2025年、広告コンプライアンスの現場ではどのような事案が注目されたのでしょうか。
弊社が配信するメルマガ【FIDES 広告コンプライアンス】(『消費生活アドバイザー』が消費者目線で読み解く、広告コンプライアンス支援情報)で紹介したブログ記事の中から、読者の皆様の反響率(URLクリック率)が高かった注目事案TOP3を発表します。
今回のランキングで特筆すべきは、第1位の事案が記録した17.6%という反響率です。 Benchmark社が公開している最新の業種別平均データ(※)によれば、当メルマガが該当する「コンサルタント」カテゴリの平均クリック率は0.94%とされています。
一般的な平均値の約18倍、当メルマガの平均値(8%前後)と比較しても2倍以上というこの突出した数値は、実務の最前線にいる皆様の危機感が、いかにこの一件に集中したかを物語っています。
(※)
Benchmark Email 「Email Marketing Benchmarks」
平均メール開封率・クリック率レポート(2024年度版)
業種別・地域別(国別)の最新情報
https://www.benchmarkemail.com/jp/email-marketing-benchmarks/
2025年の振り返りとともに、これらのデータから見えてきた2026年の指針と展望を解説します。
読者の注目事案TOP3
第3位:【有利誤認:創建事案】
実施計画が不確実な期間限定キャンペーンをやっていませんか?(反響率11.5%)
外壁塗装に無料の窓断熱リフォーム、補助金活用を謳うも期限に根拠なし。創建に措置命令(2025年6月12日)
事案の概要:
期間限定で、外壁塗装の契約者に追加費用なく窓リフォームを行うと表示していたにもかかわらず、表示期限を過ぎても同様の条件でキャンペーンを繰り返し提供していたことが、有利誤認にあたるとされた事案です。
注目されたポイントは?:
典型的な「期間限定キャンペーン」の繰り返しに対する有利誤認違反ですが、本件では事業者が消費者庁による措置命令の事実認定やその評価に対して見解の相違を訴えており、その主張の法的妥当性について高い関心が寄せられました。
専門家の視点:
事業者は、「補助金制度活用を前提としていたため補助金の適用可否が不確実であり、条件が整えば翌月以降も継続する運用を行っていた。継続を前提としたキャンペーンの期間限定表示ではない。」と主張していました。
しかし、期間限定表示に対する景品表示法の有利誤認規制は、事業者の内部的な事情や運用方針を問題にするものではありません。消費者がその表示を見て「今買う(申し込む)ことが得だ」と誤認するかどうかが判断基準となります。
キャンペーンの実施継続が不確実であるならば、期間限定キャンペーンは行うべきではないでしょう。
第2位:【不実証広告:イースマイルとスマイルコミュニケーションズ事案】
その「数字」の根拠は、表示の裏付けとなる「合理的な根拠」に耐えうるか?(反響率11.6%)
・ダニの捕獲効果、根拠認められず。イースマイルとスマイルコミュニケーションズに措置命令(2025年4月22日)
事案の概要:
「25万匹捕獲」などと謳ったダニ捕獲シート「さよならダニー」シリーズ5商品について、効果表示の裏付けとなる根拠資料が「合理的な根拠」として認められず、不実証広告として措置命令を受けた事案です。
注目されたポイントは?:
当該商品はダニ用殺虫剤部門で売り上げNo.1を5年連続(2019~2023年日経POS実績)で獲得し、日本ネーミング大賞2024の審査委員特別賞も受賞するなど、非常に認知度の高いヒット商品でした。
誰もが知る有名商品での具体的な数字を用いた効果表示に対する、厳しいエビデンスの評価に、強い関心が寄せられました。
専門家の視点:
過去に度々、不実証広告規制を用いた処分を受けている「空間除菌製品」と同様、本件も表示の裏付けとなる「合理的な根拠」が認められずに優良誤認と認定されています。
景品表示法における「合理的な根拠」には、「客観的に実証されたデータ」であるだけでなく、「試験設計が、表示された実際の商品の使用条件と合致していること」が必須要件となります。
効能効果に関して具体的な数値を示して訴求する場合は、特にこれら要件への適合性を慎重に確認する必要があります。
第1位:【ステマ告示:スマイルスクエア事案】
レビュー施策の「境界線」はどこか?(反響率17.6%)
・ステマ告示処分4事案目。医療法人社団スマイルスクエア、Googleマップの口コミ投稿に措置命令 (消費者庁 2025年3月17日)
事案の概要:
患者に対し、「星5」の投稿を条件に割引を提供していた医療機関に対する、景品表示法第5条第3号(ステマ告示)による措置命令事案です。
注目されたポイントは?:
