4割弱が懐疑的、問われるNo.1表示の信頼性。「No.1表示」の注意点とは

今年に入り、「満足度1位」などと記した「No.1 広告」をめぐって、非公正な「No.1 調査」に基づく表示が問題視されているところです。
今年1月には日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)が、「非公正な『No.1調査』への抗議状」と題した抗議文を発表し、No.1を謳うために結果ありきの調査に誘導する、調査対象者や質問票を恣意的に設定する非公正な「No.1 調査」を請け負う事業者に対する警鐘を鳴らしています。

非公正な「No.1 調査」への抗議状
((一社) 日本マーケティング・リサーチ協会 令和4年1月18日)
https://www.jmra-net.or.jp/rule/20220118.html

また、法執行状況としても、6月には非公正な「No.1 調査」によるエステ会社の「施術満足度1位」の表示に優良誤認の景品表示法の措置命令が出されています。
・エステのPMKメディカルラボ、不適正な「満足度1位」表示に景表法措置命令。(消費者庁 2022年6月15日)

このような不公正な調査を行ってまで、事業者が「No.1」訴求を行おうとするのは、売上実績をはじめ、顧客満足度、商品の効果・性能等々の「No.1」訴求が、商品やサービスの優良性を示すのに効果的な手法であるという認識があるからだと考えられます。
実際、2008年に公正取引委員会が、「No.1表示」について消費者の優良誤認を招くおそれのある表示として、消費者モニターを活用したNo.1表示に関する実態調査を行い、No.1をうたう際には、その根拠として客観的な調査に基づいたデータの裏付けがなければ、景品表示法に抵触する可能性があるという考え方が示されています。(※1)

(※1)
No.1表示に関する実態調査報告書(公正取引委員会事務総局)   https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/cyosa/cyosa-hyoji/h20/08061302_files/08061302-01-hontai.pdf

そのような「No.1 広告」に対して、最近の消費者は必ずしも好感を持っているとは言えないようです。
(株)マクロミルが今年7月に実施した「No.1表示広告」に関する消費者意識調査(※2)から、「No.1 広告」に対する消費者の意識の変化と、消費者に信頼される「No.1表示」の注意ポイントを確認します。

7割近くが月に数回以上No.1表示広告を見聞きしている

No.1表示広告に対する接触状況は、「週に何度も」37.3%、「月に数回」31.0%と、合計68.3%の人が、月に数回以上見聞きしている。

約7割の人がNo.1表示広告に不快感を持つことがある

No.1表示広告を見聞きした際に持つ印象は、「好感を持つことが多い」15.2%、「好感を持つこともあれば、不快感を持つこともある」54.8%、「不快感を持つことが多い」12.7%。

 “No.1”を謳われたからといって、それを目にした人が必ずしも好感を持つのではなく、広告の内容によっては不快感を抱く可能性のある人が半数以上おり、「不快感を持つことが多い」人と合わせると7割近くに上っています。

No.1表示広告の印象、「好感が持てる」「信頼できる」「買いたくなる」は、いずれも半数以下

No.1表示広告の印象「好感が持てる」「興味を持つ」「信頼できる」「買いたくなる」について、あてはまる計(とてもあてはまる+ややあてはまる)を2019年と比較した。

「好感が持てる」2019年:43.4%、2022年:41.0%、-2.4ポイント)
「興味を持つ」(2019年:57.5%、2022年:52.3%、-5.2ポイント)
「信頼できる」(2019年:42.1%、2022年:40.9%、-1.2ポイント)
「買いたくなる」(2019年:37.6%、2022年:37.0%、-0.6ポイント)

No.1表示広告に対する接触頻度が月に数回以上と多い中、「興味を持つ」人が3年前から5ポイント以上減少しており、インパクトが薄れているようです。好感、信頼、購入意欲は4割前後のスコアで3年前から微減となっており、広告効果の有効性の曲がり角に来ていると言えます。

No.1表示に対する信頼性を4割弱の人が疑っている

No.1表示広告を見聞きした際の商品やサービス対する具体的な印象について。
好印象の上位5つは、「人気がある」(27.4%)、「流行っている」(22.2%)、「期待できそう」(19.9%)、「勢いがある」(18.8%)、「宣伝が上手い」(18.1%)。
悪印象の上位5つは、「うさんくさい」(38.1%)、「信ぴょう性に欠ける」(37.9%)、「押し付けがましい」(30.2%)、「売り込まれているように感じる」(30.2%)、「企業の自己満足」(18.5%)。

スコア全体として、悪印象の方が好印象を上回っています。特に、うさんくさい、信ぴょう性に欠けるといった、表示に対する信頼性が疑われる印象を4割弱の人が持っています。

No.1表示広告の購入意欲への影響は低下傾向

No.1表示広告の購入意欲への影響について、影響する計(かなり影響する+やや影響する)を年代別に2019年と比較した。

全体(2019年:43.0%、2022年:39.1%、-3.9ポイント)
20代(2019年:54.9%、2022年:49.7%、-5.2ポイント)
30代(2019年:40.8%、2022年:46.4%、+5.6ポイント)
40代(2019年:44.8%、2022年:42.2%、-2.6ポイント)
50代(2019年:38.8%、2022年:32.7%、-6.1ポイント)
60代(2019年:38.5%、2022年:27.9%、-10.6ポイント)

