注文完了後に表示された特典を利用したら購入条件が変更されるという、悪質通販「定期購入」手口に対する消費者庁による初の処分です。
消費者庁は、2025年6月27日、美容液等を販売する通信販売業者である(株)VIRTH(本店所在地:東京都渋谷区)と同社の代表取締役 梅 華音に対して、特定商取引法違反で6カ月間の業務停止(禁止)を命じました。
同様の手口に対して、2024年11月に初めて、東京都により(株)TRIBE等3社に対して特商法による3カ月の業務停止命令処分が出されていました。
・通販定期購入「回数縛りなし」が、注文直後の特典利用で「縛りあり」に。悪質手口に初の処分。美容液・育毛剤の通販・電話勧誘販売(3社)に特商法業務停止命令(3カ月) (東京都 2024年11月1日)
この手法では、変更後の契約に関する表示が契約完了時に画面上に表示されるのみであることから、後から確認することが困難で証拠が残りにくいことが、行政の調査や法執行のネックとなっていましたが、今回の国による処分で明示的に違反認定されたと言えます。
類似事案でありながら、TRIBE等3社の業務停止期間が3か月に対して、VIRTHには6カ月間と重い処分となっています。
消費者庁によると、24年2月15日から25年5月31日受付、6月11日までのPIO-NETに登録された同社に関する消費者相談件数は、合計1,260件。
同社設立が24年2月15日であることから、設立当社からわずか3か月半で多数の相談が寄せられており、悪質と判断されたと考えられます。
(TRIBE等3社に関する消費者相談件数は、2020年度から2024年10月22日までに1,161件)
処分の内容について確認し、違反認定のポイントおよび都と国による法執行方針の違いを分析します。
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通信販売業者【株式会社VIRTH】に対する行政処分について
特定商取引法違反の通信販売業者に対する業務停止命令(6か月)及び指示並びに
当該業者の代表取締役に対する業務禁止命令(6か月)について
(消費者庁 2025年6月27日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/042885
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【事業概要】
処分対象事業者:株式会社VIRTH(本店所在地:東京都渋谷区)
取扱商品:「B.D SHOT100 MOISTURE SERUM」と称する美容液等
取引類型:通信販売 自社が運営するウェブサイト「https://ec.qzmedica.com/」
代表者:代表取締役 梅 華音
【認定した違反行為】
同社は、次のとおり、特定商取引法の規定に違反する行為をしており、通通信販売に係る取引の公正及び購入者の利益が著しく害されるおそれがあると認定した。
(1)誇大広告(特定商取引法第12条)
商品の効能に関する表示(画像)➀
少なくとも2024年11月14日から2024年12月3日までの間、本件商品の効能について以下の広告をしていた。
あたかも、本件商品を7日間塗布することで皮膚に含まれる水分の量を2.72倍、皮膚の弾性を約1.29倍にも増やすことができ、かつ、本件商品を半年間継続して塗布することで、増加した皮膚の水分量及び肌弾性をそのまま維持することができるかのような表示。
(ⅰ)「水分計では、潤いとハリがたっぷり!」
「使い始め 水分量25% 肌弾性48% 7日目 水分量68% 肌弾性62%」
「しかも、調子ばっちりの状態をキープも」「半年後 水分量68% 肌弾性62%」
との表示と共に当該結果を示すかのような画像。
【表示例:商品の効能に関する表示(画像)➀】

商品の効能に関する表示(動画)②
少なくとも2024年12月2日から2025年1月21日までの間、本件商品の効能について以下の広告をしていた。
あたかも、本件商品を3秒塗布するのみで、目元の皮膚に生じたたるみ及びしわを即座になくすことができ、また、本件商品を塗布するのみで、頬、額、首及び手に生じたしわをなくすことができるかのような表示。
(ⅱ)「3秒ピーン!で15歳若見えの理由」び「たるみが一瞬で…!?」
との表示と共に本件商品を塗布していると思われる女性の動画。
(ⅲ)「そのシワなかったことに!たった3秒でピー ン!」
との表示と共に本件商品を塗布していると思われる女性の動画。
「目元たるみはもちろん」「ガンコなほうれい線も?!」「おでこジワも?!」「首シワも?!」
「シワシワの老け手も?!」「今ではこのハリとツヤ!」
との表示と共に本件商品の使用前後を対比したと思われる画像及び動画。
【表示例:商品の効能に関する表示(動画)②】

