昨年、ネット通販をめぐる消費者保護の動きとして注目したのは、21年4月に公布、22年度施行予定の「取引デジタルプラットフォーム消費者保護法(取引DPF法)」です。
コロナ禍をきっかけに大きく拡大したネット通販利用ですが、市場の拡大とともに、ネット通販を巡る消費者トラブルも右肩上がりで、国民生活センター等に寄せられた2020年度の消費生活相談件数は、28万件余りに上っています。今後、裾野の広がった通販利用者が定着し、安全安心な購入形態として引き続き市場拡大していくうえで、市場から悪質事業者を駆逐できるかが大きなテーマになってくると思います。
●大手ショッピングモールの信用力を利用する詐欺的な通販サイト
2020年前半にかけて、洋服やかばん、靴、家具類などの身の回り品で、「注文した商品が届かない」「粗悪品・模倣品が届いた」など、詐欺的な通販サイトに関するトラブルが多発。
20年4月には、アマゾンのマーケットプレイスの仕組みを悪用して身元を隠し、実在しない住所や電話番号、不正取得した決済手段を登録し、偽ブランド品を販売していた通販事業者13社が特定商取引法による一斉処分となりました。
この事案では、知名度があるアマゾンの信用力を利用して、今後も同様の手口で、多数の出品者・出店者が偽ブランド品販売を繰り返し行う可能性が高いとして、特商法による業務停止命令だけでなく、消費者安全法に基づき、消費者への注意喚起を行うと同時に、複数のデジタルプラットフォーム(DPF)事業者に対して、消費者被害の発生・拡大防止に向けた対応が要請されました。
●努力義務の「取引DPF法」、キモは「販売業者の身元確認」
取引DPF法では、DTF提供者に対して危険商品等の出品の停止や、取引DTF上での通販取引の適正化及び紛争解決の促進のために、消費者が販売業者との円滑な連絡を可能とする措置を講じること、販売条件等の表示に関する苦情の申出を受けた場合の調査、販売業者の身元確認を行うという努力義務を定めています。
◆取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(概要)https://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2021/359/doc/20211119_shiryou1_1.pdf
同法を受けて、消費者庁では12月に「取引デジタルプラットフォーム官民協議会準備会」において取引DPF提供者の努力義務の指針案が示され、現在パブコメを行っています。
中でも特に重要だと考えられるのが、「販売業者の身元確認」です。
指針案では「販売業者等を特定する情報の真正性を担保することが取引の安全を確保するうえで重要」と位置づけ、具体的な確認資料として、出品者が企業の場合は法人登記簿、個人事業者の場合は住民票や事業証明書等を例示しています。
◆「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律施行令(案)」等に関する意見募集について(消費者庁 2021年12月17日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/027024/
折しもパブコメが公表された12月17日に、アマゾンで「100%カシミヤ」などとうたったストールの広告が偽表示であるとして、消費者庁は消費者安全法に基づき販売業者3社の社名公表しました。
この事案に関しても、消費者庁の調査では販売業者の実体を特定できませんでした。
アマゾンにおいては、アカウント登録を承認する前に審査を行い販売事業者の本人確認は当然行っており、行政による調査でも実態把握できない巧妙な手口で身元隠匿を図る悪質事業者を追い込むのは、なかなか厳しい攻防となりそうです。
それでも、これまでは取引の場を提供するだけの立場として、責任を回避してきたDTF提供者に対して、罰則はなくとも責任を明確にした新法の意義は大きいと思います。行政機関、取引DPF団体、消費者団体等により構成される官民協議会の今後の取り組みに期待したいと思います。
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