法令違反を消費者目線でチェック(1)「食品広告の原産国表示」「赤外線温度計測器」(国民生活センター「消費者トラブルメール箱」2020年度報告書)

広告表示について、常に消費者目線を意識することが、表示違反のリスクマネジメントや顧客対応品質向上のためには極めて重要です。
国民生活センターでは、消費者被害実態把握と被害発生防止に役立てるため、消費者トラブルの情報収集を目的とした「消費者トラブルメール箱」を2002年4月より開設しています。

2020年度に寄せられた情報の件数(受信件数)は12,081件で、2019年度の10,198件より約2000件増加しています。

また、寄せられた情報について、被害拡大が考えられるものや、新商品、新たな手口にまつわるものに対しては情報提供者や事業者への「追跡調査」を実施し、改善依頼を行っています。
2020年度の報告書では「追跡調査を実施した主な事案」として、以下のケースが紹介されています。いずれもネット通販サイトの表示に関連している点が特徴的となっています。

《原産地誤認の可能性のある表示》
(1)国産のりを使っているかのような原産国表示の韓国のり

《薬機法に抵触の可能性のある表示》
(2)管理医療機器ではないのに体温計としての使用がうたわれた赤外線温度計測器

《優良誤認の可能性のある表示》
(3)「マンダイ」を「たい」として販売するペットフードの通販会社
(4)販売サイトに表示されている電池容量の記載が事実と異なるLEDクリップライト

《有利誤認の可能性のある表示》
(5)返金保証を受ける条件が分かりにくい広告サイト

《利用ルール・退会手続きがわかりにくい表示》
(6)会員退会手続き方法が分かりづらい携帯電話用壁紙サイト
(7)受取期間を過ぎた商品を廃棄処分する食材配送サービス業者

本ブログでは、3回に分けて各ケースを取り上げ、解説します。

第1回目は、以下の2つのケースです。

《原産地誤認の可能性のある表示》
(1)国産のりを使っているかのような原産国表示の韓国のり

《薬機法に抵触の可能性のある表示》
(2)管理医療機器ではないのに体温計としての使用がうたわれた赤外線温度計測器

(1)国産のりを使っているかのような原産国表示の韓国のり
●寄せられた情報
「通販サイトの広告で、通常の韓国のりではなく、キズのりを集めて味付けした日本ののりの韓国のりバージョンである旨が記載されていたセール品ののりを、国産のりの韓国風味付けのりと思い購入したら、届いたのりは韓国産だった。サイトのパッケージ写真も韓国産の記載のある原材料部分を写さないようにしているように感じる。国産のりとの記載はないが優良誤認を招く表示ではないか。」

●調査結果
当該広告には、のりの産地表示はなく、日本産ののりだと消費者が認識するおそれあり。これは、食品表示法による食品表示基準第9条第1項第6号に定められた、容器包装に表示が禁じられている事項「産地名を示す表示であって、産地名の意味を誤認させるような用語」に照らして問題あり。
また、当該事業者の写真には、製造者の広告の写真にある原材料名枠内の「韓国産」を示す部分が含まれていなかった。

国センからの依頼:
当該広告は消費者が韓国産であるのりを日本産と誤認するおそれがある旨を伝えたところ「当該商品は韓国産ののりを日本国内で加工した商品である。誤解を生む可能性があるので広告の表示を変更する」との回答があり、後日、当該商品の広告から「日本ののりの」という記述が削除され、韓国産である旨が追記されたことを確認。

●フィデスの視点
原料や産地の不当表示では、食品表示法、不正競争防止法だけでなく、景品表示法に抵触する可能性もあります。本事案のように、「韓国産のり」を「国産のり」のように誤認させる表示に類似したケースとして、2016年3月10日に、熊本県の茶等の製造及び販売業者(株)村田園に対する景品表示法(優良誤認)の措置命令があります。

販売する茶のパッケージ表示に茶葉の大半は外国産なのに国産と思わせるパッケージにしたのは、優良誤認に当たるとした処分です。景表法では、一般消費者が広告表記から受ける印象・認識と実際の内容が食い違わない=優良誤認を起こさない、ということがポイントとなります。

