通販定期購入「回数縛りなし」が、注文直後の特典利用で「縛りあり」に。悪質手口に初の処分。美容液・育毛剤の通販・電話勧誘販売(3社)に特商法業務停止命令(3カ月) (東京都 2024年11月1日)

注文完了後に表示された特典を利用したら購入条件が変更されるという、悪質通販「定期購入」の新たな手口に対する初めての処分です。

東京都は、2024年11月1日、美容液・育毛剤等を販売していた3事業者(株)TRIBE(トライブ)、LIALUSTER (株)(リアラスター)、hairju(株)(ヘアージュ)と、3事業者の代表取締役 高橋 史弥に対して、特定商取引法違反で3カ月間の通信販売業務停止(禁止)命令と、電話勧誘販売業務の改善指示を行いました。
悪質通販「定期購入」の新たな手口は、販売サイトで「回数縛りなし」などと表示し、消費者の注文完了直後に特典を表示し、特典を選ぶことで、最初に注文した回数縛りなしの契約が“複数回の購入が条件の定期購入”に変更されてしまうという仕組みです。

最終確認画面にコースが変更される旨が表示されていなかったり、文字が小さく目立たなかったり、多数回スクロールしないと確認できなかったりと、内容が変更されたことに気づきにくくなっているのが特徴です。
2022年頃から消費者相談が多く寄せられるようになり、国民生活センターや東京都が注意喚起を行っていました。

・悪質通販「定期購入」の新たな手口に注意喚起。規制に向けた行政の動きは?(国民生活センター 2022年9月公表)

注文完了後に現れる「割引クーポン」等に注意!!
~「回数縛りなし」のはずが、クーポンを利用したら複数回継続が条件の定期購入に!~
(東京くらしWEB 2024年3月1日)
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/sodan/kinkyu/20240301.html

都内において、対象事業者に関する相談は2020年度から2024年10月22日までに1,161件あり、平均被害金額は1人当たりLIALUSTER が19,012円、hairjuが29,187円となっていました。

(東京都公表資料より引用)

通販定期購入に対しては、今年に入り、誇大広告(12条)+最終確認画面の表示義務違反(12条の6第1項)を適用条項とした特定商取引法による法執行が続いていましたが、本件は誇大広告と広告表示義務違反(11条)による違反認定となっています。
また、電話勧誘販売に対しては書面記載不備(19条第1項)、迷惑解除妨害(22条第1項第5号)による違反認定となっています。
処分の内容について確認します。

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「定期購入」により美容液・育毛剤を販売していた通信販売・電話勧誘販売事業者(3社)に対し、業務停止命令(3か月)・改善指示(東京都 2024年11月1日)
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/torihiki/shobun/shobun241101.html
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【事業者概要】

処分対象事業者・取扱商品:
 株式会社TRIBE(トライブ)(本店所在地:東京都渋谷区) 美容液等化粧品、育毛剤等ヘアケア用品
 LIALUSTER 株式会社(リアラスター)(本店所在地:東京都渋谷区))美容液等化粧品
 hairju株式会社(ヘアージュ)(本店所在地:東京都目黒区)育毛剤等ヘアケア用品
取引類型:通信販売・電話勧誘販売
代表者:代表取締役 高橋 史弥
※ 消費者は、LIALUSTER(株)又はhairju(株)を契約先と認識していた。
(株) TRIBE は、LIALUSTER(株)又はhairju(株)と一体となって、美容液又は育毛剤の定期購入の通信販売や電話勧誘販売の業務を行っていた。

【業務停止命令・指示処分の原因】

通信販売
しばりのない定期購入の申込みを行った消費者に対して「アップセル」と称するしばりのある定期購入について、以下の通り、広告を掲出し当該消費者から申込みを受けていた。

➀ニュースサイトやSNS上の美容液又は育毛剤等の画像と商品の紹介文から構成されるバナー広告、電子メールやSNS等の通信機能によりURLを添付した広告を送付。

②LIALUSTER を販売業者とする美容液、hairjuを販売業者とする育毛剤の広告が表示される販売サイト(記事LP)に遷移。
また、「商品LP」では、「記事LP」と表示内容の異なる美容液又は育毛剤の広告が表示される。
LPをスクロールすると緑色のボタンやポップアップ広告が表示され、それらを選択することによりチャットボット形式等の申込画面に遷移。