読者のステマ規制への高い警戒心が、顕著に現れました。
ネット通販事業では、自社サイトやモール(Amazon、楽天など)のレビュー施策が欠かせません。
「実際の違反事案から、自社のリスクを具体的に読み解き、正しく対策したい」という、実務に即したコンプライアンス対策への強い関心が読み取れます。
専門家の視点:
ECサイトにおいてレビューは最強の販促ツールですが、同時に最大のリスクにもなります。
2026年も、レビュー投稿に限らず、SNSタイアップ施策や自社役職員によるSNS投稿など、今後も次々と現れるであろう新たなデジタル広告や勧誘手法を含め、様々な「事業者が関与する表示」に対して、2026年も監視の目はさらに強まることが予想されます。
ステマ規制に対する行政の運用基準は公表されていますが、何が「事業者の表示」とみなされるのか、現場での判断が難しいという声も多く耳にします。一般消費者の目線に立った、表示への透明性を常に意識して管理・運用することが重要です。
「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_230328_03.pdf
ステルスマーケティングに関するQ&A
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/stealth_marketing/#q4
2025年総括:コンプライアンスリスクへの指針
今回のランキングの結果から見えてきた、広告規制に対する事業者の皆様の「危機感」にどう対処すべきか。2026年に向けた重要な指針を3つのポイントでまとめます。
1. 「ステマ」への圧倒的な注視(突出した反響率17.6%)
1位のスマイルスクエア事案が、2位以下を大きく引き離す17.6%という高いクリック率を記録しました。 これは、SNSが有力なマーケティングメディアとなった現代において、「どこまでが許される情報発信なのか」という境界線に、誰もが確信を持てずにいることの現れです。
ステマ規制の本質は「広告であることを隠すこと」への規制ですが、それだけでは済みません。事業者の表示とみなされた不適切な口コミやインフルエンサー投稿は、内容次第で「優良誤認(品質の嘘)」や「有利誤認(価格の嘘)」にも容易に繋がります。 2026年は、さらに複雑化するSNS施策において、より慎重なチェックが必須となります。
2.重畳化する「根拠」への監視(特商法への波及)
3位と僅差の2位(11.6%)となったイースマイル事案に代表される「不実証広告」への関心も、依然として高いものがあります。 ここで注意すべきは、表示の根拠が不十分とみなされた場合、景品表示法だけでなく「特定商取引法」の観点からも厳しく問われる可能性があるという点です。
特に定期購入などを伴う通販事業においては、不当な表示が業務停止命令に直結するリスクを孕んでいます。自社広告を包囲する法規制を点ではなく「面」で捉える意識が、2026年の実務には求められます。
3. 高まる「キャンペーン手法」への監視(増加する有利誤認処分)
3位(11.5%)の創建事案のような「期間限定キャンペーン」や「二重価格表示」を巡るトラブルは、ここ数年で行政処分件数が顕著に増加している領域です。 昨今の物価高を背景に、価格に敏感になっている一般消費者の判断を損なう表示に対して、当局の監視が強まっていることが推察されます。
2026年もこの傾向は続くと予想されます。販促施策の企画段階や商品管理におけるルールの徹底が、これまで以上に強く求められます。
2026年の展望:お客様に選ばれ続けるための、最も確実な経営戦略とは
これらの事案から導き出される2026年のキーワードは、「表示の誠実さの証明」と「変化に対する組織の適応力」です。
- 「隠さない」(ステマ・SNS対策)
- 「裏付ける」(エビデンス・特商法対策)
- 「煽らない」(有利誤認・キャンペーン対策)
行政による法執行の厳格化は、常にその時々の社会情勢を反映します。 デジタル化の進展により、AIによる広告生成の一般化や、次々と現れる新たなSNSプラットフォームなど、手法はさらに巧妙に、かつスピーディーに変化していきます。
後追いの対策に終始するのではなく、「迷ったときは誠実な道を選ぶ」という判断基準が、現場の一人ひとりにまで浸透しているか。その組織風土こそが、ブランドの命運を分けます。
広告コンプライアンスを「守りのコスト」としてではなく、顧客との「信頼という資産」を築くための投資と捉える。それこそが「お客様に選ばれ続けるための、最も確実な経営戦略」といえるでしょう。
そんな消費者志向経営を、2026年も皆様と共に進めていければ幸いです。
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