【事例から学ぶ景表法対策】二重価格表示「通常価格」違反の5類型。違反認定のポイントを掴む

「通常価格」を比較対照とする二重価格表示は、今やBtoC事業者にとって景表法のハイリスク領域となっています。
直近では2025年11月28日、ツルハグループマーチャンダイジングの自社ECサイトに対し、この「通常価格」の表示をめぐる措置命令が下されました。

・ツルハグループe-shop本店、「特売セール」79商品の「通常価格」に景表法措置命令。EC価格管理不備が招いた有利誤認(消費者庁 2025年11月28日)

同種の措置命令は2024年度・2025年度だけで計8件にのぼり、業種や販売形態を問わず多発しています。これらの事案を精査すると、違反認定のパターンと傾向が見えてきます。
本稿では、過去の措置命令事案における「通常価格」関連の違反パターンを5類型に整理して解説します。
事業者にとって、いずれの違反類型も陥りやすいリスクがあります。確実に理解しておきましょう。

「通常価格」表示の違反パターン5類型

景品表示法上、「通常価格」を比較対照価格とした二重価格表示を行う際には、守るべき適法要件があります。2018年から2025年にかけての「通常価格」関連の措置命令28事案を、抵触した違反要件の観点から分析すると、5つの類型に整理できます。

類型違反の態様事案数
類型Ⅰ実績なし13件
類型Ⅱ8週間ルール不適合11件
類型Ⅲ商品同一性欠如2件
類型Ⅳ販売計画のない将来の販売価格1件
類型Ⅴ構造的不成立1件
※複数の類型に該当する事案があるため、事案数の合計は措置命令28事案と一致しない。

類型Ⅰ 実績なし(13件)

「通常価格」としての販売実績が認められない
通常価格での販売実績がそもそも存在しない場合や、通常の販売活動とは言えない価格を比較対照価格に用いることは、「販売された実績のない」通常価格とみなされます。この類型Ⅰが28事案中13件と最多の類型で、違反の態様により、さらに以下の3パターンに細分されます。

Ⅰ-1 通常の販売活動とは言えない価格(5件)

通常価格として掲示した価格での販売実績は形式上あるものの、その販売が「通常の販売活動」とは認められないパターンです。異なるチャネルや媒体で提供されている価格や、事実上ほぼ誰も支払わない建前上の価格を通常価格として設定しているケースがこれにあたります。

主な事案:キャリカレ(2024年・通信講座・自社ウェブサイト)、北海道産地直送センター(2022年・食品・ECサイト)、ジャパネットたかた(2018年・エアコン等・会員カタログ・新聞折込チラシ・DM・自社ウェブサイト)、マカフィー(2018年・セキュリティソフト・自社ウェブサイト)、SPRING(2018年・英会話教材・自社ウェブサイト)
《参考記事》
・通信講座サイトの二重価格と期間限定キャンペーンに有利誤認。キャリカレ2度目の措置命令 (消費者庁:2024年7月19日)
・非会員価格を比較対照価格にしてもOK?ジャパネットたかたの二重価格表示に景表法措置命令(消費者庁:平成30年10月18日)
・マカフィー 期間限定キャンペーンの「標準価格」「特別価格」に景表法措置命令!打消し表示にも注意(消費者庁:平成30年3月22日)
 ・「今だけ」の期間限定キャンペーンに注意!(株)SPRING 英会話教材「通常」価格に景表法措置命令!(消費者庁:平成30年3月2日)

Ⅰ-2 セット販売での実績なし(2件)

単品では販売実績のある商品であっても、セット販売時の「通常価格」として設定した合算価格に、そのセット商品としての販売実績がないパターンです。

主な事案:北海道産地直送センター(2022年・食品セット・テレビ通販)、ハピリィ(2021年・七五三前撮り撮影サービス・自社ウェブサイト・店頭)
《参考記事》
・ECサイトでの二重価格表示に店頭販売での「通常価格」認められず。北海道産地直送センターに景表法措置命令(消費者庁 2022年7月29日)
・七五三の前撮りサービスの期間限定割引表示に景表法措置命令。セット割引販売時の留意点とは (消費者庁 2021年9月14日)

Ⅰ-3 単純実績ゼロ(6件)

通常価格として表示した価格での販売実績が、単純に存在しなかったケースです。

主な事案:富士通クライアントコンピューティング(2023年・パソコン・自社ECサイト)、シェフカワカミ(2020年・スーパーマーケット精肉・新聞折込チラシ)、tattva(2019年・ダイエットパッチ・自社ECサイト)、サンプラザ(2019年・スーパーマーケット食パン・店頭プライスカード)、ブレインハーツ(2018年・サプリメント・自社ECサイト・アフィリエイトサイト)、ギミックパターン(2018年・下着等・自社ECサイト)
《参考記事》
・パソコン通販サイトの二重価格と期間限定キャンペーンに有利誤認。富士通の販売会社に措置命令 (消費者庁:2023年6月23日)

類型Ⅱ 8週間ルール不適合(11件)

販売実績はあるが、期間・頻度が比較対照価格の要件を満たさない
類型Ⅰが「実績なし」であるのに対し、類型Ⅱは、通常価格での販売実績は存在するものの、その期間や頻度が比較対照価格として認められる水準に達していないパターンです。28事案中11件を占め、類型Ⅰに次ぐ多発類型です。先述したツルハグループマーチャンダイジングの違反内容も、この類型に該当します。

