返金と課徴金、どっちがお得?コンサートの座席表示でコンサート提供事業者3社に景表法措置命令(消費者庁 2023年2月16日)

消費者庁は2月16日に、コンサート提供事業者3社に対し、3社が共同して提供したコンサートの座席表示について、景品表示法違反(優良誤認)の措置命令を行いました。

問題となったのは、ロックバンド「L’Arc-en-Ciel」のコンサートのオフィシャルウェブサイトで、例えば、SS席を購入すればステージに近い1階アリーナ席となるような表示がされていましたが、実際は価格ランクの低い1階スタンド席となる場合がありました。

なお、チケット販売サイトには「座席図イメージは状況により変更になる可能性がある」等の注意表記がありましたが、処分は免れませんでした。
消費者が想定できないほど著しい変更で、優良誤認表示とみなされています。

コンサートの座席に関する措置命令は、初めての事案となります。今後、イベント興行を行う事業者は注意が必要です。

処分のポイントと、景品表示法の規制対象となる事業者、返金措置について考察します。

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コンサートの提供事業者3社に対する景品表示法に基づく措置命令について
(消費者庁 2023年2月16日)
https://www.caa.go.jp/notice/entry/032152/
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【対象役務】
2022年5月21日及び同月22日に東京ドームで実施された「L‘Arc~en~Ciel 30 th L’Anniversary LIVE」と称するコンサート

【表示媒体・表示期間】
a)30 th L’Anniversary LIVE 2022 MAY 21 22 ―TOKYO DOME― L‘Arc~en~Ciel」と称するウェブサイト(オフィシャルウェブサイト)
2022年1月1日~同年5月18日まで

b)「ticket board」と称するウェブサイト
2022年1月7日~同月11日まで、2022年1月14日~同月17日まで、2022年1月19日~同月24日まで、2022年3月18日~同月22日まで、2022年3月25日~同月28日まで、2022年4月15日~同月19日まで、2022年4月22日~同月25日まで、2022年5月9日~同月18日まで

【表示内容】
例えば、オフィシャルウェブサイトにおいて、「会場の座席レイアウトはこちら」との記載と共にステージ、W会員シート、SS席、S席及びA席について会場内でのそれぞれの配置場所を図示した画像等を表示するなど、あたかも、SS席を購入すれば1階アリーナ席、S席を購入すれば1階スタンド席、また、A席を購入すればバルコニー席又は2階スタンド席で本件役務の提供を受けることができるかのように示す表示をしていた。

「チケット料金」
「全席指定 W会員シート ¥22,000(tax in)/枚 ※SS席メモリアルグッズ付」、
「全席指定 SS席 ¥22,000(tax in)/枚 ※SS席メモリアルグッズ付」、
「全席指定 S席 ¥16,500(tax in)/枚 ※S席メモリアルグッズ付」
「全席指定 A席 ¥11,000(tax in)/枚」

措置命令の対象となった座席図の表示(左)と、変更後の実際の図

(弁護士ドットコムニュース記事より引用)

実際:
SS席を購入しても1階スタンド席となる場合があり、S席を購入しても主に1階スタンド席後方か、バルコニー席又は2階スタンド席となる場合があり、また、A席を購入してもバルコニー席ではなく、主に2階スタンド席後方となるものであった。

景品表示法の規制対象となる事業者とは

消費者庁の公表資料によると、本件コンサートの提供における3社の業務内容は、次の通りです。

(株)オン・ザ・ライン
国内外アーティストのコンサートの企画、イベントの制作及びチケット販売業等を営む事業者。本件コンサートを提供するために必要な業務全体を統括。
(株)ボードウォーク
オンラインチケットを発行・販売するプラットフォームの企画、構築及び提供業等を営む事業者。主に本件コンサートの座席の販売に関する業務を実施。
マーヴェリック・ディー・シー(株)
音楽芸能に関する催事の企画、制作及び興行、マネージメント管理業等を営む事業者。
主に本件コンサートのアーティストの出演に関する業務を実施。

事業者が景品表示法の表示規制の対象となるのは、以下の2つの要件を満たされている場合です。
1.当該事業者が、問題となる商品・役務を「供給」しているといえること(「供給主体性」が認められること)。
2.当該事業者が不当表示をしたといえること(「表示主体性」が認められること)。

本件では、3社は共同して本件コンサートを一般消費者に提供しており「供給主体性」、オン・ザ・ラインは、ボードウォーク及びマーヴェリック・ディー・シーと協議することにより、違反対象表示媒体であるチケット販売サイトの表示内容を共同して決定していました「表示主体性」。

返金と課徴金、どっちがお得?

報道(※)によると、「表示上でのSS席は約3300席だったが、実際には約7200席を販売していた。」と、報じられており、当初の表示通りの席で販売されるべき席数の2倍以上の数を販売していたことになります。
(※)
チケット販売で不当表示 ラルクのコンサート
(秋田魁新報社 2023年2月16日 掲載)

当初の席割でSS席の価格で購入したにもかかわらずS席を割り当てられてしまったのであれば、消費者としては最低でも差額分の返金は事業者に求めたいところです。SS席(2万2000円)、S席(1万6500円)ということなので、差額は5500円となります。
しかし、景表法では返金措置は事業者の任意です。
また、返金措置による課徴金の免除・減額が受けられるとしても、返金額が課徴金額を上回ってしまう場合、事業者に返金へのインセンティブが働きにくくなります。

課徴金額は、違反を行っていた期間中における対象商品・サービスの売上額の3%とされており、個々の消費者に実際に生じた「被害額」そのものではありません。
今回のケースでは、SS席購入で被害を被った人の一人当たりに換算すると2万2000円×3%=660円となります。
これでは、事業者はどうせ払うなら返金するより、課徴金を支払った方がお得ということになります。

被害回復を促進するという目的で、返金措置による課徴金の免除・減額が課徴金制度に導入されていますが、違反内容にかかわらず一律、売上額の3%というルールは制度的に課題があると思います。 平成 28 年 4 月の課徴金制度導入後、課徴金納付命令93件中4件(令和4年11月末現在)にとどまっている現状の一因でもあると考えられます。

課徴金算定率はなぜ3%なのか?

3%の根拠は、消費者庁が設置された平成21年以降の措置命令事案での、事業者の売上高営業利益率の中央値が3%であったことから採用されました。不当な表示で得た収益を課徴金として支払わせ、事業者に利益を残さないようにするという意図からです。

例えば、売上高営業利益率が業種別に違いがあったとしても、業種別に割合を変えることは煩雑であり、行政の効率を考えれば、一律に3%としたことにも合理性があるとは思います。
しかし、ここまで返金措置が事業者に利用されていないことについての現状分析を行い、対策を講じるべきではないかと思います。

2月28日に閣議決定された警報法改正案では、返金措置促進のために汎用性のある電子マネーや商品券、ギフトカードといった返金手段の拡充が盛り込まれていますが、どこまで効果があるのか、懐疑的です。

「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」の閣議決定について
https://www.caa.go.jp/law/bills/#211

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久保京子

このサイトを運営する(株)フィデスの代表取締役社長。メーカーにてマーケティング業務に従事した後、消費者と事業者のコミュニケーションの架け橋を目指し、99年に消費生活アドバイザー資格を取得する。
(財)日本産業協会にて、経済産業省委託事業「電子商取引モニタリング調査」に携わったことを契機に、ネットショップのコンプライアンス及びCS向上をサポートする(株)フィデス設立。