日健栄協 機能性表示食品広告審査会、約15%の商品に違反のおそれ。届出ガイドライン改正で研究レビューの質向上へ

機能性表示食品の機能性評価の質が問われています。
2023年6月30日に景品表示法の措置命令が出されたさくらフォレスト事案では、機能性表示食品の届出表示の逸脱表示に加えて、機能性関与成分に関する研究レビューによる届出表示そのものの裏付けとなる科学的根拠の合理性が認められず、不実証広告規制による処分となりました。

・さくらフォレストの機能性表示食品に景表法措置命令、届出表示の根拠認めず。同一根拠届出製品約90件も個別確認へ (消費者庁 2023年6月30日)

現在、機能性表示食品のすべての届出商品7136件のうち、研究レビューを機能性評価方法としている商品が6819件と95%以上を占めています。(2023年7月20日時点)また、同一の科学的根拠による届出商品が多数存在する実態があります。

機能性表示食品の届出ガイドライン改正でPRISMA声明2020年準拠へ

機能性表示食品の科学的根拠の信頼性が問題視される中、新井消費者庁長官は7月6日の定例記者会見において、機能性表示食品の届出ガイドライン(※1)を改正することを発表しました。ガイドライン改正後は、機能性の主たる科学的根拠となっているシステマティックレビューの記載にあたって、国際的な指針であるPRISMA(プリズマ)声明(2020年)に準拠することを求めていくということです。
「PRISMA声明」は、SRを適切に実施するための指針で、検索式やバイアスリスク、研究の選択など、SRの質の向上に必要な27項目の報告を求めています。現行の機能性表示食品の届出ガイドラインは、「PRISMA声明2009」に準拠してシステマティックレビュー(SR)を実施することを規定しています。
PRISMA声明(2020年)への準拠に当たって新規の届出や既存の届出の再検証については、事業者の実行可能性を考慮して実施期間等について意見を求めるパブリックコメントを行い、その後速やかにガイドラインの改正を行うとしています。

(※1)
機能性表示食品の届出等に関するガイドライン(令和4年4月1日一部改正)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/assets/foods_with_function_claims_220401_0002.pdf

新井消費者庁長官記者会見要旨 (2023年7月6日)
https://www.caa.go.jp/notice/statement/arai/034012.html

業界自主規制としての適正広告自主基準と広告審査会

これまでの機能性表示食品の広告表示の適正化に向けた事業者団体の取組みとしては、健康食品産業協議会と日本通信販売協会が「『機能性表示食品』適正広告自主基準」(※4)を2016年4月公表しています。
また、公益財団法人 日本健康・栄養食品協会(日健栄協)では、2018年度より機能性表示食品の広告の適正化と向上を図ることを目的として「機能性表示食品広告審査会」を年1回開催しています。
審査対象広告は企業に素材提供を依頼し、以下の審査指針に基づき、当該機能性表示食品の「届出表示」及び審査指針との適合性の観点から審査しています。

【審査指針】
・健康増進法等の関連法規
・「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(健食留意事項)(※2)
・「機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保等に関する指針」(事後チェック指針)(※3)
・「『機能性表示食品』適正広告自主基準」(適正広告自主基準)(※4)

(※2)
健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について
(令和4年12月5日一部改定 消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/assets/representation_cms214_221205_01.pdf
(※3)
「機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保等に関する指針」(事後チェック指針)の策定について
(2020年3月24日 消費者庁)https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/about_foods_with_function_claims/pdf/about_foods_with_function_claims_200324_0001.pdf
(※4)
「『機能性表示食品』適正広告自主基準」
第1版:平成28年(2016年)4月25日 第2版:令和5年(2023年) 6月 5日
((一社)健康食品産業協議会 (公財)日本通信販売協会)
https://jaohfa.com/wp/wp-content/uploads/news/%E3%80%8C%E6%A9%9F%E8%83%BD%E6%80%A7%E8%A1%A8%E7%A4%BA%E9%A3%9F%E5%93%81%E3%80%8D%E9%81%A9%E6%AD%A3%E5%BA%83%E5%91%8A%E8%87%AA%E4%B8%BB%E5%9F%BA%E6%BA%96%E7%AC%AC2%E7%89%88%E6%96%B0%E6%97%A7%E6%AF%94%E8%BC%83%E8%A1%A8230605.pdf

審査委員会は、外部専門家(第三者委員)4名と協会会員企業のメンバーで構成された広告部会の代表(企業委員)3 名で構成されています。
業界団体として、会員企業の広告のコンプライアンス状況をどのように把握していたのでしょうか。2021年と2022年に実施された第4回および第5回の広告審査会の審査内容と結果を確認してみました。

