JAROへの苦情媒体、ネット広告が53%増。動画広告が4倍に。 (日本広告審査機構 2020年度上半期の審査概況)

JARO(公益社団法人 日本広告審査機構)が、2020年度上半期に消費者から受け付けた苦情や問い合わせに基づく審査概況を2020年12月7日に公表しています。
新型コロナウイルスの影響により、苦情件数は増加し、ネット関連の広告・表示に関する苦情が増加しています。動画広告に対する苦情が急増していることにも注意が必要です。

内容を確認してみましょう。

●2020年度上半期の「苦情」件数は37%増。「デジタルコンテンツ等」「健康食品」増加目立つ
総受付件数は7,969件(前年同期6,125件)で、前年同期比130.1%となった。
相談のうち「苦情」は6,147件(前年同期4,501件)で、前年度比136.6%となった。


「苦情」を業種別にみてみると、上位は以下の通り。
1位「デジタルコンテンツ等」730件(前年同期379件)で、前年同期比192.6%。
2位「健康食品」634件(前年同期316件)で、前年同期比200.6%。
3位「携帯電話サービス」298件(前年同期167件)で、前年同期比178.4%。
4位「医薬部外品」276件(前年同期76件)で、前年同期比363.2%。
5位「化粧品」252件(前年同期157件)で、前年同期比160.5%。

1位の「デジタルコンテンツ等」はホラーや災害を内容とする映画・ドラマなどの映像配信サービス、広告と内容が異なるというゲームアプリ、ポイント還元の条件が誤認を与えるとするフリマアプリなど。
2位の「健康食品」については、「広告のような効果が得られない」「定期購入だと分かりにくい」、ネット上の動画広告を中心に、肥満や薄毛などのコンプレックスに訴える広告。
2019年度の3位「自動車」、5位「外食」は、大幅に減少した。

●「インターネット」の「苦情」が53%増で、「テレビ」を大きく上回る
「苦情」を媒体別にみてみると、上位は以下の通り。
1位「インターネット」2,920件(前年同期1,907件)で、前年同期比153.1%。
2位「テレビ」2,530件(前年同期1,962件)で、前年同期比129.0%。
3位「ラジオ」183件(前年同期171件)で、前年同期比107.0%。

2019年度に「インターネット」が僅差で「テレビ」を上回り、初の1位となったが、当期はさらに「インターネット」が大幅に増加した。
「インターネット」の中で苦情が多かった業種は、「健康食品」が459件(前年同期198件)前年同期比231.8%と急増。「デジタルコンテンツ等」440件(同262件)、「化粧品」195件(同104件)、「医薬部外品」188件(同43件)など。
件数が多かった表示(※)は「自社ウェブサイト」785件、「販売サイト」734件、「バナー」697件、SNS等の「インフィード」576件、「動画」549件、「アフィリエイト」169件(複数が該当するケースあり)などであった。
特に「動画」は、前年同期124件から急増し、コンプレックス広告への苦情が目立った。
※ 媒体別「インターネット」は広告だけでなく、広告主の自社サイトや通販サイトなどの表示も含む。

「テレビ」では「デジタルコンテンツ等」「303件(同107件)、「携帯電話サービス」208件(同93件)、「健康食品」144件(同88件)などが多かった。

●誤認表示に対する苦情件数が54%増。特に「品質・規格等」については前年同期比238.5%
「苦情」を内容別にみてみると、構成比は以下の通り。
「表示」3,740件(構成比60.8% 前年同期比153.7%)。
内訳:
「価格・取引条件等」1,503件(構成比24.5% 前年同期比133.6%)
「品質・規格等」1,891件(構成比30.8% 前年同期比238.5%)
「その他」346件(構成比5.6% 前年同期比67.2%)
「広告表現」1,928件(構成比31.4% 前年同期比115.9%)。
「広告の手法」479件(構成比7.8% 前年同期比118.6%)。

「表示」は、虚偽・誇大、分かりにくいといった苦情で、広告・表示規制に抵触するものも多い。内訳では、「価格・取引条件等」は前年同期比133.6%、「品質・規格等」は同238.5%と大きく増加した。
「品質・規格等」の業種別件数では「健康食品」284件(前年同期102件)、「医薬部外品」147件(同26件)、「化粧品」106件(同42件)などが増加。「価格・取引条件等」では定期購入契約など「健康食品」171件(同75件)や、フリマアプリや動画・マンガ配信サービスの「デジタルコンテンツ等」131件(同90件)などが増加。

