6月30日、消費者庁は、健康食品及び漢方薬等の製造販売事業者さくらフォレスト(株)が提供する機能性表示食品の表示に、不実証広告規制による優良誤認の措置命令を行いました。
・さくらフォレストの機能性表示食品に景表法措置命令、届出表示の根拠認めず。同一根拠届出製品約90件も個別確認へ
(消費者庁 2023年6月30日)
機能性表示食品に対する措置命令は、2017年11月の葛の花由来イソフラボンを機能性関与成分とした機能性表示食品の事案から、2事例目となります。
2事案共に不実証広告規制による優良誤認認定ですが、前回の事案では、科学的根拠に基づく届出表示から逸脱した痩身効果の表示が問題となりました。今回は、届出表示の逸脱表示に加えて、届出表示そのものの裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いているとして不当表示認定されました。
違反対象となった機能性表示食品は、いずれも機能性関与成分に関する研究レビューによる機能性表示の届け出です。
「本品には DHA・EPA、モノグルコシルヘスペリジン、オリーブ由来ヒドロキシチロソールが含まれます。DHA・EPAには中性脂肪を低下させる機能があることが、モノグルコシルヘスペリジンは血圧が高めの方の血圧を下げる機能があることが、オリーブ由来ヒドロキシチロソールは抗酸化作用を持ち、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の酸化を抑制させることが報告されています」と機能性を表示していました。
届出表示に対する違反認定が、業界に衝撃を与えています。
何が問題だったのか。違反認定された届出表示の逸脱表示および、認められなかった届出表示の裏付けとなる科学的根拠について、消費者庁の発表を紐解きます。
※消費者庁による記者会見の内容は以下の動画報道をご確認ください。
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機能性表示食品の届出表示にメス 景表法違反認定、さくらフォレストに措置命令
(ウェルネスデイリーニュース 消費者庁による記者会見動画)
https://youtu.be/4e81dwBaxr4
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違反認定された内容
(1)届け出表示を逸脱した表示(例:「きなり匠」自社ウェブサイト)
高めの血圧を大きく下げる効果、中性脂肪を低下させる効果、血中のLDLコレステロールの酸化を抑制させる効果の表示
表示例:
・「血圧がグーンと下がる」
・身体の組織機能等に関する不安や悩みなどの問題事項を例示
「こんな方にオススメ! ☑血圧を気にしない生活を送りたい方 ☑血圧・中性脂肪を下げたい方 ☑健康診断の結果が気になる方 ☑いつまでも健康でありたい方」
・体験談
「感動のお声も続々!」、「01 血圧への不安が減りました! 62歳/女性 日頃の食事や運動も気をつけていたのですが、注意を受けてしまって。どうしようかと思っていたときに、友人の紹介できなり匠を飲み始めたのですが、今では不安もなく過ごせています。」等。
フィデスのコメント:
「血圧がグーンと下がる」の表現については、誇張表現が届け出表示の逸脱とみなされました。身体の組織機能等に関する不安や悩みなどの問題事項の例示は健康保持増進効果表示として、体験談表示も虚偽誇大表示とみなされています。
詳しくは、2022年12月改定の「健康食品に関する景品表示法および健康増進法上の留意事項」をご確認ください。
・健康食品広告で問題となる虚偽誇大表示のポイント
(「健康食品に関する景品表示法および健康増進法上の留意事項」一部改訂 2022年12月5日)
【表示例】自社ウェブサイト

(2)届出表示の裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いている表示(例:「きなり匠」容器包装)
「中性脂肪 LDLコレステロール 血圧が気になる方へ」「本品にはDHA・EPA、モノグルコシルヘスぺリジン、オリーブ由来ヒドロキシチロソールが含まれます。DHA・EPAには中性脂肪を低下させる機能があることが、モノグルコシルヘスペリジンは血圧が高めの方の血圧を下げる機能があることが、オリーブ由来ヒドロキシチロソールは抗酸化作用を持ち、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の酸化を抑制させることが報告されています。」
【表示例】容器包装「きなり匠」

