法改正の背景にある社会問題を知ってビジネスチャンスに。《2022年の広告関連法規制動向のポイント》

2022年は、広告関連法規制の動きが特に活発だと感じた年でした。

常日頃、法務が本業ではないマーケティングや顧客対応などの業務に携わる方々には、「なんだか、またコンプライアンスルールが変わるらしいけれど、自分たちにはどう関係するの?」とか、「規制強化で、なんかややこしくなりそうだな」とか、「規制されるのは悪質事業者が対象だろうから、ウチは大丈夫でしょ」などとお感じになる向きもあるかと思います。

ただ、消費者関連法に関して法改正やガイドラインの改定が行われるのは、消費生活の環境変化と、看過できない消費者被害の発生が背景にあります。
ですので、単にコンプライアンスとして対応しなければならない「義務」という側面だけでなく、BtoC、BtoB問わず消費者を中心に据えたビジネス環境の変化としてとらえると、次の一手を打つ際に考慮すべきことが見えてくるのではと思います。

ということで、2022年の広告関連法規制動向のポイントを整理しました。


収まることのない「定期購入トラブル」への対策が、立て続けの規制強化に

2015年以降、通信販売の定期購入トラブルが急増し始め、その対策として、2017年に「特定商取引に関する法律施行規則」により、定期購入契約に関する表示が義務付けられたものの、消費者相談件数は減少せず。

2019年には、新たな手口として回数縛りのない「継続的な定期コース」等による被害が増加、相談件数は5万件を突破し前年度比203.6%、2020年は5万9172件に達し132.2%増となりました。

2021年には、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」として、消費者を誤認させる表示への直罰化や、誤認による申し込みの取り消しを認める制度、契約解除の妨害に当たる行為に対する罰則付きの禁止などが盛り込まれました。

そして、2022年6月に更なる特定商取引法の改正により、ネットショップのカートシステムの「最終確認画面」及び、チラシ・カタログなど書面による申込用紙に表示すべき義務表示事項が設けられることとなったのです。

・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)

アフィリエイト広告規制の背後にも「定期購入トラブル」

また、上記、2022年6月の特定商取引法の改正と同時期に、これまでグレーゾーンとなっていたアフィリエイト広告に対する対策もフォーカスされました。

景品表示法26条「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」が一部改訂され、アフィリエイト広告の不当表示に対する景品表示法上の規制対象が「広告主」であることが明確化され、広告主がASPやアフィリエイターに対して講じるべき措置が示されました。

アフィリエイト広告の適正管理を広告主に求めた背景には、定期購入トラブルを引き起こしている広告主が、表示上問題があるアフィリエイト広告を用いている現状があります。

・広告主に課されるアフィリエイト広告の適正管理。ステマ規制も示される(事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針改正 2022年6月29日)

電話受注アップセル・クロスセルの特商法規制強化も「定期購入」トラブルが引き金に

電話受注のアップセル・クロスセルによる販売手法が、通信販売規制から電話勧誘販売規制の適用を受ける規制強化の法改正に向かっています。

消費者庁が11月に公表した「特定商取引に関する法律施行令の一部を改正する政令(案)」で、テレビ・ラジオショッピングや新聞広告などの注文時の電話で、別の商品を勧めたり、定期購入を勧めたりする行為も電話勧誘販売に該当すると新たに規定しました。

こちらの規制強化策も、国民生活センターが注意喚起を行った、テレビ・ラジオショッピングなどをみて電話で注文したら、意図せず「定期購入」になっていたという新たな「定期購入」トラブルに起因する対応と読み取れます。

・電話注文での「定期購入」トラブルに注意喚起。電話受注でのアップセル・クロスセル営業に特商法規制強化へ(国民生活センター 2022年11月30日公表)

SNS広告の拡大がステルスマーケティング規制へ

SNS上やブログ、動画共有サイト等のソーシャルメディアの利用拡大を背景に、伸長しているSNS広告でのステルスマーケティングに関しても規制のメスが入ることとなります。

6月のアフィリエイト広告規制となる「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」の一部改訂では、「アフィリエイト広告に事業者の「広告」である旨を明示することが望ましい」と追記されました。
その後12月28日に公表された「ステルスマーケティングに関する検討会」の報告書において、ステマを景表法の告示に加えることが提言され、事業者の広告であるにもかかわらず、インフルエンサーなど第三者の評価であると思わせる広告も、措置命令の対象となる方針が示されました。

インフルエンサーマーケティングの運用にも注意が必要です。

ステルスマーケティングに関する検討会報告書の公表(消費者庁2022年12月28日)https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_005/

健康食品広告においてもアフィリエイトやステマ規制を盛り込む

不当なアフィリエイトやステマで多く扱われる健康食品広告についても、規制が強まっています。

「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」の一部改訂が、12月5日に公表されました。本留意事項は、2013年に制定された、健康食品広告の景品表示法及び健康増進法上、虚偽誇大表示等として問題となるおそれがある表示について、事業者の適正な広告活動のためのポイントを取りまとめたものです。

今回の改定では、これまでに問題となった措置命令事例などが多く追加されていますが、新たにアフィリエイト広告やステマに関する考え方も盛り込まれています。

・健食留意事項の一部改訂。違反表示事例が充実し、より明示的に(「健康食品に関する景品表示法および健康増進法上の留意事項」一部改訂 2022年12月5日)

これら以外にも、大きな法改正の動きとして、12月28日に「景品表示法検討会」の最終報告書案が取りまとめられています。主な景表法改正の柱として、行政と事業者が合意した上で事業者が自主的に表示を改善する「確約手続き」の導入や、不当表示を繰り返す悪質事業者対策として、課徴金の割り増し算定率適用などが盛り込まれているところです。

景品表示法検討会(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_004/


社会情勢の変化とともに、時代を反映した消費者トラブルの手口が手を変え、品を変え現れる中、それらを防ぐべく、法改正や規制強化が行われます。
また、景品表示法、薬機法、健康増進法、特定商取引法など、広告表示を規制する法律は複数あり、それぞれ異なる法の目的と規制ルールがありますが、それらを効果的に活用して、健全な消費生活を守るべく法執行が行われます。

そのような社会情勢をキャッチしておくことで、うっかりコンプライアンス違反を犯すことなく、お客様と自社を守ることにつながるのではないでしょうか。

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。