定期購入契約が容易に解約できるかのような表示。ネット通販定期購入オルリンクス製薬に特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年4月10日)

今年3月の(株)サンに続き、健康食品通販事業者の特定商取引法による行政処分です。

消費者庁は、2024年4月9日、(株)オルリンクス製薬(本店所在地:愛知県名古屋市)と同社の元代表取締役北川雅人に対して、特定商取引法違反で3カ月間の業務停止(禁止)を命じました。
本件は、2022年6月1日に施行された詐欺的な定期購入商法対策を目的とした、定期購入契約での「最終確認画面」の義務表示事項を定めた特定商取引法改正後、3件目となります。

処分となった内容は、(株)サンの事案と同様、誇大広告(12条)と最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)によるものです。
誇大広告については、通販の定期購入契約の解除について、実際には電話、SMS、LINEによる煩雑な手続が必要であるにもかかわらず、容易に解約できるような表示が有利誤認の認定となりました。
他方、最終確認画面の表示義務違反については、解約方法の一部しか表示していなかったことが違反認定されています。

なお、オルリンクス製薬は、本件で問題となった定期購入の解約に関する利用規約の記述をめぐり、消費者契約法の観点から消費者団体より昨年10月と本年3月に2度にわたり申入れを受けていました。
(申し入れは終了していません)
また、親会社である上場企業の売れるネット広告社の企業姿勢も気になります。

処分の内容と、定期購入契約の解約方法に関する法規制について確認します。

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特定商取引法違反の通信販売業者に対する業務停止命令(3か月)及び指示並びに
当該業者の元代表取締役に対する業務禁止命令(3か月)について
(消費者庁 2024年4月10日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/037336
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【事業概要】
処分対象事業者:株式会社オルリンクス製薬(名古屋市中区)
取扱商品:「ZiGMα」と称するサプリメント
取引類型:通信販売 自社ウェブサイト「https://orstar.jp/」
代表者:代表取締役 関口慎梧

【認定した違反行為】
同社は、次のとおり、特定商取引法の規定に違反する行為をしており、通通信販売に係る取引の公正及び購入者の利益が著しく害されるおそれがあると認められた。
(1)誇大広告(特定商取引法第12条)
少なくとも2023年11月7日から2023年12月19日までの間、ランディングページにおいて、
「24時間365日自動音声で解約可能」
「限られた時間内でしか解約の出来ない不便さは一切ありません 面倒な手続き・解約阻止の説得などもゼロ」
等と表示。
あたかも、簡易な手続により本件定期購入契約を容易に解除できるかのように示す表示をしていた。
実際には、定期購入契約の解除方法は煩雑な手続を経る必要があり、本件定期購入契約を容易に解除できなかった。

解除方法:
1)消費者が、商品の受領後、次回の発送日の7日又は14日前までに解約・休止専用窓口に電話をかけ、
2)自動音声による案内が終わった後にショートメッセージサービスにより送信されたURLからメッセージアプリの専用アカウントに登録(友だち追加)し、
3)当該アカウントのトークルーム内にある「スキップ・休止・解約エントリーフォームを受け取る」を押下して表示される画面に氏名等を入力することで本人確認を行い、
4)「スキップ・休止・ 解約のエントリーをする」を押下して表示されるエントリーフォームで最低15文字以上の記入が必要なものを含め、10問以上の質問への回答の入力をしなければならず、
5)その上で、オルリンクス製薬において、エントリーフォームに入力された内容を確認して、その結果連絡を消費者がメッセージアプリで受け取ることにより解除が完了する

【表示例】

(消費者庁公表資料より引用)

(2)最終確認画面における表示義務違反(特定商取引法第12条の6第1項)
少なくとも2023年11月7日から2023年12月19日までの間、ランディングページ上やランディングページに現れるポップアップをクリックして遷移するチャットボットページ上における定期購入契約の最終確認画面上において、本件解除方法の一部しか表示していなかった。

【表示例】
最終確認画面:

(消費者庁公表資料より引用)

【処分の内容】
(1)業務停止命令
内容:通信販売に関する業務のうち、次の業務を停止すること。
 1)オルリンクス製薬が行う通信販売に関する商品の販売条件について広告を行うこと。
 2)オルリンクス製薬が行う通信販売に関する商品の売買契約の申込みを受けること。
 3)オルリンクス製薬が行う通信販売に関する商品の売買契約を締結すること。
期間: 2024年4月10日から2024年7月9日まで(3か月間)

業務停止命令に違反した場合は、行為者に対して3年以下の懲役又は300万円以下の罰金又はこれを併科する手続きを、法人に対しては3億円以下の罰金を科する手続きを行うこととなっています。

