2022年6月1日に施行された、詐欺的な定期購入商法対策を目的とした特定商取引法改正の、施行後初の行政処分です。定期購入契約の最終確認画面上での契約内容や解約条件等に関する誤認表示と、解除に関する事項の不実告知に対する処分認定がなされました。
消費者庁は、2023年6月27日、ヘアケア用品及びサプリメントを販売する通販事業者の(株)LIT(本店所在地:東京都目黒区)と同社代表取締役中村智紀、同社が停止を命ぜられた業務と同一の業務を行っていた通販業(株)LIT INOVATION(東京都港区)に対して、特定商取引法違反で6カ月間の業務停止(禁止)を命じました。
また、業務停止命令と併せて出された指示では、コンプライアンス体制構築として法令及び契約に基づく返金及び解約の問合せ等に適切かつ誠実に対応することや、本件定期購入契約をした相手方に対し、処分について文書により通知することなどが盛り込まれており、積極的な消費者の被害救済を求めるものとなっています。
処分の内容を確認します。
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特定商取引法違反の通信販売業者に対する業務停止命令(6か月)及び指示並びに
当該業者の代表取締役に対する業務禁止命令(6か月)及び特定関係法人における
業務停止命令(6か月)について
(消費者庁 2023年6月28日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/033813/
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【事業概要】
取扱商品①:「ブラックデュアルトリートメント」と称するヘアケア用品
取引類型:通信販売「emerire」と称する自社ウェブサイト「https:// emerire.com/」
取扱商品②:「精の命」と称するサプリメント
取引類型:通信販売「百命堂」と称する自社ウェブサイト「https:// lit-online-shop.com/」
代表者:中村智紀
【認定した違反行為】
同社は、次のとおり、特定商取引法の規定に違反する行為をしており、通通信販売に係る取引の公正及び購入者の利益が著しく害されるおそれがあると認められた。
最終確認画面における誤認表示(特定商取引法第12条の6第2項)
少なくとも2023年3月10日から2023年4月12日までの間、ウェブサイトにおける定期購入契約の最終確認画面上において、分量、商品の販売価格、商品代金の支払時期、商品の引渡時期及び解約条件につき、人を誤認させるような表示をしていた。
最初に引き渡す商品の販売価格を赤字で大きく「990円」などと強調表示。
「注文を確定する」ボタンの直上に、「いつでも解約OK」などとピンク地に黒字で大きく表示し、契約の解約がいつでも可能である旨を強調。
その強調表示に比べて著しく小さな文字で、分量、2回目以降の販売価格・商品代金の支払時期・引渡時期、解約条件について、罫線枠上や、スクロールバーを表示することもなく罫線枠内のスクロールをしなければ確認することができない位置に表示していた。
解約条件:
次回配送予定日の12日前又は7日前までに、電話又は本件商品に関するLIT独自の解約専用フォームにより解約する必要がある。
【表示例】
最終確認画面:
解除に関する事項につき不実のことを告げる行為(特定商取引法第13条の2)
2023年4月、通信販売に係る本件定期購入契約の解除を妨げるため、実際には、当該契約を解除することが可能であるにもかかわらず、解約専用フォームにおいて「ご解約の方はこちら」をクリックして解除を試みた消費者に対し、「大変恐れ入りますが、商品が既に発送準備中となっているため、キャンセルをお受け出来かねます。」、「次回発送分の商品から解約可能となっております」などと表示して、あたかも、解除することができないかのように告げるなど、当該契約の解除に関する事項について不実のことを告げる行為をした。
【処分の内容】
(1)業務停止命令
内容:
通信販売に関する業務のうち、次の業務を停止すること。
1)LITが行う通信販売に関する商品の販売条件について広告を行うこと。
2)LITが行う通信販売に関する商品の売買契約の申込みを受けること。
3)LITが行う通信販売に関する商品の売買契約を締結すること。
期間:
2023年6月28日から2023年12月27日まで(6か月間)
業務停止命令に違反した場合は、行為者に対して3年以下の懲役又は300万円以下の罰金又はこれを併科する手続きを、法人に対しては3億円以下の罰金を科する手続きを行うこととなっています。
(2)指示
1.前記違反行為の発生原因について検証し、違反行為の再発防止策及び社内のコンプライアンス体制を構築(法令及び契約に基づく返金及び解約の問合せ等に適切かつ誠実に対応することを含む。)して、これを同社の役員及び従業員に、業務停止命令に係る業務を再開するまでに周知徹底すること。
2.2023年3月1日から2023年6月27日までの間にLITとの間で本件売買契約を締結した全ての相手方に対し、消費者庁のウェブサイトに掲載される、業務停止命令及び本指示をした旨を公表する公表資料を添付して、2023年7月27日までに文書により通知し、同日までにその通知結果について消費者庁長官宛てに文書により報告すること。
上記指示に違反した者には、6月以下の懲役又は100 万円以下の罰金、又はこれを併科、違反が法人の業務の場合には、行為者を罰するほか、その法人に対し100 万円以下の罰金が課せられます。
また、本件では、LITの代表取締役中村智紀に対して、同社が命ぜられた業務停止の範囲内の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)を6か月間禁じる処分が下っています。
さらに中村社長が代表であり、LITが停止を命ぜられた業務と同一の業務を行っていた通販業(株)LIT INOVATION(東京都港区)に対して特定商取引法第15条の2第2項第1号に規定する特定関係法人として、前記業務禁止命令の範囲と同一の業務の6カ月間の停止命令が出されています。
「定期購入」トラブル、特商法改正後も大幅増加
法改正では、ショッピングカートの「最終確認画面」や書面による申込用紙に取引内容に関する義務表示事項が設けられ、また、定期購入契約での「お試し」や「トライアル」、「いつでも解約可能」などの強調表示での消費者を誤認させるような表示が禁じられました。
違反行為により消費者が誤認して申し込みをした場合には取消権が認められ、契約解除の妨害に当たる行為に対しては罰則付きの禁止となります。
しかし、残念なことに、改正特定商取引法施行後も通信販売での「定期購入」に関する消費者相談件数は増加し続けています。
2022年度は2023年2月末までで74,146件、2021年度は58,526件(2021年度同期件数(2022年2月28日までの登録分)は47,617件)から大幅に増加しています。月次で見ると、法改正が施行された2022年6月から8月まではやや減少したものの、再び増加に転じ、23年1月には1万件超と急増しています。
ネット通販定期購入に対する特商法による行政処分は、法改正前の2021年11月25日の(株)BIZENTO事案以来、1年7か月ぶりとなっています。
・ネット通販定期購入(株)BIZENTOに特商法による業務停止命令(3カ月)。「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン(案)」のパブコメ開始(東北経済産業局 2021年11月25日)
法改正施行から1年が経過し、今回の処分を皮切りに法執行が続くことも予想されます。
定期購入販売規制を目的とした法改正でしたが、一般的な通信販売、サブスクリプション契約にも影響が及ぶ規制となっています。ネットや紙面による契約申し込みを行う全ての通販事業を行う方は、今一度、ご確認を。
・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)
特定商取引法のポイントについて、以下の記事で解説しています。
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≪参考記事≫
・クーリング・オフに対する誤認識が8割超 悪質商法対策に求められる消費者教育(令和5年度消費生活意識調査(第1回))
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