JAROへの苦情、不適切なNo.1表示、警告等12件中8件(日本広告審査機構 2022年度上半期の審査概況)

JARO(公益社団法人 日本広告審査機構)が、2022年度上半期に消費者から受け付けた苦情や問い合わせに基づく審査概況を2022年12月9日に公表しています。

苦情件数は、新型コロナウイルスの影響により2020年度上半期に急増し、2021年度上半期まで増加でしたが、今期はコロナ前の2019年度同期と同水準となっています。
問題視されている不適切なNo.1表示の苦情に対する警告等は、2021年度の3件(厳重警告2件、警告1件)から今期は8件(厳重警告5件、警告3件)に、大きく増加していました。
気になる定期購入に対する苦情は横ばいですが、二段階契約による新たな手口が報告されています。

消費者の広告への苦情の傾向と規制動向を確認してみましょう。

  • 2022年度上半期の「苦情」コロナ前水準に、「化粧品」「医薬部外品」「健康食品」が大幅減
  • 苦情媒体トップの「インターネット」、苦情件数2割減
  • 苦情内容「音・映像」表現が28%、「品質・規格」表示26%、「価格・取引条件」表示24%
  • 「見解」13件を発信、化粧品、医薬部外品、健食は減少、役務増加
  • 不適切なNo.1表示、警告等12件中8件
  • 定期購入契約の苦情は減少せず横ばい、新たな手口も
  • 高額契約の分割払い支払額を月額利用料と誤認させる役務提供契約、警告等12件中5件

2022年度上半期の「苦情」コロナ前水準に、「化粧品」「医薬部外品」「健康食品」が大幅減

総受付件数は6,405件(前年同期7,292件)で、前年同期比87.8%となった。
相談のうち「苦情」は4,844件(前年同期5,594件)で、前年度比86.6%となった。

(JAROの公表資料より引用)

「苦情」を業種別にみてみると、上位は以下の通り。

1位「医薬部外品」280件(前年同期361件)で、前年同期比77.6%。
2位「化粧品」260件(前年同期480件)で、前年同期比54.2%。
3位「専門店」161件(前年同期78件)で、前年同期比206.4%。
4位「電子書籍・ビデオ・音楽配信」152件(前年同期179件)で、前年同期比84.9%。
5位「携帯電話サービス」151件(前年同期247件)で、前年同期比61.1%。
(8位「健康食品」137件(前年同期216件)で、前年同期比63.4%。)

2021年度上で1位となった「化粧品」は、今期は前年同期比54.2%と大幅減少で2位となった。
前期2位の「医薬部外品」は同比77.6%で、化粧品よりも減少幅が小さく、1位となった。
前期大幅減少し(前年同期比36.9%)1位から5位に順位が落ちた「健康食品」は、今期も同比63.4%と減少し、さらに順位を落とし8位となった。

「化粧品」は、2020年度から増加の原因となった、鼻の角栓や目の下のたるみなどバナー広告の画像に不快感を訴える意見が減少した。ネット通販の医薬品的な効能効果表示は減少せず。媒体では、「インターネット」が260件中207件を占めた。

「医薬部外品」は、美容健康商品が約8割を占め、育毛剤の発毛効果や薬用化粧品でシミがはがせるかのような描写に苦情。残る2割ほどは、害虫駆除剤や口中洗浄液、生理用品などであり、害虫駆除剤の広告表現が不快であるとの意見。

他方、前年同期比206.4%と大幅に増加し3位となった「専門店」は、ゲーム関連グッズ販売のアドトラックが、風俗店の求人あっせん広告を模した表現であることに不適切であるとの苦情が集中した。

(JAROの公表資料より引用)

苦情媒体トップの「インターネット」、苦情件数2割減

「苦情」を媒体別にみてみると、上位は以下の通り。

1位「インターネット」2,156件(前年同期2,726件)で、前年同期比79.1%。
2位「テレビ」2,111件(前年同期2,171件)で、前年同期比97.2%。
3位「ラジオ」137件(前年同期228件)で、前年同期比60.1%。

2019年度に「インターネット」が僅差で「テレビ」を上回って以来、「インターネット」「テレビ」「ラジオ」の順が続いているが、「インターネット」が2割減(2,156件)、「テレビ」はほぼ前年同期並み(2,111件)で、ほぼ同件数となった。
「ラジオ」は4割減で137件。
※ 媒体別「インターネット」は広告だけでなく、広告主の自社サイトや通販サイトなどの表示も含む。