「機能性表示食品広告審査会」 結果報告

【日時】
第4回:2021年12月14日(火) 13時00分~17時30分
第5回:2022年12月13日(火) 13時00分~17時30分
【審査対象広告】
収集方法:企業に素材提供を依頼
【審査基準】
A 判定
・ 健康増進法等に抵触するもの、もしくは抵触するおそれのあるもの
・ 「事後チェック指針」に著しく抵触(*)するもの
・ 「健食留意事項」に著しく抵触(*)するもの
・ 虚偽、機能性表示食品の届出範囲を超える表現など「適正広告自主基準」に著しく抵触(*)するもの
(*)著しく抵触:
・ 1つの広告の中に抵触する箇所が複数ある。
・ “疾病の治療に適している”、”病者に適している”など。
B 判定
・ 「事後チェック指針」に抵触するもの
・ 「健食留意事項」に抵触するもの
・ 「適正広告自主基準」に抵触するもの
C 判定
・ 「事後チェック指針」に抵触するおそれのあるもの
・ 「健食留意事項」に抵触するおそれのあるもの
・ 「適正広告自主基準」に抵触するおそれのあるもの
・ 消費者に誤認を与えるおそれのあるもの

第4回
対象期間:2021 年4月1日~7 月31日(4ヶ月間)
審査件数:63件 (内訳:テレビ29件、新聞14件、雑誌2件、Web (LP) 18件)
【審査結果】
TV:29件中「B」判定(2件)、「C」判定(1件)
新聞:14件中「C」判定(5件)
雑誌:2件中すべて問題なし
Web(LP):18件中A」判定(2件)「B」判定(1件)「C」判定(3件)
会社数と商品数:「A」判定(2社2商品)「B」判定(3社3商品)「C」判定(5社7商品)

「A」判定:2件
医薬品を想起させる表現
届出表示ではない機能を複数箇所で訴求する表現
「B」判定:3件
届出表示の範囲を逸脱した表現
商品の対象者を誤認させる表現
グラフの説明等において機能性関与成分ではなく商品の摂取で効果が得られたとの誤認を与える表現
「C」判定:9件
一日摂取目安量や摂取方法を誤認させるおそれのある表現
メカニズムの説明が商品の機能性であると誤認を与えるおそれのある表現、
商品の対象者を誤認させるおそれのある表現、
効果を保証する印象を与えるおそれのある表現

第5回
対象期間:2022年4月1日~7 月31日(4ヶ月間)
審査件数:60件 (内訳:テレビ23件、新聞12件、雑誌3件、Web (LP) 22件)
【審査結果】
TV:23件中「B」判定(1件)
新聞:12件中「C」判定(2件)
雑誌:3件中すべて問題なし
Web(LP):22件中「B」判定(5件)「C」判定(5件)
会社数と商品数:「A」判定(0社0商品)「B」判定(4社5商品)「C」判定(5社6商品)

「B」判定:6件
届出表示の範囲を超えた機能を誤認させる表現
一般食品と機能性表示食品を明確な区別なしに並べて誤認させる表現
機能性関与成分以外の成分に効果があると誤認させる表現
医薬品的効果効能を暗示する表現
製品自体に機能があると誤認させる表現
「C」判定:7件
商品画像近くに臨床試験結果を示し商品の機能と誤認させるおそれのある表現
届出表示の範囲を逸脱した機能を暗示させるおそれのある表現
対象者の範囲を誤認させるおそれのある表現
美容の訴求等による健康の維持増進を超えるおそれのある表現
食品を摂取するだけではおよそ得られない効果が得られるかのように誤認させるおそれのある表現

届出表示の切り出し表現、エビデンスの妥当性、審査されず

2021年実施の第4回の審査から、審査指針に2020年4月1日より運用開始された事後チェック指針が加わりました
ただし、届出表示を切り出して(一部省略・簡略化等)強調する表現については、現在業界団体間で自主ルールの整備を進めているため、2022年12月実施の第5回の審査会では判定を付けず、消費者に機能性を誤認させる表示として今後問題となるおそれがあることを各企業に伝えるにとどめています。
しかし、2023年6月30日のさくらフォレストの措置命令事案では、届出表示の一部省略による届出内容を超える表示が違反認定されました。

届出表示:
「本品には DHA・EPA、モノグルコシルヘスペリジン、オリーブ由来ヒドロキシチロソールが含まれます。DHA・EPAには中性脂肪を低下させる機能があることが、モノグルコシルヘスペリジンは血圧が高めの方の血圧を下げる機能があることが、オリーブ由来ヒドロキシチロソールは抗酸化作用を持ち、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の酸化を抑制させることが報告されています」

