特商法誇大広告の処分続く。薬用歯磨きのホワイトニング効果表示で、マーキュリーに特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年10月31日)

美健商材通販に対する、特定商取引法の誇大広告(12条)を適用条項とした法執行が続いています。
消費者庁は、2024年10月31日、薬用歯磨き等を販売する通信販売業者である(株)マーキュリー(本店所在地:東京都渋谷区)と同社の代表取締役 浅川 浩孝に対して、特定商取引法違反で3カ月間の業務停止(禁止)を命じました。
根拠のない「10秒歯に塗るだけで歯が真っ白」のような表示が誇大広告とみなされました。

今年に入り、通販定期購入に対する、誇大広告(12条)+最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)を適用条項とした特定商取引法による法執行が続いていましたが、本件は誇大広告のみによる違反認定となっています。
通販での定期購入に限らず、合理的根拠なく「実際のものより著しく優良であると人を誤認させるような表示」は、景表法だけでなく特商法でも規制されることに留意が必要です。

処分の内容について確認します。

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通信販売業者【株式会社マーキュリー】に対する行政処分について
特定商取引法違反の通信販売業者に対する業務停止命令(3か月)及び指示並びに
当該業者の代表取締役に対する業務禁止命令(3か月)について
(消費者庁 2024年11月1日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/039874/
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【事業者概要】
処分対象事業者:株式会社マーキュリー(本店所在地:東京都渋谷区)
取扱商品:「o-dent Clear White」(オーデントクリアホワイト)と称する薬用歯磨き等
取引類型:通信販売 自社が運営するウェブサイト「https://ec.bitela.jp/」
代表者:代表取締役 浅川 浩孝

【認定した違反行為】
同社は、次のとおり、特定商取引法の規定に違反する行為をしており、通通信販売に係る取引の公正及び購入者の利益が著しく害されるおそれがあると認められた。

(1)誇大広告(特定商取引法第12条)
本件商品の効能について商品のランディングページにおいて以下の広告をしていた。
商品の効能に関する表示➀
少なくとも2024年1月13日から2024年3月26日までの間、あたかも、本件商品には、商品を歯に10秒程度塗布するのみで、塗布した箇所の歯の黄ばみを完全に除去して歯を白くする効能があるかのような表示をしていた。
「10秒で黄ばみ消えた!・・・本当に10秒歯に塗るだけで歯が真っ白になったんです!」
本件商品の効能を示す歯の画像の表示。
「つまり!オーデントを10秒塗るだけで ・黄ばみを落とす ・永久に白い歯をキープ」

【表示例】
商品の効能に関する表示➀

(消費者庁公表資料より引用)

商品の効能に関する表示②
少なくとも2024年2月27日から2024年7月9日までの間、あたかも、本件商品には、商品を歯に塗布するだけで即座に歯に付着した黄ばみを完全に除去して歯を白くする効能があるかのような表示をしていた。
「歯の蓄積黄ばみを...完全漂白できる裏技 黄ばみボロボロ落ちる理由...」
「黄ばみがベリッ?!」
本件商品の効能を示す歯の画像の表示。
「頑固な黄ばみが消えてモデル級の真っ白の歯に!!」
「使った瞬間に効果を実感できるらしく、『黄ばみがボロボロ落ちた!』『タバコ黄ばみまで完全に落ちた!』と話題に!」
「オーデントはホワイトニング治療で使われる成分『PEG400』を限界配合!・・・その特効成分がステインを浮かせて剝がすんです! だからさっと磨くだけでボロボロ落ちる!!」
「数十年へばりついた黄ばみも余裕で100%落として真っ白の歯に!」

【表示例】
商品の効能に関する表示②

(消費者庁公表資料より引用)

消費者庁は、マーキュリーに対し、特定商取引法第12条の2の規定に基づき当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、同社は資料を提出しなかった。
よって、商品の効能につき、実際のものよりも著しく優良であると人を誤認させるような表示に該当するものとみなされる。

【処分の内容】
(1)業務停止命令
内容:
通信販売に関する業務のうち、次の業務を停止すること。
 1)マーキュリーが行う通信販売に関する商品の販売条件について広告を行うこと。
 2)マーキュリーが行う通信販売に関する商品の売買契約の申込みを受けること。
 3)マーキュリーが行う通信販売に関する商品の売買契約を締結すること。

期間:
 2024年11月1日から2025年1月31日まで(3か月間)

業務停止命令に違反した場合は、行為者に対して3年以下の懲役又は300万円以下の罰金又はこれを併科する手続きを、法人に対しては3億円以下の罰金を科する手続きを行うこととなっています。

(2)指示
1.前記違反行為の発生原因について検証し、違反行為の再発防止策及び社内のコンプライアンス体制を構築(法令及び契約に基づく返金及び解約の問合せ等に適切かつ誠実に対応することを含む。)して、これを同社の役員及び従業員に、業務停止命令に係る業務を再開するまでに周知徹底すること。
2. 誇大広告の内容を消費者に周知すること。
3. 今後、マーキュリーが行う通信販売について、特定商取引法の各規定を遵守すること。