(2)指示
1.前記違反行為の発生原因について検証し、違反行為の再発防止策及び社内のコンプライアンス体制を構築(法令及び契約に基づく返金及び解約の問合せ等に適切かつ誠実に対応することを含む。)して、これを同社の役員及び従業員に、業務停止命令に係る業務を再開するまでに周知徹底すること。
2.2023年11月7日から2024年4月9日までの間にサンとの間で本件売買契約を締結した全ての相手方に対し、消費者庁のウェブサイトに掲載される、業務停止命令及び本指示をした旨を公表する公表資料を添付して、2024年5月9日までに文書により通知し、同日までにその通知結果について消費者庁長官宛てに文書により報告すること。
3.誇大広告の内容を消費者に周知すること。
4.今後、オルリンクス製薬が行う通信販売について、特定商取引法の各規定を遵守すること。

上記指示に違反した者には、6月以下の懲役又は100 万円以下の罰金、又はこれを併科、違反が法人の業務の場合には、行為者を罰するほか、その法人に対し100 万円以下の罰金が課せられます。

また、本件では、オルリンクス製薬の元代表取締役北川雅人に対して、同社が命ぜられた業務停止の範囲内の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)を3か月間禁じる処分が下っています。
※北川は、オルリンクス製薬が特定商取引法違反する行為をした当時から少なくとも2024年3月11日まで、同社の代表取締役であり、かつ、同社が停止を命ぜられた業務の遂行に主導的な役割を果たしていた。

上記指示に違反した者には、個人は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金が科せられます。

誇大広告(12条)+最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)による法執行

特商法の誇大広告禁止規定(12条)が初めて適用された(株)サンの事案に続き、本事案も誇大広告(12条)と最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)による処分となっています。
誇大広告については、サンの事案では「No.1」表示でしたが、本事案では定期購入契約が容易に解約できるような表示が有利誤認の認定となりました。
「No.1」表示については景表法による執行が目立ちますが、定期購入契約が容易に解約できるかのような表示についても、2019年に埼玉県による景品表示法違反の措置命令があります。
違反認定されたのは、通販の定期購入契約の解除について、実際には解約の手段は電話に限られ、平日午前10時から午後5時までに申出せねばならず、その電話もつながりにくく、容易に解約できないにもかかわらず、「いつでも好きな時に1ステップで解約できます」等と容易に解約できるような表示が有利誤認の認定となりました。

・育毛剤(株)RAVIPAに景表法措置命令。「いつでも解約」「顧客満足度」「使用体験者の年齢」「お手入れなし・あり写真」に不当表示認定(埼玉県:2019年8月20日)

通販での定期購入契約に関連した誤認表示違反は、今後も特商法の誇大広告禁止規定(12条)を適用した処分が予測されます。
特商法による処分は、景表法での処分よりも事業へのインパクトが大きいと言えます。
通販での定期購入を行うにあたり「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」は、景表法だけでなく特商法でも規制されることに留意が必要です。

特商法と景表法との処分の違いについては、サンの事案で解説しています。
・No.1不当表示、特商法の通信販売規制でも。法改正後2件目の処分、ネット通販定期購入(株)サンに業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年3月15日)

適格消費者団体から2度の申し入れ、消費者契約法でも争点に

なお、オルリンクス製薬は、本件で問題となった定期購入の解約に関する利用規約の記述をめぐり、適格消費者団体(特非)とちぎ消費者リンクから昨年10月と本年3月に2度にわたり申入れを受けています。
とちぎ消費者リンクは、オルリンクス製薬の利用規約のうち、①定期コースの解約方法をやむを得ない場合を除きLINEによる方法に限定している条項、また、②やむを得ない場合にはメール・FAXによる解約を認めるもののその際には身分証明書の開示が必須となる条項について、消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)により無効となりうるとして、条項の削除を求めていました。
それに対して、同社は2023年11月時点での回答では、②の削除には応じませんでしたが、2024年3月の再申し入れを受け、削除を受け入れました。しかしながら、①の条項については一切言及しておらず、2024年5月23日時点でもとちぎ消費者リンク側では申し入れを終了していません。

とちぎ消費者リンクの申入れ活動
2023/10/31 (株)オルリンクス製薬に申入書を送付
https://tochigilink.org/pdf-doc/moshiire/20231031-ORLINKS1.pdf
2023/11/08 (株)オルリンクス製薬より回答書
https://tochigilink.org/pdf-doc/moshiire/20231108-ORLINKS2.pdf
2024/03/04 (株)オルリンクス製薬に再申入書を送付
https://tochigilink.org/pdf-doc/moshiire/20240304-ORLINKS1.pdf
2024/03/22 (株)オルリンクス製薬より回答書
https://tochigilink.org/pdf-doc/moshiire/20240322-ORLINKS2.pdf

