JARO(公益社団法人 日本広告審査機構)が、消費者から受け付けた苦情の中から、新型コロナウイルス感染症やそれに伴う自粛、新しい生活様式などに関連した意見を取りまとめて公表しています。
これまでに、2020年1~3月分、4~5月分、6~7月分を公表しており、今回、2020年度(2020年4月~2021年4月)の総括を取りまとめています。
意見の内容は、下記のようなもの対象としています。
・新型コロナウイルスやそれに類する用語(ウイルス、新型肺炎、コロナなど)を明示・暗示した広告に対するもの。
・新型コロナウイルス感染症への対策等に供すると思われる商品・サービス(マスク、除菌剤など)に関するもの。
・新型コロナウイルス感染症による環境変化などにより、申立者がコロナに言及して広告への意見を述べるもの。
本レポートでは、月別に意見の内容、商品・サービス別傾向を分析しています。
レポートより、特に広告関連法規に抵触する可能性のある「表示関連」にフォーカスしつつ、行政の動きも確認してみます。
●各種件数
●感染拡大初期に目立った、「コロナ」「ウイルス」などに関連付けた「便乗広告」
表示関連意見465件のうち64件で全体の13.8%を占め、感染が広がった初期から最初の緊急事態宣言が出た4~5月ごろを中心に目立った。
主な事例(抜粋):
【2020年4-5月】
・「新型コロナ対策実施中」「髪の毛についたシャンプーでは落とせない汚れ/ウイルスを綺麗に取り除く魔法の水」などとうたっている。(美容院、4月)
・「購入者にマスクプレゼント」と書かれた店頭ポスターだが、そこにマスクの性能として「コロナウイルス、PM2.5、放射能」などと書いている。(衣料品店、4月)
【2020年8月以降】
・新型コロナウイルスと関連づけて免疫向上を強調し、感染者数の少ない県でよく食べられている食品を使ったサプリメントを開発したと言っている。問題ではないか。(健康食品、8月)
・単なる温度計であるにもかかわらず、体温計と誤解させるような表示を行っている。購入者にはマスクをプレゼントとの表示もコロナ対策を想起させる。(通販会社・温度計、2月)
●年間を通じて多かった「不当な表示・効果をうたうもの」
表示関連意見465件のうち127件で全体の27.3%を占め、最多項目となっている。
年間を通じて多いが、特に4月と2021年1月の件数が目立った。
主な事例:
【2020年4-5月】
下記以外に次亜塩素酸水、水素、ケイ素、ハーブ、酸性水、銀イオン、オゾン、プラセンタ注射などがあった。
・美容外科のSNS広告に、新型コロナウイルス対策をうたってビタミンC点滴を提供している旨が書かれているが、問題ではないか。(美容外科、4月)
・新型コロナウイルス除去率99%超とうたう空気清浄機だが、こんなに簡単に除去できるなら世界は困っていないと思う。(空気清浄機、4月)
・漆喰がウイルスを死滅させるかのように書かれており、あまりにも信憑性に欠ける。(住宅メーカー、5月)
【2020年6-7月】
GOTOトラベルキャンペーンが開始されたこの時期は交通レジャーが目立ったほか、マスク、除菌関連商品、通信サービス、健康食品などがあった。
・県内在住者限定の超格安キャンペーンに申し込み、予約を受け付けた旨のメールを受信したが、その後一方的にキャンセルされた。同様の人が多いらしくネットで炎上している。(宿泊施設、6月)
・マスクの広告に消臭性、調湿性があると表示されていたが、よく見ると一部の素材の効果だと小さく書いてあった。マスク自体に効果があると誤認させる。(マスク、7月)
【2020年8月以降】
・ヒト・コロナウイルスを5分間で100%死滅させると表示しているがよく読むとCOVID-19ではない上、漆喰に付着させた試験結果であり空気中の結果ではない。そもそも「100%」や「死滅」と表現することに問題があるのではないか。(住宅メーカー、8月)
・コロナに対して有効性が確認された抗菌加工を施しているとうたっているが、事実であればもっと大ニュースになっていると思う。うその情報で客を呼び込もうとするのはいかがなものか。(クリーニング、9月)
・店内に展示している家電製品に「除菌ができる」「家中安心」という目立つPOPがあちこちに貼られている。店員に聞くとコロナウイルスへの効果をうたうものではないと言う。今の時期にこのような表示は不適切ではないか。(量販店、10月)
・「コロナに勝つ体を作る」など、今の時代に誰もが持つ不安につけ込む悪質な広告である。「血液検査の結果を持って来たら分析します」とは医師法違反である。(整体、12月)
