SNSを介した副業等のもうけ話に消安法注意喚起。消費者が自発的に電話を掛けた場合のセールスも注意(消費者庁 2022年11月17日)

今年に入り4件目となる、SNS に関連する情報商材、副業等のもうけ話の消費者安全法に基づく注意喚起が出されています。

2021年5月以降、ウェブサイトに「スマホで簡単 月収100万円」、「定型文を送信した分だけ報酬発生」などとうたう副業のマニュアルを購入させられた後、電話勧誘により、ウェブサイトの説明と全く異なる作業内容の高額なサポートプランを契約させられたという相談が多数寄せられているとして、消費者庁は11月17日、消費者安全法に基づき事業者の社名を公表し消費者への注意喚起を行いました。

社名、事業者の住所、代表者名が公表されたのは、(株)クレヴァーと(株)カーマイン。(クレヴァーは2022年7月8日、カーマインは同年4月12日にそれぞれ会社を解散している)
この2事業者が解散しても、手口が似ている副業の相談が全国の消費生活センターに寄せられており、引き続き注意が必要としています。

本件は悪質な情報商材の勧誘手口に対する注意喚起事案ですが、通信販売事業における、テレビや新聞広告等により消費者が自発的に電話(インターネット回線を使って通話含む)を掛けた場合のセールスにおいて注意すべきポイントも垣間見えてきます。

本件の注意喚起の内容と、SNS のメッセージによる勧誘に対する法規制について確認します。

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「スマホで簡単 月収100万円」、「定型文を送信した分だけ報酬発生」などとうたう副業のマニュアルを購入させ、ライブ配信希望者のエージェントになるためとして高額なサポートプランを契約させる事業者に関する注意喚起
(消費者庁 2022年11月17日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/030975/
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【事業者名】
株式会社クレヴァー
株式会社カーマイン
(クレヴァーは2022年7月8日、カーマインは同年4月12日にそれぞれ会社を解散)

【具体的な事例】
2事業者は、消費者に対し、「7(セブン)」、「マーロン」等の名称の副業を行うためのマニュアルを購入させた後、高額なサポートプランを契約させ、多額の金銭を支払わせていた。
(副業の名称は複数の名称を使っていた)

(1)「副業の紹介サイト」や「副業のランキングサイト」から LINEアカウントとのトークへ誘導
副業を紹介するサイトや副業のランキングサイトには、「簡単な作業 スマホのみ」などと表示されており、興味を持った消費者を LINEアカウントの友だち登録をさせ、勧誘アカウントからは、
「たった 15 分の作業だけで1万円の報酬となり3カ月後の報酬まで安定収入になります」
「既に用意されたテキスト(文章)をコピーして大手のサイトなどに貼り付けるだけ」
などと副業を紹介するメッセージ(事例1)が送信される。

(事例1)勧誘の LINE メッセージの例

(消費者庁公表資料引用)

(2)勧誘アカウントから副業のマニュアルの勧誘をし、購入者を自社ウェブサイトに誘導
副業を行うためには、マニュアルを購入する必要があり、2万円前後の代金を支払わせるよう仕向け、金を支払うと、事業者のウェブサイトに誘導される。

(3)ウェブサイトには、「スマホで簡単 月収 100 万円」などと表示
誘導されたウェブサイトには、本件副業について、「スマホで簡単 月収100万円」、「定型文を送信した分だけ報酬発生」、「報酬発生 最短15分」などと表示されている。(事例2)
ウェブサイトで申込手続を行った消費者を、サポート専用の LINE アカウントの友だち登録をさせ、サポートアカウントから仕事内容について電話で説明するため、電話対応可能な日について教えてほしいとのメッセージを送信。

(事例2)自社ウェブサイトの例

(消費者庁公表資料引用)