上記指示に違反した者には、6月以下の懲役又は100 万円以下の罰金、又はこれを併科、違反が法人の業務の場合には、行為者を罰するほか、その法人に対し100 万円以下の罰金が課せられます。

また、本件では、マーキュリーの代表取締役 浅川 浩孝に対して、同社が命ぜられた業務停止の範囲内の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)を3か月間禁じる処分が下っています。
※浅川は、マーキュリーの代表取締役であり、かつ、同社が停止を命ぜられた業務の遂行に主導的な役割を果たしていた。

上記指示に違反した者には、個人は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金が科せられます。

効果承認を受けた医薬部外品でも、根拠なく効能効果の範囲を逸脱した広告表現はNG

薬機法上、歯みがき類は化粧品においては「ブラッシングにより歯を白くする」、医薬部外品として承認を得た場合は、その承認の範囲内で「歯を白くする」効果を標榜することができます。本件商品は薬用歯みがきですので、医薬部外品となります。
しかし、根拠のない「歯に塗布するだけで即座に歯に付着した黄ばみを完全に除去して歯を白くする効能」表示は、薬機法上も効能効果の逸脱のおそれがあります。
化粧品、医薬部外品、雑貨といった美健商材において、根拠のない効能効果表示を行うことは、薬機法、景品表示法、特定商取引法による規制を受けます。

特商法での誇大広告(12条)のみによる処分にも注意

景品表示法同様、表示の合理的な根拠を求める第12条の2の規定に基づく誇大広告認定による処分は、今年10月4日の(株)SUNSIRI(美容クリーム)、10月16日の(株)HappyLifeBio(美容液)と、立て続けに発出されています。
また、第12条の2の規定ではありませんが、誇大広告(12条)での処分は今年3月15日の(株)サン(健康食品、No.1表示)、4月9日の(株)オルリンクス製薬(健康食品、解約手続き)、4月18日の(株)HAL(電子たばこ、二重価格表示)と続いていました。
ただし、これまではいずれも誇大広告(12条)+定期購入契約での最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)によるものでしたが、本件は誇大広告のみによる違反認定となっています。
通販事業者は定期購入に限らず、合理的根拠なく「実際のものより著しく優良であると人を誤認させるような表示」が、景表法だけでなく特商法でも規制されることが示された事案と言えます。

特商法の業務停止命令を受けると、通信販売による営業活動ができない

景表法の措置命令では、不当表示を改め消費者の誤認排除措置を行えば、営業活動を行うことは妨げられません。他方、特商法で業務停止命令を受けた場合、処分期間中の通販での広告や注文受付、新規の売買契約を行うことが禁じられることから、実質的な営業活動ができません。
景表法では、課徴金(違反を行っていた期間中の対象商品の売上額の3%)を課せられるものの、特商法による処分は、景表法での処分よりも事業へのインパクトが大きいと言えます。
特商法と景表法との処分の違いについては、サンの事案で解説しています。
・No.1不当表示、特商法の通信販売規制でも。法改正後2件目の処分、ネット通販定期購入(株)サンに業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年3月15日)

今後も、通販に対する特商法による法執行は続くことが予測されますので、通販事業を行うにあたってはしっかりとした社内のコンプライアンス体制やコンプライアンス教育の強化が求められます。

特定商取引法のポイントについて、以下の記事で解説しています。
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≪参考記事≫

・美容液のシミ改善効果+通販定期購入でHappyLifeBioに特商法業務停止命令(9カ月)。続く、誇大広告+最終確認画面の表示義務違反による法執行 (消費者庁 2024年10月16日)

・特商法でも不実証広告規制による違反認定。美容クリームのシミ・しわ改善効果+通販定期購入でSUNSIRIに特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年10月4日)

・電子たばこのネット通販定期購入(株)HALに特商法業務停止命令(3カ月)。「メーカー希望小売価格」に誇大広告認定 (消費者庁 2024年4月18日)

・定期購入契約が容易に解約できるかのような表示。ネット通販定期購入オルリンクス製薬に特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年4月10日)

・No.1不当表示、特商法の通信販売規制でも。法改正後2件目の処分、ネット通販定期購入(株)サンに業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年3月15日)

・特商法改正後初の処分。ネット通販定期購入(株)LITに特商法による業務停止命令(6カ月)。積極的な消費者被害救済の指示も(消費者庁 2023年6月28日)

・ネット通販定期購入(株)BIZENTOに特商法による業務停止命令(3カ月)。「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン(案)」のパブコメ開始(東北経済産業局 2021年11月25日)

・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)

・消費者保護の更なる強化。特商法・消契法の改正案閣議決定(平成28年3月4日)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。