電子たばこのネット通販定期購入(株)HALに特商法業務停止命令(3カ月)。「メーカー希望小売価格」に誇大広告認定 (消費者庁 2024年4月18日)

2022年6月1日に施行された詐欺的な定期購入商法対策を目的とした、定期購入契約での「最終確認画面」の義務表示事項を定めた特定商取引法改正後、4件目となる法執行です。

消費者庁は、2024年4月18日、電子たばこを販売する通信販売業者である(株)HAL(本店所在地:沖縄県那覇市)と同社の代表取締役座波長に対して、特定商取引法違反で3カ月間の業務停止(禁止)を命じました。
誇大広告(12条)+最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)を適用条項とした法執行が、今年3月15日の(株)サン、4月9日の(株)オルリンクス製薬に続き、今回で3事案目となります。
誇大広告については、「メーカー希望小売価格」による二重価格表示が有利誤認の認定となりました。
他方、最終確認画面の表示義務違反については、定期購入契約の申込みの撤回又は解除に関する事項を表示していなかったことが違反認定されています。

「定期購入」に関するトラブルでは、化粧品、健康食品が8割以上を占めていますが、2021年度あたりから化粧品、健康食品以外にも電子タバコや医薬品など、他の商品にも広がりを見せています。

《参考記事》
・2023年度「定期購入」トラブル、特商法改正後も減少せず。法改正後の処分件数、2件に留まる

処分の内容と、「希望小売価格」などを比較対照価格とする二重価格表示についてチェックしておきましょう。

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特定商取引法違反の通信販売業者に対する業務停止命令(3か月)及び指示並びに
当該業者の代表取締役に対する業務禁止命令(3か月)について
(消費者庁 2024年4月19日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/037529
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【事業概要】

処分対象事業者:株式会社HAL(本店所在地:沖縄県那覇市)
取扱商品:「DR.STICK TypeX スターターキット」と称する電子たばこのセット商品
取引類型:通信販売 
自社ウェブサイト「https://ec.Dr-stick.shop」
楽天ショップページ「https://item.Rakuten.co.jp/drstick-shop/typex-body-r/」
代表者:代表取締役 座波 長

【認定した違反行為】
同社は、次のとおり、特定商取引法の規定に違反する行為をしており、通通信販売に係る取引の公正及び購入者の利益が著しく害されるおそれがあると認められた。

(1)誇大広告(特定商取引法第12条)
少なくとも2023年11月2日から2024年1月12日までの間、楽天ショップページにおいて、商品の販売価格について、「メーカー希望小売価格14,200円 5,000円(税込)」と、実際の販売価格に比して著しく高い価格を「メーカー希望小売価格」として実際の販売価格に併記することにより、あたかも、本件商品について、HALとは無関係の製造業者により「メーカー希望小売価格」が設定されており、実際の販売価格が著しく安いかのように示す表示をしていた。

実際には、本件商品は、HALが自社ブランド製品として企画し、製造を委託した上で専売していた商品であり、楽天ショップページにおいて表示されていた本件商品の「メーカー希望小売価格」は、HALが自ら任意に設定した価格であった。

【表示例】
二重価格表示:

(消費者庁公表資料より引用)

(2)最終確認画面における表示義務違反(特定商取引法第12条の6第1項)
少なくとも20231024日から2024110日までの間、ランディングページ上やランディングページに現れるポップアップをクリックして遷移するチャットボットページ上における定期購入契約の最終確認画面上において、定期購入契約の申込みの撤回又は解除に関する事項を表示していなかった。
撤回又は解除に関する事項:
消費者の都合によるキャンセル・返品・交換は受け付けないこと及び配送完了後のキャンセルは不良品に限られること等。

【表示例】
最終確認画面:

(消費者庁公表資料より引用)

【処分の内容】
(1)業務停止命令
内容:通信販売に関する業務のうち、次の業務を停止すること。
 1)HALが行う通信販売に関する商品の販売条件について広告を行うこと。
 2)HALが行う通信販売に関する商品の売買契約の申込みを受けること。
3)HALが行う通信販売に関する商品の売買契約を締結すること。
期間: 2024年4月19日から2024年7月18日まで(3か月間)

業務停止命令に違反した場合は、行為者に対して3年以下の懲役又は300万円以下の罰金又はこれを併科する手続きを、法人に対しては3億円以下の罰金を科する手続きを行うこととなっています。