「インターネット」の中で苦情が多かった業種は、「化粧品」207件(前年同期437件、前年同期比47.4%)、「医薬部外品」191件(同225件、84.9%)、「電子書籍・ビデオ・音楽配信」134件(同121件、110.7%)、「オンラインゲーム」77件(同228件、33.8%)であり、化粧品、オンラインゲームの減少が顕著。

「テレビ」では「携帯電話サービス」106件(同187件、56.7%)、「団体」106件(同62件、171.0%)、「自動車」85件(同63件、134.9%)、「音響機器」76件(同4件、1900.0%)、「医薬部外品」76件(同126件、60.3%)の順。
団体は複数の啓発CM、自動車はCM内での音声により自宅の機器が作動してしまう、音響機器については前述のとおり次々と色が切り替わる画像がチカチカするというもの。

(JAROの公表資料より引用)

苦情内容「音・映像」表現が28%、「品質・規格」表示26%、「価格・取引条件」表示24%

「苦情」を内容別にみてみると、構成比は以下の通り。
「表示」2,565件(構成比53.0% 前年同期比85.1%)。
 内訳:
 「価格・取引条件等」1,178件(構成比24.3% 前年同期比92.3%)
 「品質・規格等」1,256件(構成比25.9% 前年同期比81.5%)
 「その他」129件(構成比2.7% 前年同期比65.8%)
「広告表現」1,993件(構成比43.9% 前年同期比89.4%)。
「広告の手法」288件(構成比5.9% 前年同期比81.8%)。

(JAROの公表資料より引用)

「表示」は、虚偽・誇大、分かりにくいといった苦情で、苦情の 52.9%を占める。
内訳では、「価格・取引条件等」が苦情全体の24.3%、「品質・規格等」が同25.9%。
業種別件数でみると、「価格・取引条件等」では、専門店、携帯電話サービス、買取・売買、教室・講座など。
「品質・規格等」では、医薬部外品、外食など。化粧品については両方多い。

「広告表現」は、広告で描かれているものが不快、好ましくないなどというもの。
内訳では、「音・映像」が最も多く苦情全体の28.7%を占め、医薬部外品や化粧品のほか、携帯電話サービス、団体、オンラインゲーム、医院・病院、音響機器などの業種。

「広告の手法」は、 CM の音量、広告の頻度、ステマ、迷惑な表示方法など。
「士業の CM 放送回数が多すぎる」「特定の電子コミックのバナー広告がオプトアウトできずウェブサイトに飛ばされる」など。
ステマの件数は38件で、前年同期比38.4%。

「見解」13件を発信、化粧品、医薬部外品、健食は減少、役務増加

業務委員会で審議し「見解」を発信したのは13件。(前年同期16件)
内訳は「厳重警告」6件(前年同期7件)、「警告」6件(同3件)、「要望」0件(同6件)、「助言」1件(同0件)。
対象業種は「医薬部外品」2件(前年同期4件)、「健康食品」2件(同3件)、「化粧品」2件(同3件)、「役務」6件(同3件)。
対象媒体は「インターネット」が12件。

(JAROの公表資料より引用)

具体的な警告内容は以下の通り。

2022年度上半期の厳重警告・警告一覧 ( )内は媒体
≪厳重警告≫
化粧品:1件
(1)回数しばりのない契約で購入ボタンを押下すると、直後に「さらにお得に購入できる」と表示して契約させるが、2度目の契約は回数しばりのある定期契約になっている
(インターネット〔自社販売サイト、注文内容確認画面、注文完了画面〕)
健康食品:1件
(2)口内細菌の99%を除菌するなどと表示
(インターネット〔自社サイト、自社販売サイト、オンライン通販モール〕、商品パッケージ)
役務:4件
(3)「月々料金で通い放題」「月々〇千円~」と月謝制のような表示をしているが、実際は分割払いの月額だったゴルフ教室
(インターネット〔アフィリエイトサイト、自社サイト〕)
(4)「業界最安値」「月々〇千円~」と月謝制のような表示をしているが、実際は何十万円かの契約で分割払いの月額だったパーソナルトレーニングジム
 (インターネット〔SNSバナー、アフィリエイトサイト、自社サイト〕)
(5)月額千円程度で最短2回とうたっているが、千円程度になるのは数万円のコースを36回払いにした金額だったヒゲ脱毛の男性用エステサロン
(インターネット〔SNS動画、記事広告〕)
(6)エステの〇倍のパワーで脂肪を破壊などとうたった医療機関
(インターネット〔SNS広告、記事広告、自社サイト〕)