2022年は若い世代ほどスコアが高く、20代では約半数の49.7%がNo.1表示広告から購入意欲への影響を受けています。しかし、2019年との比較では、30代を除くすべての世代でスコアが低下し、No.1表示広告の購入意欲への影響は低下傾向にあります。特に60代、50代に顕著に表れています。

約8割が事実に基づくNo.1表示広告を求めている

No.1表示広告に対する考え方について、「そう思う」「ややそう思う」のスコアで見ると、
「事実に基づくべきだ」(そう思う:51.3%、ややそう思う28.6%、計:79.9%)
「広告が増えたと感じる」(そう思う:17.2%、ややそう思う37.5%、計:54.7%)
「行政は広告の規制の強化をすべきだ」(そう思う:16.1%、ややそう思う26.1%、計:42.2%)
「消費者へのアピールに最適だ」(そう思う:7.5%、ややそう思う28.0%、計:35.5%)

No.1表示広告との接触は高くなっているものの、アピールにつながっていると考える人は少なく、事実に基づく誠実な対応を求める声が多いことが分かります。

———————–
(※2)
■調査概要『「No.1表示広告」に関する意識調査』
https://www.macromill.com/press/release/20220824.html
調査主体:マクロミル
調査手法:インターネットリサーチ
調査対象:全国20~69歳の男女(マクロミルモニタ会員)
割付方法:平成27年国勢調査による、性別×年代の人口動態割付/合計1,000サンプル
調査期間:2022年7月27日(水)~2022年7月28日(木)
———————–

前述の、2008年の公正取引委員会の消費者モニター調査(※1)によると、消費者は例えば、売上実績に関するNo.1表示について、「初めて購入する又は頻繁には購入しない商品等の場合」、「高額な商品等の場合」、「競合する商品等との違いが分からない場合」、「利用した後でないと良さが分からない商品等の場合」などに参考にするとされています。
そういう意味で、No.1表示広告は社会経験の浅い若い世代を中心に購買意欲に影響しており、50代60代の高齢世代は影響を受けにくいことが考えられます。その傾向は3年前と変化はありませんでしたが、22年調査では4割弱の人が表示に対して懐疑的であり、約8割が事実に基づく表示を求めていることがわかりました。

消費者の合理的な商品選択を行う上で有効な広告表示であるからこそ、その信頼性が問われるといえるでしょう。
改めて、No.1表示」を行う際の留意事項について、景表法上の観点からまとめています。
ご参考ください。

また、日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)では、「ランキング広告表示に使用する調査データ開示ガイドライン」と「比較広告のための調査実施の手引き」を発行しました(2022年5月26日)

一般社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会>ガイドライン
https://www.jmra-net.or.jp/rule/guideline/

No.1表示が不当表示とみなされないためには、客観的な調査に基づいていることは勿論、No.1表示から消費者が受ける認識と根拠となる調査結果との間に乖離が生じないようにすることが求められます。
適切な調査設計と表示について、しっかりと確認し検討を行いましょう。
フィデスがサポートいたします。

======================================
◆エビデンスチェックコンサルティング◆
試験デザインや測定方法など科学的視点から、
広告表現と試験データの対応を検証します。
詳細はこちら
======================================

《参考》No.1表示に対する過去の措置命令事案
格安SIMの通信速度および、販売数量シェアに対する優良誤認事案。
・FREETELのSIMサービス、「業界No.1」「通信料0円」表示に優良・有利誤認の景表法措置命令。打消し表示に注意を(消費者庁:平成29年4月21日)

接骨院の「お客様評価」に対する優良誤認事案。
埼玉県 接骨院MJGの「お客様評価」「やせプログラム」表示に景表法措置命令(埼玉県 2019年11月18日)

家庭教師派遣の「第一志望校合格率」、「顧客満足度」に対する優良誤認事案。
・埼玉県、家庭教師派遣(株)ワン・ツー・ワンに景表法措置命令。合格率や教師登録数、解約料等の表示に誤認認定 (埼玉県 2020年9月14日)

————————————————————-
◆本ブログをメルマガでまとめ読み!
本ブログの1週間分の情報を、ダイジェストでお届けしています。

登録はこちら

————————————————————-

関連記事

  1. 通販広告実態調査、不適正広告事例解説(JADMA「2021年度 通販広…

  2. 消費者庁 健康食品広告ネット監視98事業者(117商品)の表示に改善要…

  3. 平成27年度ネット広告(年間24,000件)監視 349通販事業者に改…

  4. 消費者庁 健康食品広告ネット監視150事業者(155商品)の表示に改善…

  5. 景表法対策で重要な委託先、仕入れ先との情報共有、確認

  6. 通販広告折込チラシ、不適正広告事例解説(JADMA「2019年度 通販…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

最近の記事

2024年11月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。