前回の記事では東京都が平成27年度に実施した事業者の法令遵守の取組状況等に関する実態調査より、コンプライアンス対応状況を紹介しました。
・コンプライアンス取組状況、表示の根拠情報の事後的確認は5割 (平成27年度「景品表示法」「特定商取引法」の法令遵守に係る事業者調査 東京都)
今回は同調査より、コンプライアンスに対する具体的な取り組み施策について取り上げます。
社内ルールの整備、審査・チェック方法、現場の把握・点検、お客様の声の収集・活用、教育研修について、他社事例からヒントが得られます。
(1)社内ルールの整備
まずコンプライアンス上問題ないルールを作成し、次にそのルールに基づいて従業員が業務を行う仕組みを作ることで、法令違反を防ぐ。
主な取組事例
《ルールの内容》
法令のほか業界自主基準や公正競争規約などの規範等を参考に作成。実務に則した内容とする、使いやすさを高める。
• あえて法律よりも厳しい社内ルールを作成
• 曖昧さを排除して判断を明確に示す表示のルールブックを作成
• 募集資料作成ガイドライン等のルールの整備
• 広告・取扱説明書作成などにおける表示の社内ガイドラインを作成
• 解約手続きを適正に実施するためにマニュアルを整備
《ルールの形態》
マニュアル、文例集・用語集、フォーマットなど各社の実務上のニーズに応じて作成。
• 表示に使う用語のコンパクトなルールを作成
• 法令に沿った表現のリストを作成
• キャンペーン景品の限度額を判定する Excel シートを作成
• 商品情報を一元的にまとめた資料を作り、表示作成やお客様対応などに活用
• 法令違反をしないように契約書面をフォーマット化
• 法令遵守を意識した業務マニュアルの参照を徹底
《ルールの運用》
作成したルールの冊子等を配布、イントラネットで共有するなど、参照を促す工夫。
• 実際の接客の流れに沿って、コンプライアンスを説明する「指導書」を配布
• ポータルサイトで表示のルールや文例集を共有
• 各担当が表示をチェックする手順を規定
• 作成したルールは定期的に見直す
(2)審査・チェック
ルール順守のチェック方法
従業員数100 人超の事業者(41社)で多く採られている方法は、「チェック担当部署がある」31社(76%)、「担当部内で確認する」26社(63%)、「マニュアルがある」「チェックリストがある」がどちらも18社(44%)となっている。
100 人以下の事業者(36社)では、「担当部内で確認する」24社(67%)、「チェック担当部署がある」10社(28%)、「チェックリストがある」4社(11%)、「マニュアルがある」3社(8%)となった。
「担当部内で確認」については、規模による差異は大きくなかったが、「チェック担当部署がある」については48ポイント、チェックリストやマニュアルについては30ポイント以上も開きがあった。
中小規模の事業者においては、審査・チェックのための部署を置くことや体制を整えることの難しさがうかがえる。
主な取組事例
業務の担当部門とコンプライアンス部門による段階的なチェックなど、複数の目で確認することでチェックの精度や確実性を高める。
営業・販売の業務ラインだけでチェックを完結させない。
• 表示管理担当者を中心に厳しく表示をチェック
• 開発、生産、営業(宣伝、販売)、サービス、修理の各段階で表示をチェック
• 募集資料・広告表示を作成部門とコンプライアンス部門でダブルチェック
• 担当部門とコンプライアンス担当により、段階的に表示をチェック
• テレビ CM など、影響力の大きい広告表示は会議を開いて審議
商品表示については、商品の企画、開発段階から審査担当が関与。(主に製造業の事業者)
出来上がった表示を審査するだけでなく、そもそも不適切な表示が作成されないように工夫する。
• お客様相談部門がお客様の視点で商品や表示を企画段階からチェック
• 表示に関する施策について、企画段階から相談
• 法務、技術、広告宣伝関係者が集まって広告表示の根拠資料を審査
• 仕入れた商品の品質、効果効能の根拠が正しいか自社で確認
• 販売条件、限度額等を設定し、逸脱の可能性がある取引を事前にチェック
社内だけでなく取引先と協力してチェックすることでダブルチェックの精度をさらに高めている。
• タイアップして作成する広告表示を審査して相手方と協議
• 仕入先や販売店と協力して表示をチェック
• 表示審査担当部門が社内他部署や関係他社とダブルチェックを実施
• 外部の目による表示(看板、景品、POP)のチェック
チェックの手順を定める方法、チェックシートを利用して漏れがないようにチェックする方法、イントラネットを使って様々な部署の担当者が一斉にチェックをする方法など、チェックを効率的・効果的に進める工夫。
• チェックリストを用いて広告・販促資料を審査
• 表示の審査を、システムを利用してワークフロー形式で実施
• 表示の審査結果を数値化して作成部門にフィードバック
• 約款を年に 1 回、入念にチェックして改訂
(3)現場の把握・点検
事前の審査・チェックだけでなく、実際に店舗等の現場を巡回して、広告表示や販売・契約の方法等を点検する。
主な取組事例
《景品表示法関係》
店頭広告や価格表示の現場点検のほか、広告作成等に関わる部署での根拠資料の保管状況を点検する、ホームページで使われている用語を点検する等の取組。
• 広告、販促物、ホームページなどの表示を定期的に確認
• 店舗を巡回して表示をチェック
• 適正な表示や販促資料を使った売り場作りを提案
• 広告表示の内容を表示管理部門と外部有識者がモニタリング
• 表示の根拠資料の保管状況を点検
《特定商取引法関係》
販売・契約の現場における販売員の行動や契約手続きのチェック等を行う。
• 展示会、店頭販売におけるルールの徹底と売り場の確認
• 全てのトラブルをシステムにより一元的に把握、管理
