ECサイトでの二重価格表示に店頭販売での「通常価格」認められず。北海道産地直送センターに景表法措置命令(消費者庁 2022年7月29日)

ネット通販での販売実績のない「通常価格」を用いた二重価格表示に対する景品表示法違反事案です。

消費者庁は7月29日に、食料品小売・卸売事業者(株)北海道産地直送センター(北海道札幌市)の自社ウェブサイトおよび地上波放送での食品の価格表示に対し、景品表示法の措置命令を行いました。
自社ウェブサイトでは、道産のカニやたらこの海産物など34商品について、販売実績のない「通常価格」の比較対象価格による有利誤認表示とみなされました。

処分の概要と、今回問題となった「通常価格」を比較対象とした二重価格表示を行う際の景品表示法上の留意すべきポイントを確認してみましょう。

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株式会社北海道産地直送センターに対する景品表示法に基づく措置命令について
 (消費者庁 2022年7月29日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/029550/
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【違反内容】
表示媒体・対象商品:
・「産地直送センター」と称する自社ウェブサイトにおいて販売した食品34商品
・地上波放送を通じて放送された「イチモニ!」と称する番組内の「新型コロナに負けるな!買って応援北海道」と称するコーナーにおいて販売された食品3件

表示期間:
自社ウェブサイト:2021年10月22日~2022年2月1日
地上波放送番組:2021年11月13日、2022年1月22日、2022年2月26日

表示内容:
自社ウェブサイト:
例えば、「味付け焼きたらこ 600g」、「通常価格:¥4,000税込」及び「販売価格:¥1,480税込」と表示。
あたかも、「通常価格」と称する価額は、自社ウェブサイトにおいて本件34商品について通常販売している価格であり、実際の販売価格が当該通常提供している価格に比して安いかのように表示していた。

地上波放送番組:
例えば、「北海道の味覚9品 けっぱれどさんこセット」、「①豚丼の具3種 ②こまい 200g ③ほっけ 400g ④松前漬 200g ⑤タコしゃぶ 140g ⑥ラーメン 3袋 ⑦ホッケスティック 200g ⑧カラフトマスフレーク 80g ⑨お刺身用ホタテ 500g」、「プレゼント 北あかりコロッケ20個」及び「通常1万600円相当➡35%オフ 6,980円」との文字の映像を表示。

・あたかも、「通常」及び「相当」と称する価額(「比較対照価格」という)は、同社が本件3商品に含まれる単品の商品について通常販売している価格を足し上げた価格であり、実際の販売価格が、その価格に比して安いかのように表示していた。
・あたかも、本件3商品の購入者に対して、「プレゼント」と称する商品を無償で提供するかのように表示していた。

実際:
自社ウェブサイト:
「通常価格」と称する価額は、自社ウェブサイトにおいて本件34商品について販売された実績のないものであった。

地上波放送番組:
・本件3商品に含まれる単品の商品の過半は、同社において販売実績がないものであって、比較対照価格は、販売実績のない単品の商品について同社が任意に設定した価格及び「プレゼント」と称して提供する商品の価格を含み、任意に設定されたものであった。
・本件3商品の販売価格は、同社が「プレゼント」と称して提供する商品の価格を含むものであって、「プレゼント」と称する商品は、無償で提供されるものではなかった。

【違反例】

(消費者庁発表資料より抜粋)

比較対照とする価格が通常の販売形態でない場合、どのような内容の価格であるかを正確に表示する

報道によると、処分についての同社のコメントが報じられています。

コロナ期間中に通販サイトの商品を増やした際に、店舗での販売価格を『通常価格』として載せてしまいました。不勉強な部分があり、大変反省しております。

(朝日新聞 2022年7月29日)

ネット販売する際の自社サイトの表示において、自社サイトでの販売実績のない店頭での販売価格を単に「通常価格」として比較対象価格に用いることは、通常の販売活動(ここではネット販売)とは言えない価格(ここでは店頭販売価格)との比較で安いとの誤認をまねくとみなされ、有利誤認が認められたと言えるでしょう。

適正な比較対象価格についての景品表示法の考え方(※)として、「比較対照とする価格がどのような内容の価格であるかを正確に表示する必要があり、あいまいな表示を行う場合には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。」とされています。

今回の「通常価格」が、店頭での最近相当期間にわたる販売実績のある価格であったならば、その内容を正確に表示することによって誤認を免れた可能性があります。

今回問題となった、「通常価格」を比較対象とした二重価格表示を行う際の景品表示法上留意すべきポイントを確認してみましょう。

●比較対照価格として「通常」価格と表示するには、最近相当期間にわたって販売された実績があることが必要
《「最近相当期間にわたって販売されていた価格」か否かの判断基準》
一般的な目安として、
・当該商品の販売されていた期間について、原則として、セール開始時点からさかのぼる8週間において、「通常価格」で販売されていた期間が過半を占めていること。(当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には,その期間において)

ただし、前記の要件を満たす場合であっても、
・「通常価格」で販売されていた期間が通算して2週間以上であること。
・「通常価格」で販売された最後の日から2週間以上経過していないこと。

「相当期間」について:
必ずしも連続した期間に限定されるものではなく、断続的にセールが実施される場合であれば、比較対照価格で販売されていた期間全体として評価する。

「販売されていた」とは:
事業者が通常の販売活動において当該商品を販売していたことをいい,実際に消費者に購入された実績のあることまでは必要ではない。
他方、形式的に一定の期間にわたって販売されていたとしても、単に比較対照価格とするための実績作りとして一時的に当該価格で販売していたとみられるような場合には,「販売されていた」とはみられない。

(※)
不当な価格表示についての景品表示法上の考え方
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_35.pdf
※現在、景品表示法は消費者庁に移管されていますが、上記ガイドラインは適用されています。

以下に、価格表示に関する景品表示法の解説記事をまとめました。
キャンペーンやマーケティング施策等を検討する際、広告法務のリスクマネジメントについて、お気軽にご相談ください。

≪参考記事≫

・割引率・割引額表示の注意点

・二重価格表示の注意点~販売条件が異なる販売価格~

・二重価格表示の注意点~競争事業者の販売価格~

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。