2023年10月1日に施行された ステルスマーケティング告示の5事案目の行政処分です。
消費者庁は2025年3月25日に、ロート製薬(株)(大阪市生野区)が販売するサプリメント(機能性表示食品)に関する表示に対して、景品表示法第5条第3号による措置命令を行いました。
本件の特徴として、消費者庁は以下の2つの点を挙げています。
・2024年11月の大正製薬に対する措置命令に次ぐ2例目となる大手製薬会社のステマ告示違反であること。
・モニター募集サイト(※)を通じて行われていたことによる事実認定での、景表法では初の事案となること。
(※)モニター募集サイト
事業者が宣伝したい商品等についてのモニターを募集し、当該モニターに対し、当該商品等を無償提供するなどして、口コミ投稿や、アンケートへの回答を求めるなどのいわゆる「モニターサービス」を提供するウェブサイトをいう。
ロート製薬はモニター募集サイトを通じて商品宣伝のためのモニターを募集し、同社が指示する方針に沿ったSNS投稿を依頼。
モニターのSNS投稿を抜粋して、PR表記をせずに自社ウェウサイトに掲載していたことが、一般消費者が事業者の表示であることが判別困難な表示とみなされました。
SNSタイアップ投稿の自社メディア転載でのステマ告示違反認定は、2024年8月のRIZAP、同年11月の大正製薬に対する事案と同様ですが、本件は違反の経緯が異なっています。
過去の2社においては、自社ウェブサイトへの掲載であれば、事業者が関与した第三者の投稿に「広告」であることの明記は不要という判断によるものでした。他方、ロート製薬は、自社ウェブサイトへの掲載においても「広告」であることの明記が必要であることを認識しており、社内の表示設定ミスによるものと弁明しています。
《参考記事》
・大正製薬NMNサプリにステマ告示3事案目。自社WebサイトのSNSタイアップ投稿転載に注意(消費者庁 2024年11月13日)
・「chocoZAP」にステマ告示2事案目。自社WebサイトのSNSタイアップ投稿転載にもPR表記を(消費者庁 2024年8月8日)
処分の内容と「事業者の表示」の要件、その表示方法を確認します。
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ロート製薬株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について
(消費者庁 2025年3月25日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/041488
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違反概要
【対象商品】
「ロートV5アクトビジョンa」と称するサプリメント
【表示媒体・表示期間】
「あなたの目は大丈夫? 提供:ロート製薬 目のお悩みについてのアンケート」と記載のある自社ウェブサイト(LP)
2024年6月4日~7月29日までの間
【違反表示内容】
モニター募集サイトを通じて、第三者に対し、本件商品の無償提供した上、本件商品についてInstagramにロート製薬が指示する方針に沿った投稿をすることなどを依頼した。
依頼され当該第三者が投稿した表示を、画像部分を抜粋して、自社ウェブサイトに表示していた。
このことから、ロート製薬は、本件商品に関する表示内容の決定に関与しているものであり、当該表示は事業者の表示と認められる。
表示例)
「“わたしも”使っています from Instagram」
本件商品一粒を載せた指先、本件商品のリニューアル前の商品及び本件商品を載せた小皿の画像と共に、「1日1粒だから続けやすい」及び「つるんと飲めるソフトカプセル」等。
上記表示は、ロート製薬が当該第三者に依頼した投稿であることを明らかにしておらず、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められない。
よって、当該表示は、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものであった。
表示例:「あなたの目は大丈夫? 提供:ロート製薬 目のお悩みについてのアンケート」と記載のある自社ウェブサイト

「事業者の表示」の要件とその表示方法
ロート製薬はモニター募集サイトを通じて商品の無償提供を条件に、商品宣伝のためのモニターを募集し、モニターに対して商品の無償提供した上で、Instagram上に粒度(見た目)が分かる写真や日常生活で取り入れている様子が分かる写真などを意見・感想と一緒に投稿することを依頼していました。
モニターへの無償提供やその投稿自体は、「第三者の自主的な意思」であれば「事業者の表示」とはなりません。
しかし、本件では、モニター募集サイトを通じてモニターに対して、投稿画像例や投稿例、複数のハッシュタグ(#)を示すなど、ロート製薬が指示する方針に沿った投稿を依頼したことによる表示が、「事業者の表示」と認定されました。
そして、「事業者の表示」となるモニターのSNS投稿を抜粋して、PR表記をせずに自社ウェウサイトに掲載していたことが、一般消費者が事業者の表示であることが判別困難な表示とみなされました。