本件の特商法での処分では、通販の定期購入契約の解除について、定期購入契約が容易に解約できるかのような表示と、最終確認画面に解約方法の一部しか表示していなかったことをもって、「通信販売に係る取引の公正及び購入者の利益が著しく害されるおそれがある」と認定しています。電話、SMS、LINEによる煩雑な手続そのものを違反行為としているわけではありません。
12条の6第1項の規定では、解約方法を特定の手段に限定する場合の扱いとして、リンク先や参照ページの表示ではなく、広告画面はもとより、最終確認画面においても明確に表示することとしています。
ただし、「解約方法に制約がある旨を表示することによって、当該制約が民事的に有効となることを意味するものではない。不当に消費者の権利を制限し又はその義務を加重する条項は、消費者契約法等により無効となることがある。」としています。
特商法の違反事項を修正することにより、消費者による解約を不当に制限するものとはみなされず、①の条項が消費者契約法第10条に抵触しないと判断されるのか、今後も注視したいと思います。

問われる、ネット通販コンサルティングを行う上場企業である親会社としての企業姿勢

なお、オルリンクス製薬は今年2月に通販・D2Cのコンサルティングなどを手掛ける(株)売れるネット広告社に子会社化されていました。売れるネット広告社は2023年10月に東京証券取引所グロース市場に上場した会社です。

オルリンクス製薬のグループ参画により『売れるネット広告社』がD2C(ネット通販)事業に参入
(2024年2月6日 (株) 売れるネット広告社)
https://www.ureru.co.jp/news/archives/190

その上で、売れるネット広告社は、同社子会社のオルリンクス製薬の行政処分について、処分公表日の4月10日にお詫びを発表しています。

行政処分の内容につきましては、オルリンクス製薬が当社子会社となる以前の一定期間(2023年11月7日~2023 年 12 月 19 日)に実施していた販売手法であり、当社グループ加入後、現在に至るまで実施をしていない販売手法に対するものでございます。
今回の行政処分につきましては当社グループ全体で厳粛に受け止め、グループ一丸となって再発防止に向けて取り組んでまいります。
なお、本件行政処分による当社の 2024 年7月期通期の連結業績への影響につきましては、後段「4.今後の見通し」に記載のとおりではございますが、今回行政処分を受けた内容は、現在実施していない販売手法であり、今後も実施を予定しておらず、2024 年7月期につきましては「既存顧客との継続取引」等を中心に事業を計画していたため、軽微であると判断しております。

当社子会社(株式会社オルリンクス製薬)に対する消費者庁からの行政処分に関するお知らせ
(2024年4月10日 株式会社 売れるネット広告社)
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS04786/35e00b1f/67c3/40f1/b63d/8b1eb293e66a/140120240410568091.pdf

売れるネット広告社によれば、行政処分を受けた販売手法は現在実施していないということですが、オルリンクス製薬のECサイトにおいてLINE等による煩雑な解約手続きそのものは継続しています。

オルリンクス製薬ECサイト>特定商取引法に基づく表記

オルリンクス製薬ECサイト>特定商取引法に基づく表記
https://orstar.jp/shop/law_info

記載方法に一定の改善は見られますが、煩雑な解約手続きであっても明瞭な記載がありさえすれば、消費者は定期購入の解約の妨げとは感じることなく、安心して解約できるのでしょうか。
例外条件として、メール・FAXによる解約手段も設けてはいるものの、LINEでの解約ができないやむを得ない理由として、「LINEをインストールできない携帯端末」「携帯を持っていない/LINEアカウントがない」「SMSを受け取れない」といった場合に限定しています。
総務省調査(※)によれば、2022年の全年代での「スマートフォン」の利用率は97.1%で、LINEの利用率は94%、60代においても86%が利用する国民的コミュニケーションサービスとなっており、実質的にほとんどの人が煩雑な解約手続きを踏むこととなります。

このような手法が、仮に特商法上の違反は免れるとしても、消費者に支持されるのか。
ネット通販コンサルティングを行う上場企業である親会社としての企業姿勢が問われます。

総務省「令和4年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(※)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01iicp01_02000119.html

特定商取引法のポイントについて、以下の記事で解説しています。
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≪参考記事≫

・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)

・消費者保護の更なる強化。特商法・消契法の改正案閣議決定(平成28年3月4日)

・ネット通販定期購入(株)BIZENTOに特商法による業務停止命令(3カ月)。「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン(案)」のパブコメ開始(東北経済産業局 2021年11月25日)

・特商法改正後初の処分。ネット通販定期購入(株)LITに特商法による業務停止命令(6カ月)。積極的な消費者被害救済の指示も(消費者庁 2023年6月28日)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。