加速する通販分野の特商法執行。最新規制動向をまとめてチェック

通販定期購入に対する、特定商取引法による法執行、監視が強まっています。

消費者庁は17日、特定商取引法の通信販売分野における執行状況について公表しました。(※1)
2024年度の通信販売に関する行政処分(指示、業務停止、業務禁止命令)は、12月末までの9カ月間で6案件出されています。そのうち5件は21年の詐欺的な定期購入商法対策を目的とした法改正で追加された、いわゆる「最終確認画面における表示義務違反」を含む事案となっています。

通販定期購入に関する消費者トラブルの現況、行政の法執行・規制の取り組みから、今後の規制動向と留意点を確認します。


「定期購入」トラブル、特商法改正後も大幅増加

消費生活相談件数は年間約90万件前後で推移しており、そのうち「通信販売」の相談件数の割合は約30万件前後となっています。
また、通信販売の内、「定期購入」での相談件数は、2021年度58,532件から2022年度は98,165件に急増、2023年度は79,995件とやや減少したものの、2024年度は5月末までで10,300件で2023年度同期件数10,657件と同等数で推移しています。

通信販売での定期購入
PIO-NETに登録された相談件数の推移

※定期購入に関する相談のうち、通信販売で購入した相談(うち「商品」に関するもの)に限定して集計
(国民生活センター 2023年3月15日:公表)
https://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/subscription_traps.html
 

詐欺的な定期購入商法対策を目的とした2021年特定商取引法改正(2022年6月1日施行)では、ショッピングカートの「最終確認画面」や書面による申込用紙に取引内容に関する義務表示事項が設けられ、また、定期購入契約での「お試し」や「トライアル」、「いつでも解約可能」などの強調表示での消費者を誤認させるような表示が禁じられました。
違反行為により消費者が誤認して申し込みをした場合には取消権が認められ、契約解除の妨害に当たる行為に対しては罰則付きの禁止となります。
しかし、残念なことに、改正特定商取引法施行後も通信販売での「定期購入」に関する消費者相談件数は法改正前よりも増加している状況が続いています。

誇大広告(12条)+最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)による法執行

行政の取り組みとして、上記法改正のほか、23年9月に消費者庁取引対策課内に「デジタル班」を設置し、通信販売に関する執行が強化されてきました。
改正特定商取引法施行後(2022年6月1日)の通販における行政処分は、国によるものが8案件、都道府県によるものが1案件となっています。
2023年6月に1件でしたが、その後2024年3月以降8件と集中的に法執行が行われています。
このうち国による処分の6案件が、誇大広告(12条)+最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)を適用条項とした処分となっています。
取扱商品では、化粧品や健康食品といった美・健商材が中心となっています。
(改正特定商取引法施行後の行政処分事案の内容を文末にまとめましたのでご参照ください。)

(消費者庁公表資料)

定期購入契約の解約受付で確実に連絡が取れる電話番号の非表示への指導目立つ

違反が疑われる案件についての行政指導は、2023年9月~2024年4月において6案件、2024年5月~12月において6案件となっています。
このうち広告表示義務違反(法第11条)が9案件(2023年9月~2024年4月:6案件、2024年5月~12月:3案件)。
2023年9月~2024年4月では、6案件中4案件が、確実に連絡が取れる電話番号を表示していなかった(第6号(電話番号))プラットフォーム事業者に対するもの。
2024年5月~12月では、3案件すべてが、定期購入契約について電話で解約を受け付けているにもかかわらず、広告に確実に連絡が取れる電話番号を表示していなかった(第5号、6号(撤回又は解約、電話番号))事業者に対するものでした。

(消費者庁公表資料)

通販サイト監視による注意喚起事案は約1,200件

また、ネット通販・ネットオークション・テレビ通販等の通販サイトのモニタリング調査により、事業者の法令遵守状況を調べるとともに、その結果に基づき、事業者に対して注意喚起通知を行っています。
2023年度は1,552件、2024年4月から12月末までの9カ月間では、約1,159件発出しています。
通販サイトの種類では、2023年度以降ネットオークションが6~7割を占め、ネット通販が3~4割。2024年末時点では23年度と比較してネット通販の割合が拡大しています。

(消費者庁公表資料)

通販事業者としての留意点

●詐欺的通販定期購入への法執行強化が続く
消費者庁では、引き続き詐欺的な定期購入商法を行う悪質事業者等に対する法執行を積極的に行っていくとしています。
商品の効能や取引条件に関する誇大広告、解約手続き等に関する最終確認画面の表示義務違反による法執行は続くことが予測されます。

●最終確認画面であることを明確に
消費者庁は、詐欺的な定期購入商法対策を目的とした特定商取引法改正の効果を上げるべく、消費者に対して、最終確認画面の重要性の認識向上や契約の申込みの意思表示の取消権のさらなる活用に向けて、チラシによる注意喚起や商品購入時の最終確認画面のスクリーンショット保存の呼びかけ等の取り組みを進めています。
これを受けて、事業者に対して、申込ボタン等をクリックすると契約の申し込みが完了する最終確認画面であることを消費者が明確に視認できるよう、画面の表題に「注文内容の最終確認画面」と記載することが望ましいとしたガイドラインの改正を行いました。(※2)

(※2)
(別添9)通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/specified_commercial_transactions/assets/consumer_transaction_cms101_2401119_03.pdf

新たな悪質手法では、契約に関する表示が契約完了時に画面上に表示されるのみであることから、後から確認することが困難で証拠が残りにくいことが、行政の調査や法執行のネックとなります。
このようなデジタル広告の問題点について、景品表示法検討会(※3)において、中長期的な検討課題として、デジタルの表示の保存義務などが議論されましたが、令和5年改正では見送られました。
今後の社会情勢により再度検討課題に上ることも予測されます。