≪警告≫
医薬部外品:2件
(7)医療従事者注目度No.1などとうたったフェイシャルパック
(インターネット〔自社販売サイト〕)
(8)卵殻膜が有効成分であるかのような表示をした薬用化粧品
(インターネット〔自社販売サイト〕)
化粧品:1件
(9)アトピー性皮膚炎への効果をうたった温泉情報が書かれた同じページに、その温泉成分が配合されていると紹介・販売されている
(インターネット〔自社販売サイト〕)
健康食品:1件
(10)コーヒーで痩せる、製薬会社が本気で作ったなどと表示
(フリーペーパー)
役務:2件
(11)「コストパフォーマンス〇〇県内No,1」などの表示が、根拠となる調査と合っていないハウスメーカー
(ミニコミ誌、インターネット〔自社サイト〕)
(12)サブスクで安価にレンタルできるかのようにうたっているが、複数年の契約期間があり、中途解約すると違約金として残額を支払う必要があった家電レンタルサービス
(インターネット〔広告主公式アカウントのSNS投稿、自社サイト〕)

審査基準:
【厳重警告】
警告相当の広告または表示であって、問題箇所の数、消費者に誤認を与える程度等により、その不当性が特に高いと認められることから、当該広告または表示を直ちに削除または修正することが必要と認められるもの。
【警告】
広告または表示が、実際のものより著しく優良・有利に表現され、消費者に誤認を与えるもの、または広告・表示関係法令に抵触することが明らかであることから、当該広告または表示の速やかな削除または修正を求めることが必要と認められるもの。
【要望】
広告または表示が、実際のものより著しく優良・有利に表現され広告・表示関係法令に抵触する疑いがあるもの、または消費者の誤認を招くおそれがあることから、当該広告または表示の削除または修正を求めることが必要と認められるもの。
【助言】
広告または表示が、消費者の誤解を招く、または社会的・道義的問題等を有する可能性があるため、修正等の検討を求めることが必要と認められるもの。(従来の「提言」から名称変更)
——————————
JARO審査基準改定について
(公益社団法人 日本広告審査機構 2020年6月18日)
https://www.jaro.or.jp/news/20200618c.html
——————————

2021年度上半期の審査状況で特徴的だったアフィリエイトサイトが関わる事例は、今期は「厳重警告」「警告」計12件のうち、厳重警告2件。
前年同期では、「厳重警告」「警告」計10件のうち5件(厳重警告4件、警告1件)でした。
今期の特徴的なテーマとして、「不適切なNo.1表示」「定期購入契約」「高額契約の分割払い契約」が見られます。

不適切なNo.1表示、警告等12件中8件

適切な調査に基づかないNo.1表示について、2021年度は厳重警告2件、警告1件だったが、今期は厳重警告5件、警告3件と更に増加した。
(厳重警告(1)(3)(4)(5)(6)、警告(7)(8)(11))

厳重警告(5)の事例:
「初めて脱毛した人が選ぶ」「総合満足度」「継続して通いたい」などの項目について、ウェブサイトを見て回答するイメージ調査であり、景品表示法に抵触するおそれ。

警告(11)の事例:
広告(地域のミニコミ誌)と広告主のウェブサイト上に、「コストパフォーマンス〇〇県内No.1」「地域密着型住宅メーカー〇〇県内No.1」などと表示されていた。表示の根拠となる調査は、企業名のみの選択肢から答えるイメージ調査であり、また、その調査対象者は当該ハウスメーカーの契約者とは限らない全国の人で、〇〇県在住者はわずかだった。

2022年度には消費者庁が、「No.1」表示に対する景品表示法の2件の措置命令を出しています。
・エステのPMKメディカルラボ、不適正な「満足度1位」表示に景表法措置命令。(消費者庁 2022年6月15日)
・オンライン個別学習指導のバンザン、不適正な「満足度1位」と期間限定キャンペーンに景表法措置命令。(消費者庁 2023年1月12日)

定期購入契約の苦情は減少せず横ばい、新たな手口も

定期購入に関する苦情が当期153件(前年同期144件)で、減少には至っていない。

(JAROの公表資料より引用)

新たなタイプの苦情として、二段階契約による定期購入によるものが寄せられている。

内容は、回数しばりのない定期購入契約で誘引しながら、契約の申し込み直後にお得であるかのようなオファーを表示して契約させ、2つ目の契約が回数しばりのある契約となっており(後から表示されたオファーの条件等を後から確認しようとしても、最初の商品を購入した後に出る画面なので確認することができない)、定期購入の解約を申し出ると、「後から定期しばりがある商品に変更しているので、あと〇か月は定価で届ける。解約の場合は違約金を支払え」と言われるというもの。
(厳重警告(1)、警告(7))

