改正特商法施行から3年、2025年も続く「通販定期購入」への厳しい法執行 ―行政が問題視する「違反パターン」とは

2024年度以降、美容系商材の通信販売における定期購入に対し、特定商取引法(特商法)に基づく行政処分が集中的に行われています。
特に注目されたのは、2025年9月と11月に立て続けに業務停止命令(6か月)が発出された、ASUNOBI(株)と(株)BIZMによる「双子の事案」です。酷似した広告表現に対し、間を置かずに発出された厳罰は、業界に大きなインパクトを与えました。
詐欺的な定期購入商法対策として2022年6月に特商法が改正・施行され、規制が強化されたにもかかわらず、これほどまでに厳しい法執行が続いているのはなぜなのでしょうか。
その背景には、沈静化する兆しの見えない通販定期購入による消費者被害状況があり、今後はデジタル取引そのものに対する法制度の見直し検討も進んでいます。

本稿では、この厳しい法執行の波に対応するため、通販定期購入を手掛ける事業者が今確認すべき「最新の規制動向」を解説します。

【目次】
●「定期購入」トラブルの現状と特商法改正の影響
●強化された行政執行:処分と指導の傾向
●行政が問題視する通販定期購入の「違反パターン」

「定期購入」トラブルの現状と特商法改正の影響

●特商法改正後も高止まりする消費者相談

消費生活相談件数は年間約90万件前後で推移しており、そのうち「通信販売」の相談件数は約3割を占めます。直近の2024年度は33万5千件(全体の36.8%)に達しました。 通信販売のうち、特に問題視される「定期購入」に関する相談は、2023年度に一時減少したものの、2024年度は89,044件と再び増加に転じています。2025年度も前年同期と同水準で推移しており、依然として高止まりの状態にあることがわかります。
「定期購入」に関する被害相談の中心内容:
・化粧品や健康食品など、美・健商材のインターネット通販が主体。
・SNS広告等を見て「1回限り」「回数縛りなし」と確認したが、実際は複数回受け取りが条件の定期購入だったというケース。

通信販売での定期購入相談
PIO-NETに登録された相談件数の推移

※定期購入に関する相談のうち、通信販売で購入した相談(うち「商品」に関するもの)に限定して集計
(国民生活センター 2025年8月1日:公表)
https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/subscription_traps.html
2024年度 全国の消費生活相談の状況-PIO-NETより-(国民生活センター 2025年8月6日:公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20250806_3.html

●抑制効果が限定的だった2021年特商法改正

詐欺的な定期購入商法対策を目的とした2021年特定商取引法改正2022年6月1日施行)では、以下の規制が導入されました。
最終確認画面の表示義務: ショッピングカートの「最終確認画面」等に取引内容に関する義務表示事項を設ける。
誤認表示の禁止: 定期購入契約において「お試し」「トライアル」、「いつでも解約可能」などの強調表示で消費者を誤認させる表示を禁止する。

違反行為により消費者が誤認して申し込んだ場合には取消権が認められ、契約解除の妨害行為には罰則が科されます。しかし、残念ながら法改正後も相談件数は沈静化していません。この状況が、規制当局をさらなる法執行の強化と、抜本的な法規制の見直しへと向かわせていると推察されます。

強化された行政執行:処分と指導の傾向

行政の取り組みとして、上記法改正のほか、23年9月に消費者庁取引対策課内に「デジタル班」を設置し、通信販売に関する法執行を強化しています。
また、行政処分だけでなく行政指導や注意喚起等の様々な手段で適正化を図っています。

●行政処分:集中的な法執行と、誇大広告と最終確認画面の表示違反のセット適用

改正特定商取引法施行(2022年6月1日)直後は、国による通販に対する行政処分件数は、2023年6月の1案件に留まっていましたが、デジタル班の体制強化後、2024年3月以降8案件、2025年は11月までに3案件と集中的に法執行が行われています。
また、2024年12月には東京都も1案件(3社)の処分を出すなど、自治体との連携も見られます。
違反内容には顕著な傾向が見られます。

セット適用:
2024年以降の処分11案件中10案件が、「誇大広告(法第12条)」と、法改正で追加された「最終確認画面の表示違反(法第12条の6)」のセット適用となっています。
違反類型:
通販定期購入での消費者相談の多い品目が化粧品や健康食品であることから、11案件中8案件が、商品の効能効果表示の裏付けとなる合理的な根拠を求める法第12条の2の規定に基づく誇大広告(優良誤認)の違反認定となっています。
それ以外の3案件についても、景品表示法での違反認定の多い「No.1」表示(優良誤認)、二重価格表示(有利誤認)や、契約解除(優良誤認)に対して特商法の誇大広告による違反認定となっています。

