JAROへの新型コロナウイルス関連広告への苦情、4月に急増。「マスク」「除菌」、「行政・公共・その他啓発」(日本広告審査機構 2020年1月~5月)

JARO(公益社団法人 日本広告審査機構)が、消費者から受け付けた苦情の中から、2020年1月から5月にかけて寄せられた新型コロナウイルス感染症やそれに伴う自粛、新しい生活様式などに関連した意見を取りまとめて公表しています。

1~3月は計118件だったものが、4~5月は計326件と急増しています。

意見の内容は、下記のようなもの対象としています。
・新型コロナウイルスやそれに類する用語(ウイルス、新型肺炎、コロナなど)を明示・暗示した広告に関するもの。
・新型コロナウイルス感染症への対策等に供すると思われる商品・サービス(マスク、除菌剤など)に関するもの。
・新型コロナウイルスに関する表示・表現はないが、感染症による環境変化などにより、広告への意見を述べるもの。

内容を確認してみましょう。


●新型コロナウイルス関連意見、4月に急増
2月以降、前年同月に比べ「苦情」全体が増加する中、「関連ご意見」は1月~5月の合計は444件で、苦情に対する割合は5カ月平均で9.9%、4月には223件で21.6%を占めた。

●表示に関する意見の多い内容は「効果をうたうもの」「便乗と思われるもの」「価格」
「表示関連」の意見を内容別みると、「効果をうたうもの」45件、「便乗と思われるもの」「価格」44件、「欠品・遅延、おとりが疑われるもの」35件、「対象範囲を誤認させるもの」23件、「虚偽」17件となっている。
各内容項目の件数最多月は、「欠品・遅延、おとり」は2月、「便乗」は3月、それ以外は4月になった。

表中の赤字※印は、[1-3月]レポート公表時に「表現関連」の「商品供給・サービス提供不可・遅延」で計上した意見を、今回は「表示関連」の「欠品・遅延・おとり」に変更した。

主な事例(表示関連)
【便乗と思われるもの】
◆ 美容院のダイレクトメールに、当店に入店すると体や衣類に付いたウイルスも除菌できるとうたっている。
◆ 漆喰がウイルスを死滅させるかのように書かれており、あまりにも信憑性に欠ける。
◆ 飲食店のチラシに、カレーが新型コロナウイルスに効果があるかのように表示している。
◆ 新型コロナウイルス感染症対策と称して、車検基本作業が無料だと表示している。

【効果をうたうもの】
下記以外に次亜塩素酸水、水素、ケイ素、ハーブ、酸性水、銀イオン、オゾンなどがあった。
◆ 美容外科のSNS広告に、新型コロナウイルス対策をうたってビタミンC点滴を提供している旨が書かれているが、問題ではないか。
◆“気”を送ってコロナがなくなるように言っている。今のような不安定な時期には信じて高額なカウンセリング料を払ってしまう人もいると思う。(医療機関)
◆ 新型コロナウイルス除去率99%超とうたう雑品だが、こんなに簡単に除去できるなら世界は困っていないと思う。不安をあおるような広告はやめてほしい。(情報誌)
◆ プラセンタ注射が新型コロナウイルス感染防止に効くかのようにツイッターに表示している。(美容外科)

【対象範囲を誤認させるもの】
4月に寄せられた「関連ご意見」はすべてが除菌関連商品。
◆ 広告にアルコール濃度70~75%と書かれていたが、商品には記載がなく、企業の窓口に濃度の根拠を尋ねると、メーカーから口頭で聞いただけだと言われた。
◆ 通販ページに「除菌」「殺菌」「消毒」などと書かれていたが、購入した商品にアルコール濃度の記載がなく、通販会社に問い合わせたところ、アルコール濃度30%であることが分かった。コロナウイルス感染予防のために買ったのにこれでは意味がない。
◆ メーカーサイトの商品紹介ページで除菌スプレーを見た。「99.99%除菌」とあるので、何の菌に効果があるのかを電話で聞いたが、「医薬品ではないので答えられない」という回答であった。問題ではないか。

《参考》
アルコール濃度の表示:
アルコール濃度については雑貨品には表示義務がないため、個別の成分のパーセンテージや配合量の表示は必須ではない。除菌スプレーは雑貨品ですので書かれていないものが多い。

「99パーセント除菌」などの表示:
99パーセント除菌などの表示の根拠として、メーカーは幾つかの細菌で除菌効果がある旨の実験をしている。
すべての菌ではないため、広告や容器などには「※全ての菌に効果があるわけではありません」などと注釈を入れているものが多く、また、薬機法上、雑貨品は菌・ウイルス名を表示できません。