③申込画面に入力していくと申込内容確認画面に到達し、「しばりのない定期購入」の申込みを行うことができる。

④申込完了後、「お申込みいただき、ありがとうございました。商品の到着まで、楽しみにお待ちください。」等としばりのない定期購入の申込みを承諾した旨の文言を表示した別の販売サイト(サンクスページ)に遷移する。

⑤「サンクスページ」は、しばりのない定期購入の申込みを行った消費者に対してのみ表示され、「本ページ限定特典」や「お得なプランへの変更」をうたった「しばりのある定期購入」の広告となっており、当該消費者から申込みを受けていた。
なお、しばりのない定期購入の広告でうたっていた「定期縛りなし!」「返金保証付き」や2千円分のギフト券プレゼント等の条件が、しばりのある定期購入に変更することにより適用されなくなることについて、特典の表示に比して小さな文字で表示されている。

【認定した違反行為】

通信販売
1)広告表示義務違反(特定商取引法第11条第5号)
・しばりのない定期購入の申込の承諾表示、しばりのある定期購入の内容、及び申込内容が一連で表示される「サンクスページ」において、しばりのない定期購入の広告である「記事LP」等において何度も強調していた「しばりなし」という条件を「しばりのある」条件に変更する取引について広告していた。
・「記事LP」等で用いた「しばりのない」という表現と対比しやすい「しばりのある」という表現を用いず、「最低〇回(総額〇〇〇〇〇円/税込)のご継続をお約束いただく、・・・」と「しばり」とは別の表現を用いて表示したり、「記事LP」等における「しばりなし」表示で使用した文字の大きさや見やすさと比べ格段に小さな文字で表示するなど、消費者の誤認を惹起する表示を行っていた。
・「しばりのない」条件から「しばりのある」条件への変更は、消費者が当初申込を行ったいつでも離脱できるという条件から、離脱に制限が生じることになるから、定期購入の契約の解除に関する事項にあたることから、この事項に関する表示がなかったと認められる。

【表示例】
hairju(育毛剤)
商品LP

サンクスページ

(東京都公表資料より引用)

サンクスページのしばりのある定期購入の内容確認画面において、定期購入の契約の解除に関する事項(「しばりのある」条件、解約の申出の期限、解約方法)は赤字で表示されていましたが、「表示がなかった」とみなされました。

(2)広告表示義務違反(特定商取引法第11条第6号、省令第23条第2号)
「特定商取引法に基づく表記」において、通信販売に関する業務の責任者として、少なくとも2023年6月1日から同年12月22日までの間、従業者でもなく、通信販売に関する業務を全く行っていない者の氏名を表示していた。

(3)誇大広告(特定商取引法第12条)
実際のものよりも著しく優良であると消費者を誤認させるような表示を行っていた。
根拠のない品質・効能に関する表示
美容液:
・「記事LP」及び「商品LP」において、美容液は、ナイアシンアミド及びグリチルリチン酸ジカリウムの有効成分が含まれる医薬部外品の指定を受けているところ、品質について「ナイアシンアミドの更なる強化に成功!」と「進化系ナイアシンアミド」なる成分が含まれているかのような表示を行っていた。
・効能について、「深いシワ、隠れシミ、黒い毛穴、国内唯一の薬用成分で改善!」「たるんだフェイスラインごと深いシワを持ち上げる」「深いシワが“真皮から持ち上がる”ので、リフトアップにも高い効果を発揮します」等と表示をしていた。
育毛剤:
・「記事LP」において、育毛剤は、ピロクトンオラミン、酢酸DL-α-トコフェロール及びグリチルリチン酸ジカリウムの有効成分が含まれる医薬部外品の指定を受けているところ、品質について、「①国指定の薬用成分、②黒髪ホルモン(女性ホルモンの一種)、③頭皮リフト成分(ハリ改善)」「これらの有効成分でできた『黒髪育毛剤』を頭皮に投与することで、白髪を黒く戻しながら黒い毛を増やしていく白髪撃退法です。」と「黒髪ホルモン」なる成分が含まれるかのように表示していた。
・育毛剤には、「自分の髪色が戻る、黒髪矯正剤、この作用から「染めない髪色戻し」とも呼ばれているんですって!」「白髪は〇〇で黒髪に戻る!!」「白髪染めの代用品が凄い」と白髪が元の髪色に戻る効能があるかのように表示していた。
これらの「進化系ナイアシンアミド」「黒髪ホルモン」なる成分の内容や含有について、及び広告に表示していた効能について、表示の根拠がなかった。

