インターネットで何か購入検討しているときに、「残りの在庫が何個」とか、「『●人が閲覧中』や『●人が購入済み』とか、「割引特典の有効期限のカウントダウン」などの表示をよく目にします。
更には、「今、このページが表示された人に限り85%引きです」、「このページを閉じてしまうと、もう二度と開くことはできません。あなたは、85%の利益を失うことになります」などの表示が現れて、かなり心理的に動揺してしまうこともあります。
これらは、いわゆる「ダークパターン」と呼ばれる手法です。
ダークパターンとは、一般的に、消費者が気付かない間に不利な判断・意思決定をしてしまうよう誘導する仕組みのウェブデザインなどを指す、とされています。
「令和4年度消費者意識基本調査によると、このような表示を目にしたり、経験したりした人の割合は、約9割にも上り、実際に商品・サービスの予約や購入、会員登録等につながったり、困ったりした人の割合は5割となっています。
・効果的な施策はポイントやクーポン。ターゲティング広告には警戒。ダークパターンも要注意(令和4年度 消費者意識基本調査)
ダークパターンは、消費者の捉え方に依るところもあり、ダークパターンかどうかの基準を明確に設けるのが難しいことなどから、現状の法規制だけではすべてに対応することは難しい状況です。
しかし、行政としても、既存の枠組みに捉われない「消費者法制」の抜本見直しに向けた検討に着手し始めました。
ということで、ダークパターンの類型と利用者がどのような不利益をこうむるのか、ダークパターンに対する行政の取り組みについて整理しました。
「ダークパターン」と呼ばれる手法は、海外でも国内でも問題になっています。
消費者庁は、「詐欺防止月間(Fraud Prevention Month)」(※2)の2023年のテーマに、「ダークパターン(dark patterns)」を取り上げ、消費者への注意喚起を行っています。
ポイントを紹介します。
※2
「詐欺防止月間(Fraud Prevention Month)」は、消費者庁が参画している、国境を越えた不正な取引行為を防止するための取組を促進する国際ネットワークであるICPENの取組の一つ。加盟国それぞれがテーマに沿った注意喚起などを実施している。
ICPEN詐欺防止月間(2023年)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/international_affairs/icpen_2023/
ダークパターンとは
ウェブサイトやアプリで使用される商業的手法で、消費者の意思決定に影響を与えたり操作しようとして、消費者の自主性や意思決定に影響を与える。
消費者に望ましい範囲を超えて金銭を支出させ、個人情報を開示させ、又は注意時間を費やさせることを目的とする。
OECDによるダークパターンの分類
OECD(経済協力開発機構)の報告書では、多くのダークパターンは、消費者の認知バイアス、行動バイアス、ヒューリスティックス(経験則等)を悪用することにより消費者に影響を与え、一般的に以下の7つに分類されるとされています。
1【強制】
・特定の機能にアクセスするために、消費者にユーザー登録や個人情報の開示を強要するなどの強制的な行為。
利用者の想定以上に個人情報が取得されてしまう。
2【インターフェース干渉】
・重要な情報を視覚的に不明瞭にする(隠された情報)。
・デフォルトで事業者に有利な選択肢を事前に選択する。
・利用者の意識が他のものに向くように仕向け、知られたくない情報から目を逸らさせる。
例えば、利用者に選択させたい項目は色や形、大きさで目立たせ、そうではない事項は逆に目立たない色で小さく表示するなど。
・誤解を招く又は偽りの高値に対して割引した値段を表示する(不当参照価格)。
・意図的にまぎわらしい質問項目とすることで、利用者を特定の選択に誘導する。
例えば、チェックボックスの文意を否定と肯定を織り交ぜて作成したり、二重否定文にして誤解を誘い、利用者が望まないであろう選択肢を選ぶように仕向ける。
・偽装広告、及び感情に訴える言葉遣い又はフレーミングにより消費者を操り特定の選択肢を選ばせる(羞恥心の悪用又は感情の弄びとして知られる。)。
例えば、選択肢に「はい」「いいえ」で提示するのではなく、拒否の選択肢にのみ「いいえ、節約したいとは思いません」のように偏った表現を使う。
3【執拗な繰り返し(ナギング)】
・通知や位置情報の取得など、事業者に都合の良い設定に変えるように何度も要求する。
消費者の限られた気力や時間を悪用する。
4【妨害】
・解約や、プライバシーに配慮した設定に戻すことなどへの妨害行為。
無理に引き留めたり、わざと煩わしくするなど、特定のユーザーの手続きを著しく複雑にする。
5【こっそり(スニーキング)】
・取引の最終段階で金額を追加する、試用期間後に自動的に定期購入に移行するなど。
例えば、明細の中に、商品の代金の他に、配送料、税、サービス料、梱包料など予期していなかった金額が計上して決済させる方法。
6【社会的証明】
・虚偽の推奨表現、過去の購買実績を最近の実績のように通知するなど。
例えば、実際に実在しないお客様の声、「1時間前に予約が入りました」「ただいま5名が検討中です」のようなアクティビティメッセージ。
7【緊急性】
・カウントダウンタイマー、在庫僅少の表示など。
消費者に圧力を掛けて購買を行わせるために、オファーに対して実際の又は虚偽の時間的又は量的な制限を課し、希少性に関する経験則を悪用する。
ダークパターンに対する行政の対応
2【インターフェース干渉】や、4【妨害】、5【こっそり(スニーキング)】の手口を利用した商法として、悪質通販「定期購入」が問題となっていますが、2022年6月の特定商取引法改正後も消費者相談件数は増加し続けています。
PIO-NETに登録された通信販売での定期購入に関する相談件数の推移
《参考記事》
・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)
・悪質通販「定期購入」の新たな手口に注意喚起。規制に向けた行政の動きは?(国民生活センター 2022年9月公表)
消費者契約法や特定商取引法などは、これまで消費者被害に対して対処法的に改正を繰り返してきました。しかしながら、ダークパターンは明確な定義がない上、すべてが法令違反とは言えず包括的に規制することは難しく、日本国内においてはダークパターンを直接的に取り締まる法律がない状況です。
デジタル化や高齢化の進展により、悪質商法に対して消費者契約法や特定商取引法の改正だけでは対応しきれなくなったことから、内閣府の消費者委員会は2023年12月27日、専門調査会を立ち上げて、「消費者法制」の見直しに向けた検討に着手しました。
「既存の枠組みに捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定の在り方について検討し2025年夏までに結論を取りまとめ、消費者庁へ答申する」としています。
今後の動向に注目します。
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第1回 消費者法制度のパラダイムシフトに関する専門調査会
(内閣府 2023年12月27日)
https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/paradigm_shift/001/shiryou/index.html
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