「事業者の表示」とみなされる第三者の表示については、事業者の表示であることを明瞭に表示することが求められます。自社メディア上の表示であっても、事業者の表示ではない(例えば、専門家や一般消費者等の第三者の客観的な意見として表示をしているように見えるもの)と一般消費者に誤認されるおそれがある場合には、第三者の表示について事業者の表示であることを明瞭に表示する必要があります。
ロート製薬は、モニターのSNS投稿が「事業者の表示」となることおよび、自社ウェブサイトへの掲載においても「広告」であることの明記が必要であることを認識しており、社内の表示設定ミスによるものと弁明しています。
表示の経緯
当社は、インフルエンサーに対して本商品の無償提供及び対価の提供を条件に本商品に関する投稿を依頼し、2023年6月にインフルエンサーによるSNSへの投稿がなされました。当該投稿につきましては、一般生活者が当社の広告であることを判別できるように「#PR」等の表示をしておりました。
その後、当社は当該インフルエンサーの投稿の一部を抜粋し、自社ウェブサイトに表示しました。その際、自社ウェブサイト上に表示しているものであることから、一般生活者においては、インフルエンサーの投稿部分についても当社の広告であることが判別できると考え、その投稿に表示されていた当社の広告である旨を表示せずに、以下のとおり表示しておりました。ロート製薬(株)「消費者庁の措置命令についてのご報告とお詫び」(2025年3月25日)https://www.rohto.co.jp/news/whatsnew/2025/0325_01
(表示例)画像クリックにより投稿本文が表示される掲載様式

https://www.rohto.co.jp/news/whatsnew/2025/0325_01/
事業者の表示であることの明瞭な表示とは
本件で、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」と違反認定された表示には、「PR表記」が全く表示されていなかったため、事業者の表示であることが明瞭ではないことは明らかです。
しかし、違反認定されなかった8件の、画像クリックにより「PR表記」がされた投稿本文が表示される掲載様式について、事業者の表示であることが明瞭と言えるかは疑問が残ります。
消費者庁の公表した「ステルスマーケティングに関するQ&A」では、以下の考え方が示されています。
「投稿の本文ではなくツリー(リプライ)に「広告」などの記載がされている場合は、通常、一般消費者が当該記載に気付かないおそれがあり、事業者の表示であることが明瞭とはいえない場合が多い」
(ステルスマーケティングに関するQ&A Q14)
ロート製薬が採用した掲載様式では、画像をクリックしなければ「PR表記」がされた投稿本文が表示されず、リプライでの表示同様、一般消費者が「PR表記」に気付かないおそれがあります。
また、「“わたしも”使っています from Instagram」というタイトルも、「お客様の声」というタイトル同様、通常、顧客の自主的な意思に基づく感想等が記載されていると理解されるものと考えられ、そのタイトルで「事業者の表示」に当たる第三者の投稿を掲載することは適当ではないでしょう。
「事業者の表示」に当たる第三者の投稿を掲載する場合は、自社の依頼した第三者の投稿であることが、ウェブサイトを見た一般消費者にとって明瞭になる形で表示する必要があります。
(ステルスマーケティングに関するQ&A Q16)
消費者庁の会見では、違反認定されなかったSNS投稿について、事業者の表示として明瞭か不明瞭か、違反認定しなかったポイントについては明らかにしていません。
(※)
「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_230328_03.pdf
ステルスマーケティングに関するQ&A
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/stealth_marketing/#q4
3事例目となるSNSタイアップ投稿の「PR表記」のない自社メディア転載でのステマ告示違反。十分注意が必要です。
《参考記事》
・ステマ告示処分4事案目。医療法人社団スマイルスクエア、Googleマップの口コミ投稿に措置命令 (消費者庁 2025年3月17日)
・医療法人社団祐真会、Googleマップの口コミ投稿にステマ告示初の措置命令 (消費者庁 2024年6月7日)
・広告主に課されるアフィリエイト広告の適正管理。ステマ規制も示される(事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針改正 2022年6月29日)
・顧客による自主的な投稿ではない「口コミ」評価のNo.1表示に優良誤認。埼玉県 整骨院「くまのみ」に景表法措置命令(埼玉県 2023年3月14日)
・「妊活」サプリ、ゼネラルリンクに景表法措置命令 ステマランキングサイトによる広告手法に注意(消費者庁 2020年3月10日)
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