「クラスTシャツ」通販の納品遅れに消安法の注意喚起。SNSの販促ツール活用に注意(消費者庁 2022年10月27日)

高等学校等で開催される体育祭や文化祭等のイベントで使用される「クラスTシャツ」について、ネット通販での著しい納品遅れの相談が多数寄せられているとして、消費者庁は10月27日、消費者安全法に基づきネット通販事業者の社名を公表し消費者への注意喚起を行いました。

「クラスTシャツ」は、その性質上、特定の日時における高等学校等のイベントでの使用が想定されており、消費者にとって使用日までに納品されることが最も重要な契約の要件となります。
そのため、今回、商品の納品遅れが「消費者の利益を不当に害するおそれのある行為(債務の履行の著しい遅延)」とみなされ、消費者被害の発生又は拡大の防止の観点から、社名、事業者の住所、代表者名、ショップ名が公表されました。

また、本件では商品の注文や内容確認について、消費者を事業者のLINEアカウントに友だち登録させ、事業者との LINE メッセージのやり取りのみで行っていました。
消費者庁は、SNS上のやり取りだけで注文を確定する事業者との取引に注意を呼び掛けています。

本件の注意喚起の内容と、近年の消費者安全法での注意喚起の動向を確認します。

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高等学校等のイベントでの使用を目的として注文されるクラスTシャツ等について、納品の遅延を発生させている事業者に関する注意喚起
(消費者庁 2022年10月27日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/030625/
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【事業者名】
KOMATO株式会社

【具体的な事例】
KOMATOは、インターネット上で、「クラTクリエイト」等のショップ名により、クラスTシャツの販売を行っていたところ、消費者に対し、クラスTシャツの使用日を事前に確認し、使用日までに納品が間に合うと伝えた上で受注したにもかかわらず、使用日を過ぎてから、納品を行うことがあった。

(1)「使用日までには間に合う」などと伝えて本件クラスTシャツを注文させる

  • 消費者(高校生等)がスマートフォン等を利用して、検索サイトで「クラスTシャツ」などと検索すると、KOMATOのウェブサイトや Instagram のページが表示される。
  • ウェブサイトには、LINE で注文を受け付ける旨が表示されており、消費者がKOMATOに対してクラスTシャツの納品日等の確認を行うためには、LINEアカウントの友だち登録をする必要があり、登録すると、クラスTシャツの注文方法の説明及びデザイン例等の画像が送信される。
  • 消費者は、KOMATOとの LINE メッセージのやり取りにより、クラスTシャツのデザイン、注文枚数、使用日等を伝え、使用日までに納品されることを確認して、注文を確定する。

(2)使用日になってもクラスTシャツが納品されない

  • その後、使用日が近くなってもクラスTシャツが納品されず、消費者がKOMATOに、納品はいつになるのか確認すると、「本日発送です」などと返信。
  • そして、使用日の直前になると、KOMATOから「空輸の遅れ」等のため、使用日までに納品できない旨の LINE メッセージが届き、使用日の当日になってもクラスTシャツが納品されないことがあった。

本件事業者と消費者との LINE メッセージの例

(消費者庁公表資料引用)

債務の履行の著しい遅延
クラスTシャツは、その性質上、特定の日時における高等学校等のイベントでの使用が想定されており、消費者にとって使用日までに納品されることが最も重要な点であり、KOMATOは、クラスTシャツの注文を受け付ける際には、使用日までに間に合う旨を伝え注文を確定させ、さらに、使用日近くになり、消費者から使用日までに間に合うのかなどの確認を受けた際にも、「本日発送です」などと使用日までに間に合う旨を返信していた。
しかし、使用日の直前になって「空輸の遅れ」等の理由を説明し、使用日を過ぎてから、納品を行うことがあった。

その他、以下の事実が確認された。

  • クラスTシャツが使用日までに納品されなかったことから、KOMATOに注文をキャンセルする旨を伝えたにもかかわらず、後日、商品が納品された。
  • 使用日の前後に、納品日について複数回確認する LINE メッセージを送信したにもかかわらず、KOMATOから一切返信がなかった。
  • KOMATOから、使用日の直前になって、使用日までに納品するためには、クラスTシャツのデザインを簡素にするか無地にする必要があるとのLINEメッセージが届いた。

近年の消費者安全法での注意喚起の事例

近年の消費者安全法での注意喚起では、偽ブランド品や偽表示商品をECモールサイトで販売する、実体を特定できない事業者に対して行われています。

アマゾンで「素材構成 100%カシミヤ」などとうたったストールの広告が偽物であるとして、出品事業者3社の社名を公表。
・アマゾン出品事業者「100%カシミヤ」虚偽表示で消安法の注意喚起 DTFの対応は?
(消費者庁 2021年12月17日)

アマゾンで偽ブランド品を販売していた通販事業者13社に対し、「公示送達(※)」による特定商取引法に基づく業務停止命令(3カ月)と、違反行為の是正等の指示の一斉処分。
・消費者庁 アマゾンで偽ブランド品販売13社に特商法業務停止命令。違法行為は氷山の一角(消費者庁 2020年4月7日)

(※)公示送達
違反事業者のホームページに住所の記載がない場合など、所在不明で処分書が送付できない場合、処分書を交付する旨を一定期間掲示することで事業者に交付されたものとみなす処分。2016年の特定商取引法改正により規定が導入された。

また、化粧品・医薬部外品の虚偽・誇大なアフィリエイト広告に対しても行われました。
・シミ消し化粧品のアフィリエイト広告に、初の消費者安全法による注意喚起
 (消費者庁 2021年3月1日)

いずれも「消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報」を公表するという観点から、他の法律より迅速な対応が取られています。

SNSの販売促進ツール活用への法執行が強まる見込み

注目すべきポイントとして、本件では、ターゲットが高校生ということで、リーチしやすいSNS広告やLINEのみでの注文受付が問題視されています。
SNSを利用して行われる取引での消費者問題については、最近、行政が注視しているところです。
SNSの急速な普及に伴って消費生活相談が増加している状況を受け、その対応について、「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ報告書」を踏まえ、22年9月に消費者委員会より「SNSを利用して行われる取引における消費者問題に関する建議」及び意見(※)が発出されています。
(※)
消費者委員会
デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ報告書(2022年8月26日)
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2022/houkoku/202208_digital_houkoku.html
SNSを利用して行われる取引における消費者問題に関する建議(2022年9月2日)
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2022/0902_kengi.html
SNSを利用して行われる取引に関する消費者委員会意見(2022年9月2日)
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkaikouhyou/2022/0902_iken2.html

また、行政処分としては、若者に対してマッチングアプリやSNSなどを通じたマルチ商法への勧誘を行ったとして、22年10月14日に、連鎖販売業者日本アムウェイ合同会社に対し、特定商取引法に基づく取引等停止命令(6か月)の処分が出されました。
—————–
連鎖販売業者【日本アムウェイ合同会社】に対する行政処分について
(消費者庁 2022年10月14日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/030531/
—————–

今後、SNSの販売促進ツール活用への法執行が強まることが予測されます。

《関連記事》
・見たことのあるSNS広告、「大幅値下げをうたうセール広告」が最多。違法広告に注意
(令和3年度 消費者意識基本調査)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。