構成の改善
求めに応じて事業者は改善対応をおこなったものの、「退会します」との記載がある最終画面は表示されても、ログインをした状態でなければ【退会】ボタンが表示されないものだった。
消費者の画面遷移次第ではログインしないまま当ページにて手続きを行う可能性も十分にあり、退会手続きが終了したか、退会手続きをする際にログインが必要なのかが分かりづらいため、退会手続き画面のメッセージについて再考を促した。
後日、退会手続きの最終画面において、ログインしていないと退会ボタンが表示されない旨の記載と退会ボタンが追加された。
●フィデスの視点
本ケースは定期購入契約には当たらないと考えられますが、契約解除の妨害に当たる行為には注意が必要です。
2021年6月16日に公布された「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」では、通信販売の「詐欺的な定期購入商法」への対策として、通信販売の契約解除の妨害に当たる行為に対して罰則付きの禁止が盛り込まれています。
広告コンプライアンスガイド>法規制と罰則
特定商取引法とは
(7)受取期間を過ぎた商品を廃棄処分する食材配送サービス業者
●寄せられた情報
「食材配送サービス業者のアプリを利用し、野菜などの商品を購入したが、受取時間を経過したことを理由に購入した商品がすべて廃棄された。事業者に問い合わせ、商品を受け取れる期限が決まっていたことが分かったが、期限も短く、購入した商品が勝手に廃棄されることに納得できない。」
●調査結果
事業者が行っているのは、アプリで注文された食材(生鮮食品)を届けるサービス。
購入者が当日の注文締め切り時間までに注文をすると、配送車が販売店から食材を調達し、受取場所(購入者が指定した宅配ボックス)に届け、購入者は受取期限として定められた時間内に、自分の選んだ宅配ボックスで受け取ることができる、というもの。
事業者の対応:
サイトの利用規約に営業時間中に販売商品を引き取らなかった場合には、購入者は、当該商品に関して有する権利を失うこと、引き取らなかった場合においても当該商品に関する対価の支払い義務は消滅しないことを定めた条項あり。
商品の受け取り可能時間は決済直前の画面に記載があり、受取時間を過ぎると商品を廃棄する旨はサイトの FAQ に記載している。
国センからの依頼:
当該サービスは生鮮食品の配送であること、販売者の住所と異なる宅配ボックスに配送すること等から、商品の廃棄自体はやむを得ないと思われる。
廃棄については、商品の注文から受け取りまでの間に必ずしも消費者が確認できるような記載になっていないことから、「商品の受取時間を過ぎた場合は破棄される旨」を契約前に確認する画面や、リマインドの通知画面に表示するなどして、消費者が見落とさないよう、表示を改善するよう事業者に依頼。
後日、事業者から、決済確認画面とリマインドの通知画面に商品廃棄の旨を追記したとの連絡あり。
●フィデスの視点
事業者の利用規約の条項は、消費者契約法上、無効となる消費者の利益を一方的に害する契約条項には抵触する可能性は低いと考えられます。
ただ、利用者がルールを見落とし、うっかり受け取りそびれることは十分考えられます。利用者のトラブル防止の観点からも、運用ルールについては、適時適切な形での情報提供が求められます。見落とされないように配慮することでCX(顧客体験)向上につながります。
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解約、キャンセル、返品・返金、退会といった消費者にとって重要と考えられる情報について、正しい情報であることはもとより、消費者目線に立って混乱や誤解を招かないように、その提供方法に配慮することが重要です。
必ずしも広告関連法規に抵触する可能性がある場合でなくても、顧客とのトラブルはできるだけ回避したいものです。
お客様からの問い合わせやクレーム情報を収集、分析することで問題を早期発見し、大きなトラブル予防、コンプライアンスリスク低減につなげていきましょう。
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消費者トラブルメール箱
http://www.kokusen.go.jp/t_box/t_box.html
「消費者トラブルメール箱」2020年度のまとめ(2021年10月21日 独立行政法人国民生活センター)
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20211021_1.html
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≪関連記事≫
・消費者目線と事業者目線の違い。「消費者トラブルメール箱」2015年度の報告書より
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