消費者庁は、VIRTHに対し、特定商取引法第12条の2の規定に基づき当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、同社から資料が提出された。
しかし、当該資料は当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められなかった。
よって、商品の効能につき、実際のものよりも著しく優良であると人を誤認させるような表示に該当するものとみなされる。
(2)最終確認画面における表示義務違反(特定商取引法第12条の6第1項)
少なくとも2024年11月14日時点において、
しばりのない定期購入の申込みを受け付けた後に遷移するウェブページにおいて、お得な特典クーポン使用を強く促す表示をし、制限時間内に速やかに特典クーポンの適用を行うか否かの選択を迫りながら、その直後に画面の遷移を経ることなく、しばりのある定期購入契約の申込みとなる定期購入契約の手続きを表示。
あたかも、注文完了ボタンが単に特典クーポンの適用を受けるために押す必要があるボタンであるかのような表示をし、しばりのある定期購入契約において販売する本件商品の分量、販売価格、商品の売買契約の解除に関する事項、新たに本件定期購入契約の申込みとなることについて、人を誤認させるような表示をしていた。
《消費者の申込みの流れ》
➀初回のみで解約手続ができる定期購入契約であることが強調されたウェブページを経由して「B.D SHOT100(集中ケアコース)」(初回のみで解約手続ができる定期購入契約)に申し込む。
《表示例「B.D SHOT100(集中ケアコース)」縛りなし定期購入契約表示》
「さらに! ○回は絶対使ってといったよくある購入回数の縛りはなし!」
「購入回数の縛りはなし!ラクラク電話1本で解約OK♪」
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↓
②申込完了後、制限時間内に速やかに特典クーポンを使用するよう強く促すウェブページに遷移。
《表示例:「B.D SHOT100(集中ケアプレミアムコース)」時間制限特典クーポン表示》
「集中ケアコースをご注文のお客様に10分間限定で今すぐ使える特典クーポンプレゼント」「このページ限定!!」「集中ケア限定特典クーポン \さらに/2回目以降永久に10%OFFcoupon」
「10分間のみ有効 確実お得な特典クーポンをぜひご使用ください。」との表示並びにカウントダウンタイマーによる特典クーポンの失効までの時間の表示。

↓
③時間制限特典クーポン表示の直後に画面の遷移を経ることなく表示される「B.D SHOT100(集中ケアプレミアムコース)」の定期購入契約の手続き表示画面(注文内容確認表示から注文完了ボタンまで)で注文完了ボタンをクリックすると、商品4回分(合計7本)受け取るまでは解約できず、最低でも合計4万2,420円の支払いが義務付けられる新たな申込になる。
《表示例:「B.D SHOT100(集中ケアプレミアムコース)」の定期購入契約の手続き表示画面》
消費者の入力内容に応じて表示される「お名前」、「お届け先」、「ご注文商品情報」等の項目が設けられた水色の枠で強調された一覧表に「ご注文商品情報 B.D SHOT100集中ケアプレミアムコース 単価:4,264円 個数:1個 小計:4,264円」、「割引-2,000円」などと表示した上、注文完了ボタンの直近に位置する「合計」の欄に赤い太字で強調して「2,490円」とのみ表示。
注文完了ボタンの直下の位置に「※特典クーポンを使用して 注文確定する場合は上記ボタンからお申込ください。」及び「※特典クーポンを使用しない場合はクーポンを使用しないボタンを押すかこのまま画面を閉じてください。その場合クーポンは適用されません。」と表示し、更に その直下に「クーポンを使用しない」と記載したボタンを選択肢として表示。

【処分の内容】
(1)業務停止命令
内容:
通信販売に関する業務のうち、次の業務を停止すること。
1)VIRTHが行う通信販売に関する商品の販売条件について広告を行うこと。
2)VIRTHが行う通信販売に関する商品の売買契約の申込みを受けること。
3)VIRTHが行う通信販売に関する商品の売買契約を締結すること。
期間:
2025年6月27日から2025年12月26日まで(9か月間)
業務停止命令に違反した場合は、行為者に対して3年以下の懲役又は300万円以下の罰金又はこれを併科する手続きを、法人に対しては3億円以下の罰金を科する手続きを行うこととなっています。
(2)指示
1.前記違反行為の発生原因について検証し、違反行為の再発防止策及び社内のコンプライアンス体制を構築(法令及び契約に基づく返金及び解約の問合せ等に適切かつ誠実に対応することを含む。)して、これを同社の役員及び従業員に、業務停止命令に係る業務を再開するまでに周知徹底すること。
2.2024年11月14日から2025年6月26日までの間にVIRTHとの間で本件売買契約を締結した全ての相手方に対し、消費者庁のウェブサイトに掲載される、業務停止命令及び本指示をした旨を公表する公表資料を添付して、2025年7月28日までに書面により通知し、同日までにその通知結果について消費者庁長官宛てに文書により報告すること。
3.誇大広告の内容を消費者に周知すること。
4.今後、VIRTHが行う通信販売について、特定商取引法の各規定を遵守すること。
上記指示に違反した者には、6月以下の懲役又は100 万円以下の罰金、又はこれを併科、違反が法人の業務の場合には、行為者を罰するほか、その法人に対し100 万円以下の罰金が課せられます。
また、本件では、VIRTHの代表取締役 梅 華音に対して、同社が命ぜられた業務停止の範囲内の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)を6か月間禁じる処分が下っています。
※梅 華音は、VIRTHの代表取締役であり、かつ、同社が停止を命ぜられた業務の遂行に主導的な役割を果たしていた。
上記指示に違反した者には、個人は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金が科せられます。
「しばりなし」定期購入の注文完了後に表示された特典を利用したら、契約条件が「しばりあり」に変更されるという手法に対する特商法による処分は、消費者庁による本件と、東京都による(株)TRIBE等3社の事案となっています。
両違反事例の違反認定のポイントおよび都と国による法執行方針の違いを分析しました。
特定商取引法のポイントについて、以下の記事で解説しています。
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≪参考記事≫
・加速する通販分野の特商法執行。最新規制動向をまとめてチェック
・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)
・消費者保護の更なる強化。特商法・消契法の改正案閣議決定(平成28年3月4日)
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