・結果が出るまで「最短3時間」とあり検査キットを多数注文したが、実際にやってみると1週間以上かかった。これではPCR検査の意味がない。(検査キット、2月)
・加湿器に入れると空間除菌ができるという水の広告に「身の回りのあらゆる菌を除菌」と書かれている。「あらゆる菌」などというとコロナにも効くのかと思ってしまう。(除菌剤、2月)
・「換気」とうたっているが、この製品は吸気機能があるだけで排気機能はない。コロナ下で勘違いを誘導するうたい文句だと思う。(空気清浄機、2月)
・大手通販サイトで医療認証品と表示されたパルスオキシメーターを購入したが、医療機器として必要な添付文書や医療機器認証番号が取れていないものだった。(パルスオキシメーター、2月)
行政の対応としては、インターネット広告において、景品表示法及び健康増進法の観点から4回にわたり緊急監視を行い、新型コロナウイルスへの予防効果を標ぼうする商品について改善要請するとともに、消費者に対する注意喚起を行っています。
・2度目の緊急事態宣言下、消費者庁の新型コロナウイルス予防商品緊急監視(第4弾)、45事業者42 商品・役務の表示に改善要請 (消費者庁 2021年1月~2月上旬)
また、アルコール商品、次亜塩素酸水、空間除菌用品、健康食品等の表示について措置命令を行い、令和2年度における措置命令 33 件のうち 21 件が消毒、除菌等の効果等についてのものでした。
このうち、携帯型空間除菌用品、抗体検査キット及び研究用抗原検査キットの販売を行っていた事業者に対して再発防止等の行政指導を行ったことを公表し、消費者に対して注意喚起を行っています。
・新型コロナ抗原検査キット、抗体検査キットの販売事業者5社に景表法行政指導。消費者庁の監視続く(消費者庁 2021年3月26日)
●除菌関連の商品・サービス「対象範囲を誤認させるもの」
表示関連意見465件のうち56件で全体の12.0%を占める。主に除菌関連の商品・サービスで、2020年度上半期を中心に、特に7月の件数が目立った。
主な事例:
【2020年4-5月】
・広告にアルコール濃度70~75%と書かれていたが、商品には記載がなく、企業の窓口に濃度の根拠を尋ねると、メーカーから口頭で聞いただけだと言われた。 (通販会社、4月)
・ハンドジェルの通販ページに「除菌」「殺菌」「消毒」などと書かれていたが、購入した商品にアルコール濃度の記載がなく、通販会社に問い合わせるとアルコール濃度30%であることが分かった。コロナウイルス感染予防のために買ったのにこれでは意味がない。(通販会社、4月)
・「99.99%除菌」と表示されていたので何の菌に効果があるのかをメーカーに聞いたが、「医薬品ではないので答えられない」と言われた。問題ではないか。(除菌剤、4月)
【2020年6-7月】
・さまざまな菌に効果があるように宣伝しながら、小さな文字で「すべての菌に効くわけではない」と表示している。(除菌剤、7月)
・室内丸ごと抗菌しコロナに効果があるかのようにうたっている。そもそも菌とウイルスではその特性も違い、抗菌でウイルスを不活性化できる根拠はないにもかかわらず効果があると言い切っていて、危険ではないかと思う。(住宅メーカー、7月)
※業界によっては「除菌」の表示をする場合の自主基準があり、全ての菌種・菌数について実証されているかのように誤認させないよう、全ての菌を除菌するわけではない旨の表示をするよう規定している。
景品表示法において、手指用洗浄ジェルや除菌用スプレーの配合成分割合表示に対する優良誤認違反による処分が出されています。
・洗浄ジェルのアルコール配合割合ラベル表示に景表法措置命令。輸入業者メイフラワーに処分(消費者庁:2020年5月19日)
・除菌用スプレー 成分濃度表示下回る7社に景表法措置命令。コロナ関連商材に注意(消費者庁:2020年12月11日)
また、消費者庁では新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について、厚生労働省、経済産業省と合同で、消毒・除菌商品の購入や使用上の注意点についての情報提供をしています。
◆消毒や除菌効果をうたう商品は、目的に合ったものを、正しく選びましょう。
(消費者庁 2020年7月7日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/020418/
●マスクに対して多かった「価格に関するもの」
表示関連意見465件のうち51件で全体の11.0%を占める。4月に集中し、5月以降減少。
主な事例(抜粋):
【2020年4-5月】