【欠品・遅延、おとりが疑われるもの】
◆ 外出自粛中なので家電量販店の通販でパソコンを購入した。サイトの表示も注文確認メールも、「在庫あり」「翌日出荷」と記載があったが、注文後に電話で確認すると、在庫がなく7~8週間先になると言われた。納期が大幅に遅れるならメールで案内するべきではないか。
◆「4月のお買い得商品」と広告をしておきながら、いつ行っても店頭に広告の商品が置いていない。おとり広告だと思う。新型コロナウイルスの影響であるなら、店内にその旨を掲示するべきだ。(スーパー、チラシ)

【価格】
価格に関するご意見の多くはマスクに対するもので、4月をピークに、その後5月には落ち着いた。
◆ コロナ対策としてアルコールの代わりに除菌スプレーを購入したが、不当に高額で、成分の表示が雑である。「○日入荷」と表示しているが、日付が毎日変わる。(インターネットモールの出店業者)
◆ 広告には「緊急入荷」「数量に限りがある」などと書かれ、現状に不安を抱えている人の心理を利用するような文言が並んでいる。原価を考えてもここまで高騰することはなく、非常に不快である。
◆ 送料無料と書かれたバナー広告にマスクも掲載されていたのでクリックして通販サイトに行ったら、すべて送料別と明記されていた。
◆「コロナ支援価格」として30%引と表示されているが、母の日特価など理由を変えてずっと同じ販売価格で提供している。割引額を大きく見せる有利誤認表示ではないか。(食品の通販)

【虚偽】
◆ 手指消毒用アルコールだと思って購入したら、送られてきた商品は空のボトルだった。
◆ 掲載されている写真を見て購入したが、届いたのはマスクの形をした布切れだった。商品説明には高性能ポリウレタンと記載されていた。(インターネットモールの出店業者)
◆ チラシには、米国FDA、欧州CEマークの認定工場のマスクと表記されているが、相場より安いので問い合わせると認定工場から取り寄せたもので、マスクがその基準にあるとは表示していないと言われた。(マスク通販)
◆ 日本製マスクと表示されていたので注文したか、商品が届いたら外国製だった。品物も悪かった。

【表示その他】
◆ アルコール消毒製品だが、同じ商品なのに日本製と外国製がある。メーカーに問い合わせると中身は同じだと言うのだが、同じものなら日本製を購入したい。原産国は大事な表示なので大きく書くべきだ。
◆ テレビショッピングでモデルが青い色のマスクをしていたので購入したが、届いたのは白いマスクだった。価格も高く、白なら買わなかった。
◆ 次亜塩素酸水の広告で、口に入ったり飲んだりしても大丈夫であるかように記載している。新型コロナウイルスの名称を表示して効果をうたっているが、薬機法上表示できないはずだ。(ミニコミ誌)

●意見の対象商品・サービスは多岐にわたる
「表示」「表現」合わせた意見の対象となった商品・サービスで多いのは、「マスク」68件、「除菌関連商品」58件、「行政・公共・その他啓発」56件、「食品」46件となっている。
各商品・サービスの件数最多月は、「食品」は3月、それ以外は4月になった。
特に、1~3月に比べ、4~5月に大幅に増加したのは「行政・公共・その他啓発」で、2件から54件となっている。
1~3月に多かった「マスク」「除菌関連商品」は4~5月期にさらに増え、それまで寄せられなかった原産国に関する意見が見られた。
「マスク」は「価格」に関する意見が過半数を占め、そのほか「欠品・遅延・おとり」「虚偽」などが目立った。
「除菌関連商品」は「対象範囲を誤認させるもの」「効果をうたうもの」が多かった。

新型コロナウイルス関連の広告に関する苦情は、マスクや除菌関連商品に留まらず、様々なジャンルの商品やサービスに拡大していることが読み取れます。
法令違反や誤認につながるような表示は当然取り締まられるべきですが、消費者を不安にさせない広告表現にも配慮が求められそうです。

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公益社団法人 日本広告審査機構
[2020年4月~5月]
新型コロナウイルスに関連した広告へのご意見(2020年7月13日)
https://www.jaro.or.jp/news/20200713.html

[2020年1月~3月]
新型コロナウイルスに関連した広告への苦情(2020年5月7日)
https://www.jaro.or.jp/news/20200507.html
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《関連記事》

・JAROへの苦情媒体、ネット広告がトップに。アフィリエイト関連は「警告」31件中18件
(日本広告審査機構 2019年度の審査概況)

・JAROへの苦情、通販定期購入契約の苦情は減少せず。ネット広告への苦情二桁増続く
(日本広告審査機構 2018年度の審査概況)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。