国センも注意喚起
通信販売の「お試し定期購入」に関する新たなトラブル事例について、2022年9月7日に国民生活センターが注意喚起しています。
・悪質通販「定期購入」の新たな手口に注意喚起。規制に向けた行政の動きは?(国民生活センター 2022年9月公表)

2022年6月に施行された定期購入トラブル対策の特商法改正
2022年6月1日に施行された特定商取引法の改正では、事業者が定める申し込みフォーム等に基づいて申し込みが行われる場合、申込最終画面で契約条件を網羅的に表示する義務が新設されています。
違反行為により消費者が誤認して申し込みをした場合には取消権が認められ、契約解除の妨害に当たる行為に対しては罰則付きの禁止となります。
これらの行為を行った場合は、3年以下の懲役か300万円以下の罰金、またはその両方、法人の場合は1億円以下の罰金を科すこととなっています。
・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)

景品表示法規制でのデジタルの表示の保存義務は見送り
新たな悪質手法では、契約に関する表示が契約完了時に画面上に表示されるのみであることから、後から確認することが困難で証拠が残りにくいことが、行政の調査や法執行のネックとなります。
このようなデジタル広告の問題点について、令和4年3月より消費者庁で開催された景品表示法検討会において、デジタルの表示の保存義務などが議論されましたが、今年1月の公表された報告書では、中長期の課題として法改正を含む早期の対応課題には盛り込まれませんでした。
ただし、このような消費者被害が今後も拡大していく場合は、何らかの措置が取られることが予想されます。
景品表示法検討会(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_004/

高額契約の分割払い支払額を月額利用料と誤認させる役務提供契約、警告等12件中5件

実際には高額サービス契約の分割払い1回分の支払額であるのに、安価な月額料金でサービスを利用できるかのように誤解させる事例。
(厳重警告(3)(4)(5)(6)、警告(12))

厳重警告(5)の事例:
男性用脱毛エステサロンで、広告には月々千円程度、最短2回と強調されているが、実際は、数万円のコースを契約し、36回払いにした場合の1回の支払額が千円程度というものだった。
割賦販売法の個別信用購入あっせんに該当する事例だったため、「月額○○円」などと広告に記載する場合には、手数料等を含めた支払い総額、支払いの期間・回数、手数料の料率などを表示しなければならない。

厳重警告(5)に類似の事例に、消費者庁が2022年3月に景品表示法の措置命令を出しています。
・美容脱毛サービスの金額表示に有利誤認。セブンエー美容、ダイシン、エイチフォーに景表法措置命令(消費者庁 2022年3月3日)

警告(12)の事例:
月額数百円で最新の家電がレンタルできるという広告で、「サブスク」とうたい、必要なときだけ少額で利用して、いつでも解約できるかのような表示となっていたが、中途解約した場合、月額利用料金×残契約月数を支払う必要があるものだった。
申し込み画面には月額と契約期間が表示され、最終確認画面には解約時に違約金が発生する旨の表示があるが、違約金がいくらになるかは書かれていない。それを知るためには、サイト最下部の「サービス利用規約」内にある中途解約金へのリンクまで行かなければならなかった。

本事例は役務の通信販売として、特定商取引法の規制を受けます。
先に定期購入トラブル対策の特商法改正でご説明したとおり、最終確認画面で網羅的に契約条件を表示する義務が課せられました。
解約の申出に期限がある場合には、その申出の期限、また、解約時に違約金その他の不利益が生じる契約内容である場合には、その旨及び内容も表示する必要があります。

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2022年度上半期の審査概況
(公益社団法人 日本広告審査機構 2022年12月9日)
https://www.jaro.or.jp/news/20221209b.html
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《関連記事》

・JAROへの苦情、健康食品6割減。審査事案の3分の1がアフィリエイトサイト関連
(日本広告審査機構 2021年度の審査概況)

・JAROへの苦情、コロナ関連半減、定期購入トラブル、健康食品から化粧品へ
(日本広告審査機構 2021年度上半期の審査概況)

・JAROへの苦情媒体、ネット広告の増加続く。「厳重警告」判定15件、うち14件はアフィリエイト関連
(日本広告審査機構 2020年度の審査概況)

・JAROへの苦情媒体、ネット広告がトップに。アフィリエイト関連は「警告」31件中18件
(日本広告審査機構 2019年度の審査概況)

・JAROへの苦情、通販定期購入契約の苦情は減少せず。ネット広告への苦情二桁増続く
(日本広告審査機構 2018年度の審査概況)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。