・送料無料と書かれたバナー広告にマスクも掲載されていたのでクリックして通販サイトに行ったら、すべて送料別と明記されていた。(通販会社、5月)
・「コロナ支援価格」として食品が30%引と表示されているが、母の日特価など理由を変えてずっと同じ販売価格で提供している。割引額を大きく見せる有利誤認表示ではないか。(通販会社、5月)
【2020年8月以降】
・GoToトラベルで交通機関が50%OFFにあったので申し込んだが、半額にならなかった。広告主に苦情を言ったところ、違うページから申し込んでいると言われた。(交通レジャー、8月)
・旅行予約サイトから旅行予約をしたら、GoToトラベルの割引適用はサイトの会員登録が条件だった。結局、高いキャンセル料を支払って取りやめた。申し込み画面上で割引が適用になっているか契約成立前に確認できるような表示にすべきだ。(交通レジャー、11月)
景品表示法において、マスクの販売価格表示や期間限定販売表示に対する有利誤認違反による処分が出されています。
・埼玉県、コロナ禍のマスク通販(株)夢グループに景表法措置命令。販売価格や期間限定表示に有利誤認 (埼玉県 2020年6月11日)
●マスクや除菌関連商品が中心「欠品・遅延、おとりが疑われるもの」
表示関連意見465件のうち34件で全体の7.3%を占める。2020年度上半期を中心に4月に集中した。感染拡大初期におけるマスクや除菌関連商品が中心である。
主な事例:
【2020年4-5月】
・勉強に急きょパソコンが必要になり、外出自粛中なので家電量販店の通販でパソコンを購入した。サイトの表示も注文確認メールも「在庫あり」「翌日出荷」と記載があったが、注文後に電話で確認すると、在庫がなく7~8週間先になると言われた。納期が大幅に遅れるならメールで案内するべきではないか。(量販店、4月)
・チラシアプリに掲載されたスーパーのチラシで、商品名も価格も伏せて「店頭でご確認ください」と表示されており店舗に出向いたが、チラシの品がどれであるのか分からなかった。新型コロナの影響で買いだめ騒ぎが起きている中、いたずらに集客だけを促すようなチラシは出すべきではないと思う。(スーパー、4月)
【2020年8月以降】
・「朝食ブュッフェ付」という名称のプランを予約したが、出されたのはホテルのものではない安い弁当だった。「コロナの影響によりお弁当対応になる場合がある」と書かれているが、そうであればこのようなプラン名を付けるべきではない。さらに「場合がある」ではなく、すべて弁当にしているようだ。(宿泊施設、8月)
・コロナ感染した選手が出場するかのような広告をずっとしている。(番組宣伝、8月)
●「表示その他」
表示関連意見465件のうち91件で全体の19.6%を占める。
主な事例(抜粋):
【2020年4-5月】
・次亜塩素酸水の広告で、口に入ったり飲んだりしても大丈夫であるかのように記載している。新型コロナウイルスの名称を表示して効果をうたっているが薬機法上表示できないはずだ。(除菌剤、5月)
【2020年8月以降】
・午後○時までに届けば当日検査し、早ければ当日夜には結果報告とあるが、実際には最速で2日後の結果報告である。結果を急いでいる人がほとんどだと思うので、この広告では結果が間に合わないケースが出る。(検査キット、12月)
・偽陰性の可能性に言及せず、安易な唾液によるPCR検査が可能であると宣伝している。陰性だからと言って今後感染しないわけでも無いし、偽陰性の可能性がある以上、その検査で陰性であることは自身が新型コロナウィルスに感染していないことを担保し得ない。(医療機関、12月)
一般消費者からの苦情の傾向と、行政の対応がリンクしていることが読み取れます。
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公益社団法人 日本広告審査機構
[2020/04~2021/03] 年度総括版
新型コロナウイルス関連の広告・表示へのご意見(2021年8月10日)
https://www.jaro.or.jp/news/20210810.html
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《関連記事》
・JAROへの新型コロナウイルス関連広告への苦情、4月に急増。「マスク」「除菌」「行政・公共・その他啓発」(日本広告審査機構 2020年1月~5月)
・JAROへの新型コロナウイルス関連広告への苦情、6月減少。7月再び増加。「除菌関連商品」、「交通・レジャー」(日本広告審査機構 2020年6月~7月)
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