ペット用サプリメントの効能効果表示と「No.1」表示に景品表示法による処分です。
消費者庁は6月14日に、健康食品の製造・販売事業者(株)バウムクーヘン(福岡市中央区)が通信販売で提供するペット用サプリメントの白内障治療効果の表示に、不実証広告規制(※)による優良誤認の措置命令を行いました。
「品質満足度」「口コミ人気」「友人にすすめたい」など7項目に対するNo.1表示についても、優良誤認とみなされました。
今回の処分で注目すべきポイントです。
・ペット用サプリの効能効果の暗示的表現に優良誤認認定
・アフィリエイト広告管理の不徹底
・不適切な「No.1」表示に多用されるイメージ調査と調査対象設定
サプリメントは人間用のものに限られず、動物用のものも薬機法の規制の対象となります。動物の疾病の治療・予防といった医薬品的な効能効果を標榜することはできません。本事案では、自社ウェブサイトの表示においては薬機法を意識していたことがうかがえますが、暗示的な表現やアフィリエイト広告に対する景表法規制の理解が不十分であったと言えるでしょう。また、安易な「No.1」表示を行うことは違反リスクを伴いますので、今後も十分注意が必要です。
処分の内容と、暗示的な表現のリスク、アフィリエイト広告の適正管理、適正なNo.1表示のための要件を確認します。
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株式会社バウムクーヘンに対する景品表示法に基づく措置命令について
(消費者庁 2023年6月14日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/033617/
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(※)
不実証広告規制(7条2項)
消費者庁長官は、商品・サービスの内容(効果、性能)に関する表示についての優良誤認表示に該当するか否かを判断する必要がある場合に、期間を定めて、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。
⇒ 事業者が資料を提出しない場合又は提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合は、当該表示は不当表示とみなされる。
【違反内容】
対象商品:
「アイズワン」と称するペット用サプリメント
表示媒体・表示期間:
インターネット広告用自社ウェブサイト:2022年4月4日~7月12日
「愛犬と満喫ライフ」、「5分ブログ」と称するアフィリエイトサイト:
2022年6月8日、13日、15日、22日、29日、7月5日~7日、13日、20日、27日、29日、8月3日、10日、17日、25日
EC用自社ウェブサイト:
2022年7月7日、13日、20日、27日、29日、8月3日、10日、17日、25日、2023年4月13日~5月16日
表示内容:
(1)サプリメントの効能効果表示
《インターネット広告用自社ウェブサイトの表示》
目が白濁している犬のイラストと共に、「年齢とともに不自由になっていくココ・・・ 若々しかった目の輝きもなくなったような・・・」、
犬の飼い主が目が白濁している犬を抱えているイラストと共に、「ココ・・・」及び「私にもできることが何かあるはず!!」、
商品の容器包装の画像を掲載した上で、犬を抱えた犬の飼い主のイラストと共に、「私も試してみます!」、
目の周りにキラキラした光の加工を施した犬の画像と共に、「クリアで綺麗な 透き通った気分に!」等と表示。
あたかも、本件商品を犬に摂取させることにより、犬の白濁した瞳が改善する効果が得られるかのように示す表示をしていた。
《「愛犬と満喫ライフ」と称するアフィリエイトサイト》
「【まとめ】犬の白内障サプリ・アイズワンの口コミや評判をおさらい!目薬よりおすすめな理由も!」と記載した上で、
「アイズワンの口コミや評判は? ・アイズワンを使い始めて目の濁りが少なくなった ・獣医さんから目が良くなっていると褒められた ・目が濁り出してから散歩を嫌がっていた愛犬が散歩に行くようになった」、
「私が白内障のワンちゃんにオススメしているのはアイズワンです。」等と表示。
あたかも、本件商品を犬に摂取させることにより、犬の白内障が治る効果が得られるかのように示す表示をしていた。
実際:
同社に対し、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、資料が提出された。しかし、当該資料は当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められなかった。
【表示例】インターネット広告用自社ウェブサイト
【表示例】「愛犬と満喫ライフ」と称するアフィリエイトサイト
(2)No.1表示
《EC用自社ウェブサイト》、
「皆様に選ばれて 7冠達成!」、「No.1 日本トレンドリサーチ 初めてでも安心の愛犬のアイケアサプリ」、「No.1 日本トレンドリサーチ 愛犬のアイケアサプリ 口コミ人気」、「No.1 日本トレンドリサーチ 愛犬のアイケアサプリ 品質満足度」等と表示。
あたかも、バウムクーヘンが販売する本件商品及び他の事業者が販売する同種商品に関する「食べさせやすさ」、「愛犬家におすすめ」、「初めてでも安心」、「口コミ人気」、「長く続けられる」、「友人にすすめたい」、「品質満足度」の7項目をそれぞれ客観的な調査方法で調査した結果において、バウムクーヘンが販売する本件商品に関する7項目の順位が第1位であるかのように示す表示をしていた。
実際:
バウムクーヘンが委託した事業者による調査は、7項目について、委託事業者が指定する本件商品及び他の事業者が販売する同種商品に関する各事業者のウェブサイトの印象を問うものであり、回答者の条件を付さずに委託事業者に登録している会員全員を対象に行われたもので、7項目をそれぞれ客観的な調査方法で調査したものではなかった。
【表示例】EC用自社ウェブサイト
効能効果の暗示的表現も優良誤認認定
自社ウェブサイトの表示では、明確な「白内障」という疾病名の文言はありませんが、画像を含めた暗示的な表現から、「犬の白濁した瞳が改善する効果」を示す表示とみなされました。
