令和4年度保健機能食品の買上調査、機能性表示食品2品に食品表示法違反の疑い。今後の規制動向は?

令和4年度の保健機能食品(特別用途食品、特定保健用食品、機能性表示食品)の栄養成分、関与成分、機能性関与成分に関する買上調査の結果を、消費者庁が公表しました。(※)
今回の調査では、機能性表示食品2品について、分析方法や品質管理上の問題が判明し、食品表示法違反の疑いが報告されています。

(※)
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「令和4年度特別用途食品(特定保健食品を除く。)に係る栄養成分等、特定保健用食品に係る関与成分及び機能性表示食品に係る機能性関与成分に関する検証事業(買上調査)」の調査結果について(消費者庁 2024年3月1日)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/research/2022/assets/food_labeling_cms201_240301_01.pdf

過去の食品表示に関する調査事業等について
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/research/
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今回は、買上調査の品目に機能性表示食品が加わった平成29年度以降の調査概況と、問題となった違反事案および、行政の取り組みについて解説します。


これまでの保健機能食品の買上調査概況

調査目的:
販売されている製品中の成分の含有量の分析・検証を行うことを通じ、申請等を行う事業者の品質管理の質向上を図るとともに適正な表示による消費者への情報提供がなされることを目的とする。

調査方法:
・市場に流通している食品を買い上げ、許可等申請又は届出の際に提出された資料に記載された分析方法にのっとって分析試験を実施。(原則1商品につき2ロット)
・機能性表示食品の機能性関与成分、特定保健用食品の関与成分、特別用途食品の栄養成分の含有量を分析し、その結果に基づき対象商品に表示されている成分の表示値の妥当性を評価。(利益相反を排除するため、どの商品を分析するのかブラインドして分析)
・1機関での分析結果で、含有量が表示値を下回る等、表示値の範囲外の結果が得られた場合は、別の機関で再分析。

調査対象集計結果:

※特別用途食品、特定保健用食品及び機能性表示食品で重複する事業者があるため、内訳の社数の合計と一致しない。

関与成分量調査結果:
平成29年度:
機能性表示食品1品目、特定保健用食品1品目が、関与成分等が申請等資料の記載どおり適切に含有されていなかった。
機能性表示食品は、生鮮食品又は単一の農林水産物のみが原材料である加工食品であり、表示値を下回る可能性がある旨の表示あり。 (※)
特定保健用食品は、既に製造・販売を終了。
※「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」において、含有量にばらつきやすい生鮮食品及び単一の農林水産物のみが原材料である加工食品の場合、ばらつきを生じさせない対策を採ることが前提となるが、どうしても表示値を下回る可能性がある場合は、その旨の注意書きを付すものとしている。

平成30年度:
全ての調査対象品目における関与成分等は申請等資料の記載どおり適切に含有されていた。

令和元年度、令和2年度:
機能性表示食品1品目が、関与成分等が申請等資料の記載どおり適切に含有されていなかった。
生鮮食品又は単一の農林水産物のみが原材料である加工食品であり、表示値を下回る可能性がある旨の表示あり。
当該製品は食品表示法違反となるものではないが、事業者に対し品質管理方法等を改善し、ばらつきの少ない製品となるよう指導していく。

令和3年度:
機能性表示食品1品目が、関与成分等が申請等資料の記載どおり適切に含有されていなかった。
当該結果を被疑情報として調査等を行い、必要な対応を行う。

令和4年度:
機能性表示食品2品について、申請等資料に記載された含有量を下回った。
事案1:
申請等資料に記載されていた分析方法では、機能性関与成分を正確に測定できない可能性のあることが判明した。届出者による見直し後の分析方法によって当該製品を再測定したところ、当該届出に係る製品中の機能性関与成分の含有量は申請等資料の記載どおりとなることが確認された。この結果を踏まえ、当該届出者は、見直し後の分析方法を届出内容とする旨の変更届出を行った。
事案2:
機能性関与成分を含む原材料を十分配合していたものの、機能性関与成分の減衰を見越した品質管理が行われていなかったため、賞味期限内の機能性関与成分量を担保できず、申請等資料に記載された含有量を下回る分析結果となったことが判明した。この結果を踏まえ、当該届出者は、当該製品の販売を中止し、届出を撤回した。

上記事案の分析結果は、食品表示基準違反の被疑情報として取扱い、食品表示法第6条の規定による指示等を行う事案と判断する場合は、同法第7条の規定に基づき、製品名を含め、事案内容を公表することとする。

成分の配合量等、品質管理に不備があると

保健機能食品においては申請等を行った含有量を満たしていない場合、食品表示法違反として、食品表示法の指示や命令並びに公表のほか、罰則の対象となる可能性があります。
(生鮮食品又は単一の農林水産物のみが原材料である加工食品以外の機能性表示食品では、注意書きを行っていれば、成分量のある程度のばらつきはみとめられます。)
令和4年度の機能性表示食品の違反被疑事案を踏まえて、「賞味期限の最後」まで、機能性関与成分について届け出た含有量を保証できる製品設計、製造、品質管理が求められます。

保健機能食品の品質管理規制強化のきっかけは?