【表示例】
記事LP (左:LIALUSTER(美容液) 右:hairju(育毛剤))

(東京都公表資料より引用)

薬機法上効果承認を受けた医薬部外品でも、根拠なく効能効果の範囲を逸脱した広告表現は薬機法、景品表示法、特定商取引法による規制を受けます。

●取引先について著しく事実と相違する表示
育毛剤:
「バナー広告」において、「●●●で大ヒット」「2023年●●●で爆売れ」等と記載し、あたかも著名な大規模小売店舗等で取り扱いがあり、売れ行きが大変好調な商品であるように表示していたが、実際は、当該大規模小売店舗における育毛剤の販売実績はなかった。

商品の価格について著しく有利であると消費者を誤認させるような表示を行っていた。
販売実績のない「通常価格」を比較対象とした表示
美容液:
・しばりのない定期購入の販売サイトにおいて、初回1個1,980円の商品の価格について、定期購入での販売実績のない「通常価格5,600円」を比較対象として表示していた。
・しばりのない定期購入の申込みを行った消費者に対して表示される「サンクスページに」おいて、実際に「お得」になるのは定期購入の2回目以降の美容液2本分7,960円であるにもかかわらず、定期購入での販売実績のない「通常価格5,600円」で13本購入する場合の総額と比較し「31,020円税込もお得!」「いつまでもお得が続く」「長くお得なコースに変更」と表示していた。
育毛剤:
・しばりのない定期購入の販売サイトにおいて、初回の販売価格である1,980円について、当該販売サイトにおいて販売実績のない「通常価格10,780円」を比較対象として表示していた。
・しばりのない定期購入の申込みを行った消費者に対して表示される「サンクスページ」において、実際に「お得」になるのは20,856円であるにもかかわらず、定期購入での販売実績のない「通常価格10,780円」で13本購入する場合の総額と比較し「73,480円税込もお得!」と表示していた。また、しばりのない定期購入7,128円/本)としばりのある定期購入(5,390円/本)との育毛剤1本あたりの価格差は1,738円のところ、定期購入での販売実績のない「通常価格10,780円」と比較し「毎回半額」「1年間ずーっと半額!」と表示していた。

【表示例】
hairju(育毛剤)サンクスページ

(東京都公表資料より引用)

しばりのない定期購入の申込みを行った消費者に対して、しばりのある定期購入との二重価格表示を行う際、比較対象価格となる「通常価格」は、定期購入での販売実績が求められます。

電話勧誘販売
(1)書面記載不備(特定商取引法第19条第1項、省令第45条)
少なくとも2023年10月から12月21日までの間において、消費者に交付した書面には、事業者名等(法人名、代表者名)、契約担当者名、商品の数量(回数の約束のある場合の総量等)、契約の解除に関する内容(26条第5項第1号、省令第47条第4項)等について、記載がなかった。

(2)迷惑解除妨害(第22条第1項第5号、省令第64条第1号)
少なくとも2023年10月から12月21日までの間において、電話勧誘により契約を締結した消費者から、電話によりクーリング・オフの申出を受けた際にクーリング・オフの案内をしないで、商品を受け取り使用するよう勧めたり、受け取らない場合でも商品代金相当額の支払いを求める旨を申し向ける等、解除を妨げる行為をしていた。

【処分の内容】

(1)通信販売に関する業務停止命令
内容:
通信販売に関する業務のうち、次の業務を停止すること。
 1)商品の販売条件について広告を行うこと。
 2)商品の売買契約の申込みを受けること。
 3)商品の売買契約を締結すること。
期間:
 2024年11月2日から2025年2月1日まで(3か月間)

