12月23日、消費者庁は、自動車用品製造販売会社アドパワー・ソリューションズ(株)(東京都)と(株)ヨシハラ(福島県)に対し、商品の乗用車やバイクの燃費向上効果表示について、景品表示法違反(優良誤認)の措置命令を行いました。優良誤認で不実証広告規制(※)を用いた処分となっており、2社が提出した根拠資料は、いずれも表示の裏付けとなる「合理的な根拠」として認められませんでした。
新技術による効果や性能表示を行う際には、その根拠の「科学的合理性」評価について正しい理解が重要です。
処分のポイントと、アドパワーが認められなかった根拠資料について「合理的な根拠」の考え方を確認します。
———-
四輪車等の燃費向上効果等を標ぼうする商品の製造販売業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令について (消費者庁 2023年2月10日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/032123/
———
(※)
不実証広告規制(7条2項)
消費者庁長官は、商品・サービスの内容(効果、性能)に関する表示についての優良誤認表示に該当するか否かを判断する必要がある場合に、期間を定めて、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。
⇒ 事業者が資料を提出しない場合又は提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合は、当該表示は不当表示とみなされる。
違反概要
アドパワー・ソリューションズ(株)
商品:5商品
AdPower
AdPower Moto
AdPower Moto Plus
AdPower Diesel
AdPower Diesel Plus
表示媒体、表示期間:
1)自社Webサイト:2021年11月15日~2022年12月12日
2)自社ウェブサイト上の動画:2021年11月15日~2022年12月16日
3)「Yahoo!ショッピング」に開設した自社ウェブサイトおよび商品販売ページに切り替え表示される画像:
2022年3月4日~同年8月26日まで
4)「Amazon.co.jp」における商品の販売ページおよび商品販売ページに切り替え表示される画像:
2022年3月4日~同年8月26日まで
表示内容:
「EFFECTS 貼るだけで得られる効果」、「パワーレスポンスUP エンジン内の空気の流れがスムーズになり、馬力・トルク共に向上します。貼った瞬間効果を感じたという声を多く寄せられています。」、「燃費に好影響、エンジンの燃焼効率が改善されることで、燃費の改善が期待できます。運送会社における燃費測定データ」等と表示。
あたかも、本件5商品を四輪車又は二輪車のエアクリーナーに貼付するだけで、燃費、馬力及びトルクが向上し、また排ガスを削減する効果が得られるかのように示す表示をしていた。
違反表示例:アドパワー・ソリューションズ(株)(AdPower 自社Webサイト)
(株)ヨシハラ
商品:2商品
GAIAPOWER PRO
GAIAPOWER MINI
表示媒体、表示期間:
1)「ガイアパワー公式オンラインショップ」と称する自社Webサイト:2021年11月15日~2022年3月4日以降
2)楽天市場に開設した「YoiTabiストア」と称する自社Webサイト、商品販売ページに切り替え表示される画像、および動画:2022年3月4日以降
3)「Yahoo!ショッピング」に開設した「YoiTabiストア」と称する自社ウェブサイトおよび商品販売ページに切り替え表示される画像:2022年3月4日以降
4)「Amazon.co.jp」における商品の販売ページおよび商品販売ページに切り替え表示される画像:2022年3月4日以降~同年9月16日まで
表示内容:
「エアダクトやラジエーターホースに巻くだけで車がパワーアップする!!!!」、「燃費向上グッズ! ガイアパワー」等と表示。
あたかも、本件2商品を四輪車のエアダクトやラジエーターホースに取り付けるだけで、燃費、馬力及びトルクが向上し、また排ガス中の有害物質が減少する効果が得られるかのように示す表示をしている又は表示をしていた。
違反表示例:(株)ヨシハラ(GAIAPOWER 自社Webサイト)
なお、ヨシハラについては、措置命令が発出された時点において違反認定された表示を継続しており、表示を取りやめるよう命じられています。
実際:
2社に対し、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めたところ、資料が提出された。しかし、当該資料は当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められなかった。
なぜ、合理的根拠として認められなかったのか?
