2023年6月1日、通信販売の電話受注の際に行われてきた「アップセル」「クロスセル」の販売手法を、「電話勧誘販売」として規制する特定商取引法施行令改正が施行されました。
通常、通販で用いられる広告媒体であるTV、ラジオ、新聞、雑誌、ウェブ広告等からの受注の電話において、当該広告には掲載のない商品の購入を勧めることが、不意打ち的な勧誘とみなされ、電話勧誘販売規制が適用されることとなりました。
これにより、受注時の書面の交付義務やクーリング・オフ制度の対象となる等の電話勧誘販売規制を受けることとなります。
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特定商取引に関する法律施行令及び預託等取引に関する法律施行令の一部を改正する政令(令和五年政令第二十二号)
https://www.no-trouble.caa.go.jp/revision/
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政令改正の内容、新たに電話勧誘販売規制を受けるケースや求められる対応について、解説します。
政令改正の内容
「電話勧誘販売」は、事業者が消費者に電話で勧誘を行い、申し込みを受ける商取引ですが、販売目的であることを告げずに電話を促す広告などによって消費者から「電話をかけさせる方法」も、限定的に電話勧誘販売に該当することが政令により定められていました。
本改正では、この電話勧誘販売に該当する「電話をかけさせる方法」の範囲が拡大されました。(特定商取引法施行令第2条第1号)
改正前:
「電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは電磁的方法により、又はビラ若しくはパンフレットを配布して」
改正後:
上記に加えて、「新聞、雑誌その他の刊行物に掲載し、若しくはラジオ放送、テレビジョン放送若しくはウェブページ等(インターネットを利用した情報の閲覧の用に供される電磁的記録で主務省令で定めるもの又はその集合体をいう)を利用して」
なお、電磁的方法とは、SMS(ショートメッセージサービス)、電子メール、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のメッセージ等を指し、ウェブページ等とは単一のウェブページ及びその集合物であるウェブサイトを指します。(文字だけでなく、静止画像、映像、音声も含まれる)
これらの方法により、売買契約や役務提供契約の締結についての勧誘目的であることを告げずに電話をかけることを要請することが、電話勧誘販売に該当します。

新たに電話勧誘販売規制を受けるケース
本改正で、これまでは通信販売に該当していたものが、電話勧誘販売として規制を受けることとなると考えられるケースです。
●単品販売広告からの定期購入へのアップセル
単品販売の健康食品の広告を見て電話をかけてきた消費者に対し、広告の中で紹介されていないにもかかわらず、当該商品の定期コースを勧めて購入の申し込みを受ける場合。
⇒商品自体は広告に掲載されていたとしても、単品販売と定期コースとは別の契約内容とみなされるため、販売しようとする商品について告げているとは評価されず「電話勧誘販売」に該当する。
通信販売として認められるには、「電話で定期購入の案内を行います。」といった注記があるのみでは不十分で、通信販売の広告に必要な事項(価格や解除に関する事項など)の表示が必要。
●関連商品のクロスセル
家電を紹介するテレビ通販広告を見て電話をかけてきた消費者に対し、広告の中で紹介していない当該商品のメンテナンスキットの購入を勧め、併せて購入の申し込みをさせるような場合。
⇒商品とメンテナンスキットが関連商品であるとしても、メンテナンスキットについて広告の中で記載されていない場合は、販売しようとする商品について告げているとは評価されず「電話勧誘販売」に該当する。
●広告商品のシリーズ商品、類似商品の案内
化粧品の広告を見て電話をかけてきた消費者に対し、広告の中で紹介していない、そのシリーズ商品の購入を勧め、併せて購入の申し込みをさせるような場合や、広告の商品が売り切れてしまった場合に、広告の中で紹介していない、類似商品を勧めて購入の申し込みをさせるような場合。
⇒広告商品のシリーズ商品、類似商品であるとしても、広告の中で記載されていない場合は、販売しようとする商品について告げているとは評価されず「電話勧誘販売」に該当する。
通信販売として認められるには、「電話で他の商品の案内を行う場合があります。」といった注記があるのみでは不十分で、紹介するすべての商品について具体的に広告に掲載しておくことが必要。
《参考情報》
特定商取引法ガイド
電話勧誘販売の解釈に関するQ&A
https://www.no-trouble.caa.go.jp/qa/telemarketing.html
「電話勧誘販売」に該当するとどんな規制がかかるのか
このように電話勧誘販売に該当するとみなされると、電話勧誘販売規制の「再勧誘の禁止」や、受注時の「書面の交付」などが課されます。
また、通販では適用されない民事ルールの「クーリング・オフ制度」が適用されます。消費者は書面を受け取った日から8日以内であれば申込みの撤回や契約を解除でき、商品の引き取りは販売業者の負担となります。消費者は、損害賠償や違約金を支払う必要はなく、既に頭金等対価を支払っている場合には速やかに返金を受けられます。
ただし、使うと商品価値がほとんどなくなる消耗品(一般食品、健康食品、化粧品等)の場合は、開封または消費していない商品に限られ、使用された場合には、クーリング・オフの規定は適用されません。
《参考情報》
特定商取引法ガイド
電話勧誘販売
https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/telemarketing/
電話勧誘販売規制を受けないためには
電話受注の際に電話勧誘販売規制を受けず、通信販売としてクロスセルやアップセルを行いたい場合には、次のことに留意します。
・販売目的を明らかにする
・何らかの商品を販売する意図を表示しておくだけでは認められない
・販売しようとする商品・サービスについては、種類や内容、契約内容について広告上に表示する
(例えば、広告に15点の商品を掲載していた場合、電話注文時に15点のどれを案内したとしても電話勧誘販売に該当しない。)
・広告上に掲載していない商品・サービスは電話で紹介しない
電話受注の際、広告にない商品の案内は、どのような理由があっても不意打ち性を否定できず、基本的に電話勧誘販売に該当すると考えるべきでしょう。
通信販売、電話勧誘販売、どちらの取引形態をとるかに関わらず、消費者が意図しない契約となることがないよう、お勧めする際には相手がきちんと理解できるよう十分配慮することが求められます。
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