「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(※)(比較対照価格ガイドライン)は、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」の目安として以下の3要件をすべて満たすことを求めています(いわゆる「8週間ルール」)。
1)直近8週間(セールの各時点において、その時点からさかのぼる8週間が目安)のうち、「通常価格」での販売期間が過半を占めること(8週間未満の場合はその過半)
2)「通常価格」での販売期間が通算して2週間以上であること
3)「通常価格」で販売された最後の日からセール開始まで2週間以上を経過していないこと

(※)
◆不当な価格表示についての景品表示法上の考え方
(平成12年6月30日公正取引委員会 改定 平成28年4月1日消費者庁)https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_35.pdf

ツルハグループマーチャンダイジングの事案では、これら3つの要件すべてを満たさず違反と認定されました。この「8週間ルール」は、1つでも要件を欠くと不当表示とみなされるリスクがあるため、厳格な運用が求められます。

主な事案(物販):ツルハグループマーチャンダイジング(2025年・日用品等79商品・自社ECサイト)、長谷川産業(2025年・オフィスチェア等53商品・自社ECサイト)、サードウェーブ(2021年・パソコン・自社ECサイト)、カインズ(2021年・テレビ等55商品・店頭値札)、ライフサポート(2019年・おせち料理・自社ECサイト、ショッピングモール)、メガスポーツ(2018年・スポーツ用品等47商品・新聞折込チラシ)

主な事案(役務):NOVAランゲージカンパニー(2025年・英会話教室入会金・自社ウェブサイト)、デザインワード(2024年・ネイルスクール講座・自社ウェブサイト)、EE21(2022年・資格取得講座・自社ウェブサイト)、ブルースター(2019年・クリーニングサービス・新聞折込チラシ)、アビバ(2012年・パソコン講座・新聞折込チラシ)

《参考記事》
・販売実績のない「通常価格」表示に有利誤認。家具・インテリア雑貨EC運営の長谷川産業(株)に措置命令 (消費者庁:2025年2月28日)
 ・カインズの期間限定割引セールの「通常価格」表示に景表法措置命令。期間限定セールを再開するには? (静岡県 2021年8月3日)
 ・いつでも「入会金0円」実績のない「通常入会金」表示に有利誤認。NOVAランゲージカンパニーに措置命令 (消費者庁 2025/10/17)

類型Ⅲ 商品同一性欠如(2件)

比較する商品・サービスが「同一」でなければ、価格比較は成立しない
比較対照価格は、現在販売している商品・サービスと同一の内容のものの価格でなければなりません。スペック・仕様・プラン内容が異なる場合、有効な比較対照価格とはなりえません。

主な事案:那覇直葬センター(2024年・葬儀サービス・自社ウェブサイト)、サードウェーブ(2021年・パソコン・自社ECサイト)
《参考記事》
 ・「直送」「火葬」サービス(株)那覇直葬センターに景表法措置命令。低価格を訴求する際の注意ポイントは?(消費者庁 2024年5月30日)
 ・二重価格表示の適法の工夫とは。パソコン通販サードウェーブ、二重価格表示に景表法措置命令(東京都 2021年3月30日)

類型Ⅳ 販売計画のない将来の販売価格(1件)

「将来の販売価格」表示には、「合理的かつ実施確実な販売計画」が必要
早期割引キャンペーンでの二重価格表示では、セール後に適用する「将来の販売価格」を比較対照価格とするケースがあります。「将来の販売価格」を比較対照価格とする際は、過去の販売実績ではなく、未来の価格設定における「合理的かつ実施確実な販売計画」の裏付けが求められる点に注意が必要です。

将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について、消費者庁は2020年12月に景品表示法の執行方針(※)を公表しています。
(※)
将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針
(消費者庁 2020年12月25日)
https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_201225_06.pdf

主な事案:ジャパネットたかた(2025年・おせち料理・自社ECサイト)
《参考記事》
・おせち早期割引で景表法違反認定!ジャパネットたかたvs.消費者庁の対立点と「販売計画の確実性」 (消費者庁:2025年9月12日)

類型Ⅴ 構造的不成立(1件)

販売形態の特性上、通常価格の前提そのものが成り立たない
早期割引キャンペーンでの二重価格表示では、セール後に適用する「将来の販売価格」を比較対照価格とするケースがあります。「将来の販売価格」を比較対照価格とする際は、過去の販売実績ではなく、未来の価格設定における「合理的かつ実施確実な販売計画」の裏付けが求められる点に注意が必要です。
出張イベント・催事など、継続的な販売を前提としない形態では、8週間ルールの要件を満たすこと自体が構造的に困難です。比較対照価格の根拠を正確に明記することが実務的な対応となります。

主な事案:LH(牡蠣奉行)(2025年・牡蠣等水産物・全国22か所出張販売イベント)
《参考記事》
・出張イベントの販売実績のない「通常価格」表示に有利誤認。「出張カキ小屋 牡蠣奉行」のLH(株)に措置命令 (消費者庁:2025年10月10日)

各類型の実務チェックポイントと違反事例の詳細は、後編(会員限定記事)にて解説しています。
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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。