健康食品の効能効果の暗示的表現に対する違反認定について、本件はペット用のサプリメントですが、人用のサプリメントで同様の事案があります。
「ボンヤリ・にごった感じの目の症状を改善する効果」に対する不実証広告規制を用いた処分として、2017年3月の(株)だいにち堂に対する措置命令事案がありました。当事案も、目の症状を改善する効果を明示的に表現しておらず、しかし、表示全体から一般消費者が受ける「印象」、「期待感」として、「ボンヤリ・にごった感じの目の症状を改善する効果」が得られるとみなされました。
だいにち堂はこれを不服として処分取消しを求め提訴しましたが、20年10月に東京高裁に請求を棄却され、最高裁に上告しましたが棄却されています。
(上告審では、景表法の不実証広告規制の規定が憲法第21条「表現の自由」等を侵害するかが争われた。)
・「いわゆる健康食品」の暗示的広告表現に対する消費者庁の判断。「アスタキサンチン アイ&アイ」に景表法措置命令(消費者庁:平成29年3月9日)
アフィリエイト広告の適正管理に注意
他方、アフィリエイトサイトでは、「犬の白内障サプリ」という疾病名の文言があり、口コミ・体験談の内容も事業者の表示として違反認定を受けています。自社サイトだけでなく、アフィリエイトサイトの内容についても広告主の表示責任となることについて、事業者の広告管理意識が甘かったと言えるでしょう。
アフィリエイト広告に対しては、景品表示法の適用などに関する考え方として「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」と、景品表示法26条「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」が一部改訂され、2022年6月29日に公表されたところです。
・広告主に課されるアフィリエイト広告の適正管理。ステマ規制も示される(事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針改正 2022年6月29日)
アフィリエイト広告に関する景品表示法措置命令は、2020年に埼玉県による事案1件、2021年に消費者庁による事案2件、2023年3月に東京都による事案1件(2社)の措置命令が出されています。
今後も厳しい法執行が予想されます。
・埼玉県、ダイエットサプリ通販のニコリオに景表法措置命令と特商法業務停止命令。アフィリエイトも注意! (埼玉県 2020年3月31日・4月1日)
・T.Sコーポレーション男性用育毛剤のアフィリエイト広告に、消費者庁による初の景表法措置命令 (消費者庁 2021年3月3日)
・アフィリエイトに加えてインスタ投稿が違反対象表示に。アクガレージとアシストの豊胸サプリに景表法措置命令(消費者庁 2021年11月9日)
・アフィリエイト、広告代理店に決定を委ねた場合の表示責任。ツインガーデンの痩身サプリとエムアンドエムのシワ改善医薬部外品に景表法措置命令(東京都 2023年3月28日)
「No.1」表示に求められる客観的な調査方法
本件の「No.1」表示が不適正とみなされたポイントは、「No.1」評価調査において不適切な「調査対象者」設定がなされ、客観的な調査方法に基づく評価ではなかった点です。
「品質満足度」、「おすすめ」、「食べさせやすさ」、「長く続けられる」、「初めてでも安心」、「口コミ人気」といった調査項目についての調査対象者の条件には、調査対象商品の利用者であることや、ペットフードについての知見のある者が対象者条件の設定に求められます。
また、「品質満足度」、「おすすめ」に関する調査方法については、サイトのイメージ調査では評価することはできません。
本件では、No1.表示に対して、サイトのイメージ調査である旨の調査方法や概要について打消し表示が記載されていますが、打消し効果は認められていません。
過去のNo.1表示に対する不当表示事案でも、満足度調査に「サイトのイメージ調査」が用いられています。
過去事案である、エステのPMKメディカルラボやオンライン個別学習指導のバンザンの「満足度No.1」表示においても、満足度調査に対して実際にサービスを利用したことのない対象者に対するサイトのイメージ調査の結果が使用されています。
・エステのPMKメディカルラボ、不適正な「満足度1位」表示に景表法措置命令。(消費者庁 2022年6月15日)
・オンライン個別学習指導のバンザン、不適正な「満足度1位」と期間限定キャンペーンに景表法措置命令。(消費者庁 2023年1月12日)
「No.1」表示に対する監視の目が強まる中、広告主だけではなく、関連する調査会社や広告代理店に対しても適正化に向けた取り組みが求められます。
適正なNo.1表示のための要件とは
2008年6月に公正取引委員会が、消費者モニターを活用したNo.1表示に関する実態調査を行い、景品表示法上の考え方を整理し「No.1表示に関する実態調査について」(※)という報告書を公表しています。
報告書では、適正なNo.1表示のための要件として、以下の要件の両方を満たす必要があるとしています。
- No.1表示の内容が客観的な調査に基づいていること
- 調査結果を正確かつ適正に引用していること
「No.1表示」を行う際の景品表示法上の注意点について、以下の記事で解説しています。
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ペット用品をめぐっては、景表法における不当表示とは別に定期購入トラブルも起きています。特定商取引法の観点からも注意が必要です。
・ペット用品のネット通販で定期購入トラブル急増。前年同期件数の6倍以上
(国民生活センター 2023年2月1日公表)
≪参考記事≫
・FREETELのSIMサービス、「業界No.1」「通信料0円」表示に優良・有利誤認の景表法措置命令。打消し表示に注意を(消費者庁:平成29年4月21日)
・埼玉県 接骨院MJGの「お客様評価」「やせプログラム」表示に景表法措置命令(埼玉県 2019年11月18日)
・埼玉県、家庭教師派遣(株)ワン・ツー・ワンに景表法措置命令。合格率や教師登録数、解約料等の表示に誤認認定 (埼玉県 2020年9月14日)
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