• 販売現場にコンプライアンス担当を配置し、販売方法等をチェック
• 臨店により、店舗運営、法令遵守の状況をチェック
• 訪問販売員が強引な販売をしないように複数人で相互チェック
• お客様との電話対応状況や顧客満足度を調査
現場で発見された問題を経営層や関係者に報告し、改善されるまでフォローすることで、確実な改善につなげていく。
また、点検に行くことで、現場の従業員に緊張感を持たせ、コンプライアンス意識が向上する効果も生まれている。
(4)お客様の声の収集・共有・分析・活用
集めたお客様の声は経営層に又は全社的に共有され、会社として対応している事例が多かった。お客様の声から問題点や要望を把握して改善することが、コンプライアンス向上や顧客満足、業績向上等につながることを意識している事業者においては、集計や事例研究を通じた問題の分析と活用が積極的に実施されていた。
しかし、中には集めることに留まっていたり、分析しても経営層まで報告できていなかったりするところもあった。
主な取組事例
《お客様の声の収集》
• お客様アンケートの積極的な回収
• アンケートを多く収集した社員を表彰したり、ボーナス査定に反映
• アンケートによるお客様からの評価を査定に反映
《お客様の声の共有》
• 全てのクレームを社長まで共有
• クレームをレポートに記録し、会議で共有
• トラブルの記録を社内で共有し、会社全体で対応
《お客様の声の分析》
• 苦情を分類整理して現場にフィードバック
• クレームを分析して原因を考察
• 発生したトラブルを様々な部署の担当者が集まって分析する会議を実施
• お客様対応部門ではクレームについて事例研究会を開き、適切な対応策を検討
《お客様の声の活用》
• 苦情内容を分析して表示や商品の改善に活用
• クレームをデータベース化し、社員が積極的に製品開発等に活用
• お客様の声を共有し、それを基に表示や商品等の改善案を作成し、会議で審議
(5)教育研修
従業員数100 人超の事業者(41社)で多く採られている方法は、「講習会を開催している」34社(83%)、「マニュアルを配布している」28社(68%)、「外部講習会に参加させている」22社(54%)となっている。
100 人以下の事業者(36社)では、「講習会を開催している」15社(42%)、「理解度の低い従業員、販売員等をチェックしている」11社(31%)、「マニュアルを配布している」「外部講習会に参加させている」がどちらも10社(28%)となっている。
「講習会を開催」「マニュアル配布」では40ポイント、「外部講習会に参加」については26ポイントも開きがあった。
また、自社独自の教材、ツールを利用しているのは、従業員数 100 人超の事業者では31 社(76%)に対して、100 人以下の事業者では14 社(39%)であった。
中小規模の事業者は教育研修を十分に実施できる体制が整っていないと考えられる。
主な取組事例
研修対象によって異なるレベル設定し、全社員向けには基礎的な知識の習得、社内の問題に気付くための意識付け、正しい業務手順を身につけることを重視するのに対し、コンプライアンス担当者や関係部署の従業員に対してはより詳細かつ最新の知識習得を目指す。
《継続的な研修の実施》
• 年に 1 回のコンプライアンス研修を義務付け
• 表示についてのコンプライアンス研修の定期的な実施と受講の義務づけ
• 景品表示法、公正取引規約などについての研修を実施
• コンプライアンス担当や専門分野の担当が営業所を巡回してコンプライアンス研修を実施
• 朝礼を利用するなどしてコンプライアンス意識を浸透
• 法令情報などをシステム上で全社的に共有
• 行政主催の講習会、業界団体の勉強会等の受講
• 取引先、業界団体主催の研修への参加
• 行政、業界団体の講習への参加と社内での説明
《対象を区別した研修の実施》
• 新任役職者等向けの定期研修と、部門の依頼に応じた不定期の研修を実施
• 全社員向けの基礎研修と、関係部署向けの専門研修を実施
• 社員、販売員等、各階層に向け教育研修、勉強会を実施
• 営業部門向けに景品表示法の研修を実施
• 研修、試験によりスタッフの知識・技術を向上
《効果的な研修方法》
• 全社員にビジネス法務検定受験を推奨
• e-learning 上で、景品表示法学習用のクイズを作成
• 同業他社・他業界の事故・違反事例を題材に利用した研修
• 研修用のオリジナルテキストの作成により、法務部門の知識・理解を向上
• 業界団体作成の教材を利用した販売員教育
• 研修、メディア、情報誌、行政等から情報収集し、社内に発信
• 実務の場面を解説した動画教材の作成
• 公正取引協議会から情報を収集して活用
インタビュー調査を実施した事業者の中から10社の事例が紹介されています。
◆事業者のコンプライアンスの取組 (2016年3月29日 東京都)
http://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/torihiki/compliance/jigyosyatorikumi2015.html
「景品表示法」「特定商取引法」の法令遵守に係る事業者アンケート及びインタビュー調査
http://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/torihiki/compliance/documents/h27tyousakekkagaiyou.pdf
<関連記事>
・景表法改正、広告表示の適正管理のための7つのポイン+1
(消費者庁 平成24年8月8日)
・景表法改正「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針(案)」(消費者庁 平成24年8月8日)
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