おせち早期割引で景表法違反:ジャパネットたかた vs. 消費者庁が対立した「販売計画の確実性」 (消費者庁:2025年9月12日)

2025年9月12日、(株)ジャパネットたかたに対し、おせちの早期割引キャンペーン表示について景品表示法(有利誤認)に基づく措置命令が出されました。

今回の措置命令は、「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示」に対する初めての有利誤認違反の認定となりました。これに対し、ジャパネットたかたは、表示は有利誤認に該当しないとして、消費者庁に対し行政不服審査法に基づく審査請求を行ったと公表しています。

本記事では、処分内容と、真っ向から対立する消費者庁とジャパネットたかたの見解について検証します。

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株式会社ジャパネットたかたに対する景品表示法に基づく措置命令について
 (消費者庁:2025年9月12日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/043542
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【違反内容】

対象商品:
「【2025】特大和洋おせち2段重」と称する商品

表示媒体:
自社ウェブサイト「ジャパネットたかた【公式】通販」

期間:
2024年10月8日から11月23日までの間

表示内容:
「【2025】特大和洋おせち2段重」、「ジャパネット通常価格29,980円が」、「1万円値引き 7/22~11/23」、「値引き後価格19,980円(税込)」及び「~大人気おせちが今ならお得!~早期予約キャンペーン」と表示。
あたかも、「ジャパネット通常価格」と称する価額が、2024年7月22日~11月23日までのセール期間経過後に適用される将来の販売価格であり、「値引き後価格」と称する実際の販売価格が当該将来の販売価格(ジャパネット通常価格)に比べて安いかのように表示していた。
実際
1万円値引きセール期間経過後に将来の販売価格(ジャパネット通常価格)で販売するための合理的かつ確実に実施される販売計画はなく、ジャパネット通常価格は将来の販売価格として十分な根拠のあるものとは認められないものであった。

【表示例】

(消費者庁発表資料より抜粋)

消費者庁とかみ合わないジャパネットたかたの見解

ジャパネットたかたは、処分を受けた同日、表示は有利誤認には該当しないとする見解をウェブサイトで公表しました。
その主な主張は以下の通りです。
1)消費者庁の指摘に対する認識
値引き後キャンペーン期間内に完売したことで、キャンペーン終了後に「通常価格29,980円」での販売がなかった点が、有利誤認表示と指摘された。

2)過去の販売実績に基づく正当性
消費者庁のガイドラインでは「過去に販売した価格」を比較対照に用いることが認められており、キャンペーン直前まで「通常価格29,980円」で販売しており、表示に適切な根拠があった。

3)キャンペーン終了後の対応と顧客の認識
2022年、2023年は同キャンペーン終了後に通常価格で販売をしている。
2024年も同様の販売計画であったが、期間内に完売した時点で販売を終了している。
早期予約キャンペーンの企画において、キャンペーン終了後に購入できなかったという事実は、企画の趣旨に沿ったものであり、お客様に誤解を与えてはいない。

4)通常価格の正当性
本来は29,980円相当のものを
、企業努力で値引きを実現している。

5)早期予約の正当性(社会的責任)
おせちは時期を過ぎると廃棄につながりやすい特性があり、早期予約により需要を正確に予測し、売れ残りによる廃棄をなくすことは、食品ロス削減に向けた企業の社会的責任である。

消費者庁からの景品表示法に関する措置命令に対する当社の見解
((株)ジャパネットたかた 2025.9.12)
https://corporate.japanet.co.jp/notice/20250912-2/

【執行方針を踏まえた論点の検証】
同社の見解を、消費者庁が2020年12月に公表した「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」(※1)に基づき検証しました。

(※1)
将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針
(消費者庁 2020年12月25日)
https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_201225_06.pdf

1)論点の齟齬:「完売」ではなく「計画の確実性」
キャンペーン終了後に通常価格で販売しなかったことが、本件の直接的な違反認定ポイントではありません。
措置命令文では、将来の販売価格(ジャパネット通常価格)で販売するための販売計画が合理的かつ確実に実施されるものと認められず、ジャパネット通常価格が将来の販売価格として十分な根拠がないことを問題としています。
仮に合理的かつ確実に実施される販売計画を有しており、キャンペーン終了後に通常価格で販売できない特段の事情が認められれば、通常価格で販売しなくても、有利誤認とならなかった可能性があります。
しかし、同社は完売を前提とする計画であった時点で、通常価格での「確実な販売計画」は認められません。

2)比較対象価格の種類が異なる
本件の比較対象価格は「過去に販売した価格」ではなく、「将来の販売価格」です。
過去価格を用いる場合とは、比較対照価格の根拠とする考え方(販売実績の有無など)が根本的に異なります。

3)一般消費者の誤認
一般消費者の早期予約キャンペーン表示を見た際の認識は、「キャンペーン終了後に商品を購入できない」ことではなく、「キャンペーン終了後は商品を値引き価格で購入できない」ということであると推察されます。
そのため、確実な販売計画がないにもかかわらず、値引きを強調することは、この点において誤認を生じさせるおそれがあります。

4)不当表示とは無関係
「通常価格の正当性」(企業努力)に関する主張は、本件の不当表示(有利誤認)の成否とは無関係です。

5)問題は「早期予約」ではない
早期予約販売を行ったことが問題なのではなく、キャンペーン終了後に確実に将来の販売価格(ジャパネット通常価格)で販売する計画があったかどうかが問われています。

このように、本件の二重価格表示に対するジャパネットたかたの考え方と消費者庁の判断は、全く嚙み合っていません。
同社は、法的な手続きの場で正当性を主張するとして、9月25日に消費者庁に対し行政不服審査法に基づく審査請求(※2)を提出したことを発表しました。

(※2)行政不服審査法に基づく審査請求
行政庁の処分又は不作為に不服がある場合に、不服を申し立てる(審査請求をする)もので、裁判とは異なり、行政庁が処分の違法性や不当性の判断を行う。
審理員による審理手続、行政不服審査会等への諮問等により公平・中立な審理が行われる。
なお、審査請求に費用はかからない。

エアコン、テレビの二重価格表示で過去にも処分

ジャパネットたかたは2018年にも景表法有利誤認違反で措置命令を受け、2020年には課徴金約5,180万円の納付命令を受けています。
本事案では、エアコン、テレビに関する販売実績のない二重価格表示で会員価格に対して非会員価格を比較対照価格としていた点、比較対照価格での販売期間が問題とされました。

・非会員価格を比較対照価格にしてもOK?ジャパネットたかたの二重価格表示に景表法措置命令(消費者庁:平成30年10月18日)

類似性のある違反行為として、再発防止の取り組みが不十分と見られた可能性があります。

二重価格と期間限定キャンペーン表示に関しては、過去に多数の措置命令事案があり、事業者による取消訴訟に発展するケースもあります。
2024年7月に有利誤認の措置命令を受けた(株)キャリカレは取消訴訟を起こしましたが、2025年7月に東京高裁で申立てが却下されています(訴訟係属中)。

・通信講座サイトの二重価格と期間限定キャンペーンに有利誤認。キャリカレ2度目の措置命令 (消費者庁:2024年7月19日)

なお、同社は2015年3月にも期間限定表示による有利誤認の措置命令を受けており、2度目の処分となっています。

会員限定記事では、今回のジャパネットたかたの違反認定に適用された「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」について詳しく解説しています。早期割引キャンペーンを企画する際に、事業者が確実に押さえておくべき法的留意点をまとめています。
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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。