アドパワーは、本措置命令に対するお詫びとお知らせを公表し、以下のように述べています。
消費者庁からこの表示の裏付けとなる合理的な根拠資料を求められたため、大学での委託研究結果、公的および民間での試験結果、海外での排ガス測定試験等の書面を提出しましたが、当該表示は一般消費者に対し実際のものよりも著しく優良であると示すもので景品表示法違反に当たると判断されました。
私たちの研究開発について
景品表示法に基づく措置命令に関するお詫びとお知らせ
消費者庁より私どもの研究データではまだ広く学術・産業界の評価には値しないとの判断を受け、新しい発見・発明の評価には長い時間がかかる事を改めて実感しております。
https://www.adpower.jp/2023/02/10/info-20230210/
(投稿日: 2023年2月10日 投稿者: ADPOWER_JAPAN)
Q. なぜ「パワーレスポンスアップ」「燃費にも好影響」「排ガス削減」と表示したのですか?
A. 大学での委託研究結果、公的および民間での試験結果、海外での排ガス測定試験等、およびユーザー様からいただくフィードバックを元に弊社で表示内容を検討した上で表示しておりました。
景品表示法に基づく措置命令に関するQ&A
https://www.adpower.jp/2023/02/10/qa/
(投稿日: 2023年2月10日 投稿者: ADPOWER_JAPAN)
また、報道では、次のように説明されています。
消費者庁の求めに応じて、各社からは表示の裏付け資料が提出された。消費者庁の担当官によると、「(試験は)外部環境をコントロールできていなかった。また、資料の中には商品による効果なのか、測定の誤差なのかが不明なものもあった」(表示対策課)と説明している。
エアダクトなどに貼るだけで燃費向上?車グッズメーカー2社に措置命令
(通販通信ECMO 2023.2.10)
アドパワーは、表示の根拠資料として、大学での委託研究結果、公的および民間での試験結果、海外での排ガス測定試験等を提出したとしていますが、その科学的合理性が認められませんでした。
そこには、「科学的合理性」についての、同社と消費者庁との認識のずれがあると考えられます。
表示の「合理的根拠」として認められるためには、資料が客観的に実証された内容のものであると同時に、表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していることの2つの要件が求められます。
客観的な実証方法としては、試験・調査によるものがありますが、社会に広く認められた方法で行われる必要があります。
同社は、「消費者庁より私どもの研究データではまだ広く学術・産業界の評価には値しないとの判断を受け、新しい発見・発明の評価には長い時間がかかる」と述べていることから、新しい技術であり、JIS規格などの公的基準や学会・業界団体の定めた試験基準などが存在せず、事業者が独自の方法で行った試験であったことが読み取れます。
事業者が独自に行う試験が認められないわけではありませんが、独りよがりな方法ではなく、広く認められた試験法や学会誌に掲載されている研究論文を参考にするなど、社会に広く認められた方法をとる必要があります。
特に、試験法や定義が確立されていない効果や性能などの表現には注意が必要です。
フィデスでは、商品の効能効果訴求を支える根拠データの妥当性評価や試験設計について、コンサルティングしています。
お気軽にご相談ください。
======================================
◆エビデンスチェックコンサルティング◆
試験デザインや測定方法など科学的視点から、
広告表現と試験データの対応を検証します。
詳細はこちら
======================================
《関連記事》
・樹脂製品の環境配慮の「生分解性」表示に景表法措置命令。エアガン用BB弾、ごみ袋、ストロー、カップ、釣り用疑似餌など10社一斉処分(消費者庁 2022年12月23日)
・投てき消火用具の消火効果表示、販売業者5社に景表法措置命令。求められる信頼回復対応(消費者庁 2022年5月25日)
・「クレベリン」の大幸薬品に景表法措置命令。「空間除菌製品」の除菌効果表示の合理的根拠に波紋(消費者庁 2022年1月20日)
======================================
◆広告法務コンサルティング・社員教育◆
販促・広報戦略、商品表示・広告チェック社内体制構築等、
社外専門家としてのノウハウとサポート
詳細はこちら
======================================
————————————————————-
◆本ブログをメルマガでまとめ読み!
本ブログの1週間分の情報を、ダイジェストでお届けしています。
登録はこちら
————————————————————-
この記事へのコメントはありません。