(2)通信販売に関する指示
1)前記違反行為の発生原因について検証し、違反行為の再発防止策及び社内のコンプライアンス体制   を構築して、これを従業者全員(業務停止命令を受ける原因となった違反行為に係る業務については、業務委託先の従業者を含む)に周知徹底すること。
2)これらの実施について、2025年1月6日までに、東京都知事へ文書により報告すること。

(3)電話勧誘販売に関する指示の内容  
1)電話勧誘により消費者と商品の販売契約をした際に、消費者に対して速やかに、事業者名等(法人名、代表者名)、契約担当者名、商品名及び商品の商標、商品の数量(継続回数の約束のある場合の総量等)、契約の解除に関する内容等、法第 19 条第1項に定める事項を記載した書面を交付すること。
2)電話勧誘販売に関する商品の販売業務について、解除の申出を妨げる行為をしないこと。
3)前記違反行為の発生原因について検証し、違反行為の再発防止策及び社内のコンプライアンス体制を構築して、これを従業者全員(業務停止命令を受ける原因となった違反行為に係る業務については、業務委託先の従業者を含む)に周知徹底すること。
4)これらの実施について、2024年12月2日までに、東京都知事へ文書により報告すること。

また、本件では、3社の代表取締役 高橋 史弥に対して、同社が命ぜられた業務停止の範囲内の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)を3か月間禁じる処分が下っています。
※高橋は、3社の代表取締役であり、かつ、同社が停止を命ぜられた業務の遂行に主導的な役割を果たしていた。


注文完了後に表示された特典を利用したら購入条件が変更されるという、この手法では、変更後の契約に関する表示が契約完了時に画面上に表示されるのみであることから、後から確認することが困難で証拠が残りにくいことが、行政の調査や法執行のネックとなっていました。
都では悪質事業者通報サイトを設置し、ホームページ上で悪質商法、誇大広告、架空請求に関する都民からの通報を受け付け、悪質事業者の処分・指導や都民への注意喚起等を行っています。
本件の処分についても、消費者からの通報が端緒となっているのかもしれません。
———-
東京都 悪質事業者通報サイトの通報概要(令和5年度)
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/tsuho/kekka/2023.html
———-

通販定期購入による消費者被害が沈静化するまで、今後も通販に対する特商法による法執行は続くことが予測されます.
通販事業を行うにあたってはしっかりとした社内のコンプライアンス体制やコンプライアンス教育の強化が求められます。

特定商取引法のポイントについて、以下の記事で解説しています。
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≪参考記事≫

・特商法誇大広告の処分続く。薬用歯磨きのホワイトニング効果表示で、マーキュリーに特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年10月31日)

・美容液のシミ改善効果+通販定期購入でHappyLifeBioに特商法業務停止命令(9カ月)。続く、誇大広告+最終確認画面の表示義務違反による法執行 (消費者庁 2024年10月16日)

・特商法でも不実証広告規制による違反認定。美容クリームのシミ・しわ改善効果+通販定期購入でSUNSIRIに特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年10月4日)

・電子たばこのネット通販定期購入(株)HALに特商法業務停止命令(3カ月)。「メーカー希望小売価格」に誇大広告認定 (消費者庁 2024年4月18日)

・定期購入契約が容易に解約できるかのような表示。ネット通販定期購入オルリンクス製薬に特商法業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年4月10日)

・No.1不当表示、特商法の通信販売規制でも。法改正後2件目の処分、ネット通販定期購入(株)サンに業務停止命令(3カ月) (消費者庁 2024年3月15日)

・特商法改正後初の処分。ネット通販定期購入(株)LITに特商法による業務停止命令(6カ月)。積極的な消費者被害救済の指示も(消費者庁 2023年6月28日)

・ネット通販定期購入(株)BIZENTOに特商法による業務停止命令(3カ月)。「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン(案)」のパブコメ開始(東北経済産業局 2021年11月25日)

・改正特商法対応急務、「最終確認画面」の義務表示事項と定期購入での禁止表示のポイント(2022年6月1日施行)

・消費者保護の更なる強化。特商法・消契法の改正案閣議決定(平成28年3月4日)

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。