違反表示内容:
「高めの血圧を下げる機能性サプリ」、「血圧と中性脂肪を下げる LDLコレステロールを抑える」等と表示。

商品自体に機能があるとの根拠を有していないにもかかわらず、届出表示の一部を省略することにより、商品自体に機能性があるかのように表示。

健康食品産業協議会は、2023年6月5日に「適正広告自主基準」(第2版)を公表。届出表示の一部切り出しに関する留意事項を追加し、会員に周知しました。しかし、さくらフォレストの違反認定された表示の表示期間は2022年4月~11月にかけてであり、自主基準の改定は間に合わなかったと考えられます。

(以下、追記事項抜粋。)
〇届出表示の一部を切り出して強調することで、医薬品的な効果効能表現になる場合(認知機能、生活習慣病関連の領域等)
 例)届出表示の内容が「血圧が高めの方の血圧を下げる機能」に対し、「高めの方の血圧を下げる」と切り出して強調する場合など。
例えば、補完用語(サポート、助ける、役立つ等)を付記するなどで医薬品的な効果効能表現を回避することが出来る。

〇届出表示に対象者や機能性を得られる条件が限定されるにも関わらず、過大な切り出し表現を行う場合
 例)届出表示における対象者のBMIが高めである、もしくは機能性が運動とともになど限定的な条件下で発揮されるにも関わらず、当該条件に言及せず切り出して強調する場合など。

〇届出表示の一部を切り出して強調することで、届出された機能性の範囲を逸脱する場合
例)
 ①届出表示の内容が「認知機能の一部である記憶力(日常生活で見聞きした言葉を覚え、思い出す力)を維持する機能」と限定されているにもかかわらず、「認知機能維持!」と表示する場合など。
 ②届出表示の内容のうち作用機序にあたる表示のみを切り出して、あたかも科学的根拠に基づく機能性であるかのように表示する場合など。

ⅱ)届出表示の科学的根拠が機能性関与成分に関する研究レビューの場合、以下の点が広告上視認性を持って表示されるよう留意する必要がある。
○訴求する機能性が機能性関与成分の機能であることを明示する。
○届出表示の「報告されています」を省略して表示する場合は、研究レビューを根拠としていることを明示する。
「機能性表示食品」適正広告自主基準(第2版)

また、本審査会では、届出表示のエビデンスの妥当性の確認については今後の課題として未だ審査内容に盛り込まれていません。
しかし、さくらフォレスト事案では、届出表示の逸脱表示に加えて、届出表示そのものの裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いているとして不当表示認定されました。
本来であれば、業界団体の自主規制は法規制より厳しいものであるべきで、緩いものであっては機能しません。機能性表示食品制度は、事業者の責任において機能性訴求を可能とするものである以上、業界としてしっかりとした対応が求められます。

機能性表示の科学的根拠にまで踏み込んだ行政処分が進む予想

トクホについては、その機能性の科学的根拠を国が評価し許可するものですので、消費者庁は事業者に対して「新たな科学的知見を入手した場合の消費者庁への報告」「第三者機関による定期的な分析の実施及び報告」「販売の有無に関する定期的な報告」が義務づけています。
・トクホ制度見直し、「新たな科学的知見」「定期的な品質管理」の報告義務化 (「特定保健用食品の表示許可等について」の一部改正 2017年3月17日)

消費者庁は、今回の機能性表示食品の届出ガイドライン改正によりPRISMA2020年に準拠させ、事業者に研究レビューの更新の促進を図ろうとしています。今後、機能性表示の科学的根拠にまで踏み込んだ行政処分が進むことが予想されます。

————————————–
機能性表示食品広告審査会の設置について
http://www.jhnfa.org/k11-1.pdf

機能性表示食品広告審査会 審査結果
(公益財団法人 日本健康・栄養食品協会)
https://www.jhnfa.org/kinou11.html
————————————–

≪関連記事≫
・機能性表示食品広告48件中7件に違反の恐れあり。事後チェック指針への適合性は次回審査以降に (日健栄協 第3回機能性表示食品広告審査会)

・機能性表示食品広告44件中12件に違反の恐れあり。届出表示のエビデンスの妥当性確認は今後の課題(日健栄協 第2回機能性表示食品広告審査会)

・機能性表示食品 届出表示のエビデンスの妥当性 「客観的評価機関」としての公正競争規約に期待

・機能性表示食品の事後チェック指針案のパブコメ開始! 指針に対する消費者庁の思惑は?(消費者庁 2020年1月16日:公表)

・機能性表示食品の広告規制の透明化。消費者庁「事後チェック指針」公表へ

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このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。