こうした傾向から、行政は「数値・画像・動画を用いた過剰な即効性の訴求により顧客を誘引し、契約内容を誤認させる最終確認画面で申し込ませる」という一連の流れを、構造的な問題として厳しく取り締まっていることが伺えます。

国による通信販売の行政処分件数(案件ベース)2023年度以降

●行政指導:解約窓口(電話番号)の不備への注視

違反が疑われる案件についての行政指導は、2023年9月~2024年4月において6案件、2024年5月~12月において6案件となっています。
処分に至らないまでも、行政指導の段階でその方針が鮮明に現れています。

指導対象の変化:
2023年9月~2024年4月では、6案件中4案件がプラットフォーム事業者に対するものでしたが、2024年5月~12月では、6案件すべてが事業者に対するものへと移行しています。
指導の傾向:
適用条項の件数ベースで、広告表示義務違反(法第11条)が14件(2023年9月~2024年4月:8件、2024年5月~12月:6件)と集中しています。
特に目立つのが、解約受付の電話番号に関する不備(法第11条第5号、6号違反)です。
プラットフォーム事業者に対しては、広告表示に確実に連絡が取れる電話番号を表示していなかった(法第11条第6号(電話番号))疑いによるもの。事業者に対しては、2024年5月~12月の6案件のうち3案件が、定期購入契約で電話での解約を受け付けているにもかかわらず、広告に確実に連絡が取れる電話番号を表示していなかった(法第11条第5号、6号(撤回又は解約、電話番号))疑いによるものでした。
その他は、誇大広告(法第12条)が3件(2024年5月~12月)、最終確認画面の表示違反(法第12条の6)」が2件(2023年9月~2024年4月)です。

定期購入契約に関する違反表示の中でも、解約窓口(電話番号)の非表示(法11条違反)は指導に留まる傾向にあると推察されます。

国による通信販売の行政指導件数(案件ベース)

●通販サイト監視による注意喚起事案は約1,200件

モニタリング調査による注意喚起も活発です。消費者庁は、ネット通販・ネットオークション・テレビ通販等の通販サイトのモニタリング調査により、事業者に対して注意喚起通知を行っています。
2024年4月から12月末までの9カ月間で約1,159件(内、ネット通販435件)が発出されており、行政の監視の網は、大規模な処分案件以外にも広範に張り巡らされているのが現状です。

行政が問題視する通販定期購入の「違反パターン」

類型1
定期購入契約の2回目を受け取らない場合、高額な手数料がかかるにもかかわらず、広告及び最終確認画面にその旨の表示がないもの。
主な適用条項:
誇大広告(法第12条)有利誤認、事実相違(分量・価格・支払の時期及び方法・引渡時期・解除)
最終確認画面における誤認表示(法第12条の6第2項)

類型2
最終確認画面にて、容易に解約ができるように示しておきながら、実際には煩雑な手続を要するもの。
主な適用条項:
誇大広告(法第12条)優良誤認
最終確認画面の表示義務違反(法第12条の6第1項)(解除)

類型3
広告及び最終確認画面にて、当該ページからは単品のお試し購入を申し込むことになるかのように示しておきながら、実際には定期購入契約を申し込むことになるもの。
主な適用条項:
誇大広告(法第12条)有利誤認、事実相違(分量・価格・支払の時期及び方法・引渡時期・解除)
最終確認画面の表示義務違反(法第12条の6第1項)(分量・価格・支払の時期及び方法・引渡時期・解除)
最終確認画面における誤認表示(法第12条の6第2項)

2024年以降の行政執行は、「誇大広告」と「最終確認画面」を両輪とする、より厳格なコンプライアンス体制を事業者に求めています。
貴社の通販定期購入に関する広告表示、特に「最終確認画面」と「解約導線」は、上記の違反パターンに該当しないと自信を持って言い切れるでしょうか。今一度、現場の実務を点検する必要がありそうです。

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さらに、2026年に向けたデジタル取引に対する法制度改正の最新動向など、健全な事業継続のために実務担当者が今備えるべき要諦を網羅的に解説します。
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≪参考記事≫

・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)

・消費者保護の更なる強化。特商法・消契法の改正案閣議決定(平成28年3月4日)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。