(2)指示
1.前記違反行為の発生原因について検証し、違反行為の再発防止策及び社内のコンプライアンス体制を構築(法令及び契約に基づく返金及び解約の問合せ等に適切かつ誠実に応することを含む。)して、これを同社の役員及び従業員に、業務停止命令に係る業務を再開するまでに周知徹底すること。
2.2023年10月24日から2024年4月18日までの間にHALとの間で本件売買契約を締結した全ての相手方に対し、消費者庁のウェブサイトに掲載される、業務停止命令及び本指示をした旨を公表する公表資料を添付して、2024年5月20日までに文書により通知し、同日までにその通知結果について消費者庁長官宛てに文書により報告すること。
3.誇大広告の内容を消費者に周知すること。
4.今後、HALが行う通信販売について、特定商取引法の各規定を遵守すること。

上記指示に違反した者には、6月以下の懲役又は100 万円以下の罰金、又はこれを併科、違反が法人の業務の場合には、行為者を罰するほか、その法人に対し100 万円以下の罰金が課せられます。

また、本件では、HALの代表取締役座波長に対して、同社が命ぜられた業務停止の範囲内の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)を3か月間禁じる処分が下っています。

上記指示に違反した者には、個人は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金が科せられます。

比較対照価格とする希望小売価格の要件とは

本件で誇大広告とみなされた「メーカー希望小売価格」による二重価格表示について、景品表示法上の考え方を確認しておきましょう。

希望小売価格に対する一般消費者の認識とは?
製造業者等により小売業者の価格設定の参考となるものとして設定され、あらかじめ、新聞広告、カタログ、商品本体への印字等により公表されているものであり、このことから、小売業者の販売価格が安いかどうかを判断する際の参考情報の一つとなり得るもの。

比較対照価格とする希望小売価格の要件:

「製造業者等により設定され、あらかじめ公表されている価格」となります。
希望小売価格(参考小売価格)は製造業者等が設定する価格ですので、小売業者が勝手に設定をしてはいけません。

【希望小売価格を比較対照価格に用いる際、不当表示に該当するおそれのある価格表示(抜粋)】
1)希望小売価格(参考小売価格)が設定されていない場合(撤廃されている場合を含む)に、小売業者が設定した任意の価格
2)プライベートブランド商品について小売業者が自ら設定した価格
3)製造業者等が専ら自ら小売販売している商品について自ら設定した価格
4)特定の小売業者が専ら販売している商品について、製造業者等が当該小売業者の意向 を受けて設定した価格

今回の事案では、HALが自社ブランド製品として企画し、製造を委託した上で専売していた商品であり、その件商品の「メーカー希望小売価格」は、HALが自ら任意に設定した価格ということで、2)3)の点が問題となったと考えられます。
価格決定権のある自社ブランド商品について、自ら任意に設定した「希望小売価格」は、消費者が値引きされた販売価格が安いかどうかを判断するための参考情報としては不適切ということです。

◆不当な価格表示についての景品表示法上の考え方
(平成12年6月30日公正取引委員会 改定 平成28年4月1日消費者庁)https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_35.pdf

続く、誇大広告(12条)+最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)による法執行

通販定期購入に関する誇大広告(12条)+最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)を適用条項とした法執行が、本件を含め、3月15日の(株)サン、4月9日の(株)オルリンクス製薬と、約1か月の間に3件立て続けに出されています。
誇大広告については、サンの事案では「No.1表示」、オルリンクス製薬の事案では「定期購入契約が容易に解約できるような表示」、そして、本事案では「二重価格表示」となっています。

通販での定期購入契約に関連した誤認表示違反は、今後も特商法の誇大広告禁止規定(12条)を適用した処分が予測されます。
特商法による処分は、景表法での処分よりも事業へのインパクトが大きいと言えます。
通販での定期購入を行うにあたり「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」は、景表法だけでなく特商法でも規制されることに留意が必要です。

特商法と景表法との処分の違いについては、サンの事案で解説しています。
・No.1不当表示、特商法の通信販売規制でも。法改正後2件目の処分、ネット通販定期購入(株)サンに業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年3月15日)

特定商取引法のポイントについて、以下の記事で解説しています。
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≪参考記事≫

・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)

・消費者保護の更なる強化。特商法・消契法の改正案閣議決定(平成28年3月4日)

・ネット通販定期購入(株)BIZENTOに特商法による業務停止命令(3カ月)。「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン(案)」のパブコメ開始(東北経済産業局 2021年11月25日)

・特商法改正後初の処分。ネット通販定期購入(株)LITに特商法による業務停止命令(6カ月)。積極的な消費者被害救済の指示も(消費者庁 2023年6月28日)

・定期購入契約が容易に解約できるかのような表示。ネット通販定期購入オルリンクス製薬に特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年4月10日)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。