保健機能食品の品質管理についての事後チェックが厳しくなった発端といえば、2016年9月の日本サプリメントのトクホ制度初の表示許可取消し処分が思い起こされます。
関与成分が規格値を満たしていない、特定できていない状況のまま、2年以上公表せずに販売を続けていたことが問題となりました。
・日本サプリメント トクホ初の許可取り消しと、規制強化の動向

この事案を受け、消費者庁は、2017年3月、内閣府令と次長通知の一部改正を行い、特定保健用食品について以下を義務付けました。
(それまでは、義務付けられていませんでした)
・新たな科学的知見を入手した場合には消費者庁へ報告すること
・第三者機関による定期的な分析を行い報告すること
・販売の有無に関して定期的な報告をすること

・トクホ制度見直し、「新たな科学的知見」「定期的な品質管理」の報告義務化(消費者庁 2017年3月17日)

そして、トクホと機能性表示食品の販売後の事後チェックとして、関与成分等が許可時の規定値を満たしているかを把握すべく、2016年度より買上調査を実施し始めました。(2016年度はトクホのみ)
・平成28年度トクホ買上調査結果公表 2製品が含有量不足で自主回収 (消費者庁 2017年5月17日)
・平成29年度、特保・機能性表示食品買上調査 2製品が含有量不足。消費者庁の見解は?
(消費者庁 2018年4月9日)

科学的根拠の合理性に不備があった場合の対応は?

●新たな科学的知見により、届出された根拠資料が科学的な合理性を欠くこととなることが判明した場合
機能性表示食品に対する事後チェック指針(※)では、食品表示基準に規定する機能性表示食品の要件を満たさなくなるため、ガイドラインに基づき速やかに届出の撤回を行うこととしています。なお、撤回の対応を速やかに行った限りにおいて、景品表示法上問題となるものとは取り扱わないとしています。
(※)
機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保等に関する指針
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/pdf/about_foods_with_function_claims_200324_0003.pdf

●科学的根拠情報の範囲を超えた表示を行った場合
景品表示法の不当表示又は健康増進法の虚偽誇大広告に該当するおそれがあります。
【景品表示法上問題となるおそれのある主な表示の類型】
(1)届出された機能性の範囲を逸脱した表示
(2)特定保健用食品と誤認される表示
(3)国の評価、許可等を受けたものと誤認される表示
(4)表示の裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いている場合

さくらフォレスト事案からの業界への影響

「(1)届出された機能性の範囲を逸脱した表示」と「(4)表示の裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いている場合」の事項について問題となったのが、2023年6月30日のさくらフォレスト(株)の機能性表示食品「きなり匠」及び「きなり極」に対する景品表示法による措置命令事案です。
・さくらフォレストの機能性表示食品に景表法措置命令、届出表示の根拠認めず。同一根拠届出製品約90件も個別確認へ(消費者庁 2023年6月30日)

対象となった2商品は、食品表示法上の要件を欠くものとして措置命令の発出日に直ちに同社から撤回届出が提出されました。
また、消費者庁は本件処分と同時に、本件2商品と同一の機能性関与成分であって、科学的根拠が同一であるという他の届出88 件(※)について、科学的根拠として疑義がある点を指摘し、届け出事業者に対して報告を求めました。
(※)
(1)措置対象の2商品の届出内容と同一の科学的根拠であること。
(2)措置対象の2商品に表示された機能性関与成分(DHA・EPA)の含有量以下であること。

令和6年2月29日時点において、科学的根拠があると主張をしている商品は0件で、88件すべてにおいて撤回の申出がなされています。ただし、撤回届出の提出が行われているのは56件で、撤回届出が未提出のものについて、消費者の自主的かつ合理的な食品の選択に資するよう(※)、消費者庁ウェブサイトで情報公開し、随時更新しています。
(※)撤回の申出があった商品については、撤回届出が行われるまで、販売されることがあり得る。
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令和5年8月17日 機能性表示食品に対する景品表示法に基づく措置命令を踏まえた食品表示法における対応について(情報提供) ※随時更
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/
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消費者庁ウェブサイト:https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/

また、今回の事件を受けて、業界団体5団体(※)に対し、すべての機能性表示食品に関して、既に届出・公表されている科学的根拠の再検証を随時行うよう、文書で要請しました。
(※)
(公財)日本健康・栄養食品協会、(一社)健康食品産業協議会、(公社)日本通信販売協会、(一社)日本チェーンドラッグストア協会、日本抗加齢協会

保健機能食品に関して、安全性の確保はもとより、効果に関わる表示と実際の製品性能の同等性の確保のための製品設計、製造、品質管理が強く求められます。

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。