また、食品表示法においては、国内で製造又は加工された全ての加工食品(輸入品以外の全ての加工食品)に、原材料の原産地を表示するよう義務づける食品表示基準の改正が、2017年9月に施行され、2022年4月に完全施行となる予定です。

《参考情報》
・「村田園万能茶」に景表法措置命令。パッケージ表示と原料原産国の優良誤認
(消費者庁 平成28年3月10日)

・令和2年度食品表示法違反「指導件数」は147件 加工食品では「原材料名の誤表示・欠落」が46.9%

(2)管理医療機器ではないのに体温計としての使用がうたわれた赤外線温度計測器
●寄せられた情報
「インターネット上の赤外線温度計測器の製品情報で新型コロナ対策をうたったものがある。この商品は、家電量販店の通販サイトでも体温計として販売されている。医療機器認証番号を取得していない機器について、『新型コロナ予防』等の医療機器と認識させるような広告、販売を行うのは問題ではないか。」

●調査結果
当該商品は、赤外線センサーを使って物体の表面温度を計測するという機器であったが、広告サイトには「新型コロナ予防」の他、“体温”や“人間の表面の温度”が計測できる旨の表示が見られ、体温計としての使用をイメージさせる一方、医療機器である旨の表示は確認できなかった。家電量販店の通販サイトでも、同様の表示を含む広告が「体温計」カテゴリ内で掲載されていた。

体温計は、薬機法により、人体へのリスクに応じて「管理医療機器」(クラスⅡ)または「一般医療機器」(クラスⅠ)に分類され、皮膚赤外線体温計は管理医療機器に該当する。
人の体温を測ることを目的とした場合、赤外線温度計測器であっても医療機器に当たる、また「新型コロナ予防」などという表示はいずれも医療目的が想定されることから、場合によっては指導対象になる。

事業者の説明:
「当該商品は、人や物の表面温度を測ることを目的としており、医療機器ではない。また、家電量販店に呈しては、販売は依頼しているが、広告は各販売会社に任せている」との回答。

国センからの依頼:
事業者のサイトにおける当該広告の表示について、医療目的と受け取れる表現についての改善を求めるとともに、メーカーとして、体温計として販売されている家電量販店の通販サイトの広告についても同様の対応を求めた。

後日、事業者サイトの広告表示から当該表示が削除されていることおよび「本商品は体温計ではない」旨の表示が追記されたことを確認。また、家電量販店の通販サイトの広告においても、「新型コロナ予防」等の表現が削除され、掲載カテゴリも「体温計」から「温度計」に変更されていることが確認。

●フィデスの視点
コロナ禍において、昨年度より新型コロナウィルス対策関連商品の表示に対する監視、法執行が強まっています。引き続き注意が必要です。

《参考情報》
・令和2年度景表法違反、国及び都道府県の措置命令件数は41件。「保健衛生品」が半数以上(消費者庁 2021年7月)
・コロナ予防効果の不当表示対応に注力 令和2年度の消費者庁の広告表示適正化への取組 (消費者庁 2021年7月)

本ケースは国民生活センターが「追跡調査を実施した事案」ですので、明らかに広告関連法規に抵触する可能性のあるものとなっています。
自社においても、お客様からの問い合わせやクレーム情報を収集、分析することで問題を早期発見し、大きなトラブル予防、コンプライアンスリスク低減につなげていきましょう。

次回は、以下のケースを取り上げます。
《優良誤認の可能性のある表示》
(3)「マンダイ」を「たい」として販売するペットフードの通販会社
(4)販売サイトに表示されている電池容量の記載が事実と異なるLEDクリップライト

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消費者トラブルメール箱
http://www.kokusen.go.jp/t_box/t_box.html

「消費者トラブルメール箱」2020年度のまとめ(2021年10月21日 独立行政法人国民生活センター)
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20211021_1.html
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≪関連記事≫
・消費者目線と事業者目線の違い。「消費者トラブルメール箱」2015年度の報告書より

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。