【DHA・EPAによる中性脂肪低下機能】
消費者庁の見解:
DHA・EPAに中性脂肪低下機能があることを否定するものではない。
しかし、『きなり匠』はDHAおよびEPAを合わせて1日当たり400mg、『きなり極』は500mgをそれぞれ摂取できる商品設計に対して、根拠資料として提出された30報以上の論文は、本件商品に含まれるDHA・EPAの1日当たり摂取量の倍近い量で検証されたものがほとんどだった。論文で得られた結果と商品に含まれる成分量が適切に対応していない。
根拠資料には、1日当たり400mg以下でも効果があるとする論文も含まれていたが、効果が認められないとする論文も同程度あった。
システマティック・レビュー(SR)は肯定的な論文と否定的な論文の結果を両側面から適切に評価する必要があり、同社が届け出たSRは、適切な評価が行われていたとは認められなかった。
DHA・EPAの配合量の参考数値として、医薬品の場合は1,680mgあるいは1,800mg、トクホでも860mgもしくは1,050mgが1日当たり摂取目安量になっている。
フィデスのコメント:
公表されている「届出食品の科学的根拠等に関する基本情報」における、「製品の機能性に関する届出者の評価」では、以下のように記載されています。
オ.主な結果:
検索により37報が研究レビューの対象となり、疾病に罹患していない者を対象とした16報のうち10報、中性脂肪値がやや高めの者を対象とした21報のうち15報が、当該の機能性を認めていた。
また、群間比較において当該機能を認めた報告において、1日当たりのDHA・EPAの摂取量は133~10,440 mg、摂取期間は3~14週間であった。
本製品は1日当たりの摂取目安量中にDHAとEPAの総量として400mg含むため、当該機能に対する有効性が期待できるものと判断した。カ.科学的根拠の質:
採用文献のエビデンス(科学的根拠)総体について、バイアスリスク(偏りの危険性)は低(0)、エビデンスの強さは強(A)と評価した。なお、日本で実施された研究6報のうち、4報が当該の機能性を肯定しており、日本人への外挿性に問題はないと考えられる。よって、機能性関与成分DHA・EPAを1日当たり133 mg以上摂取することにより、中性脂肪を低下させる機能が認められると考えられる。
この内容を見る限り、機能性が認められなかった12報の論文についての言及がなく、研究レビューにおいてDHA・EPAの1日当たり摂取量の多寡による機能性の評価の分析をしておらず、単純に機能性を認めた研究報告の最低摂取量である133 mg以上摂取すれば、機能が認められると判断しています。
これはさすがに合理的な判断とは認められないでしょう。
また、「DHA207㎎+EPA54㎎の魚食を週に3回摂取(8週間)」摂取させた試験データを研究レビューの対象となった論文のうち、「代表的な一報」として広告に掲載していることも問題です。
自社ウェブサイトにおけるDHA・EPAによる中性脂肪低下機能に関する試験データ表示
プラセボ群と摂取群のDHA・EPA摂取前、DHA・EPA摂取後(8週間後)における中性脂肪の変化量の値を示したグラフ。
「データ選択理由:研究レビューの対象となった論文のうち、代表的な一報を事例として提示 摂取:DHA207㎎+EPA54㎎の魚食を週に3回摂取(8週間)」と記載。

【モノグルコシルヘスペリジンによる血圧低下機能】
消費者庁の見解:
モノグルコシルヘスペリジンの血圧低下機能に関して提出された根拠資料は、醬油を減塩醤油に置き換えた場合の減塩効果を前提とした論文で、減塩醤油と同成分を併用した場合の血圧低下機能を検証したものだった。本来であれば、減塩醤油による減塩効果の部分も加味すべきところ、提出された根拠資料では、当該成分(モノグルコシルヘスペリジン)をサプリメントとして単独で使用した場合の(血圧低下)効果を裏付けるものとしては認められない。
フィデスのコメント:
公表されている「届出食品の科学的根拠等に関する基本情報」における、「製品の機能性に関する届出者の評価」では、以下のように記載されています。
(エ)レビュー対象とした研究の特性
複数の論文データベースから、関連文献を調査・収集しました。事前に設定した適格基準をもとに、血圧が正常高値からやや高めの成人を対象としたモノグルコシルヘスペリジンを摂取する試験で、血圧について評価した臨床研究3報を採用し、機能性の根拠となり得るかを総合的に検証しました。(オ)主な結果
文献3報を定性的レビューの対象としました。いずれもプラセボを対照としたRCT研究であり、血圧が正常高値からやや高めの成人がモノグルコシルヘスペリジンを摂取すると、血圧が低下する効果が認められました。さらに、健常者(正常高値血圧者)でも同様の効果が確認されました。これらを総合的に評価した結果、エビデンスの強さは中程度であり、1日当たりモノグルコシルヘスペリジン17.9 mg以上の摂取が、血圧が正常高値からやや高め及び、健常(正常高値血圧者)な成人の高めの血圧を低下させることに有効であると判断しました。
この内容を見る限り、届出者はレビュー対象とした論文が「減塩醤油と同成分を併用した場合の血圧低下機能を検証したもの」であったとしても、当該成分の血圧低下効果の根拠に足ると判断していることとなります。
しかし、成分非配合のプラセボを対照として、成分配合の減塩醤油で効果があったからと言って、それはあくまで「成分配合の減塩醤油」の効果データであり、成分単独で効果が得られることの根拠としては不十分と言えます。
自社ウェブサイトにおけるモノグルコシルヘスペリジンによる血圧低下機能に関する試験データ表示
プラセボ食品群とモノグルコシルヘスペリジンを含む試験食品群の摂取前、4週間後、8週間後、12週間後における収縮期血圧の変化量を示したグラフ。
「データ選択理由:研究レビューの対象論文のうち、代表的な一報を事例として提示 文献名:糖転移ヘスペリジン配合減塩しょうゆタイプ調味料の正常高値血圧者とⅠ度高血圧者に対する効果」と記載。