(4)電話で消費者を勧誘し、高額なサポートプランを契約させ多額の金銭を支払わせる
事業者は、電話で消費者に対し副業の具体的な内容を説明。
(消費者自身でInstagram のアカウントを立ち上げ、情報を発信しながら、フォロワーになった人の中からライブ配信を希望する人を勧誘し、ライブ配信事業者に登録させるエージェントの作業)
消費者が副業を行うに当たって、LINEや電話による個別相談といった有料のサポートプラン(事例3)を勧誘する。
有料サポートプランには、副業を行った際に見込まれる「収益シュミレーション」が設定されており、事業者は、電話勧誘の際、「必ず儲かります」 「報酬が入るのでプランの費用は実質掛かりません」 「元は十分取れますよ」 などと説明して契約させていた。
有料サポートプランの代金を支払えない場合は、 とりあえず用意できる現金やクレジットカードでの支払を促し、残りの代金については収益を得た後の後払いでよいと提案。

(事例3)有料サポートプラン

(消費者庁公表資料引用)

(5)「和解合意書」の提出を求める
事業者は、消費者に対し、後払いとした有料サポートプランの代金の残額は支払わなくてよいなどと持ち掛け、「和解合意書」の提出を求めた。
この和解合意書は、残額は支払わなくてよいとする一方、取り交わした後は一切返金を求めることができない旨などが定められていた。

虚偽・誇大な広告・表示
(3)の自社ウェブサイトの表示では、あたかも、スマホで簡単に、1日最短15分、定型文を送信しただけで報酬が発生し、月収100万円を稼ぐこともできるかのように表示していた。
しかし、副業の実際の作業内容は、消費者自身で Instagram のアカウントを立ち上げ、情報を発信しながら集客し、フォロワーになった人の中からライブ配信を希望する人を勧誘し、これに応じた人をライブ配信事業者に登録させ、その配信収入の一部が収益になるというもので、ウェブサイトの説明と全く異なるものだった。

断定的判断の提供
事業者は、有料サポートプランの電話勧誘の際、 (4)のとおり、「収益シュミレーション」金額は必ず達成できると説明していたが、収益を稼げるかどうかは、ライブ配信事業者で配信されたライブ配信者の報酬によって左右されるものであって不確実なものだった。
また、消費者庁が行った調査では、「収益シュミレーション」金額を達成した消費者は確認できなかった。


続く、SNS のメッセージによる勧誘に対する消安法による注意喚起

SNS に関連する情報商材、副業等のもうけ話として、今回4件目となる消費者安全法に基づく注意喚起ですが、過去の事案では以下のものがあります。
いずれも販売業者等からの SNS のメッセージによる勧誘が行われており、若者を中心として消費者トラブルとなっています。

1日の作業時間が10分程度の簡単な作業で稼ぐことができるなどと勧誘し副業のガイドブックを消費者に購入させ、その後、電話勧誘により高額なサポートプランを契約させる事業者に関する注意喚起
(消費者庁 2022年9月15日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/030231/

無在庫での転売ビジネスのノウハウを提供するなどとうたい、多額の金銭を支払わせる事業者に関する注意喚起
(消費者庁 2022年4月28日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/024011/

簡単な作業をするだけで「誰でも1日当たり数万円を稼ぐことができる」などの勧誘により「副業」の「マニュアル」を消費者に購入させた事業者に関する注意喚起
(消費者庁 2022年4月13日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/028350/

SNS のメッセージによる勧誘に対する法規制

情報商材等の消費者トラブルにおいては、本件のように、初めから高額契約を勧誘するのではなく、無料又は少額な情報商材等を契約させた後、情報商材等の説明をするためなどと称して消費者に事業者からの電話連絡の予約等をさせ、その電話によって高額なサポート契約等を勧誘する事例(「二段階型事例」という。)があります。二段階型事例において、電話勧誘販売に該当すると考えられる場合であっても、販売業者等が電話勧誘販売の該当性を認めないケースが問題視されています。

SNS のメッセージによる勧誘を受けることについて、法制度上どのような規制を受けるのか、SNSを利用して行われる取引での消費者問題への対応等について取りまとめられた「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ報告書」から確認します。

