コンプライアンス取組状況、表示の根拠情報の事後的確認は5割 (平成27年度「景品表示法」「特定商取引法」の法令遵守に係る事業者調査 東京都)

平成26年12月に景品表示法が改正され、平成28年3月には特定商取引法の改正案と消費者契約法の改正案が閣議決定するなど、消費者保護のための法規制が強化されています。
事業者のコンプライアンス意識の向上が求められる中、事業者の取り組み状況はどのようになっているのでしょうか。
東京都は、平成26年度(2014年度)に実施した事業者団体に対する調査(※1)の流れを受け継ぎ、平成27年度(2015年度)に事業者の法令遵守の取組状況等に関する実態調査を実施しました。

事業者に対するアンケートとインタビュー調査より、コンプライアンス対応状況に関するデータを見てみましょう。


(1)コンプライアンスの取組のきっかけ
コンプライアンスの取組を始めたきっかけとして多かったのは、
「当初から取り組んでいるので、きっかけを意識したことがない」82社中36 社(44%)

「ニュース等で社会情勢の変化を感じたため」82社中32社(39%)
「経営層から指示があったため」82社中31社(38%)
「業界団体、行政からの調整があったため」82社中28社(34%)

アンケートにおいては「行政指導、処分等が入ったため」と回答したのは82社中10社(12%)
のみであったが、事業者インタビューにて聴取したところ、行政からの指導や処分を受けたことをきっかけに取組を始めた事業者も少なくなく、実際はアンケート集計値よりも多いのではないかと推測される。
インタビュー対象事業者においては、法律を守らなくてはならないという意識やリスクマネジメントとしての位置付けのみではなく、お客様志向の取組の一環として前向きに認識されてもいた。

(2)管理体制整備状況
社内ルールの有無:
社内ルールがあるのは 82 社中 64 社(78%)。
規模別にみると、従業員数 100 人超の事業者 41 社のうち 39 社(95%)であるのに対して、100 人以下の事業者では 36 社中 20 社(56%)であった。

大規模な事業者ではほぼ社内ルールがあるのに対し、小規模な事業者では社内ルールの制定が進んでいない。

強く意識している法令:
7割以上が意識している法令は、以下の通り。
「個人情報保護法」82社中69社(84%)
「景品表示法」82社中67社(82%)
「特定商取引法」82社中63社(77%)

規模別にみると、従業員数 100 人超の事業者(41社)では、「個人情報保護法」が36社(88%)、「景品表示法」が38社(93%)、「特定商取引法」が34社(83%)であるのに対して、100 人以下の事業者(36社)では、「個人情報保護法」が28社(78%)、「景品表示法」が24社(67%)、「特定商取引法」が25社(69%)であった。
大規模な事業者では「景品表示法」については9割以上、「特定商取引法」は8割以上が意識しているのに対し、小規模な事業者では7割に満たない。

景表法管理措置取組状況:
7割以上が取り組んでいる管理措置は、以下の通り。
「表示等に関する情報の確認」82社中65社(79%)
「景品表示法の考え方の周知・啓発」82社中62社(76%)
「表示等に関する情報の共有」82社中60社(73%)

従業員数 100 人超の事業者(41社)では、7つの措置のうち5項目において約9割が取り組んでいるのに対して、100 人以下の事業者(36社)では、「表示等に関する情報の確認」が24社(67%)、「景品表示法の考え方の周知・啓発」が22社(61%)、「表示等に関する情報の共有」が20社(56%)にとどまっている。
取り組み率の低い項目は「表示等の根拠となる情報を事後的に確認するための措置を採ること」「不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応」で、特に小規模な事業者ではそれぞれ9社(25%)、14社(39%)となっている。

(3)お客様の声の収集・共有・分析・活用

苦情相談受付方法:
苦情相談の受付方法として多かったのは、
「電話相談窓口がある」82社中64 社(78%)
「電子メールで受け付けている」82社中53社(65%)
「営業部門等で受け付けている」82社中28社(34%)

規模別にみると、従業員数 100 人超の事業者(41社)では、「電話相談窓口」が37社(90%)、「電子メール」が35社(85%)であるのに対して、100 人以下の事業者(36社)では、「電話相談窓口」が23社(64%)、「電子メール」が15社(42%)であった。
大規模な事業者に比べて、中小規模な事業者においては苦情、相談等の専従受付体制が整備されていない。


苦情、相談情報の社内共有、活用方法:

苦情、相談等の情報の社内共有、活用方法について、従業員数 100 人超の事業者(41社)では、「関係部署に連絡している」39 社(95%)、「経営層に報告している」35 社(85%)、「分析のうえ改善策を検討している」33社(81%)が多く行われている。
一方、100 人以下の事業者(36社)では、「関係部署に連絡している」19 社(53%)、「経営層に報告している」17 社(47%)、「分析のうえ改善策を検討している」15社(42%)と、事業規模で大きく差があった。