(※3)
景品表示法検討会(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/meeting_materials/review_meeting_004

悪質事業者を市場から排除すべく、健全な商取引への対応が求められます。

(※1)
特定商取引法の通信販売分野における執行状況について(消費者庁取引対策課)
令和6年4月25日
https://www.caa.go.jp/notice/entry/037632
令和7年1月16日
https://www.caa.go.jp/notice/entry/040736/

特定商取引法のポイントについて、以下の記事で解説しています。
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改正特定商取引法施行後の行政処分事案
消費者庁:

2023年6月27日
(株)LIT(ヘアケア用品及びサプリメント)
最終確認画面の誤認表示(法第12条の6第2項)
解除に関する事項の不実告知(法第13条の2)
指示、業務停止命令6か月、業務禁止命令6か月(代表取締役)
《処分に関する記事》
・特商法改正後初の処分。ネット通販定期購入(株)LITに特商法による業務停止命令(6カ月)。積極的な消費者被害救済の指示も(消費者庁 2023年6月28日)

2024年3月14日
(株)サン(健康食品)
誇大広告(法第12条)優良誤認(品質)
最終確認画面の誤認表示(法第12条の6第1項)
解除に関する事項の不実告知(法第13条の2)
指示、業務停止命令6か月、業務禁止命令6か月(代表取締役)
《処分に関する記事》
・No.1不当表示、特商法の通信販売規制でも。法改正後2件目の処分、ネット通販定期購入(株)サンに業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年3月15日)

2024年4月9日
(株)オルリンクス製薬(健康食品)
誇大広告(法第12条)有利誤認(解除)
最終確認画面の誤認表示(法第12条の6第1項)
解除に関する事項の不実告知(法第13条の2)
指示、業務停止命令3か月、業務禁止命令3か月(元代表取締役)
《処分に関する記事》
・定期購入契約が容易に解約できるかのような表示。ネット通販定期購入オルリンクス製薬に特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年4月10日)

2024年4月18日
(株)HAL(電子たばこ)
誇大広告(法第12条)有利誤認(価格)
最終確認画面の誤認表示(法第12条の6第1項)
指示、業務停止命令3か月、業務禁止命令3か月(元代表取締役)
《処分に関する記事》
・電子たばこのネット通販定期購入(株)HALに特商法業務停止命令(3カ月)。「メーカー希望小売価格」に誇大広告認定 (消費者庁 2024年4月18日)

2024年10月3日
(株)SUNSIRI(美容クリーム)
誇大広告(法第12条)優良誤認(効能)
最終確認画面の誤認表示(法第12条の6第1項)
指示、業務停止命令3か月、業務禁止命令3か月(元代表取締役)
《処分に関する記事》
・特商法でも不実証広告規制による違反認定。美容クリームのシミ・しわ改善効果+通販定期購入でSUNSIRIに特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年10月4日)

2024年10月16日
(株)HappyLifeBio(美容液)
誇大広告(法第12条)優良誤認(効能)
最終確認画面の誤認表示(法第12条の6第1項)
指示、業務停止命令9か月、業務禁止命令9か月(元代表取締役)
《処分に関する記事》
・美容液のシミ改善効果+通販定期購入でHappyLifeBioに特商法業務停止命令(9カ月)。続く、誇大広告+最終確認画面の表示義務違反による法執行 (消費者庁 2024年10月16日)

2024年10月31日
(株)マーキュリー(薬用歯磨き)
誇大広告(法第12条)優良誤認(効能)
指示、業務停止命令3か月、業務禁止命令3か月(元代表取締役)
《処分に関する記事》
・特商法誇大広告の処分続く。薬用歯磨きのホワイトニング効果表示で、マーキュリーに特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年10月31日)

2024年12月20日
(株)VERIFY(美容クリーム)
誇大広告(法第12条)優良誤認(効能)、事実相違(分量、価格、支払時期及び方法、引渡時期及び解除)
最終確認画面の表示義務違反(法第12条の6第1項)
指示、業務停止命令6か月、業務禁止命令6か月(代表取締役)
《処分に関する記事》
・美容クリームの通販定期購入でVERIFYに特商法業務停止命令(6カ月)。誇大広告はシワ・シミ改善効能の優良誤認と販売条件の事実相違を違反認定 (消費者庁 2024年12月23日)

東京都:
2024年12月20日
(株)TRIBE、LIALUSTER (株)、hairju(株)(美容液・育毛剤)
広告表示義務違反(法第11条第5号)
広告表示義務違反(法第11条第6号、省令第23条第2号)
誇大広告(法第12条)優良誤認(品質及び効能)、有利誤認(価格)、事実相違(取引先)
最終確認画面の表示義務違反(法第12条の6第1項)
指示、業務停止命令3か月、業務禁止命令3か月(代表取締役)
《処分に関する記事》
・通販定期購入「回数縛りなし」が、注文直後の特典利用で「縛りあり」に。悪質手口に初の処分。美容液・育毛剤の通販・電話勧誘販売(3社)に特商法業務停止命令(3カ月) (東京都 2024年11月1日)

≪参考記事≫

・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)

・消費者保護の更なる強化。特商法・消契法の改正案閣議決定(平成28年3月4日)

・ネット通販定期購入(株)BIZENTOに特商法による業務停止命令(3カ月)。「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン(案)」のパブコメ開始(東北経済産業局 2021年11月25日)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。