「広告表現」は、広告の描き方に関する苦情。広告の描き方が「セクハラである」「暴力的である」「子どもに悪影響がある」などといった意見。「音・映像」が985件と多く、このうち媒体「テレビ」が746件を占める。「音・映像」「差別・ジェンダー」は10代・20代の若年層および女性で高い傾向。

「広告の手法」は、 CM の音の大きさ、広告の頻度、ステマ、迷惑な露出方法など。激しい点滅を繰り返す動画広告、大きな音で注意をひく広告などのほか、ウェブ広告を非表示設定したのに何度も表示されるといったもの。

●「見解」13件を発信、内、アフィリエイトサイト関連が11件
業務委員会で審議し「見解」を発信したのは13件。(前年同期21件)
内訳は「厳重警告」5件(2020年4月新設)、「警告」7件(同19件)、「要望」0件(同1件)、「助言」1件(同1件、「提言」から名称を変更)。
上半期の「厳重警告」「警告」計12件のうち、アフィリエイトサイトが関わる事例は11件を占めた。
対象業種は「健康食品」7件、「化粧品」3件、「雑貨品」「医薬部外品」「CtoC取引プラットフォーム」各1件。
対象媒体は「インターネット」が見解13件中12件、「テレビ」1件。

具体的な警告内容は以下の通り。

2020年度上半期の厳重警告・警告一覧 ( )内は商品・サービス/媒体
≪厳重警告≫
(1) 「飲むだけでみるみる痩せる」とうたっているが、アフィリエイトサイトで痩身の根拠として掲載されたのは人工肛門の論文を加工したと思われるものであり、「初回限定価格500円」は5回購入が条件であり、表示が分かりにくいものだった。
(健康食品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(2) ポータルサイトのインフィード広告からリンクした口コミサイトに「特許成分の○○なら10分で体の中から消臭」「今だけ500円」などとうたっていた。
(健康食品/インターネット〔ポータルサイトインフィード、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(3) 広告やアフィリエイトサイトなどで、「ステロイド頼りだったアトピーがせっけんを変えただけで?」などとアトピーに効くような内容をうたっていた。
(せっけん〔化粧品〕/インターネット〔ニュースサイトインフィード、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(4) 「飲むだけなのにマッサージの9倍もの脚痩せ効果!」「初回10円」と動画広告で言っていたが、同梱の請求明細書に16100円と書かれていた。
(健康商品/インターネット〔動画共有サイトのアフィリエイト広告、自社通販サイト〕)
(5) 上記(4)と同じ事例で、動画広告制作・運営事業者宛のもの。

≪警告≫
(6) 「悩みのポツポツが面白いほどポロッと」と販売サイトに表示し、記事風のアフィリエイトサイトに皮膚科医のコメントとして首イボが2週間で取れるかのように表示していた。
(ジェル〔化粧品〕/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(7) 販売サイトに「国産HMBが筋力アップを強力サポート」と表示し、アフィリエイトサイトには事実と異なり500円で試せるかのように表示していた。
(健康食品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(8) 健康食品の販売サイトに「体内フローラの善玉菌を増やす」、アフィリエイトサイトに「短鎖脂肪酸が宿便に吸着して、便と一緒に流しちゃうんです!」などと表示していた。
(健康食品/インターネット〔ニュースアプリインフィードバナー、スポーツ新聞サイトインフィードバナー、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(9) ジェル(化粧品)の広告に、「塗った場所だけの脂肪を増やすジェルを塗っただけ」「通常7,000円が今だけ0円」などと表示していた。
(化粧品/インターネット〔新聞社公式サイトインフィード広告、アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(10) サプリメントの広告に、誤って飲んだ父親が巨乳になるというマンガや「これを一粒飲むだけで女性ホルモンがドバババババ!と全身に行き渡るんです」などと表示していた。
(健康食品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)
(11) CBD(麻からの抽出成分)が「ネット限定ワンコインコース500円(税抜)、300名様限定」とあるが、申し込みボタンを押すと、定期購入で総額29,420円になる旨の表示箇所を越えて申し込みウェブフォームに飛ぶ設定になっていた。
(雑貨品/インターネット〔自社通販サイト〕)
(12) ジェル(医薬部外品)の販売サイトに「目元・口元などのあきらめていたシミに!」、アフィリエイトサイトに「シミがペリッとはがれた!?」などと表示していた。
(医薬部外品/インターネット〔アフィリエイトサイト、自社通販サイト〕)