【オリーブ由来ヒドロキシチロソールによる血中LDLコレステロールの酸化抑制機能】
消費者庁の見解:
オリーブ由来ヒドロキシチロソールの血中LDLコレステロール酸化抑制効果に関して、被験者群と非被験者群で有意差を比較しているが比較方法が不適切。有意差があるかないかの検定においてのデータの解析の仕方が不適切であった。
フィデスのコメント:
公表されている「届出食品の科学的根拠等に関する基本情報」における、「製品の機能性に関する届出者の評価」では、以下のように記載されています。
5.主な結果 採択論文3報は、健常成人に対しオリーブ由来ヒドロキシチロソールを1.59mg~50mgを単回または3週間継続摂取させた試験であった。3報とも摂取期間後、プラセボと比較して有意に血中LDLコレステロールの酸化抑制効果が認められた。本製品のヒドロキシチロソール含有量は5.25mg/日であるが、採択論文のうち1報で、オリーブ由来ヒドロキシチロソール単独で5.25mgでの有効性を示しており、本製品の機能性に問題ないと考えられる。
この内容を見る限り、届出者はレビュー対象とした論文において、プラセボと比較して効果に関して有意差があると述べており、それが虚偽でない限り、採択した論文そのものの統計解析方法に問題があったこととなり、それを見極められなかったとみられます。
自社ウェブサイトにおけるオリーブ由来ヒドロキシチロソールによる血中LDLコレステロールの酸化抑制機能に関する試験データ表示
プラセボ群とヒドロキシチリソール群の摂取前、0.5時間後、4時間後における血中酸化LDLコレステロールの変化量を示したグラフ。
「酸化LDLコレステロール値の変化量 研究レビューで評価 コレステロールが平均8.1㎎/dL減少の差」と記載。

研究レビューによる機能性評価での届出者に求められること
今回の事案では、機能性表示の研究レビュー(SR)での検証や、SRに採択した論文に問題があり、届出表示そのものの裏付けとなる科学的根拠の合理性が認められませんでした。
そもそも届け出表示に合理的根拠が認められなければ、前提となる機能性の表示根拠が崩れ、届け出表示を逸脱した「はみだし表現」に対していくら注意を払ったところで無駄な努力となります。
現在、機能性表示食品のすべての届出商品7049件のうち、研究レビューを機能性評価方法としている商品が6735件と95%以上を占めています。(2023年7月5日時点)また、同一の科学的根拠による届出商品が多数存在する実態があります。
原料・OEMメーカーが示した科学的根拠や機能性の資料に基づいて届け出を行ったとしても、他者に表示内容の決定を委ねたとして、故意過失を問わず、景表法上の表示責任は販売事業者となります。
また、他社の研究レビューを用いて届け出る場合、届出者は「多数の企業が受理されているから、大丈夫だろう」と判断するのは危険であることが、今回の事案で明らかとなりました。
届出者は自社において論文の1報1報と研究レビューの記載内容とを確認し、「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」、「機能性表示食品に関する質疑応答集」、事後チェック指針にも照らし合わせて、その研究の質が科学的根拠に足るものかを判断する必要があります。
機能性表示食品制度は、事業者が自らの責任において科学的根拠を基に食品の機能性を表示し販売するものである以上、しっかりとしたシステマティックレビューを自社で行う責任が求められます。
《参考記事》
・「葛の花」機能性表示食品9社に景表法課徴金納付命令。自主的お詫び社告の影響は?(消費者庁:平成30年1月19日)
・「葛の花」16社、特定適格消費者団体から返金申し入れ。課徴金だけじゃない被害回復裁判リスク!(消費者支援機構関西 22018年3月5日)
・日本サプリメント トクホ初の許可取り消しと、規制強化の動向
・トクホ取消の日本サプリメントに景表法措置命令 強まる景表法の取組(消費者庁:平成29年2月14日)
・返金計画示されず トクホ取消の日本サプリメントに景表法課徴金納付命(消費者庁:平成29年6月7日)
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