消費者安全法(平成21年法律第50号)
消費者庁は消費者事故等の発生に関する情報を得た場合に、「消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報」を公表する(同法第38条第1項)。
「消費者事故等」については、「政令で定めるもの」として、消費者契約の締結に関し消費者を勧誘するに際して、不実告知や断定的判断の提供等をすること等が規定されている(消費者安全法施行令(平成21年政令220号)。

消費者被害の発生又は拡大防止のための、消費者への注意を喚起という観点から、他の法律より迅速な対応が取られています。

特定商取引法
SNS のメッセージによる勧誘を受け、それによりインターネット等により契約の申込みを行う場合は、電話勧誘行為がない限り、「電話勧誘販売」には該当せず、「通信販売」に該当する。
通信販売の「広告」については、同法第11条(表示義務)及び同法第12条(誇大広告等の禁止)が定められている。
SNS のメッセージについても、URL を表示すること等により紹介しているサイト(リンク先)を一体として表示することは、電子メール(特定電子メール)と同様に考えられ、通信販売についての「広告」に該当し得ると考えられる。
もうけ話に関してSNS のメッセージではなく、自社サイト上の表示について同法第 12 条(誇大広告等の禁止)による違反認定された事例として、東京都が2020年1月21日に(株)WAVEに対して行った行政処分がある。
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「超簡単『スマホで錬金術』」、「月収120万円稼げる」などとうたい、高額な契約を勧誘する通信販売及び電話勧誘販売事業者に業務停止命令
   ~通信販売業務3か月、電話勧誘販売業務6か月~
(東京都 2020年1月21日)
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/torihiki/shobun/shobun020121.html
————-

SNSのメッセージによる広告表示を含め、特定商取引法第12条の執行強化が求められています。
他方、通信販売においては、広告規制は存在するものの勧誘規制等がないことから、販売業者が電話勧誘販売の該当性を認めないことが消費生活センター等での消費者トラブルの解決の妨げになっています。
しかし、他の者に比して著しく有利な条件で売買契約やサービス提供契約を締結することができる旨を告げ、電話をかけることを要請するなど、事業者の巧みな働き掛けにより消費者が電話をかけさせられ、その電話の中で勧誘を受けるケースについても電話勧誘販売の対象に含めることが「特定商取引に関する法律・解説(令和4年6月1日時点版)」において示されています。

特定商取引に関する法律・解説(令和4年6月1日時点版)
https://www.no-trouble.caa.go.jp/law/r4.html

景品表示法(昭和37年法律第134号)
優良・有利誤認表示等による措置命令や課徴金納付命令あり。

消費者契約法(平成12年法律第61号)
同法第4条において、消費者が事業者から不実告知を受けた場合や将来について変動が不確実な事項について断定的な判断の提供があった等の場合における取消権を規定している。

消費者が自発的に電話を掛けた場合のセールスについて注意

SNSの急速な普及に伴って消費生活相談が増加している状況を受け、その対応について、「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ報告書」を踏まえ、22年9月に消費者委員会より「SNSを利用して行われる取引における消費者問題に関する建議」及び意見が発出されています。
(※)
消費者委員会
デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ報告書(2022年8月26日)
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2022/houkoku/202208_digital_houkoku.html
SNSを利用して行われる取引における消費者問題に関する建議(2022年9月2日)
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2022/0902_kengi.html
SNSを利用して行われる取引に関する消費者委員会意見(2022年9月2日)
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2022/0902_iken2.html

また、通信販売事業においては、テレビや新聞広告等により消費者が自発的に電話(インターネット回線を使って通話含む)を掛けた場合のセールスについて注意が必要です。
クーリングオフの対象外だからと言って、消費者が意図しない契約となることがないよう十分留意することが求められます。

《関連記事》

・「クラスTシャツ」通販の納品遅れに消安法の注意喚起。SNSの販促ツール活用に注意(消費者庁 2022年10月27日)

・見たことのあるSNS広告、「大幅値下げをうたうセール広告」が最多。違法広告に注意(令和3年度 消費者意識基本調査)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。