審査基準:
【厳重警告】
 警告相当の広告または表示であって、問題箇所の数、消費者に誤認を与える程度等により、その不当性が特に高いと認められることから、当該広告または表示を直ちに削除または修正することが必要と認められるもの。
【警告】
 広告または表示が、実際のものより著しく優良・有利に表現され、消費者に誤認を与えるもの、または広告・表示関係法令に抵触することが明らかであることから、当該広告または表示の速やかな削除または修正を求めることが必要と認められるもの。
【要望】
 広告または表示が、実際のものより著しく優良・有利に表現され広告・表示関係法令に抵触する疑いがあるもの、または消費者の誤認を招くおそれがあることから、当該広告または表示の削除または修正を求めることが必要と認められるもの。
【助言】
 広告または表示が、消費者の誤解を招く、または社会的・道義的問題等を有する可能性があるため、修正等の検討を求めることが必要と認められるもの。(従来の「提言」から名称変更)

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JARO審査基準改定について
(公益社団法人 日本広告審査機構 2020年6月18日)
https://www.jaro.or.jp/news/20200618c.html
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2020年度上半期の審査状況で特徴的だったテーマとして、「新型コロナ関連の苦情」「動画広告への苦情」「定期購入契約の苦情」の3つが挙げられています。

●新型コロナウイルス関連の苦情が1割を占めた
2020年度上半期の苦情6,147件中、新型コロナ関連が598件で9.7%を占めた。(緊急事態宣言が出された4月は21.6%)
マスク、除菌剤、空気清浄機、壁材、クリーニングサービスなどに、「苦情」が598件、「照会」が160件。内容は、安易に「新型コロナウイルス」などとうたった便乗表示や、感染症に効果があるかのような表示のほか、感染防止の観点から不適切、不安をあおる表現が不快といった広告表現に関するものもあった。

JAROでは2020年1~7月の期間で「新型コロナウイルス関連の広告への苦情」について取りまとめています。
取りまとめた内容を、以下の記事でご紹介しています。

・JAROへの新型コロナウイルス関連広告への苦情、4月に急増。「マスク」「除菌」「行政・公共・その他啓発」(日本広告審査機構 2020年1月~5月)

・JAROへの新型コロナウイルス関連広告への苦情、6月減少。7月再び増加。「除菌関連商品」、「交通・レジャー」(日本広告審査機構 2020年6月~7月)

●動画広告への苦情が4倍以上と急増
「インターネット」媒体への苦情が前年同期比153.1%と急増したが、細目では自社サイト以外が大幅に増加し、特に動画広告は443%と急増している。
外出自粛により動画を閲覧する機会が増えたことが要因の1つと考えられる。
動画広告は「デジタルコンテンツ等」140件(前年同期31件)、「健康食品」113件(同26件)、「化粧品等」30件(同9件)、「医薬部外品」30件(同0件)が多く、医薬品的な効能効果をうたっており法違反のおそれがある。
また、動画広告については、体型や髪の量といったコンプレックスにつけ込む表現にも意見が寄せられた。

●定期購入契約の苦情増加は続く
定期購入に関する苦情が当期147件(前年同期127件)で、増加が続いている。
過半数を占める「健康食品」が84件(同76件)、「医薬部外品」は27件(同12件)、「化粧品」26件(同27件)など美容・健康系の商材が多く、その他には電子タバコやダニ捕獲シートなど。媒体はすべて「インターネット」。

2020年8月19日に発表された「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会報告書」では、「詐欺的な定期購入商法」への規制強化が提言されています。
ポイントは、以下の通りです。

・「詐欺的な定期購入商法」に該当する定期購入契約を念頭に、「顧客の意に反して通信販売に係る契約の申込みをさせようとする行為」を、特商法における独立した禁止行為とし、規制の実効性を向上させる。

・「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に
係るガイドライン」の見直しを行い、法執行を強化。

・違反のおそれのあるサイトへのモニタリング等を、外部の専門的リソースを活用して法執行を強化する。

・解約・解除を不当に妨害するような行為を禁止する。

・解約権等の民事ルールの創設等も検討。

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「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会報告書」(2020年8月19日)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/meeting_materials/assets/consumer_transaction_cms202_200819_03.pdf
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2020年度上半期の審査概況
(公益社団法人 日本広告審査機構 2020年12月7日)
https://www.jaro.or.jp/news/20201207.html
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《関連記事》

・JAROへの苦情媒体、ネット広告がトップに。アフィリエイト関連は「警告」31件中18件
(日本広告審査機構 2019年度の審査概況)

・JAROへの苦情、通販定期購入契約の苦情は減少せず。ネット広告への苦情二桁増続く
(日本広告審査機構 2018年度の審査概況)

・ネット上の健康食品の成分に関する記事体広告、薬機法に抵触する境目は?

・メール広告からしかたどり着けない中間ランディングページ、不適切表示隠しの巧妙な手法

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このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。