中小規模の事業者においては、苦情、相談情報を社内共有、活用するための体制・仕組みの整備が十分でないものと考えられる。

(4)コンプライアンスンスの推進・経営トップの関与
コンプライアンス推進担当:
従業員数 100 人超の事業者(41社)では、「コンプライアンス担当部署」36社(88%)が最多、100 人以下の事業者(36社)では、「社長」24社(67%)が最多となっている。「コンプライアンス担当部署」としては、法務、内部統制、お客様相談室、CS、CSR、経営企画、営業、教育、品質保証、ISO 担当等があげられていた。

経営層の関与の仕方:
経営層の関与の仕方について「方針や取組を打ち出している」82 社中 66 社(80%)、「担当部署から報告を受けている」82 社中60 社(73%)であった。
コンプライアンス担当部署が取組の中心となっている大規模な事業者においても、「方針や取組を打ち出している」が90%となっており、経営トップが関与することの重要性が認められる。
インタビューでは、経営トップが関与することによって意識が高まる、強制力をもって進められる、意思決定が迅速に行えるなどの効果があげられた。経営トップが前向きでなければ取組がうまくいかないとの意見もあった。

(5)取組の障壁
インタビューでの主な取り組みの障壁についての回答内容は以下の通り。
・新たなルールに対する抵抗感
・ビジネスへの悪影響に対する懸念
・部門による温度差、自部門には無関係との意識
・お客様の声から目をそむけたい意識
・法務、コンプライアンスに対する認識の低さ
・全社的な浸透の難しさ

障壁をどのように乗り越えたか:
・何か特別な方法があったわけではなく、繰り返し説明し、継続して取り組むことが重要である。
・法令違反となる表示や取引・販売方法などについて、ただダメと言っても、従業員全員の理解を得られるわけではなく、何故ダメなのかという理由や法律の趣旨を説明したり、代替案を提示したりするなどの方法が有効。
・障壁を乗り越え、取組が定着すると、効果が感じられるようになった。

(6)取組の効果

主な取り組みの効果について、大別して以下の4種類の効果があると考えられる。
●トラブルの予防等
・専門知識の向上によって管理が的確になった。
・自発的な取組が定着した。
・社内に潜む問題が把握できるようになった。
・担当部門への事前相談が定着した。
●事業者のイメージアップ
・お客様の不満が軽減され、クレームが減少した。
・お客様重視の誠実な対応により企業イメージが向上した。
●営業方法・お客様対応の改善
・ 商品、サービスの向上につながった。
・ お客様への対応が改善された。
・ 事業の推進とコンプライアンスのバランスがとれてきた。
●業績の向上
・顧客満足の向上が売上に連動した。 ・業績が向上し、顧客が増えることで、新規の顧客を無理に獲得する負担が減るため、余裕をもってコンプライアンスに取り組めるようになり、事業とコンプライアンスの間に好循環をもたらした。

調査結果より、景品表示法や特定商取引法に対する意識は高いものの、適正管理措置として求められている「表示等の根拠となる情報を事後的に確認するための措置」「不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応」は6割を下回っており、最新の法令についての知識・情報が得られていない、あるいは取組が遅れていることが読み取れました。
また、事業規模における対応格差が顕著となりました。

次回は、同調査より、具体的な取り組み施策について取り上げます。

———
◆事業者のコンプライアンスの取組 (2016年3月29日 東京都)
「景品表示法」「特定商取引法」の法令遵守に係る事業者アンケート及びインタビュー調査
http://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/torihiki/compliance/documents/h27tyousakekkagaiyou.pdf
1.事業者アンケート
調査対象:
有効回答82 社
法令遵守に取り組んでいる可能性がある事業者157 社に回答を依頼、74社より回答あり。
その他、日本広告審査機構、日本訪問販売協会会員各社に通知、8社より回答あり。
調査方法:質問紙による郵送調査(電子メールでの回答も可とした)
調査期間:平成27年7月3日~8月31日
調査対象企業選定方法:
ホームページ及び資料文献(業界紙等)、業界団体からの推薦等を参考に、先駆的な取組、ユニークな取組など、注目に値する取組を行っている事業者を選定。
※ 個々の企業の取組内容等を把握するものであり、定量調査ではない。

2.事業者インタビュー
調査対象:
事業者アンケートをもとに選定した15社(製造業、流通業、サービス業等)について実施。
調査方法:訪問インタビュー
調査期間:平成27年9月1日~10月29日
———

(※1)
・事業者団体のコンプライアンスの取組、会員企業の要望がカギ
 (平成26年度「景品表示法」と「特定商取引法」の法令遵守に関する調査 東京都)

<関連記事>
・景表法改正、広告表示の適正管理のための7つのポイン+1
(消費者庁 平成24年8月8日)

・景表法改正「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針(案)」(消費者庁 平成24年8月8日)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。